人民元の国際化とSDR構成通貨
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「人民元」の記事における「人民元の国際化とSDR構成通貨」の解説
詳細は「:en:Internationalization of the renminbi」を参照 世界第2位の経済規模となった中国は、2015年頃人民元決済を広げようとする動きを見せ始めた。2015年11月に、国際通貨基金(IMF)は、5年に1度の「特別引出権(Special Drawing Right;SDR)」の構成通貨の見直し時期を迎えた。 「特別引出権」とはIMF加盟国に出資額に応じて割り当てられ、通貨危機などの緊急時に引き換えて外貨を引き出せる仕組みである。2015年10月までの時点では、米ドル、日本円、ユーロ、英ポンドの相場で価値が決まるが、人民元がこれに加われば、人民元の通貨としての信用が高まり、同時に元の国際化にも弾みがつく。中国は、2010年の特別引出権検討の際に、人民元が構成から見送られた経緯があり、これに向けて総力を挙げてきた。 まず2015年8月、中国は元の対米ドルの基準値を前日終値を重視して決めるように制度変更し、人民元の実質的な切り下げを行った。同年9月、李克強首相は、大連での国際会議で「中国は特別引出権の構成通貨への加入を望んでいる。これは人民元を徐々に国際化するためだけでなく、発展途上国の大国として担うべき国際的責任を果たすためである。」と述べた。 これに対してイギリスとフランスの財務担当閣僚が相次いで北京入りし、人民元の特別引出権の構成通貨入りへの支持を表明した。IMFも上述制度変更を「中国が基準を満たすための必要なステップを踏むことが、最も重要だ」として評価した。これに対して日本とアメリカ合衆国は慎重姿勢であり、特に2015年の人民元の切り下げに関してルー財務長官は、米紙への寄稿で「最近の為替政策の急激な変更で、人民元は対米ドルで3パーセント下落し、世界の金融市場の混乱を招いた」としてクギを刺し、日本の麻生太郎財務大臣兼金融担当大臣も会見で「人民元が国際通貨になることは決して悪くない」としつつ「突然、政府が介入するというようなことをやっている間は、大丈夫かということになる」と苦言を呈した。 2015年10月27日朝日新聞夕刊の報道によると、IMF関係者が同年同月26日、「一連の中国当局による人民元自由化の動きはポジティブだ。最終判断は理事会で決まるが、採用の方向になるだろう」と話したとされる。IMF報道官も、「意思決定はされていない」としつつ、「スタッフが来月の理事会に向けた報告書の最終調整をしている」とコメントしたともされ、特別引出権の構成通貨に人民元が採用される見通しとなったと報じた。 この背景には、かつての中国が抱えていた、為替レートや金利、資本取引を巡る規制の多さという問題の解消があげられる。2015年10月23日預金金利の上限規則を撤廃すると発表し、完全自由化を目指していることを国際社会へ改革姿勢をアピールしたことなどが評価されたとされる。欧州などが賛成する中、米国のルー財務長官も支持に回り、日本の麻生財務相も容認に傾いた。11月13日IMFは、人民元のSDRへの採用を妥当とした報告書を理事会に提出した。 中国人民銀行は翌11月14日に、「SDRに人民元が加われば、SDRの魅力が高まり、世界と中国双方に利益になる」との談話を発表した。11月30日のIMF理事会はSDR採用を決定、関係筋は全会一致としており、かつて慎重派だった日米政府も歓迎を表明した。 11月30日、IMF理事会は2016年10月からのSDRの構成通貨に、人民元を加えることを正式に決めた。SDRの価値を計算する際の構成比については、米ドル41.73パーセント、ユーロ30.93パーセント、人民元10.92パーセント、日本円8.33パーセント、英ポンド8.09パーセントとした。SDRは市場で取引されているものではなく、実際の為替市場への影響は少ないと見られている。 ラガルド専務理事、同日、「世界の金融システムに中国経済を融合する上で重要な一里塚だ」と指摘した。中国の過去数年の金融改革を評価したうえで、さらなる改革を求めた。今回の決定は象徴的な意味合いが大きいが、IMFから「お墨付き」が得られたことで、人民元の利用が広がる可能性がある。SDR構成通貨入りの条件としては、その通貨を持つ国や地域の「輸出額の大きさ」と「通貨が自由に取引できるかどうか」の2つが判断基準である。 世界最大の貿易額を誇る中国は「輸出額」の条件は5年前にクリアしており、取引の自由度についても、今回の見直し期には基準を満たしたと判断された。ただ、中国は投資目的などでは国境を越えた人民元のやり取りを現在でも規制しており、完全に自由に使える通貨とは言えない面もある。 構成比に関してドル、ユーロに次ぐ第3の通貨の地位を認められたのは、IMFが輸出の規模や各国が持つ外貨準備に加え、為替市場での取引額なども考慮したからである。貿易などで使われる割合の順位で、人民元は急上昇している。銀行間のネットワークを運営する国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、人民元は2010年は割合の順位が35位であり、割合もわずか0.03パーセントにすぎなかったのが、2015年8月になると順位にして4位、割合にして2パーセントとなっていた。 中国人民銀行は2015年12月23日、人民元の国際化を加速させる目的で、人民元取引が増えているヨーロッパの金融機関に配慮して2016年1月4日より、人民元取引時間をそれまでの7時間から14時間に倍増させると、発表した。上海での外国為替市場での人民元取引の終了時間は、それまでは午後4時半であったが、午後11時半に繰り下げるとした。
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