A 型肝炎とは? わかりやすく解説

A型肝炎

A型肝炎はA型肝炎ウイルスHAV感染による疾患である。一過性の急性肝炎主症状であり、治癒後に強い免疫残されるHAV糞便中に排泄され糞口感染伝播するので、 患者発生衛生環境影響されやすい。A型肝炎は発展途上国では蔓延しているが、先進国では上下水道などの整備により感染者激減している。しかしながらHAV感染少ない 状態が長期間継続する抗体陰性者が増加する日本では50歳以下での抗体陽性者は極めて少ない。最近日本のA型肝炎では乳幼児学童患者は殆ど見られず、患者高年齢化が 顕著である。また、大規模な集団発生みられないが、飲食店介した感染や、海外渡航者 の感染みられる。ますます盛んになる国際交流発展途上国からの輸入食料品増加など、 A型肝炎の感染予防対策社会的に重要な問題として認識されるようになってきた。国産不活化ワクチン製造認可され1995年から医療現場使われている。

疫 学
HAV全世界分布している。衛生環境劣悪な地域では乳幼児期の感染が主であり、こうした地域では肝炎発生率低く流行もない。上下水道などの整備により、糞口感染疾患発生様相大きな変化生じるが、A型肝炎も例外ではない。まず、都市部中心に感染率低下し感受性者が蓄積され流行認められるうになる1988年中国上海市発生した30例の大流行好例である。生活環境がさらに整備される大流行発生止まる。A型肝炎の大規模な流行発生日本では終焉した。
197319841994年血清検体で、一般日本人年齢別抗体保有状況調べられた。調査 間隔年齢相当して抗体保有曲線高年齢層にシフトしており、日本では過去30年上の期 間、HAV感染少ないことが明らかにされた(IASR病原微生物検出情報1997年Vol.18、p10、 特集「A型肝炎」図4参照)。抗体保有率が非常に低下したために、施設内の集団発生家族感染への注意も必要である。

図1 図2

1. ウイルス性肝炎発生状況19992003年
感染症発生動向調査報告より)

図2. A型肝炎の感染経路
感染症発生動向調査報告より)

図3 図4
図3. A型肝炎国内感染例年齢分布
感染症発生動向調査報告より)
図4. A型肝炎国外感染例年齢分布
感染症発生動向調査報告より)
図5 図6
図5. A型肝炎の国外感染地域
感染症発生動向調査報告より)
図6. A型肝炎の月別報告
感染症発生動向調査報告より)

感染症発生動向調査での2003年10月までの集計から、最近日本のA型肝炎発生状況特 徴は以下のように集約される。1)年間500人前後の患者報告数がある(図1)。2)主要な感染 源牡蠣なんらかの飲食物(おそらく海産物) によるものである(図2)。3)罹患年齢では乳幼 児学童は稀で、高年齢化が認められる(図3)。 子供感染では症状軽くてすむが、高齢者 では重症化しやすいので注意が必要である。4) 患者全体の約1割が海外渡航からの帰国者で あり(図4)、殆ど中国インド東南アジア地域 での感染である(図5)。5)A型肝炎の発生には季節変動がある。日本では秋に少なく、冬から春、初夏にかけての発生が多い(図6)。

病原体
HAVピコルナウイルス科のへパトウイルス属に所属するウイルス粒子直径27nmの裸の正20面体であり(図7)、ゲノムは5’端末VPg蛋白、3’端にポリA鎖が結合した約7.5kbのプラス鎖RNAである(図8)。HAV粒子構造性状ゲノムの構造機能粒子形成などは基本的に は他のピコルナウイルスと共通であるが、成熟粒子にVP4が検出されないこと、VP1/2A接合部切断されないまま粒子形成進行するなどの特徴がある。A型肝炎ウイルス発見当初ピコルナウイルス科エンテロウイルス属分類されていたが、塩基配列相同性極めていた めに、ヘパトウイルス属として独立したHAV遺伝子型は7種類分けられているが、血清型1種類のみである。

図7 図8

図7. 精製A型肝炎ウイルスHAV)の電子顕微鏡

図8. HAV遺伝子構造翻訳蛋白

HAV培養細胞において増殖性であるが、培養細胞用いた患者糞便検体からのウイルス分離には長期間かかる。また、継代培養により培養細胞馴化しでも、増殖速度は他のピコルナウイルス比較して遅く一般的に細胞障 害効果CPE)は示さない特定の細胞CPEを示すもあるが、馴化過程での遺伝子変異よるものである。生物学的に野生株肝臓に強い親和性持っているが、他の肝炎ウイルス同様、ウイルスの増殖により細胞を殺すことはない。肝 炎宿主免疫反応を介して起きる。
HAVは酸耐性であり、熱、乾燥などにも強い。エーテルなどの脂溶性物質界面活性剤蛋白分 解酵素などに耐性であるが、高圧滅菌UV照射ホルマリン処理、塩素剤処理などで失活する。また、高度精製HAV微量水銀イオンなどにより失活し、抗原活性失われる

臨床症状

HAV糞口感染伝播する潜伏期は2~6週間であり、発熱倦怠感などに続いて血清トランスアミナーゼALTまたはGPTASTまたはGOT)が上昇する食思不振嘔吐などの消化器症状を伴うが、典型的な症例では黄疸肝腫大濃色尿、灰白色便などを認める。まれに劇症化して死亡する例を除き、1~2カ月経過の後に回復するトランスアミナーゼ正常化に3~6カ月要する例や、正常化後に再上昇する例もあるが、慢性化せず、予後良好である。
他の急性ウイルス性肝炎比較して、A型肝炎の臨床症状での特徴は、発熱頭痛筋肉痛腹痛など、いわゆる肝炎症状が強いことがあげられる。しかし、臨床症状肝障害改善早い肝機能検査では、他の急性肝炎場合よりASTALTALPLDHなどが高い傾向があるが、正常化するまでの期間は最も短い。他の血清検査ではIgM増加チモール混濁反応TTT値)で判定される膠質反応の上昇が特徴的である。成人では小児比べ臨床症状肝 障害程度も強い傾向がある。肝外合併症としては、急性腎不全貧血心筋障害などが知られている。

病原診断
A型肝炎の診断には血中のIgM-HAV抗体確認する固相化抗ヒトIgM抗体患者血清反応させ、さらにHAV抗原標識HAV抗体順次反応させる簡便なIgM捕捉キット市販されている。IgM抗体発症から約1カ月後にピーク達し、3~6カ月後には陰性となる。重症例ほどIgM抗体価は高く発症6カ月以降にも検出される例がある。また、治癒遷延化する例では IgM抗体持続期間も長い
IgGおよびIgA抗体測定は、特殊な血清疫学調査以外には使われていないIgA抗体感染後1~2年間、IgG抗体はさらに長期間持続するので、一般的な血清疫学調査免疫グロブリンISG)やワクチン接種対象者選択などには、全クラスHAV抗体測定する競合抑制 ELISAなどが用いられる。なお、検出されるHAV抗体ウイルス粒子結合する防御抗体であり、過去感染またはワクチン免疫意味する
細胞培養によるウイルス分離には長期間必要なため、診断目的には適さない発症ごく初期患者糞便中にはELISA測定可能な量(1ml当たり108 粒子以上)のHAV含まれることもある。ウイルスRNA検出するRT-PCR法では、微量HAV検出が可能である。発症後2週間以内糞便検体血液中のウイルスRNA抽出しRT-PCR法cDNA増幅して遺伝子 解析行えば感染経路推定などに役立つ。リアルタイムPCR法も診断適用されている(平成14年8月16日付、食監発第0816001号)。


治療・予防
原則として急性期には入院し安静臥床とする。入院中は血液検査などで重症化劇症化、肝外症状有無観察して症状応じた治療法とられる
予防としては、手洗い励行などの一般的予防法加えISG抗体価問題はあるが)やワクチン用いた積極予防法推奨されている。ただし、ISGによる予防効果数カ月以内 である。したがってISG患者家族や、患者同一施設内でHAV感染可能性の高い場合 に緊急的に用いるのが適当である。
ワクチンとしては、培養細胞馴化精製してホルマリン処理した不活化ワクチン世界的に使用されている。日本開発されワクチンは、アジュバントチメロサールなどを含まない 凍結乾燥品である。0、2~4週、24経過後の3回スケジュール皮下または筋肉内接種を 行なえば、抗体獲得率はほぼ100%であり、防御効果少なくとも数年上続く。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
A型肝炎は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの
 ・血清抗体検出
  例、特異的IgM抗体陽性のもの
 ・病原体遺伝子検出
  例、RT-PCR法による遺伝子検出

国立感染症研究所ウイルス第二部 米山徹夫)

  









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