海上通信
海上通信は次図に示されるように、様々な目的と形態を持っています。
(1) 遭難・安全通信遭難通信は船舶又は航空機が重大かつ急迫の危険に陥った場合に行う無線通信であり、安全通信は航行に対する重大な危険を予防するために行う無線通信です。
(2) 航行支援通信
電波の性質を利用して、その位置又は電波発射地点に対する方位、距離を求めながら航行するために行う無線通信です。
(3) 電気通信業務通信
(4) 業務通信
陸上に開設された海岸局と船舶局あるいは船舶局間で行われる、自営用無線通信です。
(5) 港湾通信
港湾内又はその付近で行われる船舶の運航上の操作、移動及び安全並びに非常時における人の安全に関する無線通信です。

2.海上通信のシステム
(1) 中波・中短波・短波の無線電信、無線電話海上通信として、最も歴史のあるシステムです。(明治41年:銚子海岸局と船舶の間で無線電報の取扱開始)
通達距離:空中線電力や昼夜の別によりますが、 中波帯で約300km、中短波帯で約500km。短波帯は数百~数千km、季節、時間帯等により電離層反射を利用した最適な周波数を選択することにより世界中との通信が可能です。
(2) 27MHz帯無線電話
小型漁船の無線電話システムとして、 昭和30年7月に1WDSB、昭和35年11月にSSBを制度化昭和40年以降、機器の小型化、補助金による助成等により急速に普及し、特に、1WDSBは、小型、軽量で操作が簡易なことから、漁業用無線システムとして最も普及しています。
通達距離:1WDSB 約50km、SSB 約90km 1周波単信方式
(3) 40MHz帯無線電話
沿岸漁業やレジャー船での無線需要に対応するために、 昭和58年6月に制度化し、海岸局に有無線接続装置を設置することにより、公衆回線に接続可能であり、船舶から捜索救助機関や診療機関等の陸上施設との直接連絡が可能です。
(4) 国際VHF
RR付録第S18号の表に掲げられている「156-174MHzの間の周波数帯」を使用し、 全世界共通のシステムであることから「国際VHF無線電話」と呼ばれ、昭和39年9月に制度化し、港務通信の他、電気通信業務、水先業務、遭難安全通信等の用途のために利用されています。
(5) マリンVHF
沿岸海域のみを航行するプレジャーボート等の船舶への無線の普及を図るため平成3年12月に制度化し、 国際VHFの周波数の一部を使用した無線電話システムで、無線設備は据置き型と携帯型があります。
船舶相互間、レジャー用の海岸局との通信の他、航行警報、気象情報の受信、緊急時の海上保安庁との通信、大型船舶との通信も可能です。
(6) 400MHz帯無線電話
モーターボート、ヨット等のプレジャーボートの船舶での無線利用の普及を図るため、 昭和61年6月に制度化し、主として、(社)小型船舶安全協会が利用(このため、「小安協」(しょうあんきょう)と呼ばれることもあります。)
27MHz帯、40MHz帯の無線機器の設置が船体構造上困難なもの、27MHz帯に対するエンジン雑音が大きい船舶に有効です。
(7) マリンコミュニティホーン
沿岸海域で操業する小型船舶等で、船体構造上無線設備設置が困難なもの、 電源設備を持たないもの等への普及を図るため、昭和63年に制度化(正式名:漁業地域情報システム)し、400MHz帯の周波数を使用、MCA方式を採用し、通話の秘密性が保たれ、グループ呼出、緊急時の一斉呼出が可能です。
(8) インマルサット衛星移動通信
海上無線通信の改善を図るため、 1979年に国際機関としてインマルサット(国際海事衛星機構)が発足し、1982年から米国のマリサットシステムを引き 継ぎ、全世界的な海事衛星通信システムとして運用開始されています。
太平洋、インド洋、大西洋(東、西)の赤道上に4機の衛星を配備し、 極地方を除く全海域(緯度70度以内)がサービスエリアです。
多数の海岸地球局のうち、 海域・タイプ別に1の海岸地球局を網管理局(NCS:Network Coordination Station)として、当該海域において通信を行う際に周波数の割当て等を行います。我が国においては、運用協定の当事者としてKDDIがサービスを提供しています
(9) N-STAR衛星移動通信
沿岸無線電話((船舶電話)1999年3月末、サービス終了)の後継及びエリア拡大、 地上系デジタル携帯電話サービスのエリア補完を目的に、平成8年3月からサービス開始されています。
車載型及び携帯型端末には、 シングルモード(衛星のみに接続する方式)とデュアルモード(地上系に優先接続、地上系のエリア外では衛星に接続)があります。通話エリアは本土及び概ね200海里の海上です。
(10) 船上通信設備
次に掲げる通信のみを行う、小型携帯の無線機器(施行規則第2条40の3)
- 操船、荷役等船舶の運航上必要な作業のための通信で、船舶内で行うもの
- 救助又は救助訓練のための通信で、船舶と生存艇等との間で行うもの
- 操船援助のための通信で引き船と引かれる船との間で行われるもの
- 船舶を接岸、係留させるための通信で、船舶とさん橋等との間で行われるもの
(11) ラジオ・ブイ
無線設備を内蔵した浮標を目標物に置き、 これから発射される電波を船舶等において受信し、その方位を測定するシステムです。
- 常に電波の発射と休止を繰り返し行う(一般ラジオブイ)もの
- タイマーを内蔵し、特定の時刻から一定時間にわたり電波の発射と休止を繰り返す(タイマー付きラジオブイ)もの
- 選択呼出しを受けたときのみ電波を発射する(セルコール・ブイ)もの
- レーダー電波を受信したときのみ電波を発射する(レーダー・ブイ)もの
3.航行支援用無線システム
地上に設置された電波発射地点からの電波を一方的に受信するものとしては、中波無線標識局が18局、ロランCが4局等が設置されています。より高精度な位置計測システムとしてディファレンシャルGPSが平成11年4月から全国稼動しています。
(1) ロランC
地上系の無線測位システムの一種で、パルス波の到達時間差を測定して得られた双曲線の交点から位置を求める双曲線航法の一つです。
1940年頃米国で実用化されたA方式(1,750~1,950kHz使用:すでにシステムは廃止)、 を改善したもので、長波帯の電波を使用しています。
日本近海のロランCは、平成5年7月に米国コーストガードから海上保安庁及び韓国に移管し運用されています。
(2) 衛星航法装置(GPS)
米国国防省が開発・管理運用している軍事用航行測位衛星NAVSTARからの電波を受信することにより測位するシステムです。
高度約20,000km、軌道傾斜角55度の6の円軌道に4個づつ計24個の衛星を配置しています。 1993年12月8日、米国国防省から民生利用の正式運用に関する宣言文書が発出されて利用を開始しています。
地球上のどこでも、常時5個以上の衛星が視界内にあるように設計され、適当な4個の衛星を選択して時刻信号を受信して、それぞれの距離を測定。4個の衛星の位置は分かっていることから、これらの測定値から利用者の3次元の位置と時計の時刻偏差が分かります。
(3) 中波無線標識
一定の時間間隔で自局の標識符号及び長音を送信し、 船舶等は無線方位測定機により当該電波を受信して方位を測定します。複数の方位測定により、自船の位置が確認可能となります。
一部の無線局においては、船舶向けの気象通報を音声により送信しています。
(4) レーマークビーコン
船舶用レーダーで受信可能な連続パルスを送信する無線標識(昭和44年5月運用開始)です。
9GHz帯の船舶用レーダーの表示画面に、 中心からその局の方向に破線状の輝線が表示され、発射局の位置が確認可能となっています。
(5) 船舶用レーダー
3GHz帯、5GHz帯又は9GHz帯の電波を使用し、PPI表示方式により他の船舶や陸岸を相対位置で表示するパルス式のレーダー。
4.海上遭難安全制度
「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度」(GMDSS:Global Maritime Distress and SafetySystem)は、従来のモールス通信に替えて、デジタル通信技術や衛星通信技術により船舶がどのような海域で遭難しても、その発信する遭難警報は、陸上の救助機関や付近を航行する船舶に確実に受信され、陸上の救助機関と船舶が一体となった捜索救助活動を可能とするシステムです。
船舶の航行区域や規模等によって異なりますが、次のような無線設備が搭載されます。

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