モンゴル国における反中
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 04:52 UTC 版)
歴史的に何度も中国からの侵略を受けたモンゴルは、今でも、中国に対する激しい敵対心を抱いており、中国人がモンゴルで襲われるほどである。中国人だと思って殴っていたら日本人だとわかって「ごめんなさい」、モンゴルではそのような暴行事件が頻発しており、実際に、2005年頃から中国人や中華料理店が襲撃される事件が頻繁に起きている。産業法規を無視するような「やりたい放題」の中国資本、後を絶たない不法入国、衛生観念の欠落、地元女性をほしいままにする素行の悪さなど「日々の新聞の見出しになるほど」であり、近年モンゴルでは中国人労働者と観光客が目立つようになり、だからこそ、モンゴルの極右団体が中国人らしい人物を見つけては、無差別に鬱憤晴らしの嫌がらせをしている。 モンゴルは歴史的に何度も中国から侵略を受けてきたが、特に清朝末期から中華民国時代にかけての中国人による蛮行・略奪と、中華人民共和国文化大革命期の南モンゴルに対する弾圧は、今でも語り継がれており、モンゴル人の圧倒的多数は中国に好意を持っておらず、その嫌中感情はいわばDNAに深く刻みこまれており、人口わずか267万人のモンゴルにとって、その南に位置し500倍もの人口を持つ中国は本能的な恐怖の対象であり、モンゴル人の中国に対する感情は、母親のお腹にいる頃から言い含められており、中国への恨みや嫌悪感は骨の髄までしみ込んでいるとされる。 清朝末期から中華民国期にかけてモンゴル人が珍重するメノウなどで作ったタバコ葉の容器を、無知につけこんだ中国人商人が「マッチ1箱」と交換していったなどの話が、現在も伝えられている。中華民国期には革命軍を称する軍隊などが、モンゴル人の居住地域で略奪を行う例が多かった。そのためモンゴル語には「ガミン=革命」が「野盗」「山賊」を意味する語彙として残っている。 ウランバートル中心部にあるモンゴル国立博物館(英語版)には、かつて中国人がモンゴル人の拷問に使った様々な器具を展示する場所があり、モンゴル国立博物館(英語版)で堂々と展示するほどであるから、モンゴル人の反中感情は相当なものである。 南モンゴル出身の楊海英によると、降雨量の少ない北アジア・中央アジアでは、植皮を失った草原は砂漠化するため、モンゴル人は大地に鋤や鍬を入れることを忌み嫌うが、1960年代初頭に入植してきた漢人は季節に関係なく、手当たり次第に灌木を切った。さらにはモンゴル人の居住地域内でも伐採したため、砂漠化してしまい、モンゴル人は漢人を「草原に疱瘡をもたらす植民者」と呼んできた。楊海英は、モンゴル人の対中国感情を「モンゴル人あるいは国家としてのモンゴル国は、心情的には親ロ反中です。社会主義国家時代のソ連には問題があったと考えてはいても、モンゴル人は個々のロシア人自体は好意的にとらえています。反対に、中国は国も個人も大嫌い。ロシア人は素朴ですが、中国人は笑顔を見せる裏で何を考えているかわからないというのが、モンゴル人の印象なのです」と説明している。 2005年末、ダヤル・モンゴル(英語版)と名乗る極右団体が中国系のスーパーやホテルを襲撃した。中国人や韓国人に対する嫌がらせや脅迫は個別的には起きていたが、集団としては新しい現象だった。現在に到るまで、ダヤル・モンゴル(英語版)など複数の極右団体が中国・韓国系の文化・住民の排斥を訴えている。彼らの主張を支持する層は広範に存在する。例えば、彼らは広告や看板に漢字やハングルを使用させず、見つけた場合は看板を取り外し、店を破壊すると宣言している。かつてウランバートルには漢字やハングルが溢れていたが、今やほとんど存在しない。店主たちは襲撃を避けるために、看板を自主的に塗り替え、それが社会的に容認されている。 モンゴルの極右団体が極端な反中国・反中国人運動を展開している。「中国人の男と寝た」との理由で、複数のモンゴル人女性の頭髪を丸刈りにしたり、中国と関係が深かったモンゴル人を殺害する事件も起きている。モンゴル首都のウランバートル市内にはハーケンクロイツのマークとともに「中国人を射殺せよ」とする落書きも多くみられる。代表的な極右団体としてはフフ・モンゴルなどがあり、構成員は数千人とされるが、人口270万人のモンゴルでは相当な人数である。 モンゴルでは、3団体が極右団体に指定され、これらの極右団体が掲げる第1の敵は中国であり、経済、文化などあらゆる面で外国の影響を拒絶している。鉱山開発や建設事業で中国の影響力が増したことも、モンゴルの排外的民族主義を強める一因だと指摘する専門家もいる。200年にわたって満洲民族に支配された歴史をもつモンゴル人の中には、中国マネーがもたらす新たな繁栄への期待よりも、中国の野心に対する警戒心のほうが強いという見方もある。モンゴル科学アカデミー(英語版)のショルフー・ドルジは、「モンゴルに来る外国人、主に中国人の違法行為に対する彼らの自警団的活動は、モンゴル全体の支持を得る可能性がある。それこそ真の脅威だ」と指摘している。 アメリカ合衆国国務省は2010年の春以降、モンゴルで「外国籍の人間に対する排外主義的襲撃事件が増加している」「こうした国粋主義団体は、アジア系アメリカ人を中国人や韓国人だと誤解し、突然襲撃することが多い」との渡航情報を出している。アメリカ合衆国国務省のウェブサイトは「nationalist groups frequently mistake Asian-Americans for ethnic Chinese or Koreans and may attack without warning or provocation. Asian-Americans should exercise caution walking the streets of Ulaanbaatar at all times.(モンゴルの民族主義者がアジア系アメリカ人を中国人や韓国人と間違え、警告・挑発なしに頻繁に攻撃しているので、ウランバートルの街中を歩くアジア系アメリカ人は常に注意すべきである)」と注意を呼び掛けている。 日本外務省も海外安全ホームページで「歴史的背景から中国人に対するモンゴル人一般の潜在的な感情には複雑なものがあります。街頭で日本人が中国人と間違えられ、モンゴル人に殴られる事件等のトラブルが時折発生しています」と注意を呼び掛けている。ここでいう「潜在的な感情に」ある「複雑なもの」とは、モンゴル人が中国人を忌み嫌っているということである。 モンゴル語で中国は「ヒャタッド」だが、俗語では中国人を「ホジャ」という蔑称で呼ぶ。モンゴルの一般市民は、スーパーや商店などで大声で話したり、店員ともめている中国人を見ると、「またホジャが騒いでるよ」と舌打ちすることもしばしばである。 南北を中国とロシアという2大国にサンドイッチされた、モンゴルの地政学的な恐怖に加え、「清朝までは中国の領土だった」という歴史的な反感、ぞくぞくとなだれ込んでくる中国人に職を奪われるのではないかという不安などの脅威にさらされ、モンゴル人の感情は穏やかではなく、近年、中国人が国境を越えてどんどんモンゴルに侵入しており、国境付近では土地の不法占拠が行われ、国境沿いでは危機感が高まっている。 現在、モンゴルが産出する鉱物の半分以上が中国へ輸出されている。また、カシミアの原毛も中国へ輸出されている。その為、モンゴルは中国の製造業の原料供給基地化している。モンゴル経済は9割も輸出を中国が占め、中国人や中国資本に牛耳られているという意識が広く社会で共有されている。もともと、清朝がモンゴルを支配していた20世紀初頭までは、漢人の高利貸しがモンゴルに進出し、モンゴル人は借金漬けであった。こうした歴史的背景と、鉱業の利権を盗まれているという意識から、一般のモンゴル人にとって中国は、モンゴルにおける悪しき事柄の源泉であるという認識が確立している。例えば、品質が悪ければ、それは中国製品、失業率が高ければ、中国人がモンゴルで不法就労しているためだなど、望ましくないものの原因及びそのものとして、中国は認識されている。中国はモンゴルのナショナリズムを否定的な側面から鼓舞する最大の負のイメージである。 遊牧民であるモンゴル人には土地に対する執着が全くなく、移動を繰り返しながら牧畜で生活する遊牧民にとり、一箇所に定住して開墾し、農業で生計を立てる農耕・都市文化には全く魅力を感じず、土地を耕して定住農業を始めると家畜に食べさせる牧草がなくなるため「文明」どころか、生活に対する「冒涜」ですらあり、13世紀にモンゴル人が文字を使い始めた時に中国の漢字ではなく、遊牧民のウイグル文字を参考にしたのも当然であり、モンゴル人には「中華」に対する畏敬の念や憧憬が全く感じられないという指摘がある。 2009年、銅が約3600万トン、金が約1200~1300トンという埋蔵量が見込まれているオユトルゴイ鉱山をカナダのアイヴァンホー・マインが将来の利益の「前渡金」として2億5000万米ドルをモンゴル政府に納付することを含めて開発に合意したが、中国のチャイナルコも強い関心を示していたが、「モンゴル政府は根気強く中国を締め出した」とも伝えられている。 2010年のモンゴルにおける主要国資本企業数は、中国5303社、韓国1973社、ロシア769社、日本451社であるが、こうした「中国のブラックゴールドラッシュ」と呼ばれる急激な進出をモンゴル国民は歓迎しておらず、空前の反中ムードが高まっており、ツァヒアギーン・エルベグドルジ大統領は、2011年10月にBBCのインタビューを受け、資源の輸出先を「中国1国だけに依存する状態は望んでいない」と中国への依存度を高めることに警戒を示した。「中国のブラックゴールドラッシュ」を避けるために、日本・アメリカ合衆国のような西側諸国を「第3の隣国」として積極外交に乗り出そうとしており、2011年10月28日には欧州安全保障協力機構への加盟申請を正式に提出した。これについて中国紙は「モンゴルの脱亜入欧」と報じた。2012年、海外からの投資に関する法律が成立し、中国経済に大きな比率を占める中国国有企業が天然資源事業を買収する際には、大半の場合、事前に特別許可を受けることを義務付けた。 2014年8月には中国の習近平国家主席が訪蒙、モンゴルでの会見では、モンゴル側に中国への警戒感が強いことを受けて「モンゴルの領土完全性を尊重する」と表明したことがある。
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