【MiG-29】(みぐにじゅうく)
旧ソビエトのミコヤン・グレビッチ設計局が開発した戦闘機。
ロシアでの非公式の愛称は「ラーストチュカ」、NATOコードはFulcrum(ファルクラム)(フルクラムとも).
本機は、1970年代に西側陣営でF-14やF-15などの新型戦闘機が次々配備されつつあるなかで、これらに対抗すべくMiG-21やMiG-23などの後継として開発された、F-15などと並ぶいわゆる第四世代戦闘機である。
速度と機動性を両立した優れた機体であったが、フライバイワイヤーを採用していない、レーダー処理能力の不足、などから現代航空戦の勝負の決め手となるアビオニクスにおいて西側より劣っているとされ、戦闘力は低いと評される時期もあった。
しかし、東西ドイツ統合によりMiG-29とF-16の異機種戦闘訓練が実現すると、余裕勝ちと思われていたF-16が次々と撃墜判定されるという結果になり関係者に衝撃を与えた。
しかもF-16のパイロットは何が起こったのかさえも気づくことなく落とされたという。
これは、当時西側ではあまり使い物にならないとして関心が薄かった赤外線捜索追尾装置(IRST)とパイロットのヘルメットを高度に連動させたヘルメット・マウンテッド・サイトの採用による高いオフボアサイト能力と、赤外線誘導のAA-11「アーチャー(Archer)」(ロシア名:R-73)短射程空対空ミサイルとの組み合わせによって、自らはレーダー波などを発せずに相手に気づかれることなくロックオンする事ができたためである。
しかしこれは練度の高いパイロットが行った訓練での話であり、F-16が圧勝したケースも少なくない。
実戦において本機はF-16に圧倒的敗北を喫しているが、その時は、既に地上管制が機能していなかった本機の方に、AWACSによる支援を受けた側が奇襲した結果である。
実用面ではSu-27が比較的長距離対応の制空戦闘機であるのに対し、MiG-29は局地戦闘機的性格が強い。
本機は高出力なエンジンと軽量な機体が生み出す優れた機動性と、西側とは違った概念に基づくアビオニクスによって優れた能力を得ているが、搭載力や航続距離、特に少ない燃料搭載量の問題で制空戦闘機以外の用途では使いにくいことから、ロシア本国では、同時期に開発された大型で様々な任務を遂行できるSu-27が主力となってしまっている。
そのためロシア軍向けの生産は既に終了し、輸出目的のみで生産が続けられている。
ただ、湾岸戦争時の悪評や共産主義的な体質から販売はあまり芳しくないようだ。
2008年には、アルジェリアに納品した15機が「品質に問題あり」とされ返品されてしまった。
理由は、冷戦後のキャンセルで買い手がつかず放置されていた機体をレストアして送ってしまった事に由来するという。
スペックデータ
乗員 | 1名 |
全長 | 16.28m/17.32m(機首プローブ含む) |
全高 | 4.73m |
全幅 | 11.36m |
主翼面積 | 38.0㎡ |
空虚重量 | 10,900kg |
最大離陸重量 | 19,700kg |
最大兵装搭載量 | 4,000kg |
エンジン | クリモフ/サルキソフ RD-33ターボファン(推力49.4kN/81.4kN(A/B使用時))×2基 |
最大速度 | マッハ2.3 |
海面上昇率 | 19,800m/min |
実用上昇限度 | 18,000m |
航続距離 | 772nm(機内燃料のみ)/1,565nm(増槽×3装備時) |
固定武装 | GSh-301 30mm機関砲×1門 |
兵装 | 空対空ミサイル: 短射程:R-60、R-73 中射程:R-27、R-77 対地/対艦/対レーダーミサイル:Kh-29(AS-14「ケッジ」)、Kh-31P(AS-17「クリプトン」)、 Kh-35(AS-20「カヤック」) 爆弾類: 通常爆弾:FAB-250、FAB-500、FAB-1500、FAB-3000 レーザー誘導爆弾:KAB-500、KAB-1500 クラスター爆弾:RBK-250、RBK-500 核爆弾:TN-700、TN-1000 その他装備:ロケット弾ポッド、増槽など |
現在の各国での保有数(2003年 推測)
現在確認されているバリエーション。
- <<9>>(プロダクト9 (Проект 9)):
試作機に付けられた設計局内でのコードネーム。
NATOではラームKと呼ばれた。
- MiG-29 "ファルクラムA" <<9-12>>:
1977年に初飛行した、ソ連本国向けの初期生産型。
- MiG-29UB "ファルクラムB" <<9-51>>:
MiG-29Aの複座練習型。1981年初飛行。
- MiG-29C "ファルクラムC" <<9-13>>:
1982年に初飛行した、9-12規格の改修型。
A型で問題となった燃料不足を打開するため、背面タンクを拡大し、燃料搭載量を増加した。
ロシア軍以外にも、ルーマニア軍に少数が輸出された。
- MiG-29 <<9-14>>:
1985年に初飛行した改良型。
当機系列は第4+世代ジェット戦闘機と定義されている。
- MiG-29M(MiG-33)"ファルクラムE" <<9-15>>:
1987年に初飛行した、MiG-29Sの改良型。
ハードポイントが2箇所追加され、4重の新型フライバイワイヤーやN011「ジューク」レーダーを搭載、対レーダーミサイル発射能力も追加された。
また、水平尾翼の形状も変更され、前縁にドッグトゥースが設けられている。
なお、冷戦時代には「MiG-33」とも一部では言われていた。
ソ連崩壊後のロシアの財政難により開発中止となった。
- MiG-29UBM:
MiG-29Mに準ずる複座練習機型。生産されず。
- MiG-29K "ファルクラムD"<<9-31>>:
1988年に初飛行した、9-15規格の艦上攻撃機型。
艦載化のため、脚構造の強化、着艦フックの装備、フラップの拡大などの改良が行われている。
また、インテークの蓋・機体上面の補助インテークは廃止されている。
選定でSu-27Kに敗れ開発中止になった。
- MiG-29KU <<9-62>>:
複座艦上練習機型。生産されず。
- MiG-29M(MiG-33)"ファルクラムE" <<9-15>>:
- MiG-29M2:
2002年に初飛行したMiG-29Mの複座戦闘攻撃機型。
MiG-29MRCA(Multi Role Combat Aircraft)とも呼ばれる。インドなどに提案中。
この機体はMiG-29KUB/Kのベースとなり、後にMiG-35へと改造された。
- MiG-29M(MiG-29M1):
MiG-29M2の単座型。MiG-29M<<9.15>>とは異なる。
- MiG-35D "ファルクラムF":
MiG-29M2にMiG-29OVTの推力変向ノズルを採用した複座・発展型。この名称でインドに提案がなされている。
「ジューク-AE」AESAレーダーを装備するほか、エンジンのアフターバーナーなしでの超音速巡航「スーパークルーズ」も可能であるとされる。
非公式名称として「スーパーファルクラム」とも呼ばれる。
- MiG-35:
MiG-35Dの単座型。
- MiG-29K <<9-41>>:
MiG-29Mの艦上戦闘攻撃機型。
元はロシア海軍向けで選定に洩れた為採用されなかったが、後にインド海軍が採用した経緯を持つ。
インド側の要求が大幅に取り入れられており、軽量化や短距離離陸能力の強化、搭載燃料の増加や低RCS塗料の採用が行われている。
2008年5月からインド海軍への引渡しが始まっているほか、2009年10月にロシア海軍が現在使用しているSu-33艦上戦闘機の代替として2010年にMiG-29KUBを含む24機を購入することが発表された。
- MiG-29KUB <<9-47>>:
MiG-29Kの複座型。
操縦席配置はタンデム方式でインド海軍に採用されたほか、ロシア海軍でも購入予定である。
- MiG-35D "ファルクラムF":
- MiG-29SMT <<9-17>>:
MiG-29の最新型で、9.15規格の技術を用いた改修型。
新型レーダー・グラスコックピット・エンジンが搭載され、機内燃料が増加された。
のちにベネズエラに輸出されている。
- MiG-29UBT <<9-52>>:
MiG-29SMTの複座戦闘攻撃機型。初飛行は1998年。
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