足
『イシスとオシリスの伝説について』(プルタルコス)62 ゼウス(=アメン)は、生まれた時2本の足がくっついていたので歩くことができず、それを恥じて1人で暮らしていた。女神イシスが彼の下半身を切って2本に分け、楽に歩けるようにした。
『オデュッセイア』第8巻 鍛冶の神ヘパイストスは、生まれつき跛足であった→〔密通〕1a。
『日本書紀』巻1・第5段本文 イザナキ・イザナミ2神の間に生まれた蛭子(ひるこ)は、3年たっても脚が立たない不具者だった。そこでアマノイハクスブネに載せ、風にまかせて棄ててしまった〔*イザナミが自分の身を犠牲にして現世に火をもたらしたごとく(*→〔火〕1a)、蛭子は脚が立たない運命を自ら引き受けることによって、人間に直立歩行能力を与えたのであろうか?〕。
*蛭子は恵比寿になった→〔矢〕6の『和漢三才図会』巻第74・大日本国「摂津」。
*→〔冥婚〕6の『イシスとオシリスの伝説について』(プルタルコス)。
*脚が立たず、歩けない少年たち→〔精液〕6の『他人の足』(大江健三郎)。
『オイディプス王』(ソポクレス) テーバイのライオス王は、「自分の息子に殺される」との神託を得ていた。それで王は、生まれた息子の両足のくるぶしを留め金で刺し貫いて、キタイロンの山奥に捨てた。その子は羊飼いに拾われ、コリントス王に育てられて、「オイディプス(=腫れた足)」と呼ばれた。
*「腫れた足」のオイディプスは、成長後、足にまつわる謎を解く→〔見立て〕4aの『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第5章。
『創世記』第32章 何者かがヤコブと一晩中格闘するが、その人はヤコブに勝つことができなかった。そこでその人は、ヤコブの腿の関節を打ってはずした。その人は「もう去らせてくれ。夜が明けるから」と言い、自分が神であることを告げて、ヤコブに祝福を与えた。ヤコブは腿を痛め、足を引きずって歩いた。
『人間失格』(太宰治)「第三の手記」 「自分(大庭葉蔵)」は、むやみに世の中を恐れていた。それはたとえば、「裸足で歩くと足の裏からガラスの小さい破片が入って、その破片が体内を駆けめぐり眼玉を突いて失明させることがある」などの、「科学の迷信」をこわがるようなものだった〔*「足の傷から失明」という展開は、『オイディプス王』(ソポクレス)を連想させる。赤ん坊オイディプスの両足を、父が留め金で貫く(*→〔足〕1b)。オイディプスは成人後、自らの両眼を、母の着物の留め針で突き刺す(*→〔盲目〕2)〕。
★1d.足の奇病ゆえに死ぬ男。
『カンガルー・ノート』(安部公房) 「ぼく」の脛に、かいわれ大根が生え出し、皮膚科の医者は「私の手には負えない」と言って、「ぼく」を自走ベッドに寝かせて追い出す。「ぼく」はベッドとともに賽の河原へ行き、病院へ行き、最後に廃駅にたどり着く。かいわれ大根は脛に密生し、やがて「ぼく」は駅構内で死ぬ→〔後ろ〕3。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第5章 アキレウスの唯一の弱点は、足の踵(かかと)だった。彼はトロイア戦争の折に、パリス(=アレクサンドロス)とアポロンによって、矢で踵を射られ、死んだ→〔弱点〕2。
『バーガヴァタ・プラーナ』 ヴィシュヌ神の化身として地上に誕生したクリシュナは、多くの悪魔たちと戦ってこれらを退治した。彼は無敵の英雄であった。しかし猟師ジャラが、獣と思い誤って射た矢が、クリシュナの唯一の急所である踵に当たったため、クリシュナは死んだ。
*神武天皇の兄・五瀬の命は、足ではなく、手を矢で射られて死んだ→〔太陽〕9の『古事記』中巻。
『アルゴナウティカ』(アポロニオス)第4歌 タロスの身体は青銅でできているが、くるぶしの腱の下に赤い血管があり、そこだけは薄い膜で覆われていた。彼がメディアやイアソンたちに岩を投げようとした時、岩の尖った先端がくるぶしを傷つけ、そこからイーコール(=体液)が流れ出したため、タロスは倒れた〔*『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章に類話〕。
『クマルビ神話』(ヒッタイト)2「ウルリクムミの歌」 クマルビ神を父、岩を母として生まれ、全身岩のウルリクムミは、成長して背丈が天上にまで達し、天候神をおびやかした。天候神はウルリクムミを迎え撃ったが、苦戦した。そこで智恵の神エアの教えにしたがい、天候神は剣でウルリクムミの足を切って、ようやく倒すことができた。
『赤いくつ』(アンデルセン) カレンのはいた赤いくつは、足にくっついてぬぐことができず、彼女は死ぬまで踊り続けなければならない。カレンは首切り役人に頼み、赤いくつごと両足を切り落としてもらう。カレンは罪(*→〔踊り〕1)を後悔し、牧師館の女中となって、松葉杖をついて働く〔*カレンは最後には罪を許され、魂は神のもとに召される〕。
『灰かぶり』(グリム)KHM21 「灰かぶり(=シンデレラ)」の2人の異母姉は、王子が持って来た靴に合うように、足の指や踵を切り落とした。王子が彼女らを城へ連れて行こうとすると、家鳩が「血が靴にたまっている。本当の嫁御はまだ家にいる」と教えた〔*『サンドリヨン』(ペロー)では、姉たちは靴に足が入らないので諦め、足は切らない〕。
和泉式部の伝説 和泉式部は鹿から生まれたので、足先が2つに割れていた。これを隠すために作ったのが足袋である(佐賀県杵島郡などの伝説。*愛知県三河地方では、同様の話が浄瑠璃御前のこととして伝えられている)。
大宮姫の伝説 大宮姫は鹿から生まれたので、足先が2つに割れ、鹿の爪同様だった。姫は都の天子様の奥方となって寵愛されたが、鹿の爪を隠すため、夏でも足袋をはいていた。しかし女中たちが姫をねたんで無理やり足袋を脱がせたので、姫は恥ずかしさと悔しさで、故郷へ逃げ帰った(鹿児島県揖宿郡開聞町)。
*美女の足が驢馬の蹄(ひづめ)→〔女護が島〕6の『本当の話』(ルキアノス)。
★6a.足で人を踏む。
『日本霊異記』下-7 大真山継は妻とともに、観音菩薩の木像を供養し、敬っていた。後に山継が罪を得て刑場に引かれた時、観音が足をあげて、山継の首から踏み通し、山継の身体を観音の脚絆とするように見えた。そこへ赦免の使者が来て、山継は死罪を免れた。
『富美子(ふみこ)の足』(谷崎潤一郎) 60歳の塚越老人は16歳の芸者富美子を妾にし、彼女の美しい足に接して悦びを感ずる。病を得て63歳で臨終を迎えた時、塚越老人は「息を引き取るまで、ずっとお前の足で私の顔を踏んでいてくれ」と命じ、富美子の足の下で無限の歓喜のうちに死ぬ〔*→〔見立て〕1の『瘋癲老人日記』は、『富美子の足』から43年後の作品〕。
*足で顔を踏んでもらうのでなく、美女の人形の尻を、顔の上に載せる→〔人形〕7の『青塚氏の話』(谷崎潤一郎)。★6b.足で人をまたぐ。
『義経千本桜』2段目「渡海屋」 安徳天皇は壇の浦で入水せず、船問屋・渡海屋銀平(=実は平知盛)の1人娘お安としてかくまわれた。源義経がお安の正体を疑い、義経の命令を受けた弁慶が「外出する」と言って、うたた寝をするお安の身体の上をまたいで行く。とたんに弁慶の足がしびれたので、お安=安徳天皇である、と義経は察知した。
*ヤマトタケルは、胆吹山の神である大蛇をまたいで通った→〔蛇退治〕5の『日本書紀』巻7景行天皇40年是歳。
★7.裸足の女。
『とはずがたり』(後深草院二条)巻5 後深草院に寵愛された二条は、26歳で院の御所を退出、31歳頃に出家した。二条が47歳の嘉元2年(1304)7月、後深草院は62歳で崩御された。二条は御所にたたずみ、夜になって葬送の車が御所を出る時、縁先から走り下り、履物が見当たらぬまま、裸足で後を追う。足が痛く、葬列から遅れてしまうが、泣く泣く1人歩き続け、明け方に深草での火葬の煙を拝むことができた。
『モロッコ』(スタンバーグ) モロッコに駐屯する外人部隊が、サハラ砂漠の戦線に向けて出発する。兵士たちの妻や恋人が一団となって、ついて行く。酒場の歌手アミーは、兵士の1人トムを愛している。アミーはフランスの富豪から求婚されるが、それをふりきって、トムの後を追う。彼女は靴を脱ぎ捨て、裸足になって砂漠を歩いて行く。
『かげろふ日記』下巻・天禄3年2月 私(藤原道綱母)は一昨日の夜、「誰かが私の右の足の裏に『をとこかと(男門)』という文字を書き付けたので、驚いて足を引っ込めた」という夢を見た。夢解きに尋ねたところ、「お子様が将来、大臣公卿になられる兆しです」と言った〔*『おととかと(大臣門)』と解釈する説もある〕。
*死んだ男児の左の足の裏に墨をつける→〔ほくろ〕1cの『現代民話考』(松谷みよ子)5「死の知らせほか」第3章の1。
『華厳宗祖師絵伝』「元暁(がんぎょう)絵」 新羅の勅使が海底の龍宮を訪れ、龍王から『金剛三昧経』を授けられて、地上へ戻る。水中を行くので、経典が損じないように、龍王は勅使の脛を割(さ)いて〔*勅使は「痛くないだろうか」と心配する〕、その中に経典を納める。龍王は、勅使の脚に薬をつけて傷を癒してやり、それから海中へ送り出した。
『弘法様の麦盗み』(昔話) 弘法大師が唐の国ではじめて麦を見、「日本へ持ち帰ってふやしたい」と思うが、誰も種子を売ってくれない。そこで弘法大師は自分の腓(こむら)を切り裂き、麦の種を隠した。弘法大師は棒をつき、痛む足でようやく日本に帰った。
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