第三の手記
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 23:21 UTC 版)
一、罪に問われたことをきっかけとして高等学校を放校になり、一時引受人の男の家に逗留することになるが、男に将来どうするのかと詰め寄られて「自分」は家出をする。それをきっかけに子持ちの女性や、バーのマダムらとの破壊的な女性関係にはまりこむことになり、「自分」はさらに深い絶望の淵に立つことになる。しかし堀木とのやり取りを経て「世間とは個人ではないか」という思想めいたものを持つと、世の中に関する用心が和らぎ、漫画家となりルバイヤートの詩句を挿入するようになる。しかし、酒を止めよという一人の無垢な女性と知り合い、結婚し一時の幸福を得る「自分」であった。 二、だが、罪の対義語について堀木と対話するなかで、フョードル・ドストエフスキーの『罪と罰』が頭をよぎった直後、彼女は出入りの商人に犯される。「怒りでも無く、嫌悪でも無く、また、悲しみでも無く、物凄く、それも墓地の幽霊などに対する恐怖でもなく、神社の杉木立で白衣の御神体に逢った時に感ずるかも知れないような、古代の荒々しい恐怖感」と表現される凄惨な恐怖に襲われ、あまりの絶望に、アルコール飲料を浴びるように呑むようになり、ついにある晩、たまたま見つけた彼女が密かに用意していた睡眠薬を用いて、発作的にふたたび自殺未遂を起こす。 なんとか助かったものの、その後は体が衰弱してさらに酒を呑むようになり、東京で大雪の降った晩ついに喀血する。薬屋で処方されたモルヒネの注射液を使うと急激に調子が回復したため、それに味を占めて幾度となく使うようになり、ついにモルヒネ中毒にかかる。モルヒネ欲しさのあまり、何度も薬屋からツケ払いで薬を買ううちにのっぴきならない額となり、ついに薬屋の奥さんと関係を結ぶに至る。その自分の罪の重さに耐えきれなくなり、「自分」は実家に状況を説明して金の無心の手紙を送る。 やがて、家族の連絡を受けたらしい引受人の男と堀木がやってきて、病院に行こうと言われる。行き先はサナトリウムだと思っていたら、脳病院へ入院させられる。そして、「断じて自分は狂ってなどいなかった」と主張しつつも、他者より狂人としてのレッテルを貼られたことを自覚し、「自分」はもはや人間を失格したのだ、と確信するに至る。 「 人間、失格。 」 数か月の入院生活ののち、故郷に引き取られた「自分」は廃人同然となり、不幸も幸福もなく、老女に犯され、ただ時間が過ぎていく。それは、今まで阿鼻叫喚で生きてきたいわゆる「人間」の世界においてたった一つ真理らしく思われた。実年齢では27歳を迎えるが、白髪がめっきり増えたのでたいていは40歳以上に見られると最後に語り、自白は終わる。
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