景気への影響
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野口旭、田中秀臣は「構造改革の目的は、経済の供給側の効率化であり、景気回復ではない」「構造改革が必要となるのは、政府の規制などによって、『資源配分の歪み』が生じており、社会的に望ましい生産・消費水準が達成できなくなっている状況においてである」と指摘している。 田中秀臣は「景気を回復させる手段は、財政・金融政策というマクロ経済政策であり、構造改革ではない。政策の割り当ての錯誤に陥っているのが『構造改革なくして景気回復なし』である」と指摘している。田中は「確かに規制緩和・民営化は重要であるが、デフレを放置したままではその効果は非常に限られてしまう。この政策では『総需要を増やす』『国民が使えるお金を増やす』といった視点が抜け落ちている。構造改革は、企業のシェア争いを激化させるだけの政策である」と指摘している。 岩田規久男は「『政策の割り当て』を間違えて、構造改革を景気対策に割り当てると、『合成の誤謬』に陥り、構造改革自体が失敗する」「デフレを放置したまま構造改革を進めても、マクロ経済全体の安定にはつながらない。マクロ経済が安定して初めて、構造改革は成功する」と指摘していた。岩田は「無駄をなくし、稀少な資源を効率的に使うことはもちろん重要であるが、需要が不足している状況で、無駄だけを削減しても、無駄と切り捨てられた人・土地・設備などが他の企業で有効利用されるとは限らない」「それらを他の企業に有効利用されるようにするためには、需要不足を解消するマクロ経済安定化政策が必要である」と指摘している。 野口旭、田中秀臣は「構造改革やリストラは必要ではあるが、総需要が不足している状態では、むしろデフレを促進させる要因となる」と指摘している。 森永卓郎は「小泉政権が標榜している『改革』の多くは、経済を縮小させていく『デフレ政策』である」と指摘していた。 経済学者の円居総一は「供給サイドの強化を重視した小泉改革が、結果的に日本の『失われた15年』を招いた」と指摘している。 円居は「小泉構造改革は需要の落ち込みを促進させ、デフレ期待を根付かせてしまいデフレを長期構造化させた」と指摘している。 竹森俊平は「コイズミノミクスとは、一言でいって『輸出主導の経済成長』である。実際、小泉首相が就任してから、日本の輸出依存度(輸出額をGDPで割った値)は約2倍に拡大している」と指摘している。 経済学者の原田泰は「小泉政権・第1次安倍政権下では、公共投資が減少しているのが特徴的である。政府最終消費支出も横ばいであり、両者を合わせても政府支出は減少していた。すなわち、財政政策は抑制されていた中でGDPが伸びていたのである。小泉政権下の金融緩和と緊縮財政の組み合わせという政策が成功したことを再認識すべきである」と指摘している。 高橋洋一は「小泉政権は、積極的なマクロ経済政策を行っていなかったが、税収のビルト・イン・スタビライザーが機能し、受動的なマクロ経済政策となっていた。実際のデータを見る限り、ケインズ的な景気下支え機能を持っていた」と指摘している。 田中秀臣は「財政赤字の対GDP比を見ると、小泉政権以前の1998-2000年度の平均は7.9%であったが、小泉政権になってからの2001-2004年度の平均は7.8%であった。つまり、それ以前の政権とほとんど変わらない」と指摘している。田中は「小泉政権の構造改革路線は、当初の改革路線が早々に放棄され、経済政策的に何もしなかったこと=目標の喪失が起きたと評価できる。財政政策の緊縮を避けたことと、為替介入がその後の景気回復に大きく貢献した」と指摘している。また田中は「2003-2006年末まで回復基調だったと言われているが、偽物の景気回復でしかなかった。外需による輸出産業を中心に企業収益は改善したが、名目賃金はまったく伸びなかった。名目成長率が伸びない限り、所得水準は上がらないからである」と指摘している。
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景気への影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 23:36 UTC 版)
2013年4月12日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会は財政制度分科会で、財政健全化に向けて消費税率の引き上げが必要だとの認識で一致し、分科会長の吉川洋東大教授は会合後の記者会見で「消費税を上げても経済全体がマイナスの影響を受けることはないとの考え方が総意である」と述べている。 エコノミストの安達誠司は「消費税率引き上げの経済に与えるネガティブな影響について、多くのエコノミストが根拠としているのは、1989年と1997年に実施された過去2回の消費増税の経験、及び欧州諸国の事例である。これらのケースにおいて、消費増税そのものが景気を大きく押し下げた明確な理由は見当たらない」と指摘している。 小黒一正は「(消費)増税が成長率を低下させるとは限らない。1989年4月の消費税導入時(3%)と、1997年4月の増税(消費税率3%から5%)の2回の増税では、実質経済成長率のその後の動きが異なる。1997年の増税では、増税前後の1996年から1998年までの3年間で、実質経済成長率は2.6%(1996年)→1.6%(1997年)→マイナス2%(1998年)と推移し、一貫して低下しているが、1989年の消費税導入時、増税前の1988年から1989年にかけて、実質経済成長率は7.15%(1988年)から5.37%(1989年)と一時的に低下しているものの、増税後の1990年には5.57%に上昇している。1991年以降に実質経済成長率が急低下しているのは、バブル崩壊の影響である」「消費税増税で景気が停滞すると危惧する人もいるが、その主張は税収増による将来不安の解消などのプラスの面を無視した話である。一時的なショックを除き、消費増税で景気停滞は起きない」と述べている。 経済学者の富田俊基は「消費税の引き上げだけで、景気が悪くなることはない。引き上げ前には需要を先食いする駆け込み需要があって、引き上げた直後は反動で経済成長率が悪くなるかもしれないが、全体をならして考える必要がある」と述べている。 岩井克人は「消費増税は、短期的には消費に対してマイナスとなるだろうが、法人税減税などと組み合わせれば、インパクトを最小限に抑えることができる」と指摘している。 「景気が悪い状態で増税をしたらさらにひどくなるのではないか」という議論について、土居丈朗は「消費税増税によって1997年に家計の消費が減少したという現象は観察されないという経済学の研究がある」「消費税が引き上げられるということが予告されれば、人々はできるだけ早めに買い物をしようとするのでデフレが止まる」「消費税増税を含む緊縮的な財政政策は、円安要因につながるということが経済学では知られているので、輸出が増え景気に対する影響は軽微で済む」と指摘している。土居は「(消費税)増税により後世に債務のツケを回さないようにした分だけ消費が減るのは、今を生きる世代が世代間の責任を全うするコストである」と指摘している。 エコノミストの岩田一政は「消費増税は短期的に見れば明らかに景気にマイナスの影響があるが、欧州では財政破綻が現実に起こっており、日本も潜在的にそのリスクを抱えている」と指摘している。 経済学者の小幡績は「当時(1997年)、消費税率引き上げが景気にマイナスに働いたことは間違いない。重要なことは、純粋に経済効果だけを考えれば、すべての税金は経済成長にマイナスという事実である。これを忘れて税制の議論を行なっているため、経済的な議論と政治的な議論が混同されている。1997年と同様、消費増税以外の要因で景気が悪化しても『消費増税が間違いだった』ということにされるからである。そうなれば、景気がありえないほどよくない限りは消費税率を上げるべきではないということになってしまい、今後、増税の機会は永遠に失われる」と述べている。 経済学者の野口悠紀雄は、2015年10月に予定されていた消費増税について「景気に関係なく上げるべきである。消費税が経済に悪影響を与えるのは当たり前であるが、増税しないと財政に対する信頼が失われ、金利が高騰する。その方が日本経済にとってはるかにダメージが大きい」と指摘していた。しかし、2014年12月に消費税再増税延期を決定した後も、長期金利は低水準の状態が続き、2016年2月には初めてマイナスを記録した。 経済学者の井堀利宏は「(消費税を)一度に上げると、駆け込み需要とその反動が起きる可能性が高い。特に耐久消費財は駆け込み需要とその反動が大きく、民間の経済活動に悪影響を与える」と述べている。 高橋洋一は「消費増税は、増税前に駆け込み需要をもたらし、増税後はその反動減とともに増税による可処分所得の減少を通じて需要の減退がある。駆け込み需要とその反動減は、ならしてみれば影響はないが、増税分の消費減少効果がある。それは『消費増税による需要減』である」と指摘している。高橋は「消費増税すると景気が落ち込むのに、それをやらないと金利の高騰によって景気の腰が折れてしまう。この二つの意見が正しいとすると、消費増税はやるにしてもやらないにしても、景気が悪くなってしまうことになる」と指摘している。また高橋は「政府・日銀の試算では、(消費)増税してもたっぷり財政支出も増やすので、景気は落ち込まないとなっている。民間シンクタンクでも、増税しても景気が落ちないという結論は、増税しても派手にバラマキをするという前提である。マクロでは税金を集めて政府がすべて配れば景気の影響はなくなるはずだが、政府が金を民間から吸い上げて政府が配るというのはまともではない方法である。具体的にいえば、消費税増税を負担する一般庶民が泣いて、減税や公共支出で潤う既得権者が得をするという不公平なものである。こうしたことをやると結局、経済成長はできなくなる」と指摘している。 エコノミストの片岡剛士は「消費税増税は、増税前に駆け込み需要が生じる一方で、増税後に駆け込み需要分だけ反動減が生じるため民間消費支出・民間住宅投資に影響を与える。また、消費税増税分に対応した物価上昇によって実質所得が低下し総需要を減らす」と指摘している。また片岡は「消費税増税を行なうと、課税対象品目の価格が増税分だけ上昇する一方で、課税対象品目への需要が減少することで逆に価格が下落する効果もある」と指摘している。 浜田宏一は「消費税の税率が2倍になると、社会的な損失は2倍ではなく、その2乗つまり4倍となる」「(消費)増税して景気がよくなったという例はないし、増税しても歳入が増えるとは限らないというのが橋本政権のときに行った増税以来の答えである」「財務省は経済を刺激しても税収は増えないという試算している。税率を何%上げるかというようなことだけに終始している。消費増税についても消費が減ることを考慮していない」と指摘している。 高橋洋一は「1989年4月(3%)、1997年4月(3%から5%)のいずれの消費税増税も、増税前後を比較すれば、成長率が低下している。それはGDPの大きな構成要素である消費が低下するからである。消費税増税前後2年間の平均で見ると、実質GDPでは1989年の増税前の6.2%が増税後に5.3%、1997年の増税前の2.5%が増税後に-0.8%へとそれぞれ低下し、低下幅はそれぞれ0.9%と3.3%となっている」と指摘している。また高橋は「1989年の消費税創設では、物品税を同時に廃止したので、消費増税の影響は中和されている」と指摘している。 安達誠司は「消費税率引き上げは、ポリシーミックスを考えると、金融政策(量的緩和政策)に大きな負荷をかける」と指摘している。 2020年2月、増税対策でキャッシュレス決済ポイント還元や補助金を出したものの総務省によると2019年12月の消費支出は前年同月比-4.8%で3カ月連続減となった。
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