景気対策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/25 15:58 UTC 版)
市場経済のみでは供給が困難と考えられる不特定多数が利用する社会資本の整備を行うことにより、地域に直接的・間接的な経済波及効果が期待できるとされている。 失業を削減するために、公共事業を増やして景気を刺激する政策は財政政策に含まれる。公共事業の増加は有効需要を創出する効果がある。ジョン・メイナード・ケインズは1920年代において既に、不況下にて政府が公共事業を用いて失業率を下げたり経済を下支えしたりすることの必要性と有効性を唱えていた。 直接的な経済効果としては、例えば建設需要による資材消費や、公共工事に携わる従事者の雇用を増大させる等のフロー効果があるといわれ、間接的な経済効果としては、例えば交通網が整備されることにより物流が合理化され、あるいは都市基盤が整備されることで企業等の進出を促すなど、整備された社会資本が地域の経済活動の促進につながる等のストック効果が指摘されている。かつてのアメリカでのニューディール政策やドイツでの統制経済など、各地で景気低迷期に景気回復の効果があったこともあり、当時の経済学者の間では経済波及効果が高いといわれてきた。 経済学者の大竹文雄は「税金を使って公共投資・公共サービスを拡充することは、高所得者から失業者に所得の再配分を行うという格差縮小策であると同時に、失業という非効率性を解消する政策でもある」と指摘している。大竹は「長期不況の悪循環を止める唯一の方法は、失業者を公共投資・公的サービスで雇用することである。ただし、無駄な財・サービスを作り出しても意味がなく、それなら失業者に直接お金を渡したほうが資源を浪費せずにすむ。生産能力を高めるような公共投資は意味がない」と指摘している。 公共事業は政治家による利益誘導の温床になりやすく、箱物行政と揶揄されるような弊害を引き起こしやすい。費用対効果の見極めが重要である。また、公共投資対象が建設に傾斜しているため建設業の肥大を招きやすいという批判がある。 UFJ総合研究所調査部は「公共投資拡大による成長率の押し上げ効果は、あくまで一時的なものである」と指摘している。三和総合研究所は「プラス成長を維持するために、公共事業の『バラマキ』を続けても仕事が増えるのは地場の建設業者ぐらいで、『景気へのプラス効果が波及する』と言われても多くの人にとっては実感できるものではない」と指摘している。経済学者の松原聡は「公共事業によって、建設業・セメント業などの業種は潤うが、ほかの業種への波及効果は小さい。また公共事業で使う機械を国外から購入したり、外国人労働者に頼る場合が多いため、国内の景気刺激につながらない」と指摘している。 経済学者の高橋洋一は「政治的な意味では、公共事業より減税のほうが公平である。公共事業は特定の業者に対する利益供与となるが、減税は国民全員に対して行われるからである」と指摘している。 小野善康は「無意味な公共事業と減税は本質的には同じである。穴を掘って埋めるだけや、環境破壊を引き起こすような公共事業をやるくらいなら、失業を放置したほうがまだましである」と指摘している。小野は、満足度を高める公共投資・公的サービスを増やすことで失業を減らすことが、一番の不況対策になるとしている。 経済学者の伊藤元重は「現実の世界では、穴掘りのような無駄な公共事業は不要である。道路建設・研究開発といった社会的に意味のある支出によって、同じ刺激効果が期待できる」と指摘している。 経済学者の岩田規久男は「民間投資誘発型の公共投資は、土木工事関係者の所得を一時的に増やすという単発的効果ではなく、社会資本整備が民間資本と結合し、恒久的な所得を生み出す効果を持っている」と指摘している。
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