影響・受容史
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中古期における『源氏物語』の影響は2期に大別することができる。第1期は院政期初頭まで、第2期は院政期歌壇の成立から新古今集撰進までである。 第1期においては、『源氏物語』は面白い小説として上流下流を問わず貴族社会で広く読まれた。当時の一般的な上流貴族の姫君の夢は、後宮に入り帝の寵愛を受け皇后の位に上ることであったが、『源氏物語』は帝直系の源氏の者を主人公にし、彼の住まいを擬似後宮にしたてて女君たちを分け隔てなく寵愛するという内容で彼女たちを満足させ、あるいは、人間の心理や恋愛、美意識に対する深い観察や情趣を書き込んだ作品として貴族たちにもてはやされたのである。この間の事情は自らも読者であった菅原孝標女の『更級日記』に詳しい。 優れた作品が存在し、それを好む多くの読者が存在する以上、『源氏物語』の享受はそのままこれに続く小説作品の成立という側面を持った。中古中期における『源氏』受容史の最大の特徴は、それが『源氏』の文体、世界、物語構造を受け継ぐ諸種の作品の出現をうながしたところにあるといえるだろう。11世紀より12世紀にかけて成立した数々の物語は、その丁寧な叙述と心理描写の巧みさ、話の波乱万丈ぶりよりもきめ細やかな描写と叙情性や風雅を追求しようとする性向において、明らかに『うつほ物語』以前の系譜を断ち切り、『源氏物語』によっている。それがあまりに過度でありすぎるために源氏亜流物語という名称さえあるほどだが、たとえば、『浜松中納言物語』『狭衣物語』『夜半の寝覚』などは『源氏』を受け継いで独特の世界を作り上げており、王朝物語の達しえた成熟として高く評価するに足るであろう。後期王朝物語=源氏亜流物語には光源氏よりも薫の人物造型が強く影響を与えていることが知られる。源氏物語各帖のあらすじ#第三部参照。 平安末期にはすでに古典化しており、『六百番歌合』で藤原俊成をして「源氏見ざる歌詠みは遺恨の事なり」といわしめた源語は歌人や貴族のたしなみとなっており、室町時代の注釈書『花鳥余情』では「我が国の至宝は源氏の物語のすぎたるはなし」と位置づけられるまでになっている。このころには、言語や文化の変化や流れに従い原典をそのまま読むことも困難になってきたため、原典に引歌や故事の考証や難語の解説を書き添える注釈書が生まれた。 一方で平安時代には貴族の間で仏教思想(平安仏教)が浸透しており、架空の物語(嘘)を作る行為は五戒の1つ「不妄語戒」に反することから「色恋沙汰の絵空事を著し多くの人を惑わした紫式部は地獄に堕ちたに違いない」という考えが生まれ、『宝物集』などの仏教説話集で語られるようになった。この考えは後に小野篁伝説と結びつけられた。また『更級日記』には「源氏物語に熱中していると夢の中に僧侶が現れ(女性の成仏について書かれた)法華経の五巻を勉強するように諭した」という記述があり、架空の物語を読む読者も五戒に反しているという考えがあった。このため地獄に落ちた紫式部の霊を慰め、自身(読者)の罪障を消すためとして『源氏供養』と称した法会がたびたび行われた。語り手が「紫式部に仕えた女性」という設定の『今鏡』の最終巻『打聞』では「物語を書くことは日本でも中国でもよくあること」「罪ではあるが殺人や強盗と比べれば軽く地獄に堕ちるほどではない」など、五戒に反していると認めつつ擁護するような記述がある。 香道の流行にともなって、「源氏香」「香の図」といった本書に由来する呼称が発生した。 江戸時代に入ると、版本による源氏物語の刊行が始まり、裕福な庶民にまで『源氏物語』が広く普及することになった。江戸時代後期には、当時の中国文学の流行に逆らう形で、設定を室町時代に置き換えた通俗小説ともいうべき『偐紫田舎源氏』(柳亭種彦著)が書き起こされた。伝統的な図式の「源氏絵」は、さまざまな画派により挿絵入りの版本『絵入源氏物語』や浮世絵に描かれた。また、歌舞伎化され、世に一大ブームを起こしたが、天保の改革であえなく断絶した。 明治以後多くの現代語訳の試みがなされ、与謝野晶子や谷崎潤一郎の訳本が何度か出版されたが、昭和初期から「皇室を著しく侮辱する内容がある」との理由で、光源氏と藤壺女御の逢瀬などを二次創作物に書き留めたり上演することなどを政府により厳しく禁じられたこともあり、訳本の執筆にも少なからず制限がかけられていた。第二次世界大戦後にはその制限もなくなり、円地文子、田辺聖子、瀬戸内寂聴、林望などの訳本が出版されている。原典に忠実な翻訳以外に、橋本治の『窯変源氏物語』に見られる大胆な解釈を施した意訳小説や、大和和紀の漫画『あさきゆめみし』や小泉吉宏の漫画『まろ、ん』、花園あずきの漫画『はやげん! はやよみ源氏物語』を代表とした漫画作品化などの試みもなされている。 現代では冗談半分で、『源氏物語』と純愛もののアダルトゲームやハーレムアニメとのストーリーの類似性が指摘されることがあるが、「『源氏物語』は猥書であり、子どもに読ませてはならない」という論旨の文章はすでに室町時代に存在している。 若紫と光源氏の関係から「懸想をした幼児を自分好みに育てること」を、光源氏になぞらえて慣用句のように「光源氏計画」と言われることがある。 『源氏物語』は諸外国にも少なからず影響を与えている。マルグリット・ユルスナールは『源氏物語』の人間性の描写を高く評価し、短編の続編を書いた。 2008年には源氏物語千年紀の記念式典が京都府・京都市などが中心となって開催され、明仁天皇・皇后美智子が臨席した。多数の講演・シンポジウムが催され、瀬戸内寂聴、佐野みどり、ドナルド・キーン、平川祐弘らが参加した。のちに、紫式部日記での初出である11月1日が、幅広く古典に親しむ古典の日として法制化された。
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影響・受容史
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医療漫画という新ジャンルを開拓し、アウトローの天才的プロフェッショナルを主人公とする一話完結の職業漫画のスタイルを確立した。手塚自身も『七色いんこ』(演劇界)という類似スタイルの作品を発表している。代表的な作品を以下に挙げる。 『ザ・シェフ』(調理人) 『スーパードクターK』『K2』『Dr.汞』(医者) 『IWAMAL』『けだものドクター毒島』『獣医ドリトル』(獣医) 『コミックマスターJ』(漫画アシスタント) 『ギャラリーフェイク』『ゼロ THE MAN OF THE CREATION』(美術界) 『王様の仕立て屋』(仕立て屋) 医療漫画というジャンルの代表作とされ、強い影響下にある漫画も多い。この作品をきっかけに、医学の道へ進んだ者も多い。 漫画『ブラックジャックによろしく』(2002年-2010年)でタイトルに使われる(BJは内容には直接関係しない)、実在する優秀な外科医にブラックジャックの愛称が用いられるなど、近年では作品の知名度の高さからBJのキャラクター自体が一人歩きし、神業の天才外科医の代名詞となっている。 1998年、ドクター・キリコを称した男が自殺志願者にネット上で青酸カリを密売した通称「ドクターキリコ事件」が発生、社会問題となった。 2003年、東京都の男性が単行本未収録の話や単行本で改変された話の雑誌版など10話を集めて自作した、架空の少年チャンピオンコミックス版26巻をネットオークションに1冊10万円で出品して著作権侵害で摘発され、罰金30万円の有罪判決を受けた。 2020年、ドクター・キリコになりたい医師が、ALS患者嘱託殺人事件を起こして話題となった。
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