元折散弾銃
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 07:37 UTC 版)
詳細は「中折式」を参照 銃器の歴史(英語版)上、元折式は英国で殆どの機構が発明された。 サイドロック(地板付銃) 撃鉄や撃鉄ばねなどの機関部品(ロック (銃器)(英語版))がレシーバー横の着脱可能な金属板(地板)に取り付けられた機関部(英語版)形式。元々はマスケット銃より受け継がれた技術で、撃鉄ばねに松葉ばねが使用されていた時代に、折損した松葉ばねを素早く交換できるように考案された。構造上、元台側にも機関部品の穴を穿る必要があり、製造に非常に手間が掛かることや、金属板がレシーバーの骨組みを兼ねることからボックスロックに比べて強度が弱いため、撃鉄ばねにコイルばねが使用されるようになってからは余り使われなくなった。現在では一部の高級な元折散弾銃で採用されている。 ボックスロック(英語版) 撃鉄や撃鉄ばねなどの機関部品がレシーバー内に全て収納されている形式。最初のボックスロックは1875年に英国のアンソン&デイリーにより開発されたが、撃鉄ばねに折損の危険性が低いコイルばねが使用されるようになってから一挙に普及した。レシーバーの側壁も全て一体構造にできるため、サイドロックに比べて強度が高いが、機関部の分解がし難いことが短所でもある。最近ではボックスロックでも機関部の分解を容易にするため、ベレッタ DT10(英語版)や新SKB製上下二連銃など、引金部と機関部を一体化し簡単にレシーバーから取り外せるようになった構造の物も登場してきた。 サイドプレート ボックスロック散弾銃のレシーバーに、サイドロックを模した金属板を取り付けた物。サイドロックの金属板と異なり、サイドプレートの金属板は単に装飾の役割しか果たしていない。ボックスロック散弾銃の上位グレードにて採用されていることが多い。 両引き 元折二連銃において、上下若しくは左右の銃身に別々の引金が付いている形式。単引き機構が登場する以前の形式で、熟練していないと二連射が掛けづらい欠点があるが、チョークが異なる上下若しくは左右の銃身を瞬時に撃ち分けられるため、特に鳥猟を行う者の間に愛好者が多く、現在でもこの形式に対する需要は一定数存在し続けている。また、反動により左右同発などの誤動作や故障の可能性がある単引き機構と異なり、構造的な信頼性が高い事から、元々ニトロ・エクスプレス(英語版)などの極めて強力なマグナム装弾を用いるエレファント・ガン(英語版)に分類される二連小銃(英語版)では今日でも支配的な採用実績を持っており、この分野に強い英国(俗に云うロンドンガン)の銃器メーカーでは、二連散弾銃もこの方式で製作される事が多い。 単引き 元折二連銃において、上下若しくは左右の銃身を一本の引金で発射する形式。狩猟向けの銃に於いては、上下若しくは左右の銃身を撃ち分けるためのセレクターが付いていることが多いが、競技銃の場合はセレクターが省略されていることもある。二連射を掛ける際に、発射の反動を利用して撃鉄を切り替える形式(イナーシャ・トリガー)と、引金を二度引くだけで連続して撃鉄が落ちる形式(メカニカル・トリガー)があり、威力の大きな強装弾を用いる事が多く射撃の反動に伴い意図せず引金を二度引きしてしまうリスクがある狩猟銃では前者、逆に狩猟と比較して減装薬の実包を用いる事が多く、出来るだけ短い間隔で二発を連続発射したい局面が多い競技銃では後者の形式が採用されていることが多い。 リリース・トリガー 通常の引金が「引金を引く」事で発射が行われるのに対して、「引いた引金を離す」事で発射が行われるものを指す。引金を強く引く事で銃口がぶれる「ガク引き」が予防される為、元々は比較的長時間銃口でクレーを追いながら狙いを付ける必要がある、アメリカントラップ競技向けの元折単身銃において後付け改造という形で採用が始まったものであるが、近年ではスキート競技銃やスポーティング競技銃でも使われる事が多くなっており、メーカーで当初からリリース・トリガーとして注文できる競技銃も現れている。リリース・トリガーは日本ではあまり知名度が無く、主に欧米で使われているものであるが、欧米でも安全上の理由からリリース・トリガーを装備した銃の場合には、銃の何処か目立つ位置に蛍光塗料や蛍光テープなどで「R」の文字を大書しておく事が、銃の所有者が取るべき最低限のマナーであるとされている。 ピストルグリップ(英語版) 元台の握把(グリップ)が拳銃のような形に湾曲している形式。現在の単引き引金の上下二連銃はほぼ全てこの形式である。 ストレートグリップ 元台の握把が湾曲しておらず、真っ直ぐになっている形式。黒色火薬時代の初期のライフルでもよくみられた形式で、特に両引き引金の水平二連銃に採用例が多い。グリップ上で握りをずらして二連射を掛ける必要がある両引き引金と特に相性がよいとされ、現在でもこの形式に対する需要は一定数存在し続けている。 ビーバーテイル先台 先台(英語版)が二本の銃身を包み込むように造形されている形式。現在の上下二連銃はほぼ全てこの形式であるが、水平二連銃では各射手の好みや構え方の違いにより、銃を注文する際に先台は後述のイングリッシュとビーバーテイルを、グリップはストレートとピストルタイプを選択できるようになっているメーカーが多かった。これにより、水平二連銃の在庫管理が現在よりも遙かに複雑になる要因にもなっていた。現在においては水平二連銃のビーバーテイル先台は普段上下二連銃を愛好する者でも特に構えを変更する必要などがないため、中古市場でもイングリッシュ先台より人気がある傾向がある。 イングリッシュ先台(英国型、クラシックタイプ) 水平二連銃において、先台が二本の銃身の下にくっつくように小さく造形されている形式。元々英国の高級水平二連銃にて採用されていたため、このような呼び名が付いている。ビーバーテイル先台に比べ小型軽量であるが、先台の面積が非常に小さいので、クレー射撃などの連続発射で銃身が加熱した際に先台を握って銃を保持することが困難となるため、現在の上下二連銃のように先台を握り込むように構えるのには不向きとされている。なお、古い狩猟入門誌ではこの形式の銃を構える際は現在のクレー射撃の構えと全く異なり、左手は先台を握るのではなく、用心金の前に手をかぶせるように添えて銃を保持するイラストが用いられていることが多い。 アンソン止め 先台の固定機構の一つで、先台先端に突き出したボタンを押し込む事で銃身との分離が行える。構造がシンプルで先台の木部の面積を最大限取れる為、流麗なチェッカリングが施されるイングリッシュ先台に採用例が多いが、猟場を移動中に他物にボタンが押されて外れてしまうリスクも存在している。 デイリー止め 先台の固定機構の一つで、先台の下面に設けられたロックレバーを操作する事で銃身との分離が行える。部品点数が多くなり、先台の木部に占める金具の面積も大きくなりがちな欠点があるが、アンソン止めと比較して他物に動かされる危険性が低く、ロックレバー自体に外れ止め機構を組み込む事も可能な為、今日の上下二連銃で主流のビーバーテイル先台では支配的な方式となっている。 有鶏頭(オープンハンマー) 撃鉄が機関部の外に露出している形式。戦前の、サイドロックが主流であった時代の水平二連銃にて採用されていることが多かった。この形式の場合、撃鉄はリボルバーなどと同じく機関部を閉鎖した後に指でコッキングすることとなる。現在ではほぼ廃れてしまった形式であるが、ごく一部のメーカーにこの形式を再現した銃が存在する。 無鶏頭(インナーハンマー)(英語版) 撃鉄が機関部に内蔵されている形式。撃鉄は機関部の解放と同時に自動的にコッキングされる。現在の元折散弾銃はほぼ全てこの形式を採用している。 ダマスカス銃身(鍛接銃身) 巻き銃身とも呼ばれる。刀剣のダマスカス鋼の様に異種の鋼材を積層鍛造して、独特の縞模様を浮き上がらせた銃身。前装銃時代の技術の遺産であり、ごく初期の高級元折散弾銃で用いられていたが、削り出しの銃身に比べ強度が劣ることや、製法が途絶えたこともあって現在ではほぼ廃れてしまい、既製装弾の箱に「ダマスカス銃身では使用禁止」という文言にかつての名残が見られるのみである。 イジェクター(エジェクター、蹴子) 機関部を解放した際に、空薬莢を銃身から排出する機構。現在ではほぼ全ての元折散弾銃に標準装備されているが、かつてはイジェクターの有無によって銃のグレードに差違を設けていた時代があった。イジェクターがない銃の場合は、機関部を解放した際に薬莢後端が抽筒子(エキストラクター)によって少し持ち上げられるため、手で直接薬莢を排除する必要がある。現在でも、ハンターの間では猟場に空薬莢が飛び散ることを嫌い、敢えてイジェクターなしの銃を愛用する者も存在する。 ダボ 銃身側に設けられている突起で、機関部に差し込まれて横方向から開閉レバーと連動するボルト(かんぬき)が差し込まれる事で、薬室の閉鎖が成立する。かつては普及品はダボが1本、高級品はダボが2本設けられている事が多く、日本語では前者を「単一止め」、後者を「二重止め」と呼んだ。 クロスボルト 通常の元折れ銃で採用されている機関部下部の閉鎖機構(ダボ)とは別に、機関部の上端に開閉レバーと連動するくさび(楔)状の閉鎖機構を設けた物。英国のW.W.グリーナー(英語版)により開発されたため、グリーナー・クロスボルトとも呼ばれ、日本語では「横栓三重止め」や「十字止め」とも呼ばれた。元々はダブルライフル(水平二連式のライフル銃、二連小銃とも)にて強力な装弾を使用し続けた際の機関部下部の閉鎖機構のガタツキを防ぎ、発射圧力を上下で分散して受け止めて機関部の強度を増すために考案され、散弾銃にも転用された構造であり、堅牢・高級な水平二連銃を象徴する装備でもあったが、現在ではレシーバー本体がより強固な構造となったボックスロック方式が主流となり、散弾実包の装薬量もより軽量なものが主流となった為に水平二連散弾銃では存在意義が次第に希薄となり、上下二連散弾銃でもクロスボルトに代わる強力な閉鎖機構の開発が各メーカーで進んだこともあり、メルケルや新SKBなどを除き採用しているメーカーは少なくなっている。 クロスボルトの構造や形状はメーカーにより様々で、グリーナーの元設計では機関部上部のダボに丸い孔が開けられており、太い円柱型の横栓が交差するように貫通する構造であるが、ウェストリー・リチャーズなど後発のメーカーは機関部上部のダボの後端に切り欠きを設けて、この切り欠きに扇型の横栓を引っ掛ける構造を採用する例が多かった。戦前の日本ではこの2種の構造を総称して「三重止め」と呼ばれたが、欧米圏では前者の構造のみをグリーナー・クロスボルトと呼び、後者の構造はサード・ファスナーやサード・バイトなどと称して区別が行われていた。なお、サード・ファスナーを採用するメーカーの中には、外見上は単一又は二重止めのように見えるが、機関部を開いた際にのみ機関部上部のダボが目視可能な「隠し三重止め(ヒドゥン・サード・バイト、コンシールド・サード・ファスナーとも)」と呼ばれる構造を採用する例も存在していた。 人形首(ドールズ・ヘッド) グリーナー・クロスボルトの構造からクロスボルト機構を省き、機関部上部にダボのみを残したもの。閉鎖は機関部下部の二重止め機構と、機関部上部のダボの差込により成立するが、機関部上部側のダボの特徴的な形状から、この名称が与えられた。英国のウェストリー・リチャーズ(英語版)により開発されたが、製造に手間が掛かる上に脱包に不便があった事から、今日ではほとんど採用されていない。 複合銃(英語版) 元折式散弾銃のうち、複数ある銃身の一つ又は複数がライフル銃身であるもの。水平又は上下二連銃身の片方がライフルであるものや、水平又は上下二連散弾銃に1本から2本のライフル銃身を配置して三連以上の銃身とするものなどが存在する。ライフル銃身は一般的にスラッグ弾頭で撃ち倒した獲物の止め刺しに用いる為、組み合わされる口径は比較的小口径で装薬量も少ない物が選ばれる事が多い。この型式は極めて高価である事が多い為、日本ではほとんど普及していない。
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