ロリータ・ファッションの愛好家
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「ロリータ・ファッション」の記事における「ロリータ・ファッションの愛好家」の解説
現在「ロリータ」と呼ばれる愛好家やファッションの原型は、1970年代前半から1980年代後半にかけて存在していた「MILK」の愛好家 やオリーブ少女、ナゴムギャルであり、これら「少女」を彷彿とさせるファッションやそれらを好む「少女的」な人々を「ロリータ・ファッション」「ロリータ少女」「ロリータ」と呼んでいた可能性もあるが、当時の「ロリータ・ファッション」という言葉が指していたのは「装いや振る舞いが少女的である」というような大雑把なもので、現在のような「典型的なスタイル」や「様式」はなかった模様である。しかし、嶽本野ばらは1980年代当時からロリータスタイルの定義がちゃんとあったと証言しているので真偽は不明である。 ファッションジャンルとして明確に把握され、区別された「ロリータ・ファッション」スタイルが登場し始めたのは1990年代初頭からと推測される。 一般にも広く知られ「流行」と認識されるようになったのは、1994年と2004年であるが、1994年にロリータロビンちゃんやナゴムギャルにより広まった原色系のロリータ・ファッションのスタイルと、2004年に下妻物語の影響で認知された 現代的なロリータ・ファッションのスタイルは微妙に異なる。 このファッションの亜流ではないかと思われるゴシック・アンド・ロリータファッションには、「ロリータの傍系である」という説と「1990年代中頃にゴシックファッションの影響を受けたヴィジュアル系バンドのバンドコスから生まれた(ゴシックの傍系である)」という2つの説があり、真偽は不明である。しかし「1990年代中頃のバンドコスから派生した。」との説には、大槻ケンヂのように「1980年代からその原型は存在していた。」と「1990年代中頃説」に異論を唱える者がいる(宝野アリカは異論を唱えた訳ではないが、自分自身が1980年代にゴシック&ロリータを着て街を歩いていた、と「人造美女は可能か?」で記述している)。そのためゴスロリはロリータの傍系と思われているが、「ロリータパンク」や「クラシカル系ロリータ」と比較してもゴスロリはロリータの傍系の中では別格扱いされており、愛好家だけではなく一般人からも特別視されているようである(詳細はゴシック・アンド・ロリータの#ストリート・ファッションとしてのルーツを参照)。 また、最近のメディアでは一括りに「ゴスロリ」と称されてしまうことも多々あり、さらに酷い場合には、所謂アキバブームで有名となったメイド服と混同されることもある。ロリータ・ファッションの女性はゴシック・アンド・ロリータやメイド服などのコスプレと混同されることを好まない者が多い コスプレとはコスチュームプレイの略語で、仮装によってあるキャラクターになりきる、演じることを指すが、その中でロリータ・ファッションも「非日常への変身衣装」として扱われることがある。コスプレ(コスプレイヤー)用として製造されたロリータ服は「非日常への変身衣装」であり、ファッション性や愛好家の好みよりも、コスプレとしての実用性やコスプレイヤーの好み(コスプレ感覚)が重視されており、そのため視覚的な分かりやすさが求められており、「ロリータ」と分かりやすくするために、実物よりも特徴が大味で極端なデザインが多く、男性の性的嗜好を満足させる類になると、露出も増え、デフォルメが目立ってくる。そのため、ロリータ・ファッションを「非日常への変身衣装」としてではなく、「ファッション」として愛する人間は「仮装」「コスプレ」と形容されることを嫌う。 また慶應義塾大学出版会の「人造美女は可能か?」において執筆者の1人である宝野アリカが、ゴスロリとメイドは別物であり、ゴスロリ愛好者はメイドとの混同を嫌うと説明したことがある。 宝野アリカによればゴスロリ=コスプレという図式が出来上がってしまったのはメイド喫茶のウエイトレスがメディアで大きく取り上げられた頃からであり、宝野アリカが初めてメイドを見たのはテレビの報道番組特集からであるが、「どこかゴシック&ロリータ風」と言いつつも、猫耳をつけたメイド服の女性がカメラを向けられて猫のポーズをとる姿などを見て、「安っぽいお気楽な妄想と、勘違いとで溢れていた。」「思わず突っ込みを入れてしまいたくなる。」など、当時(2006年頃)かなり動揺していた様子が本の内容からも窺える。また、当時ゴシック&ロリータ少女に、メイドさんとか萌え子ちゃんなどと声を掛ける男性が後を絶たなかったようで、ゴシック&ロリータ達はそういった性的な目線を屈辱的に感じていたようである。 また、「人造美女は可能か?」のシンポジウム で宝野アリカはメイド服で女装 したパネラーの1人である慶応義塾大学文学部教授の荻野アンナに、「人造美女製造者としては、軽々しく男に傅くメイドは認められません。」と発言し、メイドと人造美女である人形は別物であると説明した事があり、男の欲望をそのまま表現するメイドと、自主的に、生身のまま人形を目指すゴスロリ少女とは別物であると話した。また、宝野アリカは「男にとっても、メイド美女より、人造美女を傅かせる方が、よほど密度が濃いはずです」とも言っている。 なお、コスプレでメイド姿と並んで人気があるのが巫女装束だが、朝日新聞出版・神田明神監修の「巫女さん入門 初級編」には現役の巫女にコスプレ巫女についてどう思うかインタビューしている箇所がある。ロリータ・ファッションの愛好家はコスプレと混同されることを嫌うが、巫女も同様にコスプレ巫女と現役の巫女を混同されることを嫌っているようである。神田明神の巫女(をまとめるリーダー)によれば彼女はアニメなどに登場する巫女装束はなんとも思わないが、コスプレをしている人をみると「変な格好をしているな」と違和感を覚えるらしい。しかし、あくまでもコスプレは違って当たり前という認識があり、コスプレ巫女がきちんとした着付けをしている方が、コスプレではなくなってしまうため、「自分たちも、(他者に)そういうふうな目で見られるのではないか」と嫌に感じるそうである。(その一方、正しい着付けのアドバイスをしたくなることもあるようだ。)ロリータはきちんとしていないコスプレ用のロリータ服と自分たちの着ている服が混同されることを嫌がるが、巫女はきちんとしたコスプレをされると混同されるのではないかと心配になるようである。従って、仮にコスプレ用のロリータ服が極端なデザインを辞め、きちんとした造りになったとしても、神田明神の巫女と同じような反応に変わる可能性があり、ロリータがコスプレのロリータ服を嫌っている要因はデザイン性の悪さよりも「「コスプレ用のロリータ」と「実際のロリータ・ファッション」が他者に混同されること」にあるのではないかと思われる。 また、嶽本野ばらは「パッチワーク」でロリータを日常着ではなく「特別な日のためにあるお洋服・晴れ着」と呼んでいる箇所がある。しかし、「Fetish」ではお洒落でもあり正装でもあると説明していたり、あやふやな部分があるようにも見受けられる。 一方、「セカイと私とロリータファッション」の著者・松浦桃は「ロリータファッションもコスチュームプレイもあるロールをなぞる一種の「ごっこ」遊びの性質を帯びたゲームには違いない」と書いており、ロリータもコスプレの範疇に入る「メイドさん」もその洋服をまとって街にでれば「ファッション」になり、「生活」「日常」になるとも書いている。しかし、メイドさんは「特定の屋敷内で働く使用人」という仕事に従事するさいのユニフォームであり、彼女らは「余暇の時間」はメイドではない。なのでメイドさんはロリータよりも非日常的なゲームの要素が強く、ストリートファッションに進出しにくい、と書いている。それに反してロリータは「華やかなドレスを着たお嬢さま」(「お姫様」、「前近代のヨーロッパの少女」という記述もある。)などのより広汎なイメージを持っており、このイメージのあいまいな大きさが、ロリータをファッションにまで拡張することを可能にしていると書いている。 しかし、「ロリータ衣装道楽」は前述のようにコスプレのデザイン性の極端さを指摘し、ロリーファッションの愛好家はコスプレと形容されることを嫌う、と明言している。また、宝野アリカはコスプレの一環としてのゴスロリやメイドについて、「全否定する訳ではない」「彼らの中にも私の歌を聞いてくれる子がいると思えば、姉のような気持ちで見守る寛容さだって持ち合わせている」とコスプレ側に配慮しつつも、「かつての友、アリスの末裔たちこそを愛する」と続け、「インチキナースや制服やアニメのキャラクター衣装と共に売られるゴスロリ服の化繊のレースやごわついた布地に、けして高潔で孤独なる思想は包み込めはしない」と「ロリータ衣装道楽」と同様にコスプレ服のデザイン性の悪さを指摘した。 なので、恐らくはロリータの愛好家はコスプレと形容されることを嫌っているものの、ロリータがコスプレかファッションなのか、それとも「セカイと私とロリータファッション」が言うようにその両方の性質を帯びているのかは愛好家の間でも意見が分かれているようである(電撃文庫・伏見つかさの「十三番目のアリス2」で戦闘メイド・悠里のキャラクター設定を見た電撃の編集が「ゴスロリじゃないじゃん」と発言しており(この作品には九条院アリスといった、ゴスロリ設定のキャラクターが多い。)、結果的には悠里のキャラクター設定は通ったが、2006年頃の電撃文庫編集部内には「ゴスロリとメイドは別物」という認識があった模様である)。 ロリータの愛好家は「萌え」などの異性からの性的な視線に対して冷たい態度をとることがある。理由は、たとえそれが親しい異性であっても、異性の性的な目線からの「それはかわいくないと思うな。」「こっちの方がいいと思うな。」という言葉に、人間は揺れやすいため、ロリータを制限してしまったり、抑圧されたりすることを意識しているからである。また、こういった「異性にもてること」や「学校・勤務先の環境」などの拘束から解き放たれたいという感覚や、自分の意図しない方向性で見る視線が入り込んでくることで感じる、ある種の面倒さのためでもある。これは女性だけではなく男性のロリータ・ファッションの愛好家も感じているようで、例えば嶽本野ばらも著作で「手料理を作る女性」の裏側にある欲望を批判していたり、恋人の好みのファッションや、あまり好きではないのに友達のファッションを真似てしまう人などは乙女とはいえないとも言っている。なお、嶽本野ばらは作中で執拗に直接的な性描写をしているが、これは野ばらがジョルジュ・バタイユの著作「エロティシズム」で書かれた死とエロティシズムの関係に感銘を受け、やや考え方が変わった影響によるもので、意外にも嶽本野ばらは思春期の頃は性への欲望を憎んでいたそうである。また、嶽本野ばらは「Gothic&Lolita Bible vol.1」で元祖ロリータとして戸川純を紹介している。松浦桃によれば、戸川の演じるロリータはいつも性を求めているのだが、それと同時に「純潔」を演じることに対する凶暴性をも秘めている。また、戸川は思春期の少女やアンドロイド、娼婦などのモチーフを繰り返し書いている。また、嶽本野ばらの「それいぬ」には乙女の性欲について書いている章があり、嶽本野ばらによれば乙女にも万人と同じく性欲はあるのだが、立派な乙女の場合、性欲はストレートな形を持って放出されず、現実と観念の狭間で乙女の性欲は迷宮を駆け巡るのだそうである。 主に10代から20代の若い女性が着るファッションと認識されているが、ギャルや、モード系、さらには森ガールなどのロリータ以外の若者服にも見られるように、中には30代から40代、さらにはそれ以上の年齢層の人間も好んで着る場合があり、その場合はクラシカル系ロリータが、派手な装飾が少ないため人気が集まりやすい。 また、ロリータ・ファッションの愛好者は、ロリータ・ファッションを卒業した後も、個性的な服装を続ける場合がよくあり、流行りのモダン着物のような大正ロマンな趣のあるレトロなファッション・ロリータ要素の殆どない純粋なゴシックファッション・ヴィヴィアン・ウエストウッドのスーツなどのトラッドな服装・「マダム」と称されるような、フェイクファーを多用したフェティッシュかつゴージャスな服装・またはエミリーテンプルキュートやミルクのようなロリータ要素のあるカジュアルや、カントリーテーストのピンクハウスに移行しやすい。 また、男性にもロリータ・ファッションの愛好者は存在しており、代表的な人物がMANAや嶽本野ばらである。男性のロリータ・ファッションの愛好者の場合、完全な女装で、なおかつコスプレではなくファッションとしてロリータを楽しんでいる場合と、嶽本野ばらのようにロリータブランドの服を男性向けに着こなしている場合があり、メンズ・スカートを用いることもある。なお、嶽本野ばらは著作「それいぬ」において、自分はよくホモセクシャル(同性愛者)と間違えられるが、れっきとした異性愛者であると書いている(野ばらはそう思われても構わないが、弁明すべきなのか困っていた)。 なお、ロリータ・ファッションの要素を取り入れた子供服も存在するものの、それらはコンセプトの似た系統である姫系や、ピンクハウス同様、別の要素のあるドレスなどにロリータ服の要素を取り入れたものにすぎず、シャーリーテンプルなどに代表されるロリータの要素のある子供服は、ロリータ・ファッションとは形状・デザインの細部が異なり、ヘッドドレスやボンネット等は使用されない。 さらに、一部パーティー用にコスプレ向けの安価なデザインの服を「ゴスロリ着物ドレス」「ロリータ子供服」と称して販売するケースもあり、注意が必要である。そのため、子供服を親が自作するケースもままある。 ピアノの発表会などで少女が着るような服ともされるが、それらはまた服の意匠など細部が異なる。さらには、ビスク・ドールといったアンティークドールのようなファッションであるともいわれるが、いわゆる西洋のビスクドールのドレスはネグリジェのようにウエストを強調しない、ゆったりとしたベビー服が一般的であり、ロリータ服のシルエットとはまた異なる。 また、ロリータ・ファッションのイメージソースは西洋由来のものであるといわれることもあるが、姫カットやパニエで膨らんだ鳥かご型のスカートなどは「それいゆ」などの日本の少女雑誌でも好まれた要素であり、そういった日本の少女雑誌や、大正時代の少女向け雑誌のイラストなども参考にされている可能性がある。 ロリータ・ファッションは様々な少女のイメージが重なって生まれた服装であると言える。
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