アッバース朝カリフの都とは? わかりやすく解説

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アッバース朝カリフの都

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 04:58 UTC 版)

「バグダード」記事における「アッバース朝カリフの都」の解説

バグダードは、762年アッバース朝第2代カリフマンスールによって新都定められた計画都市で、南フランスから中国国境に至る広大なイスラーム帝国中心にふさわしい都市として直径およそ2.35キロメートル正円城壁建設された。当時バグダードキリスト教司祭羊飼いなどが住み、時おり定期市開かれる小さな村落にすぎなかったが、ティグリス・ユーフラテスの両河が相互に接近しサーサーン朝時代運河イーサー運河サラート運河など)が密集し、これら運河活用できるほか、対立勢力は船か用意しなければならないころから首都として防衛するのが比較容易なころから新都建設地に選ばれた。イスラーム年代記によればマンスールは灰で巨大な円を描き、その円に沿って綿油と綿の実をまいて火を付け、やがて帝都となる地の全体眺望したといわれる新都建設は、4年歳月をかけ、10万職人人夫400ディルハム費用投じて766年完成したバグダードは、アラブ征服の際に軍人駐屯地から発達した軍営都市とは起源異なり、また東ローマ帝国サーサーン朝時代都市引き継いだものでもない純然たる人工都市であり、カリフ宮殿伺候する多く官僚カリフ近臣擁する都として、また、王朝建設主力となったホラーサーン軍団その子孫駐屯地として繁栄したバグダード周到な計画もとづいて建設されたことは、堅固な城塞囲まれ円城(ムダッワラ)という都市プランによく示されている。ティグリス川西岸建設されバグダード城壁三重におよび、円城内側には、カリフ勢威内外に示すため、「黄金門宮」と称する宮殿モスク建てられそれぞれのドーム高貴な色とされた緑色タイル覆われた。周囲には、諸官庁、カリフ一族の館、親衛隊駐屯所などが並び南西の「クーファ門」(アラビア半島からメッカへ) 北西の「シリア門」(シリアから地中海経て東ローマ帝国へ) 北東の「ホラーサーン門」(イランホラーサーンから絹の道により中央アジア中国へ) 南東の「バスラ門」(バスラから海の道によりインド洋経て東南アジア世界へ) の4つの門を有していた。なお、円城都市は、要する城壁最小限ありながら防禦に際して死角がなく最大効果発揮するところに利点があった 。 城内住んだのは特権階級のみで、城壁城壁のあいだがその居住域となっており、商人職人などの一般市民城外居住するよう定められた。円城の都は、直交する2条道路により4つのおうぎ形の区域分かれた道路は門を結び、門を貫いて市外通じ陸上交通便に供したが、それのみならず中央官吏巡視をも容易なものとした。市民城外いくつかの区に分かれて居住し各区それぞれ壁で区切られ夜間にはその出入口閉鎖された。それぞれの区には最高責任者がおり、通常アラビア人ペルシア人ホラズム人など出身地ごとに集住して一区を形成することが多かった第3カリフマフディーマンスールの子在位775年 - 785年)の代にはティグリス川東岸にも軍隊置かれ、それにともなって商人手工業者数多く居住するようになって東岸ルサーファ地区形成されティグリス川架かる舟橋ゆきかう人馬賑わっていたという。また、アッバース朝歴代宰相ワズィール)を輩出したバルマク家も、ルサーファ地区北のシャンマーシーヤ地区大邸宅を構えていたと伝承されている。 アラビア語で「平安の都」を意味するマディーナ・アッ=サラームの名が与えられ新都バグダードは、当時、唐の長安と並ぶ世界最大都市であった人口100万超えアッバース朝最盛期の第5代カリフハールーン・アッ=ラシード在位786年 - 809年)の時代には150万人およんだとみられるバグダード市民とりわけコーラン教え遵守するよう求めたバグダードの街には6礼拝所と3公衆浴場があったといわれる大説話集『千夜一夜物語収載多く物語の舞台にもなっており、そこでは、ハールーンは、従者連れて夜な夜なバグダードの街を歩き回る風流な君主として描かれている。 アッバース朝駅伝制バリード)によって帝国各地結んでいたが、バグダードはその重要な結節点であり、中近東における代表的な商業都市であるというばかりではなく中国東南アジアインドからサハラ以南のアフリカ欧州までを含む国際交易網の中心として、また、シルクロードにおける西の起点終着点として、「世界十字路」と称されるほどの繁栄きわめたバグダードまた、イスラーム世界学問中心地として各地から多く学者集まったアッバース朝の軍は751年タラス河畔の戦いにおいて唐軍破り、唐で国外不出とされた紙の製法イスラーム世界もたらされた。そののち紙の普及によって行政通達円滑化や翻訳事業進んだハールーン・アッ=ラシードは、バグダード紙工場をつくり、のちにはダマスクスにも設けたといわれている。中国からは養蚕技術羅針盤伝わったインドからはゼロ数字をもつ数学伝来しインド数字をもとにアラビア数字つくられた。ハールーン時代には、宮廷文化絶頂達し詩人アブー・ヌワース歌手イブラーヒーム・アルマウスィリーとイスハーク・アルマウスィリーの親子など数多く文化人伺候したまた、数多くギリシア語文献収集されアラビア語翻訳された。とくにハールーンの「知恵宝庫(ヒザーナ・アルヒクマ)をもとに、9世紀前半第7代カリフマアムーンによってバグダード建設された「知恵の館バイト・アルヒクマ)」では、プラトンアリストテレスなどの著作翻訳・研究された。以後バグダードは、東方におけるギリシア学術研究中心地となったギリシア学術興味をもったマアムーンは、バグダード天文台建設した。こうしてアッバース朝下のバグダードではギリシャ・ペルシャ・インドにおける哲学数学・自然科学医学などの文化融合して高度なイスラーム文化発達し、これはのちにラテン語にも翻訳されヨーロッパ文化の発展にも大きな影響あたえた商業のさかんであったバグダード市場スーク)には世界中商品集まった中国絹織物陶磁器インド・東南アジア香辛料アフリカの金や奴隷などである。世界で初め小切手使用されたのもアッバース朝時代バグダードであるといわれる王宮約2キロメートル南に所在するカルフ地区は、バグダード建設当初円城外壁内壁を結ぶアーケード設けられ市場移転して形成され商業地であった移転773年おこなわれたが、その目的円城内の治安確保するためであったといわれる。これにより、果物市場織物市場両替商街、書店街、羊肉屋街などの多様な市場現れそれぞれのスークには親方ないし監督者がいて、諸事管理監督にあたったカルフ地区にはやがてシーア派信奉する商工業者集まりイスラーム世界先進技術駆使した生産商取引一大中心地となっていった。当時バグダードは、絹織物綿織物ガラス金属工芸刀剣、紙などが産品として著名であり、とくに織物各地輸出されている。 ワクフといわれる有力者による寄付行為さかんに行われモスク医療施設市場多数つくられ市場からの収益によって国富増大した。特に医療面では世界初総合病院設けられている。イスラーム医学は、のちの西洋医学大きな影響あたえたハールーン・アッ=ラシード死後2人の子アミーンマアムーン)の間に後継争い生じ円城その際はなはだし損傷をうけ、そののちも完全には復旧されなかった。アミーン歴代カリフなかでも教養豊かな人物であったが、ハルーンとの誓約破り異母兄マアムーンではなく実子後継にすえたために対立生じたものであった9世紀ムウタスィムによる一時的なサーマッラーへの遷都836年)後もバグダード繁栄揺るぐことなく、むしろ都市の規模拡大した9世紀にはハールーン死後の813年第12代カリフムスタイーン治下865年起こった内乱によって、バグダード中心ティグリス川東岸移った892年首都は再びバグダードもどされたが、王宮ティグリス東岸置かれた。アッバース朝治下バグダード最盛期9世紀から10世紀初頭にかけてといわれている。しかし、946年には十二イマーム派奉ずるブワイフ朝アフマドバグダード入りしてカリフよりアミール・アルウマラーに任命され政治実権奪い10世紀後半以降は、アッバース朝支え軍人相互抗争民衆暴動頻発洪水頻発などによって次第荒廃しはじめた

※この「アッバース朝カリフの都」の解説は、「バグダード」の解説の一部です。
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