翼 翼の概要

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 06:58 UTC 版)

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語彙

「つばさ」と「はね」

日本語では、「鳥の翼」(英語: wing)を表す言葉には「つばさ(翼)」「はね)」の2語があり、いずれも万葉集より用例がある。

葦辺行く雁の翼を見るごとに君が帯ばしし投矢し思ほゆ (13#3345)
梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽白妙に沫雪ぞ降る (10#1840)

「つばさ」がもっぱら「鳥の翼」の意味であったのに対し、「はね」はより広い語義をもち、「昆虫の翅」を指すのにも用いられる[1]。さらに、「矢羽根」「赤い羽根」「羽根ペン」というように、「羽根」と書けば 英語: feather の意味になる。英単語 feather 「羽根」がギリシア語 pteron[2]「翼」と同じ語源をもち、古くは複数形で「翼」を意味したことからも分かるように、「翼」と「羽根」とは互いに距離の近い概念であると言えよう。

漢字「」は羽根2枚、または双翼を並べた象形字、「」はそれに音符を加えたものである。

流体力学などにおける「翼」

20世紀に入ると飛行機が登場し、「飛行機の翼」という概念が生まれると共に、流体力学などの新しい学問分野が発展し、「翼」という言葉も新しい定義を得ることとなった。 その定義とはおおむね、「流体との相互作用によって効率よく揚力を得られるような形状をした物体」というものである。

またこの定義から、この語は、飛行機の翼以外にも多様なものを指しうる。

  • 水中翼船の水中翼なども翼の一種である。
  • レーシングカー等に取り付けられるウイングは、上下を逆にした翼であり、車体を地面に押し付けるために下向きの揚力(ダウンフォース)を発生させるものである。
  • の一形態である縦帆は、水平方向の揚力を得る翼であると考えることができる。
  • プロペラやローターなどの「回転翼」も翼の一種である。産業用の圧縮機風力原動機[3]のブレードなども回転翼として理解することができる。

なお、こうした用法における「翼」の字は、音読みで「ヨク」と読まれることが多い。

その他の用法

転義として、一般に、中央に位置する中心的な構造から左右に張り出したような構造を称して「翼」(ヨク)と呼んだり、また「ウイング」などとも呼ぶ。思想的立場を意味する「左翼」「右翼」の語は、革命期フランスの議会における、左右に分かれた議員席をそう呼んだことに由来するという。建築物の例としては、宇治平等院鳳凰堂の「翼廊」や、羽田空港(ビッグバード)の棟名「ウィング」などを挙げることができる。

生物の翼

鳥類の翼では、部位に応じて各種の機能を担う、様々な形状の羽毛が発達している。

生物学などの分野において特に厳密な「翼」の定義がある訳ではないが、一般的な用法でいえば、翼を持つ生物は以下の3種類である:

これに加えて昆虫類のを翼として扱うこともある。

いずれも、飛翔(帆翔およびホバリングを含む)を目的とした、羽ばたく機能をもったものである。

小史

翼の羽ばたきによる飛翔を最初に行った生物は古生代昆虫であり、この能力の獲得が昆虫の今日の繁栄の1つの要因であったと考えられている。昆虫は、羽ばたきによる飛翔能力を獲得した唯一の無脊椎動物である。

中生代になると脊椎動物にも羽ばたき飛翔を行う翼の持ち主が現れた。現在のところ、三畳紀中ごろの翼竜がそのさきがけであったと考えられている。

ジュラ紀頃になると、恐竜の系統の一部から、鳥が生まれた。とはいえ、羽毛が化石に残りにくいこともあり、恐竜-鳥系統の進化の中で羽ばたき飛翔がいつ、どのように始まり、翼の進化がどのような過程を踏んできたのかについては、あまりよく分かっていない[4]

最後に登場した羽ばたき飛翔を行う生物は哺乳類コウモリであり、新生代第三紀のことであったと考えられている。

羽ばたかない“翼”

以上のような一般的な用法にこだわらず、航空機的な「翼」の意味を流用するなら、グライダーのように滑空する能力をもつ様々な生物が視野に入ってくる。 羽ばたいて上昇したり長距離を航続する能力は彼らにはないが、中には高度差の4〜5倍の距離を滑空するものもいる。 様々なアプローチのものが知られている。

  • ムササビモモンガフクロモモンガヒヨケザル : 四肢の間などに発達した皮膜の“翼”を持つ。
  • トビトカゲ : 肋骨が横に伸び、体幹から大きく突き出した形になり、そこに皮膜が発達する。普段は折り畳まれている。現生脊椎動物のなかで四肢から独立した“翼”をもつ唯一の生物[要出典]である。
  • トビヤモリ:トビトカゲほど発達しないが肋骨が広がり翼の役割を果たす。
  • ロンギスクアマ:化石種。発達した胴体の複数の鱗が翼の役割を果たした。
  • トビヘビ:肋骨を広げ体を扁平にし、全身をS字形にすることで、ほぼ全身を翼として使う[5][6]。当然、四肢はなく、絶滅もしていないので、四肢を翼の前後につけて滑空するトビトカゲが、四肢から独立した翼をもつ唯一の原生脊椎動物ではない。
  • トビガエル類 : 四肢の指が長く、そこに発達した“水かき”を使って滑空する。(樹上生であり、遊泳はしない)
  • トビウオ類 : 胸びれ、腹びれ、尾びれが発達し、翼の役を果たす。
  • トビイカ : “先尾翼(カナード)”を備えるとともに、脚と粘液とで楕円平面形の“翼”を形成。
  • 植物 : 一部の植物の果実には、動的揚力を利用して移動距離を稼いでいるものがあり、翼果と呼ばれる。ほとんどは一種の回転翼であり、カエデの種子が有名。特徴的なのはボルネオ島の森林に生えるハネフクベ(Zanonia Macrocarpa; ウリ科)で、これは左右対称な、無尾翼のグライダーである。

さらに意味を広げるなら、水生生物の多くに見られる「」(ひれ)もまた、流体力学的な意味で「翼」であると言えなくもない。とはいえこれら生物が滑空や遊泳のために発達させた器官は第一義的には「皮膜」であり「」なのであって、これらを「翼」と呼ぶことは一般的ではない。


  1. ^ 学術的には「」と書いて「し」と読む。ただし「翅」は当用漢字外なので、分かりにくいがひらがなに開く場合もある。「半し類」など。
  2. ^ 語根として helicopter 「ヘリコプター」、pterosaur 「翼竜」などに含まれている。
  3. ^ ただしこの場合はから動力を得る方である。
  4. ^ 羽毛を持つ恐竜や、飛翔可能な段階に達した小型恐竜の存在が知られるようになったのは、ようやく20世紀末以降、ここ20年ほどのことに過ぎないのである。
  5. ^ NHK
  6. ^ NATIONAL GEOGRAPHIC 日本版 よりWebナショジオの動物大図鑑


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