【F-4】(えふよん)
McDonnell Douglas F-4 (F4H) "Phantom II(ファントムツー)".
(ただし単に「ファントム」といわれることも多い。)
米ソ冷戦期の1950年代後半、アメリカ海軍の艦上機として開発された大型ジェット戦闘機。
後述するように数々の派生型を生み出し、1980年代までの長きにわたって5,000機以上の生産を誇った、西側世界を代表する傑作機である。
当時、アメリカ海軍が次期艦上戦闘機として要求していたマッハ2級のミサイリアーを目指して、マクダネル社がF3H-G「デーモン」をベースに設計したF4H-1に端を発する。
ライバルとしてチャンス・ヴォート社のF8U-3が存在したが、飛行審査の結果F4H-1が採用された(その後、機体命名法の変更に伴い名称が"F-4"へ変更された)。
当時としては高度だったレーダー火器管制装置を操作するため、複座となっている。
強力なJ79ターボジェットを2基装備しながら、航空母艦のエレベーターに収まるサイズに設計された。
その結果、太くて短い胴体に、下反角の大きなスタビレーターや折り畳み式クリップトデルタ翼を組み合わせた、独特の形状となった。
この特異な外観から当初は「みにくいアヒルの子」とも揶揄されたが、童話よろしく後々の活躍により傑作戦闘機として評価されるようになった。
ただし特殊な設計ゆえ、アドバースヨーなど飛行特性上の悪癖も大きい。
推力に余裕があるため、その外見に似合わず数々の速度記録や高高度記録を打ち立てた。
また、搭載能力にも余裕が大きく、戦闘爆撃機としても優秀であった。
ベトナム戦争では数々の戦果を挙げ、当時米軍でエースパイロットを生み出した唯一の機種として知られる。
元々はミサイリアーだったが、ベトナム戦争では機関砲の必要性が叫ばれたため、一部の機体にガンポッドが装着され、空軍向けのE型以降のモデルでは固定武装としてM61A1を装備した。
当初の運用者であったアメリカ軍からは1996年までに全機退役したが、本機を輸入及びライセンス生産した各国では、それぞれの国情に応じた能力向上や近代化改修が順次行われ、現在でも9カ国の空軍で数百機が作戦行動可能な状態を維持している。
また、アメリカ国内では民間の非営利団体によって1機のD型が飛行可能な状態で保存されている他、アリゾナ州のデビスモンサン空軍基地にモスボールされた機体が存在するという。
スペックデータ
用途 | 艦上戦闘機/戦闘爆撃機(マルチロールファイター) |
製造者 | マクドネル・エアクラフト(マクドネル・ダグラス) |
初飛行 | 1958.5.27 |
ユニットコスト | 2,400万USドル |
乗員 | 2名 (海軍型はエビエーター/RIO、空軍型はパイロット/WSO) |
全長 | 19.20m |
全高 | 5.02m |
全幅 | 11.71m |
主翼面積 | 49.2㎡ |
空虚重量 | 13,757kg |
最大離陸重量 | 28,030kg |
最大搭載量 | 7,258kg |
エンジン | GE J79-GE-17Aターボジェット×2基 (推力52.53kN/79.62kN(A/B使用時)) |
最大速度 | マッハ2.2 |
海面上昇率 | 18,715m/min |
実用上昇限度 | 18,975m |
フェリー航続距離 | 1,718nm |
戦闘行動半径 | 430nm(カウンターエア) 618nm(阻止攻撃ミッション) 683nm(迎撃ミッション) |
固定兵装 | M61A120mmガトリング砲×1門(弾数639発・E/F/EJ/EJ改型のみ) |
搭載兵装 | 胴体下ステーション ・AIM-7「スパロー」×4発 主翼下パイロン (空対空ミサイル用ステーション) ・AIM-9「サイドワインダー」×4発 胴体中心線下/主翼下パイロン (主翼下は空対空ミサイル用ステーション以外) ・核爆弾 ・M117無誘導爆弾 ・Mk.82無誘導爆弾 ・Mk.20クラスター爆弾 ・テレビ/レーザー誘導爆弾 ・空対地ミサイル ・空対艦ミサイル ・対滑走路兵器 ・LAU-59 ロケット弾ポッド ・AN/ALQ-119ECMポッド ・AN/ALQ-131ECMポッド ・ターゲッティングポッド ・偵察ポッド ・増槽(2271L・1400L)等 |
主な派生型
- XF4H-1:
原型機(生産数2機)。
- YF4H-1:
試作機(生産数5機)。
- F-4A(F4H-1):
試作および初期少数生産型(生産数45機)。
16機目(18号機)以前と17機目(19号機)以降とでレドームと風防(キャノピー)の形状が異なる。
- F-4B(F4H-1F):
米海軍・海兵隊向けに納入された前期量産型(生産数684機)。
- F-4C(F-110A"Spector"):
米空軍向けモデル(生産数583機)。
主な改修点としてAIM-4「ファルコン」セミアクティブレーダー・赤外線誘導空対空ミサイルやAGM-12「ブルパップ」ラジオ指令誘導空対地ミサイル、核爆弾の運用能力の付加、ブーム式空中給油装置の装備、低圧タイヤの搭載が挙げられる。
また、海軍型とは違い、後席にも操縦機構を設けている。
- F-4D:
C型のFCSを換装し、爆撃コンピューターの搭載やレーダーをAN/APQ-109Aに換装、低空目標の探知能力を向上させるなど対地攻撃能力を強化した空軍向けモデル(生産数825機)。
一部は韓国やイランへ輸出された。
- F-4E:
D型の改良型(生産数1,397機)。
機首を延長し、エンジンをJ79-GE-17に換装、新型の前縁スロット付きスタビレーターと前縁フラップを可動式スラットに変更した。
ベトナム戦争での戦訓から、固定武装としてM61A1を装備する。
F-4ファミリーの全シリーズを通じて最後まで生産が行われ、各国に輸出された他、後述の通り、日本ではライセンス生産もされた。
- F-4EJ:
E型を日本の航空自衛隊に納入すべく、三菱重工でライセンス生産したもの(生産数140機)。
当時の政治的事情により、ASQ-91爆撃コンピュータなどの空対地攻撃能力や空中給油受油能力、空戦用スラットが省かれ、要撃戦闘機として生産された。
- F-4EJ改:
EJ型の延命改修型(90機改修)。
アビオニクスが更新され、空対地攻撃能力や空中給油受油能力が復活、ASM-1、ASM-2などの国産兵装が運用可能になった。
その他、RWRやアナログ式慣性航法装置、IFF装置等も更新された他、HUDも追加装備されている。
- F-4E ファントム2000(クルナス2000):
イスラエル空軍で使用されている、E型の延命改修型。
油圧・燃料系統が改修されている。
- F-4E 2020:
トルコ空軍が使用している、E型の延命改修型(52機改修)。
「ターミネーター(Terminator)」の名を持つ。
グラスコックピット化・エルタEL/M-2032レーダーへの交換、トルコがライセンス生産しているF-16に準ずるアビオニクスへの変更が行われた。
また、エンジンの換装や燃料タンクの増設など、機体自体の改修箇所も非常に多い。
- F-4E(イラン改良型(形式不明)):
E型をイラン軍が独自に改修した機体。
- F-4E PI2000:
E型をギリシャ空軍が独自に改修した機体(39機改修)。
仕様はドイツ空軍のF-4F ICEに準じているが、AIM-120やAGM-130、レーザー誘導爆弾の運用の運用能力の追加等、大規模な改修が行われている。
- F-4EJ:
- F-4R(S):
RF-4Xと同等の装備を持つ偵察機。イスラエル空軍向けに3機が改修された。
- F-4F:
E型のルフトバッフェ版(生産数175機)。
アビオニクスを簡略化し、単座でも運用可能。
AIM-7の運用能力が省略されている。
- F-4G(1):
敵防空網制圧専用型。米空軍ワイルドウィーゼル機。
- F-4G(2):
海軍のB型をベースに、データリンクを使用しての自動迎撃・自動着艦の実験用に改修された機体。
- F-4J
米海軍・海兵隊向け後期量産型(生産数522機)。
パルスドップラーレーダーを備え、B型で装備されていたIRSTが撤去された。
また、C型用のメインギア回りと主翼、G型で開発された機材に加え、エンジンを従来のJ79-GE-8から出力を強化したJ79-GE-10に変更された。
アメリカ海軍における、ベトナム戦争中唯一のエース、カニンガム/ドリスコル組が使用していた。
- F-4K:
英海軍向けモデル。英名「ファントムFG.1」(生産数52機)。
エンジンはRB-168-25Rスペイ・Mk.202ターボファンを搭載。
また、レーダーをAN/AWG-11に変更し、機首のレドームを英空母のエレベーターのサイズに合わせる為に折り畳み式にしている。
1978年の正規空母全廃により、全機が空軍へ移管された。
- F-4M:
K型の英空軍版。英名「ファントムFGR.2」(生産数118機)。
エンジンはロールス・ロイスRB-168-25RスペイMk.202(後にMk.204)に、レーダーをAN/AWG-12に変更されている。
K型と比べて対地攻撃能力が強化されているほか、偵察ポッドの運用能力も追加され、SUU-23/Aガンポッド用の配線も当初から用意されている。
他にも、電源車など地上設備が無くとも、内蔵バッテリーでエンジンを始動できるなど、他のタイプにはないユニークな特徴もあった。
- F-4N:
B型の延命改修型。
搭載電子機器をJ型相当にアップグレードした。
- F-4S:
J型の延命改修型。
前縁フラップをスラットに変更したが、離着陸時の安定性が従来の機体より悪化した。
- QF-4B/E/G/N/S/QRF-4C:
B/E/G/N/Sの各型及びRF-4Cの余剰となった機体を改造した標的機。
- RF-4B:
米海軍・海兵隊向け偵察機。カメラに加えSLARなどのセンサーを持つ。
- RF-4C(RF-110A):
RF-4Bの米空軍版。
ベトナム戦争後の改修により、自衛用のAIM-9の搭載が可能となった。
- RF-4E:
RF-4CのエンジンやアビオニクスをF-4E相当にし、C型にあった核爆弾運用能力を取り除いたもの。
米空軍では採用されず、生産機のすべてが輸出にまわされた。
- RF-4X:
CIA用高々度偵察型。提案のみ。
HIAC-1という高性能なカメラを搭載し、高々度からの偵察に最適化されている。
Photo:MASDF
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