サイトメガロウイルス感染症とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 固有名詞の種類 > 病気・健康 > 病気・けが > 病気 > 感染症 > サイトメガロウイルス感染症の意味・解説 

サイトメガロウイルス感染症

ヒトサイトメガロウイルス(以下CMV感染症は、CMV初感染、再感染あるいは再活性化によって起こる病態で、感染感染症異なることを明確にする必要がある通常、幼小児期不顕性感染の形で感染し生涯その宿主潜伏感染し、免疫抑制状態下で再活性化し、種々の病態引き起こす。このウイルス感染症発症するのは主に胎児一部先天性CMV 感染症患児として出生)、未熟児移植後、AIDS患者先天性免疫不全患者などであるが、免疫学的に正常であっても肝炎伝染性単核症などを発症する場合があり、注意要する。尚、感染症法の元では、本ウイルスによる急性ウイルス性肝炎4類感染症全数把握疾患であるが(註:その後2003年11月施行感染症法一部改正により、5類感染症全数把握疾患ウイルス性肝炎 [E型肝炎及びA型肝炎を除く] に変更)、他の病態については届け出対象となっていない。

疫 学
従来我が国CMV抗体保有率は欧米諸国比して高く乳幼児期にほとんどの人が感染受けている状態が続いていた。ところが最近、その状況変化認められ妊娠能年齢の女性におけるCMV抗体保有率は90%台から70%台に減少していることが、いくつかの地域における研究報告されている 1) 。このことは、乳幼児期に初感染受けず成人となり、伝染性単核症妊娠中の感染により、先天性CMV 感染症患児出産する頻度増加することにつながる。抗体陽性母親から出生した児の経胎盤感染頻度0.22.2%であるが、妊娠中に初感染受けた場合の経胎盤感染頻度2040%と報告されている 2)。しかし、そのうち症候性感染児は5~10%である 2) 。ただし、新生児期無症状であっても難聴知能障害のような形で発見されることがあり、早期発見が重要である。
感染経路母乳感染、尿や唾液による水平感染が主経路であり、産道感染輸血による感染性行為による感染なども認められている。初感染受けた乳幼児はほとんどが不顕性感染の形で、その後数年わたって尿あるいは唾液中にウイルス排泄する。このことから、保育園などで子供同士密接な接触によって感染受けたりウイルスを含む尿との接触により感染成立する
また、感染女性母乳中にウイルス排泄しているため、母乳感染源となる。特に早産児においては母体から十分量抗体移行受けず出生至っているため、初感染から感染症へと発展する可能性高く母乳のみならず、既感染者からの輸血にも注意が必要である。
一方免疫不全者におけるCMV 感染症のほとんどは、体内潜伏感染していたCMV再活性化よる。臓器移植後の免疫抑制剤投与悪性腫瘍治療中免疫抑制AIDS 患者などにおいては再活性化したCMV間質性肺炎網膜炎発症する。もちろん、初感染による場合も、免疫正常な人に比して症状重篤となることが多く抗体保有有無検査しておくことは重要である。

病原体
CMV は、ヒトヘルペスウイルス6(HHV‐6)やヒトヘルペスウイルス7(HHV‐7 )と同じヘルペスウイルス科βヘルペスウイルス亜科属する。直径約180nm、230kbp からなる2本鎖DNA ウイルスで、ヘルペスウイルス科の中では最大である。1956 ~57 年Rowe ら3) 、Smith ら 4) 、Weller ら5) により先天性重症黄疸児の尿から分離されたのが最初である。種特異性強くヒト以外の動物には感染しないヒト体内では広汎組織親和性があり、レセプターはまだ確定的に同定されていないものの、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、アンネキシンII 、CD13(アミノペプチダーゼN )がその対象分子として注目されているウイルス側のリガンドとしては、envelope構成する糖蛋白であるglycoprotein B(gB)やgH などが、細胞への進入伝播融合重要な働きをしている。1990 年にはChee ら 6) によって全塩基配列決定され分子生物学的な研究飛躍的に進展した
CMV 遺伝子前初期遺伝子初期遺伝子後期遺伝子の順に転写翻訳がなされ、それぞれ蛋白形成される。この過程48時間以上かかるとされており、単純ヘルペスウイルスの6~9時間比して非常に遅い増殖サイクルである。初期遺伝子は主に酵素類などを含み後期遺伝子ウイルスの骨格構成する蛋白合成するまた、CMV単純ヘルペスウイルス水痘帯状疱疹ウイルス異なりウイルス特異的酵素であるthymidine kinaseTK)を有さないことも、治療考え上で重要な性質である。

臨床症状
1)先天性CMV 感染症
妊婦CMV初感染、再感染受けた場合、あるいは再活性化認めた場合ウイルス胎盤経由して胎児移行し、この病気発症する症状重篤なものから軽症無症状まで幅広いが、一般的に初感染場合重篤になることが知られている。これは、TORCH 症候群1 つ構成する重要な先天性感染症である。
症状は、低出生体重黄疸出血斑、肝脾腫小頭症脳内脳室周囲石灰化肝機能異常血小板減少難聴脈絡網膜炎DIC など多彩かつ重篤で、典型例巨細胞封入体症呼ばれている。ただし、出生時には上記症状一部のみの場合や、全く無症状で後に難聴神経学後遺症発症する場合があり、早期発見望まれる
2)新生児乳児期感染
産道での感染母乳介した感染、尿や唾液介した水平感染が主であるが、ほとんどが不顕性感染かあるい軽症経過する。これは母体からの移行抗体による効果大きい。なかには肝炎発症することがあるが、一般的にself‐limiting である。ただし、早産児低出生体重児場合は、母親から抗体移行十分に受ける前に出生していることから、重篤症状呈することが多く肝機能異常間質性肺炎、単症などが主となる。これらの新生児への、CMV抗体陽性母体からの母乳投与輸血避けるべきである。
3)健常人における感染症
抗体陰性のままで経過し思春期以降初感染受けた場合には、伝染性単核症様の症状呈することが多い。発熱肝機能異常頚部リンパ節腫脹肝脾腫などが主な症状であり、EpsteinBarr ウイルスによる場合初感染像と鑑別することは困難である。外科手術などで大量輸血受けてCMV初感染した場合にも、発熱肝機能異常間質性肺炎異型リンパ球多など、伝染性単核症様の症状呈することが知られているが、この場合重症化しやすい
4)移植患者における感染症
臓器移植では、ドナー陽性レシピエント陰性場合初感染ハイリスク者となり、定期的なモニタリングが必要である。もちろん、ドナーレシピエント共に抗体陽性場合でも、免疫抑制剤投与により潜伏していたCMV再活性化し、感染症発症することが多いため、同様のモニタリングは重要である。早期診断早期治療なされない場合は、発熱間質性肺炎腸炎肝炎網膜炎脳炎発症し移植臓器を失うことにもつながる。
一方骨髄移植場合ドナー陰性レシピエント陽性場合ハイリスクである。すなわち、再活性化したウイルス抑制する細胞ドナー由来であり、CMV対すメモリーを有さないため重篤感染症発症する症状は同様であるが、その他、骨髄抑制白血球減少血小板減少)を認めることが多く臓器移植よりも重篤である。
5)HIV 感染者における感染症
CD4 陽性細胞が500/mm 3下になると、CMV含め日和見感染症発症するリスク高くなる
特に50/mm 3 以下の場合頻度重症度共に高い。あらゆる臓器ウイルス感染するが、網膜炎腸炎脳炎発症することが多く間質性肺炎移植患者場合異なり頻度は低い。
CD4 陽性細胞数が200/mm 3 以下では、症状有無かかわらず定期的な眼底検査が必要である。

病原診断
1)先天性CMV 感染症診断
2(ないし3)週間以内の尿からウイルス分離される確定される臍帯血新生児血のCMV IgM診断用いることもあるが、陰性である場合もあり、これだけでは不十分である。最近では、抗原血症や分子生物学的手法によるDNA 診断mRNA 診断用いられる
2)それ以外時期における感染症の診断
検査法には、mRNA 検出のためのNASBAnucleic acid sequence based amplification )法 7) 、ウイルス抗原検出するためのantigenemia 法、DNA 検出のためのPCR 法直接ウイルス分離する方法ウイルス特異的IgM 抗体測定などがあるが、保険適用があるのはantigenemia 法とウイルス特異的IgM 抗体測定のみである。病態把握するためには、複数検査方法総合的に判断するのが最も有用である。mRNA検出ウイルス活発に増殖していることを意味し通常潜伏感染状態では検出されないため、感染症発症予知ならびに抗ウイルス剤投与中止指標なり得る一方DNA検出においてはcell free DNA検出や、通常検出されない部位からの検出PCR 法template DNA 量を適切に設定してウイルス量定量をすること、などが重要である。たとえば、乳幼児期の尿中でのDNA 検出ウイルス分離は、臨床的意義少ない(初感染数年間にわたってウイルス排泄し続けるため、健康乳幼児でも尿中検出される)。
Antigenemia 法は、現在2種類方法(C7HRP 、C10C11)が使用されている。ウイルス抗原陽性細胞末梢血多形核白血球中に何個あるかの定量可能なため、一定量上で検出され場合には抗ウイルス剤適応があるとされる

治療・予防
治療にはCMV 高力γグロブリンガンシクロビルホスカルネット用いられる病原体の項でも述べたが、TK を有さないウイルスのため、アシクロビルは有効ではない。抗ウイルス剤使用開始基準に関しては、それぞれの病態でかなり異なる。
先天性CMV 感染症場合抗ウイルス剤保険適応はないものの、神経学予後考えるとその適応考慮する必要があるWhitley らのグループによると、先天性CMV 感染症重症例にガンシクロビル使用することにより、神経学後遺症発現減少難聴進行改善などの効果があるとされている 8)。ただし、ガンシクロビル副作用としての骨髄抑制不妊症問題については十分かつ慎重な検討が必要である。また、胎内診断技術発達し今後胎内治療などの検討活発になるものと考えられる血小板減少肝機能異常に対しては、CMV 高力γグロブリン製剤投与が有効であることが多く用い価値は高い。
移植感染症場合は、抗ウイルス剤prophylactic therapy, pre‐emptive therapy の形で治療なされる場合が多いが、分子生物学的手法により、感染症発症する前にウイルス量増えてきたことを確認してから治療開始するpre‐emptive therapy最近主流である。造血幹細胞移植場合は、ガンシクロビル骨髄抑制問題使用困難な時期があり、その場合にはホスカルネット使用される一方腎移植場合には、ホスカルネットによる腎障害問題からガンシクロビルが主に用いられる。同じ移植後であっても、造血幹細胞移植後と臓器移植後で抗ウイルス剤使用開始基準異なり造血幹細胞移植後の方が早期の対応が必要である。いずれの場合も、CMV 高力γグロブリン製剤との併用使用されることがほとんどである。HIV 感染者におけるCMV 網膜炎治療には、ガンシクロビル経口製剤ホスカルネット使用される
ガンシクロビル作用機序は、CMVガンシクロビルリン酸化する酵素コードする遺伝子保有していることから、この酵素によりリン酸化されることによってウイルスのDNA polymerase阻害しウイルスの増殖抑制する初期投与量として1回5mg/kg 、1日2回を1時間上かけ14日間点滴静注する。維持療法必要な場合は、1日6mg/kg を週5日間、または1日5mg/kg を週7日間1時間上かけ点滴静注する。アシクロビルと同様、腎機能障害程度に応じて減量が必要である。副作用として、前述のように骨髄抑制(汎血球顆粒球減少貧血血小板減少)には注意が必要である。
ホスカルネットは、我が国においては現在、AIDS 患者CMV 網膜炎にのみ保険適応がある。
作用機序は、DNA polymeraseピロリン酸結合部位直接結合して活性阻害することによる
ガンシクロビル耐性ウイルスにはこの薬剤用いられる投与量は、1 回60mg/kg を1日3回、8時間ごとに1 時間上かけて、あるいは1 回90mg/kg を1日2回、12時間ごとに2 時間上かけて、1421日点滴静注する。維持療法必要な場合には、90 ~120mg/kg を2時間上かけ1日1回点滴静注する。最近カプセル製剤(1カプセル250mg)が我が国においても発売され成人12カプセル/日、分6で投与されている。副作用として腎機能障害があるため、腎機能チェックが必要である。クレアチニンクリアランスが0.4ml/分/kg 以下の者には投与禁忌である。また、カルシウムマグネシウムキレートして低カルシウム血症低マグネシウム血症低カリウム血症をおこすことがあるため、電解質チェックも重要である。
抗ウイルス剤治療以外にも、移植患者対象とし、養子免疫療法などの研究進んでいる。これはCMV対すCTL造血幹細胞移植場合ドナー末梢血から、一方臓器移植場合レシピエント末梢血から樹立しin vitro増殖させ患者に戻す治療法である。従来donor leukocytes transfusionDLT)などの方法用いられてきたが、養子免疫療法の方がよりCMV に対して特異的に治療が行える。
先天性CMV 感染症予防方法としては、未感染妊婦乳幼児密接な接触避けることなどがあげられる欧米では未感染妊婦保育士などにおいては乳幼児担当避けるなどの配慮なされているようである。ただし、これには妊娠中の抗体検査が必要となる。早産児においては感染母体からの母乳避けること、抗体陽性者からの輸血避けることが重要である。移植患者などにおいては移植前にドナーレシピエント共に抗体検査をしておくと、その後モニタリングにも応用可能であり、早期診断早期治療直結するので重要である。

参考文献
1)干場勉:妊婦サイトメガロウイルス抗体保有率の低下日本臨床 199856193‐6
2)Robert F. Pass:Cytomegalovirus.In Fields Virology 4th ed. 2001 by Lippincott Williams &Wilkins
3)Rowe WP, et al. Cytopathogenic agent resembling asalivary gland virus recovered from tissue cultures of human adenoids.Proc. Soc. Exp. Biol. Med 1956; 92: 418‐424.
4)Smith MG. Propagation in tissue cultures of a cytopathogenic virus from human salivary
gland virus(SGV)disease. Proc. Soc. Exp. Biol. Med 1956; 92: 424‐430.
5)Weller TH, et al. Isolation of intranuclear inclusion agents from infants and illnesses resembling cytomegalic inclusiojn disease. Proc. Soc. Exp. Biol. Med 1957; 94: 4
6)Chee MS, et al. Analysis of the proteincoding content of the sequence of human cytomegalovirus strain AD169. Curr Top Microbiol Immunol 1990; 154: 125‐170.
7)Compton J.Nucleic acid sequencebased amplification.Nature. 1991;7; 350: 91‐2.
8)Whitley RJ, et al.Ganciclovir treatment of symptomatic congenital cytomegalovirus infection: results of a phase II study. National Institute of Allergy and Infectious Diseases Collaborative Antiviral Study Group. J Infect Dis. 1997;175:1080‐6.

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子)

  





サイトメガロウイルス感染症と同じ種類の言葉


固有名詞の分類

このページでは「感染症の種類」からサイトメガロウイルス感染症を検索した結果を表示しています。
Weblioに収録されているすべての辞書からサイトメガロウイルス感染症を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
 全ての辞書からサイトメガロウイルス感染症を検索

英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「サイトメガロウイルス感染症」の関連用語

サイトメガロウイルス感染症のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



サイトメガロウイルス感染症のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
国立感染症研究所 感染症情報センター国立感染症研究所 感染症情報センター
Copyright ©2024 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.

©2024 GRAS Group, Inc.RSS