野辺家の友人たち
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「君の手がささやいている」の記事における「野辺家の友人たち」の解説
片山 奈保子(かたやま なおこ) 美栄子の親友で聾学校幼稚部からの深い付き合い。美栄子にとってはかけがえのない一番の親友であり、同い年でありながらしっかり者の姉のような存在だった。いつもくっ付いて一緒にいたことで周囲から「レズじゃないか」と思われていたほど仲が良かった。 奈保子の父親の転勤でしばらく離れ離れになっていたが、東京に戻ったことで美栄子と再会することになるが、美栄子が連れてきた博文が健常者であることを知ると、美栄子と博文の交際を反対した(自身が過去に同じ経験をして結局別れることになってしまったことがトラウマとなっていた)。しかし、美栄子の「耳のせいにして逃げたくない。ここで博文の気持ちに応えなかったら一生後悔する」という強い決心を聞き、博文の美栄子を想う人柄にも触れて、それ以降は温かく見守る側になる。美栄子の結婚から少し遅れて同じ聴覚障害者の茂と結婚し、一人息子の拓実をもうけている。なお「片山」は結婚後の姓であり、旧姓は不明。 実は美栄子との付き合いが途切れている間に乳癌を患い、左の乳房を切除した(拓実はその後に誕生した)。その後転勤先の仙台から東京に戻ってきた美栄子との交流を再開した後に癌が再発し入院。手術を試みたが既に手遅れな状態であり、覚悟を決めた奈保子はまだ幼い拓実に精一杯の愛情を注ぐ。拓実が初めて手話を使ったのを目にした後、拓実を抱きしめ満足げな微笑みを浮かべて息を引き取った。心を許していた親友の死は美栄子に計り知れないほど大きなショックを与えてしまう。しかし奈保子の死後、美栄子に宛てた真新しいプレゼント品以外、彼女が自らの形見となるものを全て生前に処分し終えていたことを茂の口から聞かされた美栄子は、そこに「私を忘れて新しい人生を歩んで」という奈保子の遺した意思を感じ取り、深い失意の底から立ち直り心の中で改めて奈保子に別れを告げた。 山名 幸男(やまな ゆきお) 美栄子の子供時代を描いた番外編『みえちゃんの手がささやいている』に登場した、美栄子の聾学校時代の同級生で初恋の人。手話で犬を調教しているところを美栄子に見られて興味を持たれ(美栄子はそれを魔法と思い込んでいた)、周囲の大人達には内緒で美栄子に手話を教えた。その時代の聾学校教育では「口話を覚える妨げになる」として手話を禁じる風潮があり、それを無視して手話を使う幸男は聾学校でも問題児とされていた。美栄子の母は、美栄子が口話の覚えが悪いのは幸男のせいであると主張し、美栄子と引き離すために東京への引越しを強行する。だが引越し当日に美栄子と幸男がお互いを純粋な心で思っていることを理解し、美栄子にきちんと別れの挨拶をするように促した。後に足を怪我して入院していたところに千鶴を病院へ連れてきていた美栄子と偶然再会する。 自動車の部品を作る小さな町工場に勤めていたが、経営難に陥ったことでリストラ対象となってしまう。周囲は不当なリストラとして幸男に「耳が聞こえないことを武器にして闘うべき」と説得するが、幸男は聴覚障害者である自分を快く雇ってくれていた社長への恩を思い、退職金を受け取らず田舎へ戻ることを決意。美栄子との別れ際に「自分たちの聞こえない耳は闘う武器じゃなく、仲良くなるためのもの」との言葉を残し、笑顔で去っていった。 里美(さとみ) 美栄子の聾学校時代の友人。姓は不明。既婚者。美栄子と同じ頃に子供を妊娠。子供を作るつもりが無く妊娠したことから、産婦人科に堕胎手術を受けに行くつもりで美栄子に付き添ってくれるように頼みにきた。美栄子もまた自分が母親として子供をきちんと育てられるか自信が無く、一度は堕胎することを決めて産婦人科へ行ったものの、恐くなって逃げてきたところであり、美栄子は「弱虫になりたくない。子供には健常者の親が良かったって言われるかもしれないけど、それでも産みたい」と己の本当の気持ちを里美に伝え、一緒に頑張ろうと説得した。 菊池 由加里(きくち ゆかり) 仙台に引っ越した際に近所のスーパーで出会った聴覚障害者の女性。同じ聴覚障害を持った夫と暮らしている。かつてパート務めしていた時に健常者の同僚から冷たくされたことで、健常者に対して臆病で引っ込み思案な性格になってしまった。美栄子と、美栄子が主催する手話教室の生徒である町内会の主婦達の協力で、元の明るい性格を取り戻していく。 沢口 今日子(さわぐち きょうこ) 美栄子と博文が旅行先のグアムで出会った新婚カップルの女性。軽度の難聴を患っており、その事を隠して結婚したことを夫に言い出せなかったことで悩んだまま旅行に参加していた。美栄子の尽力で夫に告白し一度は別れの危機を迎えるが、スキューバダイビングの最中、夫と共に美栄子と博文の耳のハンデを感じさせない幸せそうなやり取りを見て「真の幸せとは何か」を感じ取り、お互いの愛を再確認する。 後日、父の入院以来東京に里帰りしていた美栄子が仙台に帰ってきた折りに、仙台駅で迷子になっていた千鶴と偶然に出会い、美栄子と再会。子供を身ごもったことで美栄子に出産するべきかどうかを相談する。出産をすることで耳が聞こえなくなることを心配した夫に反対されて子供を堕ろすことを決心し、その代わりに一度だけ母親として子育てをしてみたいという願いを美栄子に申し出て千鶴と1日一緒に過ごすが、夜になって母を恋しがり「耳の聞こえる人は千鶴のママじゃない」という泣き出した千鶴の言葉から、子供が母親をありのままに受け止めることを知り、夫の理解も得て出産を決意する。 田嶋 俊一(たじま しゅんいち) 美栄子の聾学校時代の同級生。写真家になるという子供の頃の夢を叶え、美栄子宛に自らが海外で撮影した風景を収めた写真集を送ってきた。 木田文子の母 自分の娘のせいで千鶴がいじめられていることを知り、文子を連れて野辺家へ謝罪に訪れる。その際に千鶴が優しく文子に接する姿と、友達が出来たことで嬉しそうな笑顔を見せる娘の様子に思わず安堵の涙を溢し「これからも娘の友達で居てくれるように」と千鶴に頼み込んだ。後日、文子の誕生日会に千鶴のみを招待したが、千鶴が音頭を取ってクラスメイトを連れてきた事で娘の友達が増えていったことを千鶴に感謝した。その際に娘の将来への絶望感から何度も死のうとまで思い悩んだことを美栄子たちに告白している。 晴美(はるみ) 美栄子の聾学校時代の友人。姓は不明。ひょんな事から美栄子と街中で再会。その3年前に人工内耳手術を受けて、リハビリの末にある程度の聞き取りができるようになっていた。彼女に会った事から聴力の回復に興味を持った美栄子は、博文の母が持ってきた話に乗って、ある怪しげなセミナーを受講する。しかしそれは大規模な詐欺商法であり、それを知って駆けつけた博文から大目玉を喰らうことになってしまった。 公佳(きみか) 美栄子の聾学校時代の友人。姓は不明。聾学校の同窓会前に美栄子が服選びに入った店で偶然再会。同じ聴覚障害者の幼馴染・徹(とおる)と長い間男女の付き合いをしていたが、卒業後に別れる。原因は公佳が取引先の会社で出会った健常者のある男性に惹かれた事で自ら別れ話を持ち出したため。美栄子は、学生時代の公佳達の仲の良さから「この2人の関係は永遠」と思っていた。実は健常者の男性とも結局上手くいかずに別れてしまい、徹に対する想いを今も持ち続け自ら別れを告げたことを後悔している。それ故に徹と顔を合わせることになる同窓会をただ1人欠席するつもりでいたが、心配した美栄子が自宅を訪れて連れ出し、徹と再会。徹が自らの家庭を作って幸せに暮らしていることを知り安堵する。 徹(とおる) 美栄子の聾学校時代の友人。姓は不明。公佳の幼馴染にして元彼。公佳と別れた後に別の女性と結婚し、2人の子供が居る。 真弓(まゆみ) 美栄子の聾学校時代の友人。姓は不明。聾学校時代は常に優等生だった。聾学校の同窓会では幹事を務めるも、当日になって会場料金の聞き間違いが発覚して代金が足りなくなり、同窓会の中ただ1人資金調達に走り回る。事情を知り心配になった美栄子は、「素直に仲間に話して資金を集めよう」と真弓に告げるも、己の「しっかり者」のイメージを崩したくないという虚栄心だけで拒否する。しかしどうにもならずに失意のまま会場に戻ってきた時には、美栄子から事情を聞いた仲間達が資金を出し合って代金を払い終えていた。「こんな失敗は誰にでもある」「俺たちはみんな聞こえない仲間じゃないか」と励まされ、自分の経歴などにも嘘をついていたことを告白し、それをも許してくれた仲間たちの気遣いに涙を流した。 高倉先生(たかくら) 美栄子の聾学校高等部時代の担任。進路指導係として多くの卒業生に慕われている厳しくも優しい先生。美栄子達の後輩にあたる羽田という卒業生が起こしたトラブルが元で悩んでいたところに、同窓会に出席していなかったことで高倉に急に会いたくなった美栄子達が聾学校を訪れる。高倉から事情を聞いた美栄子達は、高倉と一緒に羽田の自宅を訪問し、戻ってきた羽田を捕まえるが、羽田は「一生懸命仕事先で溶け込もうとしたけど、みんな自分を見てくれない。だったら先生が俺の耳になってくれるのか」と自嘲する。高倉はその言葉に「確かに自分はお前が一番欲しいというものを与えてやれない。自分のやってきたことは本当は無力だったのかもしれない」と呟くが、美栄子は「健常者ばかりの会社に就職したいって希望を出した時に、先生だけが「すごくいい出会いが待ってるかもしれない」って励ましてくれた。それを信じて就職したら、今の主人と出会えた」と言い、羽田に人との出会いの大切さを教える。 新井 麻美(あらい あさみ) 野辺家の近所に住む新婚の主婦で聴覚障害者。町で美栄子を見かけて、友達になりたいと野辺家を訪ねてきた。親が会社経営をしているいわゆる社長令嬢で、その跡取りとして周囲から勧められて社員だった現在の夫と結婚。夫は健常者で手話を使えず、コミュニケーションは筆談で行なっている。麻美は少なからず夫を好いて結婚したが、相手はそうではない、と勝手に思い込んでいた。 美栄子達家族の仲の良さを羨ましく思って、美栄子に見せられた家族写真の1枚を思わず黙って家に持ち帰ってしまう。その後、家を訪ねてきた美栄子に写真を返して謝罪。後日美栄子達や夫と一緒にピクニックに出かけた時に、美栄子から「だんなさんから本心を聞いてみれば」と言われ「本心を聞いて傷つきたくない」と拒否するが、美栄子の「私達は耳が聞こえないから誰よりも傷ついた人の気持ちがわかる。そういう心は聞こえない耳がくれたもの。傷つくのも悪いことばかりじゃない」という言葉を聞いて勇気を持ち、意を決して夫に本心を訊ねると、夫は博文から教わった手話で「愛している」と答えた。実は夫も最初から麻美に想いを寄せていて、それを上手く伝える術を知らなかっただけであり、夫自身も博文達と知り合って「今日こそは本心を言おう」と決心し、博文に手話の教えを受けたのだった。 田所 加奈(たどころ かな) 美栄子の聾学校時代に、部活の関係で知り合った他の聾学校の友人。両親が亡くなり、健常者の兄と2人暮ししていたが、突然の自殺未遂を起こして美栄子を慌てさせる。原因は、何かと面倒を見てくれた兄が自分のせいで恋人との結婚を諦める決心をしていたことを、その恋人からの手紙を読んで知ってしまった事。「自分さえ此の世からいなくなれば…」と思いつめての行動だった。死にきれなかった事から心神喪失状態になった加奈を、事情を知った美栄子は加奈の退院を待って自宅に招いて連れ回し、そのバイタリティ溢れる姿を見た加奈は「兄は耳の聞こえない妹が心配なあまり過保護になっていたし、自分もそれを知りながら甘えて暮らしていたから今まで就職もしていなかった」と告白。自らの甘えの気持ちを克服するために自ら就職活動を始める。後日、洋菓子屋に勤めることになった加奈を美栄子に連れられて見に来た加奈の兄は、加奈から「お兄ちゃんから卒業する。だからお兄ちゃんも幸せになって」と聞かされ涙を流す。 由加(ゆか) 博文と美栄子の会社の同僚。美栄子に呼び出され、博文が後輩の矢部の下に付いて仕事をすることになり落ち込んでいることを教える。事情を知った美栄子は博文の心情を理解し、「私は人より遠回りすることが多いけど、それでもちゃんとあなたに辿り着いた」と励ます。 菊池(きくいけ) 野辺家と同じマンションの住んでいる物静かな女性。普段から何かと美栄子を避ける行動が続き、周囲の主婦達から障害者差別をしているのではないかと噂されていた。マンションのボヤ騒ぎが起きた時に、ただ1人手話を使って美栄子に知らせて一緒に避難し助ける。実は手話通訳者だったが、ある時病院で通訳の仕事をしていた時に、頼まれていた患者が診察中に倒れてしまったことがきっかけとなって、手話を使う度に手が震えるようになってしまっていた。打ち解けて以後は近所の主婦の井戸端会議で、美栄子の通訳を買って出ている様子が描写されている。 金子(かねこ) 博文の同僚で同期入社組の独身男性。明るい性格で会社では博文と気が合う仲だが、プライベートでは借金をしてでも金のかかる豪快な遊び好きとして周囲に知られた存在だった。実は10年来付き合っている腐れ縁の彼女が居たが、相手が見合いをして結婚するつもりと聞かされてようやく本当の気持ちに気付く。しかしプロポーズを決心したものの婚約指輪を買う金もなく、已む無く博文に50万円借りられないかと相談を持ちかけてくる。我が家の家計が苦しいことを知っていた博文は、普段明るい金子が酷く落ち込むほどに悩んでいる姿を見て、断るべきかどうかを判断できず美栄子に相談すると、美栄子は「友達とお金とどっちが大事?」と問う。博文は、美栄子との結婚前、聴覚障害者である美栄子との結婚を周囲に酷く反対されたことと、障害を持つ女性と結婚することへの不安やプレッシャーから半ば結婚を諦めかけていた時があり、しかしその時にただ1人「お前は女の見る目がある」と後押ししてくれたのが金子であった事を思い出し、金子に50万を貸す事を決める。金子は彼女に全ての顛末を話したうえでプロポーズし、「そういう友達がいるなら結婚してあげる」と内諾を取り付けることが出来た。
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