科学的調査研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 06:45 UTC 版)
創作物が人格に与える影響については、様々な分野で科学的研究が行われている。代表的な調査・研究は以下がある。 1970年代:『猥褻とポルノに関する諮問委員会 報告書』/原題『United States. Commission on Obscenity and Pornography. (1970-1971). Technical report of the commission on obscenity and pornography 9 vols.』 1968年、アメリカのリンドン・B・ジョンソン大統領が「猥褻とポルノに関する諮問委員会(Commission on Obscenity and Pornography)」を設置。19名の委員と20人のスタッフが、200万ドルの費用をかけて2年間調査し、報告をまとめた。法学者・裁判官が6名、宗教関係者4名、社会学者が4名、精神科医が2名。憲法学者でミネソタ大学法学部長のウィリアム・ロックハートが議長に選出された。 「わいせつ文書及びポルノグラフィーの流通の実態はもはや放置しえない段階に至っており、連邦政府はそうした文書や書物が国民、特に青少年にとって有害な影響を及ぼしているのかどうか、またそれらをより効果的に取り締まる方法があるのかということについて、早急に検討を始めるべきである」との決議案が連邦議会で採択され、これに基づき諮問委員会の設置を大統領に求める法案も可決されたため。 報告書は700ページに及び、「成人についてはポルノをほぼ全面的に解禁すべきである」とのべた。規制の証拠作りを望んでいたニクソン大統領が、激怒して捨てたという逸話が有名。 最も強調されたことは、大規模な性教育の実施であり、ポルノグラフィーの法的規制は、「ポルノであろうが何であろうが、成人が読みたいものを読み、見たいものを見るという個人の自由は何人も干渉することができない」「そうした自由を制限する法律は、国法であろうと州法であろうと直ちに廃止されなければならない」と提言した。 これまでの研究成果をみるかぎり、ポルノを見たり読んだりすることが犯罪や非行、性的逸脱、情動障害といった社会問題及び個人レベルでの不適応の主たる原因とはみなされない。 成人の間では、ポルノは娯楽や情報源として利用されている実態がある。 ポルノの法的規制が実効をあげていない。 世論調査の結果、国民の多数はポルノの法的規制に賛成でなかった。 1970年代:通称『カチンスキーレポート』/原文『PORNOGRAPHY, SEX CRIME,AND PUBLIC POLICY』 アメリカ政府の依頼で、ノルウェーコペンハーゲン大学犯罪科学者のカチンスキーが行った大規模調査の報告書。 オランダなどヨーロッパ各国のデータを元に実施。 規制をなくすほど性犯罪は低下し、「ポルノグラフィティは犯罪を誘発しない」と結論した。 1970年代:『ゲームと犯罪と子どもたち ――ハーバード大学医学部の大規模調査より』(ISBN 4844327089)/原本『Grand Theft Childhood: The Surprising Truth About Violent Video Games and What Parents Can Do』(ISBN 1451631707) アメリカ政府から150万ドル(約15億円)の予算を受けて、ハーバード大学医学部の研究者たちが1257名の子ども、500名の保護者、数百名の業界関係者を科学的な手法で徹底調査した。 暴力的なビデオゲームのような、わかりやすくマイナーなターゲットに焦点を当てることは、社会的、行動学的、経済的、生物学、精神的健康要因の分野で明らかになっている、若者の暴力の強力で重大な原因を無視することとなる。 「創作物の影響を受けて犯罪を行った」のではなく「罪を逃れようとして他に責任をなすりつけようとしている」とした。 冒頭では「保守派の議員たちに、ゲームの影響であると書けと圧力を受けたが事実の通り書いた」とある。 2012年:デンマーク国法務省の調査 社会問題相のカレン・ハカラップが「性的犯罪を犯す傾向がある人はマンガやアニメの世界にのめりこみやすい傾向もある。そしていつの日かかならず実際にやりたくなる」と問題提起。 コペンハーゲン大学病院のセックスクリニックが調査研究を行い、報告書を提出。 臨床心理学者・外部准教授のイエールン・ベック・イエッセン、教授・医師のトルキル・セーレンセン、警視・臨床准教授(訪問治療ネットワークのコーディネーター)のエリス・クリステンセンらが、デンマーク法務省に声明『架空児童ポルノに関する陳述の申出について』を提出。 同業の機関や海外の専門家にコンタクトを取り、広範囲にわたる文献検索も行った結果、「漫画やアニメなどの架空児童ポルノと、児童性犯罪の間に因果関係が無い」と発表した。 2014年:原文『Does Media Violence Predict Societal Violence? It Depends on What You Look at and When』 アメリカの暴力的なメディアに関する長期調査。心理学者でテキサスA&Mインターナショナル大学の心理学・刑事司法の准教授であるクリストファー・ファーガソン(Christopher Ferguson)が主導し、オックスフォード大学出版局の学術雑誌『Journal of Communication』に掲載された。 1回目の調査では、1920年~2005年までの間に最も売れ行きの良い映画の暴力的な行為の頻度を分析し、暴力的な映画と社会的暴力の相関関係を調べた。 2回目の調査では、Entertainment Software Ratings Board(ESRB)のデータを使用し、1996年~2011年までの人気ゲームの暴力的なコンテンツを推定し、低下する若者の暴力と暴力的なゲームの人気の間の相関関係を調べた。 問題をより深く考察した結果、暴力的なゲームと行動には関係がないことがわかったとした。暴力とビデオゲームを巡ってメディアで繰り広げられている議論は、貧困や教育など、さらに重要な問題から「社会の注意をそらせるもの」だと結論付けた。 2015年:オックスフォード大学の調査 イギリスの研究。この調査はイギリスの小学生を対象に行われた。 暴力的なビデオゲームがほかの種類のゲームよりも幼い子どもたちの行動に悪影響を与えるとは考えにくいとされた。影響を与える可能性があると考えられるのは、ゲームの種類ではなくプレイする長さだとした。 2016年:原文『Prospective Investigation of Video Game Use in Children and Subsequent Conduct Disorder and Depression Using Data from the Avon Longitudinal Study of Parents and Children』 イギリスに拠点を置く研究者のグループが行った長期調査研究。『Avon Longitudinal Study of Parents and Children(邦題:親と子どもに関するエイヴォン長期研究)』の研究対象となった、1991年~1992年にかけて生まれた1800人の子供に対し、8歳のころに暴力的なゲームで遊ぶとその後の攻撃的行動やうつ的な傾向につながる可能性はあるかが分析された。 社会経済的な状況、家族構造、いじめ被害、メンタルヘルスの家族履歴、IQなどの要素を考慮に入れた分析の結果、8~9歳頃に暴力的なゲーム(この調査ではシューティングゲーム)をプレイしていた子どもたちが、その後行為障害的な状態を見せる可能性はわずかだけ上昇したが、統計上有意の境界線上であった。 「暴力的な内容が含まれる可能性の高いビデオゲームを子どものときにプレイすることと、青年期後半に行為障害を示すリスクが増えることの相関は弱いことを示している」と結論づけた。 2017年:ゲーム中毒はアルコール依存症や薬物依存症と類似しているかの研究 イギリスカーディフ大学のネッタ・ワインスタイン博士らの論文。科学誌『PeerJ』に掲載された。 「ゲームは心理的依存症の新しい形ではない。従って、ヒトが自らの人生に満足していなければ、ゲームは魅力的になるし、逆もまた然り」と述べ、ゲーム中毒対策に必要なのはリハビリ施設に送り混むことではなく、その人物を幸せにすることだと結論づけた。 2017年:朝日小学生新聞「子どもとゲーム」実態調査リポート 『朝日小学生新聞』を発行する朝日学生新聞社は、読者を対象に家庭で遊ぶゲームについてのアンケート調査を行い、小学1年生〜6年生の男女457人から有効回答を得て、その親にも子どものゲームに関する調査を行った。 家庭でゲームを楽しむ子どもはゲームを禁止されている子どもに比べて、勉強の集中力が高く、宿題も計画的かつ自主的に取り組む傾向が高いことがわかった。 東京都小金井市立松原小学校の松田孝校長は「自然と触れさせることで、ゲームに対してどう付き合っていくか、自分で判断する主体性を育むことが大切だ」と述べた。 2018年:『No evidence to support link between violent video games and behaviour』 ヨーク大学コンピューターサイエンス学科講師のデイビッド・ゼンドルらの論文。学術誌『Computers in Human Behavior』に掲載された。 ゲームの中でのいざこざが悪質なイタズラ行為に発展することもあるが、当人の持つ資質であり、「ゲームをプレイすることと暴力的であることの間につながりはない」とした。 過去の研究から暴力的なゲームは人の共感に長期的な影響を与えないことや、認知能力を向上させることも明らかになっている。
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