科学的論議
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 15:14 UTC 版)
あるアメリカにおける疫学調査によると調査対象3,222人のうちCRSと類似の症状の経験者は1.8%であるが、中華料理と関連付けることができたのは0.19%で、メキシコ料理やイタリア料理と関連付けられたケースよりも少なかった。 グルタミン酸ナトリウムとの関連は次のようである。 1960年代の発見以来数十年以上経過した頃から、神経生理学の知見から、うま味物質であるとともに神経伝達物質でもあるグルタミン酸に注目が集まった。神経生物学者のスティーブン・ローズ(英語版)は 「一般にアミノ酸のグルタミン酸は脳における神経伝達物質である。…それと同時にグルタミン酸は特に中華料理や日本料理の風味をつかさどっている。しかし、そういう食事を大量に摂ることで大脳のグルタミン酸興奮性シナプスの過剰興奮が発生し神経毒として作用するかもしれない。」 という仮説を提言している。 この様にグルタミン酸ナトリウムが中華料理店症候群であるという世間の見識がある一方、他の研究結果ではMSGが中華料理店症候群と関連があるという見識と合致した研究結果はない。 二重盲検法によるプラセボを対照としたMSGの大量投与試験では中華料理店症候群は発生しなかった。その上、料理にMSGを加えた場合でも症状は発生しなかった。 科学的検証の結果は中華料理店症候群は一つの原因によるというよりは、食事後に起こる様々な病的症状につけられた呼称であり、症状の原因は事例ごとに異なっていると考えられる。 例えばKenney R.A.は中華料理店症候群の症状が弱い食道炎が存在するときに、食事による刺激で惹起される症状に似ている点を指摘し、刺激性の強いソフトドリンク(濃いオレンジジュースやコーヒーなど)を飲んだ場合にも類似の症状が現れることを指摘している。 その他には、過剰のナトリウム(濃い塩分に由来するナトリウムも含む)を急激に摂取したことによる血圧の変化、劣化した油脂の多量の摂取なども原因ではないかと考えられている。 その後、JECFA(ジェクファ、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)、アメリカ食品医薬品局 (FDA)、ヨーロッパ食品情報会議 (EUFIC)、欧州連合食品科学委員会 (SCF)、日本の食品安全委員会などで議論・調査がなされたが、グルタミン酸ナトリウムの摂取によって中華料理店症候群が発生するという根拠は見つからなかった。そしてJECFAは、グルタミン酸ナトリウムの一日許容摂取量に『上限を定める必要はない』と決定した。 FDAはアメリカ合衆国大統領令によるGRAS指定の物質の再評価を1972-80年に行い、また頭痛や吐き気の症状が引き続きFDAに報告されたために、1990年代にもグルタミン酸ナトリウムの評価を再び行った。どちらでも頭痛、しびれ、めまい、紅潮など中華料理店症候群に似た臨床的症状を確認したとしたが、一時的で軽症であるとしてGRASとして問題ないとした。またFDAの管轄は、加工食品のためGRASの指定はFDAの基準・使用量を満たした加工食品のみであり、家庭、レストラン等でのグルタミン酸ナトリウムの使用は調査外としている(一食分の典型的な使用量は0.5g以下としている)。
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