日本の槍及び長柄武器・捕具
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/12 14:07 UTC 版)
菊池槍:短刀に長柄を付けた物。片刃槍。 素槍・直槍:一般的な槍。量産用の槍。16〜30cm程度の穂を持つ。16cm〜(室町時代後期)21cm(江戸時代中期)前後が普通。柄の長さは警備用・室内など狭隘空間用は1.8〜2m、馬乗用2〜3m、歩兵用4〜8m前後。これは製作時期によって背景が変遷するので規格が大きく変動する。銀杏穂槍 笹穂槍 短槍:用心槍、枕槍(6尺以下4尺)や斤侯用の細い短めの物見槍(番所槍とも)や忍槍、また駕槍、接柄式の継槍などが考案された。手槍:短槍で主に室内戦などで使われた。 手突矢:弓や通常の槍が使えないほど近接戦になったときに弓兵が矢を短槍として用いた。また、その用途専用に柄を折れにくく太く作ったものもあり、その場合は矢羽はそなえてないことが多い。この場合は手突槍とも見て取れる。手投矢:打矢(うちや)とも呼ばれ弓が破損するなどして使えなくなった場合に手裏剣のように投擲して用いた手突矢。60-100cm程度の普通の矢を投擲する場合もある。手突矢同様刺突に用いるほか、投擲しやすいように15-30cmと短くしたものもあり、それは西欧のダーツにあたる。手槍としてみるともっとも短い部類に入る。 手突槍:穂長6〜18cm、柄長:60cm〜100cm前後。手突矢の発展型。派生の物に矢に近い形状の打根(打ち根とも)がある。 打根 大身槍(おおみやり):平三角及び剣刃状の30〜60cm前後の大型の穂を持つ。柄は扱いやすいよう刃の長さと反比例して太く短くなる。時には穂が120cmを超えるものもある。刃長60cm超え級のものは大抵柄長180cm太さφ4cmほど。全体の重心のバランスを取るためと剛健に作るために茎がほぼ石突まで達し時に石突と一体化して作られる。柄は堅牢さを重視するため打柄よりも赤樫製のものが多い。また、穂先が長いため、斬撃にも大きな威力を発揮した。ただ、前述の構造上、槍自体の重量は非常に重く、筋力と膂力に余程優れ、かつ槍の使い手で無ければ満足に扱えなかった。天下三名槍と呼ばれる御手杵、日本号、蜻蛉切は最も有名な大身槍である(但し、御手杵はオリジナルが現存せずレプリカ。詳細はリンク先を参照)。 管槍(くだやり):手管(てくだ)と呼ばれる真鍮製の移動可変型の把管が柄の前方に付く。これによりしごかなくても手の内がスライドし、素早く槍を連続して繰り出せる。次第に手管は掌一つ分の単なる管から鍔を付け手の内が滑っても掴みやすいよう把握部を掌一つ半〜二つと長くしたものに改良されていった。江戸時代中期草創期には未使用時に手管が鉤状の留め金で固定されていてワンプッシュでバネにより外れ、横に開いた留め具が簡易の護拳鉤になるものが発明された。また、管槍は槍術秀でたものにお貸しされた。練習者には金具補強なしの長さ:30〜50cm、幅:元2cm先3cmほどの平たい先太の尖った比礼のような形状の革紐「剣革(けんかく)」を1本、熟練者は先端が真鍮金具で補強されたものを2本、さらに手練の者には3本支給された。これを取り付けた手管を動かすと革紐の先が円を描くように回転し、飛来する礫や威力の弱まった遠矢を払うための盾(「剣革盾(けんかくだて)」)として機能すると構想されたようだが実戦で使われた記録は残っていない。このことから元来無駄なくスムーズに管槍を繰り出せるよう練習させるために剣革が支給されたのではないかという見解もある。手練が自由自在に管槍を扱うことから手練手管の語源となったとされる説もあるが詳細は不明。なおこの槍は日本以外には類似する物が無い日本独自の武器である。 方形槍(別称:ノミ形槍・シバキ槍(忍術)・忍槍の一種):30cmほどの太く平たいノミの形のような穂を持ち掘り棒(芋掘り鍬:細身の鋤)もしくは長柄のスクレーパーの刃を分厚くした物に似ている。柄は短く60〜180cm。突く、重い穂で鈍器として叩く、棒術としてひっかけて使うなど武器以外の用途にも土を掘ることにも適している。柄まで総鍛鉄造りの頑丈で尾部も四角錘に尖っているものは大きな平型鏨に錐型鏨を繋げたような形状であり、土壁の破砕や削岩など硬いものの切削・破砕もできる。初見良昭著書:武道選書 - 槍術に記載されている古老の伝聞によると槍鉋から派生したのではないかという意見である。 枝物槍(別称:枝物・枝槍・枝付き槍):鍛造時に「割り込み」を入れ、刃から割り出してまさに植物の枝のように分岐させて成形した枝を付けたものと、後から素槍の中芯の塩首(けらくび)や柄に、枝の付いた輪を差し込むように通して嵌めたタイプがある。大抵の刃のある鎌槍の場合は前者で刃の必要のない鍵槍の場合はほぼ後者だが例外もある。鍵槍・鉤槍:十手のように鉤状の金具が穂あるいは太刀打などからせり出していて敵刃を受け止めたり絡めとったりするために用いる。佐分利流がこの槍を使うことで有名。鉤輪を柄や塩首に嵌めるだけのタイプが鎌槍のように割り込みで鍛造する手間がなく安価に量産ができるので時代を経るごとに鎌槍や本割込鉤槍に取って代わった。狼筅のように竹や木の枝をそのまま枝物の鉤として用いた例もわずかながらある。十文字鍵槍:左右共に鉤が付いている槍。普通は突進方向に向かった上向きに付けられる。 卍鍵槍:左右の鉤が上向きと下向きに付いて左右非対称になっている鍵槍。喰み違い鉤槍とも。 鎌槍:鎌状の突起が槍穂に付いていて引っ掛ける、切る、敵刃を受け止めるといった用途がある。片鎌槍:片方に鎌が付いている槍。片鎌槍鉤槍:バランスをとるためにも鎌の反対側に鉤が付いているもの。武術書によっては単に片鎌槍とも呼ばれることがある。 両鎌槍(もろかまやり):両枝が鎌になっている槍。両方上向き・下向き、左右上下喰み違いになった上下鎌槍(卍鎌槍)などがある。十文字槍:鎌槍よりも細長く優美な刀のように湾曲した刃の枝を持つものと真っ直ぐに伸びた剣状の十文字のものがある。前者は鎌槍同様上向き、下向き、喰み違い十文字などがあり、特に宝蔵院流槍術が上向きの物を使うことで有名。後者は剣十文字の別称でも呼ばれ、一見すると十字架のような形状になる。千鳥十文字槍:短く比較的やや太い上向きに湾曲した十文字槍。千鳥が飛び立つように羽を広げて見えることからこう呼ばれる。宝蔵院流槍術でもこの形式を使った槍が上述の十文字槍と共に多く見られた。 沢瀉槍:丸い葉のような刃を前一方、後二方もち、ずんぐりとした鏃のような形をしている。 蝙蝠槍(別称:鱶鰭槍-ふかひれやり):中心の素槍の両横にハルバードのような斧のような刃が付いている。ただし、その斧状の刃部は一見透かし彫り装飾のような細かい鉤が無数に設けられている。敵刃というより衣服を絡め取るためと考えられるが用途を記したものが現存しないので不明。 月槍(三日月槍・月型槍・月剣):三日月状の刺叉に近い形状、内側に刃が付いている。外側にも刃が付いているものは月剣。鎌枝が余分に付いている物もある。中国武術の月剣(月牙鏟・月牙)の影響を受けていると思われる。 仕込槍:元来槍に見えない杖や棒状の物、及び万が一穂先が斬り飛ばされた場合に備えて長物の柄の途中に仕込み敵の意表を衝くために用いた仕込み武器、隠し武器。幔幕槍(まんまくやり)・陣中槍:陣を敷く際の幔幕を支える陣杭に仕込み槍を組んだもの。陣付近まで敵勢に攻め入られ、槍が足りないというときに引き抜き穂鞘になっている杭頭を外せば素槍の穂が現れ、幔幕の紐をかけ結ぶ鉤もついているため簡易の鉤槍となる。また、杭自体の土中に刺す鋭利な部位が石突に相当するため、穂が二つ付いているような攻撃の効果をもつ。戦国末期に三河周辺で考案されたとされるが詳細は不明。杭自体は木製よりも鍛鉄製のものが多い。杭頭は立方体の角を切り落とした形の切子頭のものが多く柄となる杭柱の断面は六角および八角、後にねじ式蓋で穂鞘を外すものも出てきた。全長は2〜5m程度。元は陣杭として作られたため丈夫であるが重く比較的短い部類なのであまり野戦向きではない。長いものは軽量化のためか柄部が木製で作られていることが多い。 脇差仕込みの槍:脇差の中芯(茎)を槍穂にし、柄を取ると短槍になるように改造した隠し武器。殿中でも護身に差すことを許された脇差を敵対勢力に万が一抜き奪われそうになったときに簡単に柄が抜けるので相手の不意を衝き、攻勢に転じるために考案された。古武器商・古美術商では江戸中期の作と伝えられている。槍という観点で見ると最も短槍の部類に入る。また、勤皇派の志士の間で、南朝方の武士が菊池槍を使って武功を上げたという話にあやかって、菊池槍を脇差しに直して携帯することが流行した。 袋槍(ふくろやり):袋穂(ソケット)状の穂先を被せた槍。構造的には矛である。江戸時代ごろには穂口に合うよう加工した柄に差し込み目釘を打つだけなので穂先を革袋などに入れ携行できるようにしたものもあった。かぶせ槍とも呼ばれる。弭槍(はずやり):弓の弦を掛ける弭先に袋穂状のかぶせ槍穂をつけたもの。弓兵が矢尽きたり矢を番えるのが間に合わないほど近接戦になったときに手突矢・脇差・隠匿しておいた手裏剣など手持ちの補助武器と共に用いた。 竹槍:竹を鋭利に切りあるいは槍の穂状に切り落とし先を火であぶったり、油で揚げるなど熱で硬化加工し即席の槍としたもの。耐久性は低いが材料の手に入りやすさと加工の安易さから一揆や落ち武者狩りに農民らが使用した。また、資料によっては竹竿に短刀や袋槍などを取り付け簡易の槍としたものも竹槍と呼ぶ。
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