してい‐しょく【指定職】
指定職
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/26 01:47 UTC 版)
指定職(していしょく)は、一般職の国家公務員・地方公務員のうち指定職俸給表が適用される職員及びその役職に対して指定階級職にある者のこと。国家公務員の場合、他の俸給表が「級」と「号俸」により構成されているのに対し、指定職俸給表のみ号俸だけでランク付けがなされている。民間企業における役員報酬に相当する。1964年の一般職の職員の給与に関する法律の改正[1]により、「その官職の職務と責任の度が特に高度であり、かつ、一般の職員に適用される扶養手当、住居手当といった属人的な給与がなじまない官職について、職務給の理念に沿って官職毎に給与を定めることが望ましい[2]」として創設された。
国家公務員
おおむね各省の審議官級(部長・局長・局次長・主要な地方支分部局の局長など)以上と、一部の研究所長などが該当する。多くの場合審議官級以上で個室(審議官室、部長室など)、秘書、専用車が与えられる[3]。
指定職は一般職国家公務員の中でも最高幹部である。2024年7月1日現在の在職者は全省庁で987人(一般職国家公務員の常勤職員総数に占める指定職の割合は、政府全体で0.36%程度)、省庁別では国土交通省本省124人、厚生労働省本省68人、内閣府本府66人、内閣官房と警察庁65人ずつの順であり、女性比率は5.07%(一般職国家公務員の常勤職員全体の女性比率は24.58%)である[4]。また、2025年4月1日現在の平均年齢は57.2歳である[5]。国家公務員総合職試験(旧上級甲種、I種)[注 1]合格で採用された、いわゆるキャリアが大多数を占める。
一般職(課長級まで)の俸給は民間企業の従業員の給与をもとに決められるのに対し、指定職の俸給は民間企業の役員報酬を参考に決められる。
2014年5月30日の内閣人事局の発足により、各省幹部の人事権を内閣人事局が掌握することになった。これに伴い、官職と号俸の決定権についても人事院から内閣総理大臣へと移管され(一般職の職員の給与に関する法律第6条の2)、それまで官職と号俸の対応関係を規定していた人事院規則9-42が廃止された[6]。しかし、級別定数の設定・改定及び指定職俸給表の号俸の決定は、組織管理の側面を持つことから内閣総理大臣の所掌に属するものとされているが、級別定数等は、職員の給与決定の基礎となる勤務条件であり、その設定・改定に当たって、労働基本権制約の代償機能が十分に確保される必要があることから、「内閣総理大臣は、職員の適正な勤務条件の確保の観点からする人事院の意見については、十分に尊重するもの」と給与法で定められている[7]ので、毎年度級別定数等に係る意見[注 2]を3月末に内閣総理大臣に提出し、内閣総理大臣は人事院の意見どおり級別定数の設定・改定等を行っている。
防衛省職員
自衛官を含む防衛省職員(一部を除く)は特別職国家公務員であるが、指定職俸給表は一般職国家公務員と同一のものを使用している。事務官等については、2025年4月1日現在で56名が指定職俸給表の適用を受けると定められている[8]。自衛官については、将の階級を付与される自衛官、及び将補の階級を付与される自衛官の一部(自衛官俸給表(防衛省の職員の給与等に関する法律の別表第二)で、陸将補、海将補及び空将補の(一)欄に定める額の俸給の支給を受ける職員。幕僚監部主要部長、旅団長等)がこれに該当する。一例を記すと、(1) 自衛官の最高位である統合幕僚長が事務次官、警察庁長官等と同じ指定職8号俸、(2) 陸・海・空の幕僚長と統合作戦司令官が省名審議官、警視総監、海上保安庁長官等と同じ7号俸、(3) 陸・海・空各最大の戦略単位指揮官である陸上総隊司令官・自衛艦隊司令官・航空総隊司令官、および陸上自衛隊の方面総監、海上自衛隊の地方総監(横須賀・佐世保に限る[注 3]。)、航空自衛隊の航空支援集団司令官と航空教育集団司令官、共同の機関の情報本部長が本省主要局長等と同じ5号俸の俸給を受ける。ただし、指定職給与は階級ではなく職に充てられるものであり、現状においてたまたま全ての将と一部の将補がこれに該当する職に補されているがために、当該俸給を受けているに過ぎない。指定職に適用される官職等については本項の末尾にある外部リンク参考資料を参照されたい。
裁判所職員
裁判官及びその他の裁判所職員は特別職国家公務員であるが、裁判官及び裁判官の秘書官以外の裁判所職員の給与については、裁判所職員臨時措置法により一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第九十五号)を準用するため裁判所職員にも指定職俸給表が適用される者がある。実際の適用官職の指定は、裁判所職員臨時措置法の読み替え規定により最高裁判所が行うことになり、24名が適用を受けている[9]。判事が充てられる場合は、裁判官俸給法によるため、事務総長を除く、事務総局の幹部などは含まれていない。
国会職員
国会職員は特別職国家公務員であるが、その給与については、国会職員法により両議院の議長が、両議院の議院運営委員会の合同審査会に諮つてこれを定めるものとされている(第25条第3項)。その規定に基づいて、国会職員の給与等に関する規程(昭和22年10月16日両院議長決定) が定められており指定職給料表(一般職の指定職俸給表に準拠)も規定されている。また、各議院事務局の事務総長、各議院法制局の法制局長、国立国会図書館長等に適用される特別給料表も規定されている[注 4]。これらの適用を受ける人数は令和7年度予算では特別給料表58名、指定職給料表114名となっている[10]。
官職と号俸の対応表
| 官職 | 号俸 |
|---|---|
| 事務次官(内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省) 内閣法制次長、宮内庁次長、警察庁長官、金融庁長官、消費者庁長官、こども家庭庁長官 統合幕僚長 最高裁判所事務総長 会計検査院事務総長、人事院事務総長 |
8号俸 1,191,000円 |
| 省名審議官(内閣府2[注 5]、デジタル庁、総務省3、外務省2、文部科学省2、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省3、防衛省) 拉致問題対策本部事務局長、TPP等政府対策本部首席交渉官及び政策調整統括官、国土強靭化推進室次長、特定複合観光施設区域整備推進室長、新しい地方経済・生活環境創生本部事務局長、防災監、経済社会総合研究所長、地方創生推進事務局長、公正取引委員会事務総長、警視総監、消防庁長官、財務官、国税庁長官、医務技監、技監、海上保安庁長官、地球環境審議官 防衛大学校長、統合作戦司令官、陸上幕僚長、海上幕僚長、航空幕僚長 |
7号俸 1,122,000円 |
| 郵政民営化推進室長、感染症危機管理統括審議官、内閣衛星情報センター所長、内閣法制局第一部長、知的財産戦略推進事務局長、科学技術・イノベーション推進事務局長、警察庁次長、カジノ管理委員会事務局長、金融国際審議官、出入国在留管理庁長官、公安調査庁長官、スポーツ庁長官、文化庁長官、林野庁長官、水産庁長官、資源エネルギー庁長官、特許庁長官、中小企業庁長官、観光庁長官、気象庁長官、原子力規制庁長官、防衛装備庁長官 財務省主計局長[17][注 6] 会計検査院事務総局次長 |
6号俸 1,049,000円 |
|
5号俸 979,000円 |
|
4号俸 908,000円 |
|
3号俸 829,000円 |
|
2号俸 772,000円 |
|
1号俸 716,000円 |
地方公務員
その他の府県・政令指定都市でも大学・短期大学の学長や病院長に適用されているところがある。大阪府では本庁部長に適用していたが2006年に廃止した。大阪市では2007年まで同様の制度を「行政職給料表(特)」と称し局長級に適用していた。
脚注
注釈
- ^ 国家公務員総合職試験は2012年に開始されたため、当然ながら総合職試験合格者が指定職になるのは当分先のことである。
- ^ 直近5年のものは、級別定数等に関する内閣総理大臣への意見(人事院)に掲載されている。
- ^ 呉・舞鶴・大湊の各総監については「指定職俸給表の適用を受ける書記官その他の官職及びこれらに準ずる自衛官の官職を定める省令 (昭和三十九年総理府令第四十二号)」で指定されている。(本項末尾の外部リンクを参照。)
- ^ 特別給料表の適用を受ける職のうち事務総長、法制局長および国立国会図書館長は副大臣級の給料月額である。また、各議院事務局の常任委員会専門員と国立国会図書館の専門調査員の号給(1号給から3号給)は、一般職の指定職俸給表の号俸(4号俸から6号俸)に準拠しており、各議院事務局の議長又は副議長の秘書事務をつかさどる参事の号給は、特別職の職員の給与に関する法律別表第三の秘書官に適用される号俸に準拠している。
- ^ 内閣府審議官のように複数置かれている場合、官職の後に記載の数字の人数が該当することを示す。
- ^ 他の本府省の官房長・局長及び政策統括官は、5号俸または4号俸である。
出典
- ^ 昭和39年12月17日法律第174号
- ^ 官邸 幹部公務員の給与に関する有識者懇談会報告(2004年3月31日)資料20 指定職俸給表について
- ^ “【日本の解き方】キャリア官僚の不当降格訴訟 「ノンキャリ・民間と依然格差」が浮き彫り”. 夕刊フジ. (2013年10月2日). オリジナルの2013年10月2日時点におけるアーカイブ。
- ^ “一般職国家公務員在職状況統計表(令和6年7月1日現在)”. 内閣人事局. 2025年10月26日閲覧。
- ^ “令和7年国家公務員給与等実態調査”. 人事院 (2025年9月). 2025年10月26日閲覧。
- ^ 平成26年5月29日人事院規則1-62「国家公務員法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係人事院規則の整備等に関する人事院規則」
- ^ “人事院平成29年度 年次報告書 第1編 《人事行政》【第3部】 平成29年度業務状況 第3章 職員の給与 第2節 給与法の実施等 2 級別定数の設定・改定等”. 人事院. 2018年12月13日閲覧。
- ^ 指定職俸給表の適用を受ける事務官等の号俸に関する訓令(防衛省訓令第34号) 防衛省
- ^ 指定職俸給表の適用を受ける職員の号俸について(議決)
- ^ 令和7年度一般会計予算 (PDF) 財務省
- ^ “級別定数等に関する内閣総理大臣への意見”. 意見の申出等. 人事院. 2025年5月13日閲覧。
- ^ “会計検査院及び人事院の職員の級別定数等(令和7年度)”. 人事院. 2025年10月26日閲覧。
- ^ “一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号)別表第11”. e-Gov法令検索. デジタル庁. 2025年5月13日閲覧。
- ^ “防衛省の職員の給与等に関する法律施行令(昭和27年政令第368号)第6条の20”. e-Gov法令検索. デジタル庁. 2025年5月13日閲覧。
- ^ “指定職俸給表の適用を受ける事務官等の号俸に関する訓令(平成26年防衛省訓令第34号)”. 防衛省 情報検索サービス. 防衛省. 2025年5月13日閲覧。
- ^ 最高裁判所人事局長. “指定職俸給表の準用を受ける職員の号俸について”. https://yamanaka-bengoshi.jp/. 弁護士 山中理司(大阪弁護士会所属). 2020年1月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年1月6日閲覧。
- ^ 厚生労働省大臣官房会計課長 (2018年9月18日). “「内閣府、厚生労働省及び環境省所管補助施設災害復旧費実地調査要領」の一部改正及び「内閣府、厚生労働省及び環境省所管補助施設災害復旧費実地調査に関する対象施設について」の一部改正について/厚生労働省各部局長殿、厚生労働省各地方厚生(支)局長殿/会発0918第7号/平成30年9月18日” (PDF). 厚生労働省. 2019年12月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年12月31日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 参議院議員礒崎陽輔君提出国家公務員の指定職及び特別職の俸給に関する質問に対する答弁書(2011年5月20日時点の人事院指令の内容を掲載) - 参議院
- 指定職俸給表の適用を受ける書記官その他の官職及びこれらに準ずる自衛官の官職を定める省令 (昭和三十九年総理府令第四十二号) - e-Gov法令検索
指定職と同じ種類の言葉
- 指定職のページへのリンク