川
『山城国風土記』逸文 タマヨリヒメが石川の瀬見の小川で川遊びをしていた時、丹塗り矢が流れて来た。それを床の辺にさして置くと、身ごもって男児を産んだ。その子は成人の祝宴の折、屋根を突き破って天に昇った〔*→〔矢〕8の『賀茂』(能)では、丹塗り矢ではなく白羽の矢が流れて来る。女がそれを取って庵の軒に挿し、男児を産む〕。
*神の化身の矢が、厠(=川屋)の女の陰部を突く→〔厠〕1の『古事記』中巻。
*仙人が川辺の女を見て落下し、その女と結婚する→〔飛行〕1cの『今昔物語集』巻11-24。
『万葉集』巻3には、「この夕べ柘(つみ)のさ枝の流れ来ば梁(やな)は打たずて取らずかもあらむ」〔389歌〕など、柘枝(つみのえ)伝説にもとづく歌が3首ある。ただし、この伝説を記した『柘枝伝(しゃしでん)』は、現存しない。「吉野の谷川を流れて来た柘(=山桑)の小枝が、漁夫味稲(うましね)の梁にかかって美女と化す。美女は味稲の妻になるが、後に昇天した」という内容であろうと考えられている。
*釣り上げた亀が美女に変じ、男と結婚する→〔釣り〕2aの『丹後国風土記』逸文(浦島説話)。
『更級日記』 13歳の菅原孝標女が、父とともに上総国から上京する途中、富士河の辺で、土地の人が来て語った。「ある暑い日、富士河を流れる黄色い反故紙を見つけて拾うと、翌年の除目の内容が朱文字で記してあり、1つも違わずそのとおりになった。富士山に多くの神が集まり、翌年の人事を決めるということが、これによってわかった」。
『妹背山婦女庭訓』3段目「山の段」 妹山・背山の中を流れる吉野川をはさんでその両岸に、久我之助・雛鳥の恋人どうしが住む→〔和解〕2。
『古事記』上巻 スサノヲが地上から高天原へ昇り、アマテラスが武装して待ち迎える。スサノヲとアマテラスは、天の安の河を間にして向かいあう。2神は互いの持つ剣〔*十拳剣(とつかのつるぎ)〕と、珠〔*八尺(やさか)の勾玉の五百津(いほつ)の御統之珠(みすまるのたま)〕を交換して、天の真名井の水でそそぎ、それを噛んで吹き出す(*→〔息〕1a)。そこから合計8柱の神が生まれる〔*『日本書紀』巻1に同記事〕。
*「天の安の河」=「天の川」とすれば、「御統之珠」は「すばる星」に化したかもしれない→〔すばる〕5の『星の神話・伝説集成』(野尻抱影)。
『舟橋』(能) 川むこうの恋人に逢うために、暗夜、舟をならべ板を渡して作った橋の上を男が行く。女の親が橋板をとりはずし、男は川に落ちて死ぬ。
『出雲国風土記』嶋根の郡加賀の神崎 「失せた弓箭出よ」と枳佐加地売命が願うと、水のまにまに角の弓箭が流れ来る。これではない、と投げ捨てると金の弓箭が流れ来る。
『東海道名所記』巻4 布留の川を鉾が流れ下り、女の洗っていた布にかかる。鉾を取り上げて沙の上に立てると、根づいて杉の木となり二(ふた)もとに別れる。これが石上布留明神の御神木である。
『遠野物語』(柳田国男)63 川上から流れて来た赤い碗を女が拾い、ケセネギツの中の米や麦を計る容器としてその碗を使う。すると、ケセネギツの中の米や麦はいつまでたってもなくならなかった。かつて女はマヨイガを訪れながら何も取って来なかったので、碗が、女に与えるべく自分から流れて来たのだった→〔異郷訪問〕2。
『ハックルベリー・フィンの冒険』(トウェイン) 「僕(ハックルベリー・フィン)」は、親父から逃れてミシシッピー川のジャクソン島に隠れる。そこには、雇い主ミス・ワトソンのもとから逃亡した黒人奴隷ジムがいた。「僕」とジムは自由な暮らしを求めて、筏でミシシッピー川を南下する〔*物語の最後で、ミス・ワトソンが死に、彼女の遺言で、ジムはもはや奴隷ではなく自由の身になったことがわかる〕。
★5b.川をさかのぼるもの。
『一寸法師』(御伽草子) 津の国難波の里の翁・媼の子として生まれた一寸法師は、12~13歳になっても背丈が伸びず、翁・媼からうとまれたため、家を出た。彼は、針の刀を麦藁の鞘におさめ、御器の舟と箸の櫂で川をさかのぼり、都に到った。
『地獄の黙示録』(コッポラ) ウィラード大尉と4人の部下が、メコンデルタ地帯から哨戒艇で川をさかのぼり、ベトナム戦争のさまざまな局面を見る。ヘリコプター部隊が、大音量でワーグナーの『ワルキューレ』の音楽を流しつつ、地上を爆撃・銃撃する。アメリカ本土から派遣された踊り子3人が腰をくねらせて、基地の兵士たちを慰問する。上流に到ると、岸からロケット弾や槍などで攻撃され、2人が死ぬ。ウィラード大尉と2人の部下が生き残り、川の行き止まりの王国にたどり着く。
*死体が川の上流へのぼって行く→〔あり得ぬこと〕1dの『へたも絵のうち』(熊谷守一)「生いたち」。
『草迷宮』(泉鏡花) 葉越明は、幼い頃母が歌った手毬唄の歌詞を知る人を捜し、故郷小倉を出て諸国を旅する。三浦半島秋谷の川に手毬の流れるのを見た彼は、上流にある鶴谷邸の空き屋敷へ泊まりこみ、そこで、畳が動き行燈が天井へ上がるなど、さまざまな怪異に遭う。
『今昔物語集』巻10-8 帝からの召しがなく後宮で空しく日を送る女が、柿の葉に詩を書き、宮中の川に流す。葉は宮中から流れ出て、川下にいた呉の招孝がそれを拾う。招孝は別の葉に返詩を書き、川上まで行って流す。葉は宮中へ流れ入り、女の手に入る。後、不思議な巡り合わせで2人は夫婦になる〔*『俊頼髄脳』に類話〕。
『長谷寺験記』下-15 高光少将の妻は、行方知れずの夫を捜して長谷寺に参籠の帰途、夫の扇が泊瀬川のしがらみに流れかかっているのを見る。彼女は川上を尋ね上り、多武峰に修行する夫と再会する。
『発心集』巻6-13 ある聖が、北丹波の谷川で切り花の捨てがらが流れるのを見る。上流を尋ねると庵が2つあり、かつて上東門院に仕えた女房が2人、世を逃れ40余年隠れ住んでいるのだった。
*箸が川を流れるのを見て、上流を尋ねる→〔箸〕2の『古事記』上巻。
*瓢(ひさご)が川を流れるのを見て、上流を尋ねる→〔異郷訪問〕2の『剪燈新話』巻2「天台訪隠録」。
★7.川に合図の物を流す。
『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第22章 トリスタンは、果樹園の泉から王妃イゾルデの部屋の方へ流れる川に、片面に「T」、もう一方に「I」と書いた板切れを流す。それが密会の合図で、2人は泉のほとりのオリーブの木陰で逢瀬を重ねる→〔影〕5。
*→〔合図〕1の『妹背山婦女庭訓』3段目「吉野川」・『国性爺合戦』3段目「甘輝館」・〔合図〕2の『椿三十郎』(黒澤明)。
『ムーンライト・シャドウ』(吉本ばなな) 百年に1回くらいの割合で、川の向こうに死者の姿が見えることがある。死者の残留思念と、残された者の悲しみがうまく反応し合った時、それは起こり、「七夕現象」と呼ばれている。早春の夜明け前、女子大生の「私(さつき)」は、2ヵ月前事故死した恋人等(ひとし)を、川の向こうに見た。声を出したり、橋を渡ったりしてはいけない。やがて夜が明け、等は笑って手を振りながら、青い闇の中へ消えて行った。
*死者の姿が見える島→〔島〕3の『かげろふ日記』上巻・康保元年7月。
★9.忘却の川。
『団子婿』(昔話) 愚かな婿が嫁の里ではじめて団子を食べ、美味だったので、忘れないよう「団子、団子、団子、・・・・」と言いながら帰って来る。ところが、村の近くの川を「ふいっ」と飛び越した拍子に団子を忘れ、「ふいっ、ふいっ、・・・・」と唱えつつ家に着き、「ふいっを作ってくれ」と嫁に注文する(兵庫県城崎郡香住町御崎。*川を「どっこいしょ」と飛び越し、「どっこいしょ」を作ってくれ、と言う形もある)。
*川を渡る時に足を踏み外して、自分の名前を忘れる→〔名前〕2の『名取川』(狂言)。
*渡し舟で川を渡る時に、只乗りするための言葉を忘れる→〔乗客〕9aの『薩摩守』(狂言)。
*霊界にある忘却の川→〔冥界の川〕4の『国家』(プラトン)第10巻・『神曲』(ダンテ)「煉獄篇」第28~33歌。
『日光山縁起』上 有宇中将は妻・朝日の君を下野国に残し、都への旅に出る。朝日の君が、「途中にある『つまさか川』の水を飲むと2度と妻に逢えなくなるので、飲まないように」と教えるが、有宇中将は我慢できずに川の水を飲んでしまう。そのため中将は病気になり、野辺に倒れ死ぬ。朝日の君も中将の後を追って旅に出、道中で死ぬ〔*しかし炎魔王が2人を蘇生させる〕。
『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」 サガラ王の息子である6万人の王子が、カピラ仙に睨まれ、一瞬にして灰と化した。ヤマ(死神)の国をさまよう彼らの霊を天界へ送るには、ガンガー(ガンジス河)の聖水で清めなければならない。ガンガーの女神は、その頃は天界に住んでいた。王子たちの子孫にあたるバギーラタ王が、千年間苦行をして、ガンガーに地上への降下を請う。ガンガーは大瀑布のごとく渦巻いて落下し、6万の王子の霊は天界へ上ることができた。
Weblioに収録されているすべての辞書から川*を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から川* を検索
「川*」に関係したコラム
-
株式市場に上場している銘柄を分類する方法の1つに、株価水準が挙げられます。株価水準では、株価の高い、安いによって銘柄を分類します。一般的に株価水準では、次のように分類します。値がさ株(値嵩株)中位株低...
- >> 「川*」を含む用語の索引
- 川*のページへのリンク