標準偏差
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/12 02:24 UTC 版)
標本の標準偏差
標本標準偏差
母集団の中から、大きさ n(母集団の大きさよりはるかに小さい)の標本 x1, x2, …, xn を抽出したとする。このとき、標本平均は次の式で表される:
この標本平均を使って次式で定義される量を標本分散と呼ぶ:
標本分散の平方根 s を標本標準偏差と呼ぶ[11]。
不偏標準偏差
σ2 を母分散、s2 を標本分散とすると、標本分散の期待値 E[s2] は、
となることが示される。つまり、標本分散は母分散よりも少し小さくなる[注釈 1]。そのため、標本分散は母分散の不偏推定量ではない。そこで、
を考えると、この量の期待値は母分散に等しく、母分散の不偏推定量になっている。
こうして定義される v2 を不偏分散という。v を不偏標準偏差という。
紛らわしいが、 v2 を標本分散と呼ぶこともある。さらに v2 の平方根 v を標本標準偏差ということもある。名称の混乱については後述する。
母集団の標準偏差の不偏推定量
前述のように不偏分散は、母分散の不偏推定量である(標本から測定した推定量の期待値が母分散に等しい)。しかし、不偏分散の平方根 v は、母集団の標準偏差の不偏推定量ではない。
母集団が正規分布に従う場合、母集団の標準偏差の不偏推定量 D は次式で与えられる[13]:
ここで、Γ はガンマ関数、v2 は不偏分散である。
標本の大きさが大きくなれば、母集団の標準偏差の不偏推定量 D は、近似的に、平均からの偏差平方和を n − 1.5 で割った値の平方根として求められる[14]:
名称の混乱
統計の教科書によっては、不偏分散(分母が n − 1 の方)を「標本分散」と呼んでいる場合もあり[15]、用語が混乱して使用されている場合がある。母平均が不明で、代わりに標本平均を使用する場合には、期待値が母分散となる不偏分散を使用することが多い[16]。
英語
英語では不偏分散による標準偏差のことを「sample standard deviation」(標本標準偏差)と呼ぶことが多い。この語はカール・ピアソンによって1893年に導入された[17]。ただし不偏分散による標準偏差を意味する英語の表現には混乱がある。
- 英語版ウィキペディアの「standard deviation」という記事では、不偏分散による標準偏差(平均からの偏差平方和を n − 1 で割った値の平方根)のことを「corrected sample standard deviation」と表記し、平均からの偏差平方和を n で割った値の平方根を「uncorrected sample standard deviation」や「the standard deviation of the sample」と表記している[出典無効]。
- アメリカの Fundamentals of Engineering (FE) の試験問題での「sample standard deviation」は n − 1 で割る方を意味する。
- アメリカ・ユタ大学のトム・マロイは、統計学の学習者向けウェブページ[18]では、「sample standard deviation」を平均からの偏差平方和を n で割った値の平方根だと解説している。
日本語
日本語の「不偏標準偏差」という語にも混乱がある。日本の大学教授の間でも、不偏分散 v2 の平方根を、不偏標準偏差だと教える大学教員も多いが、母集団の標準偏差の不偏推定量 D を不偏標準偏差だと教える教員もいる。
このように、同じ用語でも話者によって定義が異なる場合がある。
表計算ソフト
表計算ソフトでは次のようなワークシート関数が用意されている。
分母 | Microsoft Excel Googleスプレッドシート |
Lotus 1-2-3 |
---|---|---|
n | STDEVP , STDEVPA , STDEV.P |
|
n − 1 | STDEV , STDEVA , STDEV.S |
@STD , @STDS
|
注釈
- ^ 極端な例として、標本の大きさが 1 の場合、ばらつきがないので標本の分散は必ず 0 となるが、母集団のばらつきは通常 0 ではない。
出典
- ^ JIS Z 8101-1:1999, 1.13 分散.
- ^ a b 高校からの統計・データサイエンス活用 総務省政策統括官(統計基準担当)p.34
- ^ 平均への回帰、相関係数―統計学史(2) ブログ 統計WEB
- ^ 農環研ウェブ高座 「農業環境のための統計学」 第10回 (農業と環境 No.158 2013.6)
- ^ 酒井弘憲「第5回 統計学の巨人:ゴルトンとピアソン」『ファルマシア』第52巻第2号、日本薬学会、2016年、164-165頁、doi:10.14894/faruawpsj.52.2_164、ISSN 0014-8601、NAID 130005127751。
- ^ カール ピアソンとは - コトバンク
- ^ 【科学史の肖像】Karl Pearson, 1857-1936
- ^ 標準偏差の名付け親は,相関係数で有名なピアソン,不偏標準偏差の話題と共に 生物科学研究所 井口研究室
- ^ 分散投資の意義② 投資のリスクとは|年金積立金管理運用独立行政法人
- ^ 標準偏差・分散|証券用語解説集|野村證券
- ^ a b 栗原 2011, p. 47
- ^ 稲垣 1990, p. 21.
- ^ 吉澤 1989, pp. 78–79.
- ^ Brugger 1969, p. 32.
- ^ 例:(東京大学教養学部統計学教室編 1991)。
- ^ 分散または標準偏差の図による解説と具体例は、(村瀬, 高田 & 廣瀬 2007, pp. 52–53)などを参照。
- ^ “Earliest Known Uses of Some of the Words of Mathematics (S)”. 2016年1月30日閲覧。
- ^ 「Estimating Parameters Web Page」
- ^ 「健康統計学-散布度」
- ^ 「高崎経済大学非常勤講義 第4回「記述統計(2):代表値」」
- ^ 「標準偏差の不偏性」
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