名付け
『三人の名付け親』(フォード) 銀行強盗の3人組が、砂漠へ逃げ込む。馬に逃げられ、3人は水を求めて砂漠をさまよう。幌馬車があり、身重の女がいて、赤ん坊を産む。女は「この子の名付け親(=洗礼式の立会人)になってほしい」と3人に頼んで、息を引き取る。3人組のうち、1人は銃創がもとで死に、1人は骨折して動けなくなり自殺する。残った1人が赤ん坊を抱いて町まで歩き、保安官夫婦に養育を託す。
『名づけ親さん』(グリム)KHM42 子だくさんの貧乏な男に、また1人子供ができた。男は、「郊外へ行き、最初に出会った人に、子供の名づけ親を頼め」との夢告を得て、それに従う。名づけ親になってくれた人は、「病人の頭の方に死神がいたら、病人は治る。足の方に死神がいたら、病人は死ぬ」と男に教える。ある時、男は名づけ親の家を訪ね、鍵穴からのぞくと、名づけ親は長い角を2本はやしていたので、男は逃げ帰る。名づけ親は悪魔だった。
*類話である『死神の名づけ親』KHM44では、3人目に出会った人を名づけ親にする→〔三人目〕1。
*男にも女にも用いられる名前をつける→〔性転換〕2の『変身物語』(オヴィディウス)巻9の「イピス」、→〔両性具有〕1aの『メトロポリス』(手塚治虫)の「ミッチイ」。
『トリストラム・シャンディ』(スターン)第4巻第8章・第14章 ウォルター・シャンディは、エジプトの智恵神トトのギリシア名ヘルメス・トリスメジスタスにちなみ、息子にトリスメジスタスと命名しようとする。ところが、それを教区の副牧師に伝えに行く女中スザンナが、うろ覚えで「トリス何とか」と言ったため、トリストラム(「悲しみ」を意味する)と名づけられてしまう。
『王書』(フェルドウスィー)第1部第6章「フェリドゥーン王」 フェリドゥーン王には3人の王子がいた。王は彼らを可愛がるあまり、名前をつけなかった。イエメンのサルヴ王に3人の王女がいた。サルヴ王も彼女たちを可愛がるあまり、名前をつけなかった。フェリドゥーン王の3王子は、サルヴ王の3王女を妻として迎えた。フェリドゥーン王は、3王子の長男をサルム、次男をトゥール、三男をイーラジと名づけ、彼らの妻にもそれぞれ「自由」「高貴な月」「健やかな糸杉」という意味の名前を与えた。
★4a.ひ弱な子が健康に育つように、強い動物の名前をつける。
『母のない子と子のない母と』(壺井栄)1 おとらおばさんは生まれた時、ひ弱そうな赤ん坊だった。父親が「『おとら』とか『おくま』とかいう名にすると達者に育つ」と言い、おとらおばさんの名前が決まった。おとらおばさんは無事に成長し、結婚して男児を産む。小さな子だったので、丈夫に育つように「獅子雄」と名づけた。獅子雄は少年航空兵となったが、訓練中に事故死してしまった。
*赤ん坊に良い名前をつけようと、くじを引く→〔くじ〕7の『われから』(樋口一葉)。
『三国史記』巻47「列伝」第7・竹竹 竹竹(ちくちく)は、新羅の善徳王時代の武将である。彼が守る大耶城は百済の大軍に攻められ、落城は必至だった。仲間は「生きて降伏し、後の策を図る方が良いだろう」と勧めた。竹竹は、「君の言うとおりだ。しかし、父が私を『竹竹』と名づけたのは、大寒にも枯れず、折られても屈するな、という思いを込めてのことだ」と言い、最後まで戦って、戦死した。
★4c.名は体をあらわす。
『赤胴鈴之助』(武内つなよし) 火京物太夫(ひきょうものだゆう)は、真空斬りの達人大鳥赤心斎(*→〔風〕2c)を、背後から鉄砲で撃ち殺した。彼はまた、門弟の松之助に、「赤胴鈴之助をだまし討ちせよ」と命じる。松之助が「鈴之助さんは僕の命の恩人です。そんなことはできません」と断ると、火京物太夫は、松之助を落とし穴に落とす。松之助は「卑怯者め!」と憤(いきどお)る。火京物太夫は「ハハハ。わしは名前からして卑怯者だよ」と笑う〔*その後、火京物太夫は赤胴鈴之助に討たれる〕。
『まじめ(BeingEarnest)が肝心』(ワイルド) グウェンドレンの理想は、「アーネスト」という名前の男を愛することだった。その名前には、何か絶対的な信頼感を起こさせるものがあるのだ。ジャックは「アーネスト」と名乗っていたので(*→〔架空の人物〕1)、グウェンドレンはジャックに「アーネストさん、あなたを愛しています」と言う。ジャックは「彼女と結婚するために、洗礼を受けて改名せねばならない」と思うが、実はジャックは捨て子であり、調べて見ると、彼の本名は「アーネスト」なのだった。
★5a.妻が、夫との間にできた子供に、かつて夫が愛した女性の名前をつける。
『巴里に死す』(芹沢光治良) 医学者宮村は独身時代に、鞠子(まりこ)という女性にプラトニックな愛を捧げた。その恋は実らず、宮村は伸子(しんこ)と結婚し、パリで研究生活を送る。伸子は「鞠子さんと同等の存在になりたい」と願うが、なりきれなかった。やがて伸子は、肺結核に侵されながらも女児を出産する。伸子は「わが娘を鞠子さんにしよう」と考え、「万里子(まりこ)」と名づける。その後、伸子は病勢が進み、万里子が3歳の時に死去する。
★5b.人妻が、愛人との間にできた子供に、愛人と同じ名前をつける。
『肉体の悪魔』(ラディゲ) 少年の「僕」は、年上の人妻マルトと愛人関係になる。マルトは「僕」の子供を産み、その子に「僕」と同じ名前をつける。マルトの夫ジャックは、妻の不義を知らない。産後しばらくして、マルトは病死する。ジャックは、「妻はあの子の名前を呼びながら死んで行きました」と言って嘆く。そうではない。マルトは「僕」の名前を呼びつつ死んだのだ。
★5c.自分の名前を敵に与えて死んでゆくのは、生まれてくる子供に愛する人の名前をつける物語と、関連があるであろう。
『古事記』中巻 ヤマトヲグナノミコ(=ヲウスノ命)がクマソタケル兄を殺し、逃げるクマソタケル弟の尻に剣を突き刺す。クマソタケル弟は「西の国では、我らクマソ兄弟が最強だった。しかし大倭の国に、もっと強い人がいたのだ。それゆえ私の名前を献上します。今後は『ヤマトタケルノミコ』と申し上げたい」と言って死んだ。以来、御名をたたえて「倭建命(やまとたけるのみこと)」というのである〔*『日本書紀』巻7〔第12代〕景行天皇27年(A.D.97)12月では、川上梟帥(たける)が名前を献上する〕。
★6a.たまたま目にしたものと、自分の年齢とから、適当な名前をつける。
『椿三十郎』(黒澤明) 藩政を私する悪人どもを倒そうと、若侍たちが集まって相談する。旅の浪人が、たよりない若侍たちを見かねて、「力を貸そう」と言う。城代家老の奥方が浪人に名前を問い、浪人は隣家に咲き誇る椿の花を見て、「私の名は椿三十郎。もうそろそろ四十郎ですが」と答える。
*「桑畑三十郎」と名乗ることもある→〔さすらい〕3の『用心棒』(黒澤明)。
『悪太郎』(狂言) 大酒飲みの悪太郎が、酔って道に寝る。伯父が悪太郎の頭を剃り、「汝を『南無阿弥陀仏』と名づける」と言い置く。通りかかりの僧が「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えるのを、悪太郎は「自分の名を呼ばれたか」と思って返事をする。それがきっかけで、悪太郎は出家する。
『大菩薩峠』(中里介山)第15巻「慢心和尚の巻」 甲州八幡村・小泉家のお浜は、夫を殺した机龍之助と駆け落ちし(*→〔決闘〕1b)、一子郁太郎を産んだ後に、龍之助に斬殺された。小泉家の主人が恵林寺を訪れ、「悪い女のために、戒名を1つ附けてやって下さい」と、慢心和尚に請う。慢心和尚は「よしよし、悪い女ならば『悪女大姉』とつけてやろう」と言い、それがお浜の戒名になった。
『徒然草』第45段 良覚僧正の坊の傍に榎の木があったので、人々は彼を「榎の木の僧正」と呼んだ。良覚はこれを嫌い、榎の木を切った。すると根が残り、「きりくひ(=切り株)の僧正」と呼ばれるようになった。良覚はいよいよ腹を立て、切り株を掘り捨てた。その跡が大きな堀になり、良覚は「堀池の僧正」と呼ばれた。
『袋草紙』(藤原清輔)「雑談」 丹後掾曽根好忠(たんごのじょう・そねのよしただ)は、初め「曽丹後掾(そたんごのじょう)」と呼ばれ、後に「曽丹後(そたんご)」と呼ばれ、末には「曽丹(そたん)」と呼ばれた。だんだん呼び名が短くなるので、好忠は「いつ『ソタ』と言われるようになるだろうか」と、心配した。
『俵藤太物語』(御伽草子) 近江国田原の里に住む藤原村雄の嫡男秀郷は、「田原藤太(太郎=長男)」と呼ばれた。後に秀郷は、いくら米を取り出しても尽きない俵(たはら)を得る(*→〔無尽蔵〕1a)。そのため、「俵藤太」と言われるようになった(「田原」が「俵」に変わったのである)。
『神仙伝』巻1「老子」 老子は、たびたび名や字(あざな)を変えた。人間には「厄会(災いに遭う時期)」があり、その時に名字を変えて天地の気の変化に順応するならば、寿命を延ばし、災いを逃れることができる。老子は周に3百余年いたから、その間に何度か厄会があっただろう。それゆえ、老子はいくつもの名前を持っているのである。
『八幡愚童訓』上 道鏡は帝位につこうとしたが、宇佐八幡の許しを得られなかった。道鏡は「これは勅使・和気清丸(清麻呂)が悪く申したからだ」と怒り、彼を「ワカレノキタナ丸」と名づけて罰した〔*『続日本紀』巻30神護景雲3年9月己丑の宣命に、和気清丸の名を変える旨が記されている〕→〔うつほ舟〕3a。
『播磨国風土記』神前の郡 荒ぶる神が往来の人の半数を取り殺したので、そこを「死野」と呼んだ。後に品太天皇(=応神天皇)が、「悪い名である」と仰せられ、「生野」と改められた。
*「塩」の呼び名を変え、「堅塩(きたし)」とする→〔塩〕4の『日本書紀』巻25孝徳天皇大化5年3月。
『今昔物語集』巻17-44 女が子を産み(*→〔金(きん)〕4)、衣でくるんで僧に渡す。僧が見ると、それは大きな枕ほどの黄金だった。もとは「黄金(きがね)」と言っていたのだが、この時から、「子金(こがね)」と言うようになった。
『薬罐』(落語) 博識を自慢する隠居が、薬罐の語源を聞かれる。隠居は「昔、あれは『水わかし』といった。川中島の戦の時、夜討ちをかけられ、1人の武者が兜代わりに『水わかし』をかぶって戦った。これに敵の矢がカーンと当たった。矢がカーンで『薬罐』だ」と答える。
*来つつ寝たから「狐」→〔狐女房〕1aの『日本霊異記』上-2。
★11.誤解によって名前がつく。
ナンジャモンジャの木の伝説 村人が、珍しい木の名前を弘法大師に聞く。弘法大師も木の名がわからず「何じゃろうか、どんなもんじゃろうか」と呟く。村人はそれを木の名前と思い、その木は「ナンジャモンジャの木」と呼ばれるようになった(埼玉県飯能市)。
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