◆DV・虐待関係◆
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 01:14 UTC 版)
DV論・DV加害者更生プログラム: 2000年代からは、伊田のジェンダー論においてDV論・デートDV、恋愛論の比重が高まった。大学だけでなく中学高校でも、デートDV防止教育を2006年ごろから頻繁に行ってきている。Dvをジェンダー要因だけではなく、カップル単位/シングル単位の観点で説明し、非DV の関係の具体化に努力している。恋愛観・結婚観そのものにDVをもたらす要素があるとみて、シングル単位の恋愛観・結婚観に変更する必要性を主張(『デートDVと恋愛』大月書店 2010年)。 また2010年代に入ってアウェアの加害者プログラム研修を受けて、大坂で2014年から被害者支援充実の為の加害者プログラムを実施。ジェンダー視点/フェミニスト視点に加えて、家族システム論アプローチ、個人心理アプローチなども併用するスタンス。DV対策の欠如・欠陥を指摘して、改革案を2020年の伊田著『「DVと虐待」対策・改善提言2020』で提唱。 DV加害者プログラムについて伊田の考えをまとめたものとして、「脱暴力プログラムの受講命令を制度化すべき時代」(吹田市立男女共同参画センターデュオ編集発行『男性問題から見る男女共同参画――ジェンダー平等の実現と暴力・DV根絶に向けて(令和元年度 吹田市男女共同参画センター調査研究報告書)』2020年10月発行)がある。 DVに関するHP【伊田作成】 拙著紹介「あなたは大丈夫!? 意外と身近な「デートDV」危険度チェック&予防策」 DVと恋愛、嫉妬問題 DVの原因をコミュニケーション問題やジェンダー問題だけに限定することに反対し、家族単位意識を問題にすべきことを提唱。近代家族、ロマンチックイデオロギーや母性イデオロギーとつながっている恋愛観・家族観・カップル観・結婚観自体を問題として、根元的に恋愛観・カップル観をシングル単位のものに変える必要があることを提唱。「嫉妬は社会的暴力でDvです」というような教育の仕方を批判し、なぜだめなのかを分かるように伝える手法を開発。別れについての常識も見直すよう提起し「別れに同意はいらない」という原則、別れ方の具体的方法の教育、身の守り方の教育を重視する。 関連:樹木希林と内田裕也の結婚生活の美化はおかしい デートDV・ストーカー予防教育 シングル単位論をベースにしたDV予防教育の内容を著書や講演で提唱。多くの予防教育の実践を中学・高校・大学でおこなっている。『シングル単位思考法でわかる デートDV予防学』(かもがわ出版、2018年12月)、『シングル単位のデートDV防止教育を広げよう ―― デートDV予防学 No.2』(Kindle、2019年5月、電子書籍& オンデマンド印刷書籍)など。特に別れの教育については、「別れの教育の必要性」( ストーカー事案再発防止研究会編(京都府警) ストーカー事案再発防止研究会報告書」2017年11月)で展開。 虐待論(DVと虐待の一体的対応の提起): 実際の事件の反省から、2020年にDVと虐待を総合的にとらえての根本的な対策の改革を提起している。伊田著『「DVと虐待」対策・改善提言2020』で提唱。 同書はDV加害者プログラムの知見を虐待対策に入れ込むべきことを提起している。2019年1月に千葉県野田市で、妻にDVをしていた夫が、娘の小学4年生、心愛(みあ)さんを虐待し死亡させた事件の検討を中心に、虐待対応の大幅な改善の提起を行っている。「対応や認識に甘さがあった」「会おうとしたが会えなかった」「虐待関係者のDVへの理解促進が必要」などと言う定番の言い訳を批判し、「検証」で言われていることにおいても不足(踏み込み不足)が多くあると指摘。心愛さんの母親(受動的虐待加害者という定義)よりも責任あるものが誰なのかを特定し、そのうえで、伊田がDV加害者更生プログラムを行っている経験やジェンダーの観点を踏まえて、特に今後検討・実施されるべき重要な「DVと虐待」対応についての具体的改善策を提起。具体的には、母親と児相などへの空論的な一時的非難と、子どもを親から強制的に引き離す「介入・分離」に議論が行きがちであるが、児相と市町村と警察の役割割分担の見直し、グレーゾーン的家庭に対する早い段階からのかかわりの充実化、虐待予防としての家庭への支援、安全確認・実態把握失敗の克服策、分離した後の支援、再統合への支援、虐待概念の見直し、DV対策自体の見直し等の諸点において予算を投じ具体策を講じていくべきこと等を訴えている。 同書の特徴として、1:加害者プログラム導入に関する指摘をしていること、2:千葉県検証・政府の現時点での対策の不十分・不足点を指摘、3:その他独自主張――面会調査絶対実施のための改革案の提起、モンスターペアレント(モンペ)的な親への対処の研修、説明責任とは何かのつっこんだ考察、担当者任せにせず組織的対応を進めること、そのためにも「下」の担当者も上司も処罰することの重要性提起、「被害者支援・虐待する母親支援」における意識改革、「心中」表現批判、警察と児相と市町村の分担変更、各機関の全部の情報共有化、児童虐待の予防強化、DVと虐待のワンストップセンターの提起、DV対策自体の受動性への改革提起、被害者支援の充実のポイント提起、DV対策における県と市町村の連携不足、児相の保護解除や解除後対応にあたっては要対協の協議を必須とすること、厚労省指針の体罰の定義の問題点、職員の男性割合増加、児童福祉司増加ではだめであることーーその他さまざまな指摘を行っている。 なお最近の事件を伊田の観点でまとめたものが以下。 2020年4月、福岡県5歳餓死“ママ友”によるDV的支配・虐待事件 2022年岡山・西田真愛(まお)さん虐待死事件 「虐待にかかわった母親厳罰化」に反対 東京都目黒区や千葉県野田市で、妻にDVをしていた夫による子供への虐待殺人事件があったが、警察も裁判でもメディアでも世間でも、母親批判があり、共犯だとして重罪が課されているが、伊田はDV被害者の側面を軽視していると批判する。虐待に加担した責任はあるが、それはDV支配ゆえに虐待に加担させられた「受動的虐待加害者」であるとし、そうなる前に調査し支援し助けられなかった行政の側の方により重い責任があるとする。児相、市町村・家庭児童相談、警察、学校保育所、保健所、病院などの連携的関わりの不足不作為の責任追及(処罰)が甘い中で、母親に重罪を課すのは不平等であるし再発防止にならないとする立場。『「DVと虐待」対策・改善提言2020』で伊田は詳しく主張。 「共依存」批判: 伊田のシングル単位論は自立重視であり、共依存批判である。共依存を評価しようという見解への批判的な意見を書いたものとして、伊田著「自立概念の豊富化――依存の美化の危険性」立命館大学生存学建久センター 『立命館生存学研究』VOL.2(2019年3月)がある。 また共依存的な映画へのコメント 映画『リービング・ラスベガス』批判 共同親権・面会交流・養育費について: 伊田は北欧社会に親和的で、一般論・将来の方向として共同親権が原則であるべきと考えているが、日本の現状を踏まえて、単親親権から共同親権にしようという運動に対して、DV被害者の現実を踏まえて対応がいると考えている。離婚後の面会交流や養育費不払い男が多い問題についても同じ。右派・反フェミニズムの勢力による、共同親権要求運動には批判的なスタンス。これについて、伊田著『DVと虐待』に伊田の見解が掲載されている。その中で、朝日新聞・2017年9月21日に掲載された大森貴弘・常葉大学講師(憲法学)の共同親権についての意見を読んで驚いて、伊田が翌日に批判を書き、その後論争になった経緯をまとめたものが載っている。上記『DVと虐待』のなかに、「DVと面会交流――面会交流で子どもを殺した伊丹事件に関連させて」という原稿として再掲している。それは離婚したうえでの父親の面会交流での子ども殺人事件(伊丹事件)」に関する学者の「実態を知らない暴論」について批判する内容である。 貧困の拡大的とらえ方 伊田は貧困をたんなる経済的なことに限定せず、主流秩序に囚われ、自由や成長や安心や自分らしさが阻害されていること、ととらえる。DVや性暴力被害にあうことも貧困おひとつ。そうした観点で教育論なども展開している。伊田編著の『貧困と学力』や「貧困と性的暴力と性的商品被害」(性教育教育研究協議会編『季刊SEXUALITY』№73、2015年10月)など。 ************************
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