エーコープ


エーコープ(Aコープ、A-COOP)は、農業協同組合の購買部門(生活事業)の一つ。スーパーマーケットと同様の事業形態で日本全国に約1000店舗の店舗網を持つ。
概要
"A" はAgriculture(農業)の頭文字であり、農家における生活協同組合(COOP・コープ)としての側面を持ち、独自ブランド「エーコープマーク品」の販売を行っている。
店舗販売のため、所謂消費生活協同組合が運営する店舗と同様に、組合員でなくとも買い物が可能。また生活必需品の販売以外の事業はエーコープでは行わない。全国のAコープチェーン加盟企業を統括するJA全農内の組織として全国Aコープ協同機構がある。
各単位農協の直営店(単位農協の子会社あるいは関連会社による運営を含む)のほか、JA全農県本部傘下の企業(エーコープ宮城など)、あるいは北東北・関東・近畿・西日本・九州ではJA全農全国本部傘下のグループ企業(JA全農Aコープ、Aコープ九州)によりチェーン店展開を行っている。全体で「全国Aコープチェーン」として組織されているが、基本的には各単位農協あるいは各運営企業で独立採算制となっており、ポイントサービスなども全国共通とはなっていない。単位農協直営店は山間地などに所在する比較的小規模の店舗が多く、一般企業の運営するスーパーマーケット同様、1990年代以降、不採算から閉店・撤退する地域が目立ちはじめた。中には、他社組織に運営委託[1][注 1]させたり、コンビニエンスストアに転換[注 2]した例もある。
かつて各単位農協の直営店が中心業態であった時代はエーコープと呼ばず「くみあいマート」・「くみあいマーケット」「くみあい生活センター」「農協購買部」と称したり、エーコープと「くみあいマート」・「くみあいマーケット」を併称している店舗が全国的に存在していたが、グループ企業によるチェーン店展開が進展するにつれ、店名はエーコープに統一されていった。現在も一部の農協ではエーコープと呼ばず「くみあいマーケット」[2][3]、あるいは「Aマート」[4]と称している店舗もある。これらの正式名称に関わらず、「生協」と同様、一般には単に「農協」と呼ばれている例も多い。
ファーマーズマーケット(農産物直売所)
エーコープとは別に、全国の生産者が市場を通さず農産物を直接販売する施設として「ファーマーズマーケット」(農産物直売所)がある。この内JAが運営しているものを「JAファーマーズマーケット」と称し全国に約1700カ所ある。中には「JAファーマーズマーケット」がエーコープ内に売場として組み込まれている店舗があり、このような店舗は2016年4月から「エーコープ○○店」ではなく「JAファーマーズ○○」「JAファーム○○」「エーコープファーマーズ○○店」という店名に改称している[注 3]。
ただグループ企業名は「エーコープ」であるので、これらの店舗においても「エーコープ」という名称が使われなくなった訳でなく、店内放送用テーマソング等もそのまま放送されている。道の駅に改装されている道の駅夕張メロード(北海道夕張市)の例もあるが、農協が経営しているため、道の駅であっても「エーコープ」の看板を掲げている。
エーコープ名義を全く用いない直売所でも運営するJAが既存エーコープ店舗の経営から撤退した所ではエーコープブランドのPB商品を取り扱っているケースも見られる。
コンビニエンスストアチェーンと提携し、コンビニに農産物など生鮮食料品を置いている形のエーコープを出店している地域もあり、立地条件に合わせた店舗形態の多様化が進んでいる。
全国Aコープ協同機構
- 全国農業協同組合連合会(全農)の事業の一角となる「生活事業」(生活用品(食料品・日用品・衣料品・耐久財等)や日常サービス等を供給・提供)の中枢となるスーパーマーケット「Aコープ」への商品供給と店舗の管理運営強化を目的に、2006年(平成18年)10月1日、旧組織「全国Aコープチェーン[注 4]」を発展させる形で設立された[5][6]。
「JA店舗の一体化会社移管と一体化の見通し[5]」 2005年(平成17年)実績 : JA店舗 - 売上高 : 2820億円、期末時点での総店舗数 : 464 / 一体化店舗 - 売上高 : 3422億円、期末時点での総店舗数 : 540 / 合計 - 売上高 : 6242億円、期末時点での総店舗数 : 1,004 2006年(平成18年)見込 : JA店舗 - 売上高 : 2576億円、期末時点での総店舗数 : 400 / 一体化店舗 - 売上高 : 3406億円、期末時点での総店舗数 : 533 / 合計 - 売上高 : 5982億円、期末時点での総店舗数 : 933 2008年(平成20年)見込 : JA店舗 - 売上高 : 1356億円、期末時点での総店舗数 : 170 / 一体化店舗 - 売上高 : 4569億円、期末時点での総店舗数 : 670 / 合計 - 売上高 : 5925億円、期末時点での総店舗数 : 840 「JA店舗」とは、「全国Aコープ協同機構」が指定する「一体化会社」が店舗を直接管理していない店舗。
- 売上高が将来にわたって低下してゆく見通しの上で、規模拡大による更なる経営基盤強化のために広域会社化を進める中で、店舗集約を促す目的で、全国Aコープ協同機構は設立された[5]。
- なお、この「全国Aコープ協同機構」は、旧「全国Aコープチェーン」と違い「一体化会社による店舗経営」を目的としているため、厳格な参加資格がある[6]。
- 全農各都道府県本部につき、「一体化会社」または、県本部だけが加盟することができる。
- 店舗ではある一定の割合以上のエーコープマーク品を揃えること。
- 厳密な罰則規定を設けた運営 - 注意や警告などが与えられ、最終的には退会勧告されるなど厳しい内容を盛り込む。
協同機構の参加組織
以下、2024年4月現在[7]
- JA全農Aコープ株式会社 - 京都府・奈良県・大阪府・兵庫県・和歌山県の一部地域・三重県・愛知県・島根県・岡山県・広島県・愛媛県・青森県・岩手県・秋田県・ 宮城県・山形県庄内地方(青森県は店舗展開は無し)・神奈川県・東京都・埼玉県・群馬県 [8]・ネットショップ
- JA全農本部 - 事務局を設置
- 株式会社ホクレン商事 - 北海道
- 株式会社長野県A・コープ - 長野県
- 株式会社JAライフ富山 - 富山県・ネットショップ
- 株式会社ジャコム石川 - 石川県・ネットショップ
- 株式会社Aコープ九州 - 福岡県・佐賀県・大分県
- 株式会社エーコープみやざき - 宮崎県
- 株式会社エーコープ鹿児島 - 鹿児島県
- 株式会社JAおきなわAコープ - 沖縄県
店内放送
- 1979年版は2009年版制作後も引き続き使用されており、二曲とも放送されている状態になっている。
-
大型店舗のAコープ。
その他の「エーコープ」
関連項目
- イオン九州 - イオン有家店において食料品を扱うテナントとしてエーコープが入居。
- エーコープえひめ - 株式会社Aコープ西日本へ統合。
- みやぎ生活協同組合 - 松島店をエーコープ宮城との共同出資企業である株式会社コープ松島による「A&COOP松島店」(元のみやぎ生協側の店舗は、同じ運営主体により、「コープドラッグ松島店」の名称で、ドラッグストアとして店舗は継続)に移行して運営している。
- 中札内生活協同組合 - 北海道中札内農協の生活購買事業「農協マーケット」を生活協同組合方式に組織改編し立ち上げた組織。2012年10月に組織解散。
脚注
注釈
- ^ 富山県のJAとなみ野では管内のAコープ店舗を一般企業に譲渡し「コープとなみ野」として営業していた(「コープ」名ではあったが生協とは無関係。2010年代に経営破綻し現存していない)。
- ^ JAようてい 店舗・主要施設一覧 株式会社Aコープようてい ~ 真狩村(2008年9月転換。出典 : 2008年9月JAようてい真狩給油所、スパーようてい真狩店オープン 2008.9.25 - トピックス JAようてい)と留寿都村(2010年7月転換。出典 : スパーようてい留寿都店がオープンしました! 2010.7.20 - トピックス JAようてい)のAコープ店舗が北海道SPARに転換。なお、北海道スパー本部(=セイコーフレッシュフーズ)がSPAR本部との契約を終了したことに伴い、2016年9月1日より両店舗ともハマナスクラブに転換し営業継続している(出典 : スパー真狩店・留寿都店 ハマナスクラブへリニューアルオープン 2016.9.1 - JAようてい)。
- ^ こうした店舗は入間店(埼玉県狭山市。「JAファーマーズ入間」)・安中店(群馬県安中市。「JAファーマーズ安中」)・上田店(長野県上田市。「Aコープファーマーズうえだ店」)など大規模店が多い。
- ^ 経費削減に向けた遠隔会議システムのご提案 全国Aコープ協同機構 様 - リコー。資料ページによると、「全国Aコープチェーン」の発足は1971年(昭和46年)とのこと。
出典
- ^ コープさっぽろがフランチャイズ展開の1号店、農協Aコープが「JAみねのぶコープさっぽろ店」としてリニューアルスタート 北海道リアルエコノミー
- ^ JA伊達市 くみあいマーケット
- ^ Aコープ - JA福井市
- ^ 組合の施設・営業時間・機構 - JAみついし 「Aマートみついし店」
- ^ a b c 農政・農協ニュース 全国Aコープ協同機構が10月にスタート 18年度売上2500億円めざす - JA全農生活部 2008.5.11 - 農業協同組合新聞 社団法人農協協会。
- ^ a b 農政・農協ニュース 運営に明確なルール決め、売上げ2881億円めざす - 全国Aコープ協同機構 2008.10.1 - 農業協同組合新聞 社団法人農協協会。
- ^ あなたの街のAコープ - 全国Aコープ協同機構
- ^ 焼肉あぐり。エーコープ関東直営の外食店舖が、東京都・群馬県に存在する。
- ^ Aコープの歌が30年目のリニューアル 農業協同組合新聞(2009年12月11日)一般社団法人農協協会
- ^ 新しいAコープの歌 歌詞大募集! 全国Aコープ共同機構
- ^ 取扱銘柄 ホクレンの肥料 「化成・BB肥料」に「エーコープ」と冠された肥料が多数存在する。
- ^ 『全農物流株式会社・松村海運有限会社』殿の共有船『第一エーコープ』無事進水しました 松村造船株式会社facebookページ 2016年2月12日
- ^ 祝「第一エーコープ」竣工 松村造船株式会社facebookページ 2016年3月21日
- ^ 事業所だより 「第一エーコープ」進水式について 2016年2月12日 全農物流
外部リンク
農業協同組合

農業協同組合(のうぎょうきょうどうくみあい、通称:農協〈のうきょう〉)は、日本において農業者(農民又は農業を営む法人)によって組織された協同組合である。農業協同組合法に基づく法人であり、事業内容などがこの法律によって制限・規定されている。なお、全国農業協同組合中央会が組織する農協グループ(総合農協)を、愛称としてJA(ジェイエー、Japan Agricultural Cooperativesの略)と呼び[1]、略称として「JA○○」の呼称を用いている。
沿革

江戸時代後期、農村指導者の大原幽学が下総国香取郡長部村(現・千葉県旭市長部)一帯で興した「先祖株組合」が、世界初の農業協同組合とされる[2][3]。一方、近代的意味における農業協同組合の前身は、明治時代に作られた産業組合や帝国農会にさかのぼる。
産業組合は、ドイツ帝国の産業及び経済組合法をもとに、1900年(明治33年)に産業組合法が制定された。産業組合は、信用、販売、購買、利用の4種の組合が認められ、職業による組合員の制限はなかった。その後、農村恐慌への対応として1932年(昭和7年)に農山漁村経済更生運動が取り組まれたが、産業組合は産業組合拡充5ヶ年計画を樹立、「全戸加入」「未設置町村解消」「四種兼営」を掲げて、その拡充、定着に努めた。これによって農村における産業組合の農民組織率は大正末期の40%から1935年の75%に上昇、ほぼ全ての町村に四種兼営の産業組合が存在するようになった[4]。
他方、戦前の農業団体として農会法(1899年)に基づく農会がある。農会は「農業の改良発達を図る」ことを目的として農業技術指導等を行い、会員の賦課金と政府からの補助金によって運営される半官半民組織であった。農会法は1922年(大正11年)に大改正を経て農政補助機関としての性格を強めた。組織的には地域内に一定の面積を所有する農業者を強制加入させ、市町村農会、郡農会、府県農会、帝国農会の段階制をなしていた[5]。
その後戦時体制下の1943年、食料統制を円滑に進めることを目的に農業団体法が制定され、農会、産業組合、畜産組合、養蚕業組合、茶業組合が統合されて農業会が設立された。地方農業会として、市町村農業会、都道府県農業会が置かれ、全国段階には産業組合連合会が統合した全国農業経済会と、帝国農会と産業組合中央会が合体した中央農業会が置かれた[6]。農業会の存在した期間は1943年から1947年までと限られていたが、その後の農協の設立が「農業会の看板塗りかえ」であったため、戦後農協の性格に大きな影響を与えた。

戦後の農地改革の一環として、GHQは農地改革で生まれた戦後自作農を守るための制度として、自主的で自立的な欧米型の農業協同組合の創設を日本政府に指示した。しかし、当時の食料行政は深刻な食糧難の中で、食料を統制・管理する必要があった。農林省は集落を単位とする農家組合等を構成員とする農協制度を構想してGHQと交渉し、1947年(昭和22年)に農業協同組合法(昭和22年法律第32号)が公布・施行された。こうしたことから、実際には農業会の組織、資産、職員を引き継いで戦後農協が発足した。農業会の解散期限が昭和23年8月とされたため多くの農協が短期間に設立された。その際に「協」を図案化した円形の「農協マーク」が制定された(地方の古い農業倉庫などに「農協マーク」が残っている場合がある)。1992年4月から「農協マーク」に代わり、「JA」の名称や「JAマーク」を使い始める。
戦後農協は、欧米型の自主的、自立的協同組合の理念を掲げながらも、実際には食糧統制、農業統制のための行政の下請け組織的性格が強かった。また事業運営にあたっても上部組織である連合会主体の運営がなされる傾向がある[7]。さらに、戦後農協の性格を「協同組合」、「農政下請け機関」、「圧力団体」の複合体とみる見解もある。
2014年5月22日、規制改革会議は、「全国農業協同組合中央会(JA全中)が、法律に基づいて農協の経営指導などを行う」今の制度を廃止する農協改革案を提案した。しかし、議員からは「安易に組織をいじれば生産者の不安をあおるだけ」、「あくまでみずからで行う改革が基本だ」と、反発の声が相次いだ。一方、一部の議員からは「農協にもっと経営能力のある人材を登用すべき」とか「農協の販売力の強化は必要だ」という意見も出た。その為、自民党は、6月上旬を目標に目処に、生産者の所得を増やすための案をまとめる[8]。なお、規制改革会議の農協(JA)改革案は、TPP交渉をにらんでの考えとされている[9]。竹中平蔵は「外国人労働者を入れて農業を再生したい」という提案を拾い上げ、実現に向けて意欲を示している[10]。その後2019年までにJA全中は一般社団法人に、都道府県農業協同組合中央会は農業協同組合連合会に移行した。
組織
事業ごとに次の全国組織および都道府県域組織(農業協同組合連合会など)がある。なお専門農協は「専門農協」の項を参照。
- 全国農業協同組合中央会(JA全中) - 単位農協(JA)および連合会の指導、監査、広報活動。
- 都道府県農業協同組合中央会 (JA中央会)- 各都道府県に1つずつ設置されている。
- 全国農業協同組合連合会(JA全農) - 経済事業(販売、購買)
- 県経済農業協同組合連合会(JA経済連) -全国農業協同組合連合会(JA全農)や県単一農協への統合が進んでおり、現存しているのは7県。北海道は北海道経済農業協同組合連合会からホクレン農業協同組合連合会に名称変更。
- 農林中央金庫 (農林中金)- 農協貯金、漁協貯金の中央金庫(運用機関)
- 都道府県信用農業協同組合連合会(JA信連) - 信用事業(JAバンク)、都道府県ごと(32都道府県、ほかの県は農林中金へ事業譲渡又は県域農協に包括継承)
- 全国共済農業協同組合連合会(JA共済連) - 共済事業
- 全国厚生農業協同組合連合会(JA全厚連) - 厚生事業(主に医療=病院など)
- 都道県厚生農業協同組合連合会 (JA厚生連)- 都道県ごと(33都道県、栃木県については、本来の県単位の組織ではなく、県内地区ごとにあった2つの厚生連が存在)
- 全国新聞情報農業協同組合連合会(JA新聞連) - 新聞情報事業(株式会社日本農業新聞など)
各全国組織は、会員である単位農協および連合会が出資している協同組合組織(全国農業協同組合中央会および農林中央金庫を除く)であり、一般的な株式会社の親会社、子会社とは関係が異なる。最近ではJA全農と各都府県経済連の合併が行われ、全農本体の都府県本部が「JA全農○○(○○には都府県名が入る)」として経済事業、販売事業、購買事業の都道府県組織となる例も多い。
総合・専門農協
個別の農協(単位農協)には、総合農協(信用事業を含む、複数の事業を行っている農協)のほか、専門農協(信用事業を行わず(一部は信用事業を行う組合もある)、畜産、酪農、園芸といった特定の生産物の販売・購買事業のみを行う農協)もある。2021年度末において、総合農協数は585、専門農協数は999となっている[11]。
農地の集約、高齢化や後継者不足等による農家戸数の減少により、農業者である正組合員は減少している。離農後も、農協の事業を継続して利用したい者の増加や員外利用者対策による加入推進対策等により、非農業者である准組合員が増加している。そのため、平成21事業年度以降、准組合員数が正組合員数を上回る状況になっている[12]。
平成30年度(農林水産省の総合農協一斉調査)においては、正組合員数約424.8万人に対し、准組合員数約624万人である[13]。
新規農協設立の認可
2001年(平成13年)の農業協同組合法改正において、地区の重複する農協は、総合農協であるかないかにかかわらず、認められることとなった。この改正において、行政庁が設立認可をする際には、関係する市町村及び農業協同組合中央会に協議することが義務付けられたものの、その後になされた申請については、全て認可されていた。こうした状況を踏まえ、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(第3次一括法)(2013年6月7日成立、2013年6月14日公布)により、当該協議の義務付けは廃止された。
事業内容
農協は、組合員の自主的な選択により事業範囲を決めており、多くの農協は、組合員が必要とするサービスを総合的に提供している。
- 指導事業
- 営農指導事業
- 生活指導事業
- 経済事業
- 信用事業(通称、JAバンク)
- 厚生事業
- 高齢者福祉事業
- 利用事業
- カントリーエレベーター、ライスセンター等の運営
そのほか、冠婚葬祭(主に葬儀(JA葬祭))事業、観光・旅行事業(農協観光)、不動産仲介事業、新聞(日本農業新聞)・出版事業、市民農園、郵便窓口業務の受託(簡易郵便局)、農機の販売・整備、自動車ディーラー、建築設計、自動車学校、有線放送、発電など、多岐に亘る。
これは、組合員たる農家の預貯金をほぼ一手に引き受ける豊富な資金と「農協」の信用力、組合員の互選で選ばれた組合長による文字通り「地域の発展の為」の事業展開の結果である。また、生活協同組合などと違い、信用事業・金融事業を兼業することができるなどの特権を持つことも理由である。
一方で、農協婦人会や青年部等による生活改善運動は、農村の食生活や生活改善など教育の場として発展して来た。また大規模かつ安定的な需要を目当てに、各メーカーが農協専売品を用意していた(JAサンバートラックなど)。事業内容が多岐に亘ることで「農協簿記」という特殊な簿記が用いられる。他業務をカバーする勘定科目を使い、なおかつ購買や販売等については、独自の勘定科目名称を用いる。
東京都御蔵島村の御蔵島村農協のように、地域農協だが信用事業を行っていない組合も存在する。群馬県上野村の上野村農協・東京都の東京島しょ農協・大分県の下郷農協のように信用事業だけ(上野村農協は、加えて共済事業も廃止の上で)譲渡し、信用事業・共済事業を廃止したところもある。
全県1農協を目指しての合併促進がされているところもあり、奈良県・和歌山県・島根県・山口県・香川県・宮崎県・沖縄県は、すでに実現した(香川県は、信連は県域農協に包括承継させていない、島根県は、JA全農島根県本部の一部事業譲渡を受けたが包括承継はまだ)。福井県と佐賀県は一部の農協が参加しなかったものの、大部分で実現した。
農協の目的
農業協同組合法によって定められており、農業生産力の増進と農業者の経済的・社会的地位の向上を図るための協同組織とされている。「平成24年度食料・農業・農村白書」においては、農協は、農産物の流通や生産資材の供給等を適切に行い、農業所得を向上させていくことが最大の使命であるとしている[12]。組合員の自主的な選択により、事業範囲を決めており、多くの組合員が必要とするサービスを総合的に提供する。加入者の大半が米作農家で、そのためJAは米を中心に活動を行っている[1]。
- 農協の事業運営は、正組合員である農業者の意思決定により行われている。しかし、組合員以外も、一定の範囲で事業を利用することができる。組合員以外の利用の範囲は、組合員の事業の20/100。貯金の受入れ等は、25/100。加工・農村工業事業、医療・老人福祉等は、100/100である。
組合員資格
組合員資格は、各農協の定款において定められ、一般的に、耕作面積や従事日数の要件を規定している。組合員は、正組合員と准組合員に分かれる。
資格 | 権利など | 備考 | |
---|---|---|---|
正組合員 | 農業者。農協の地区内に住所を有する農民、農業を営む法人 | * 組合員が一人一票の議決権を持つ。 * 役員や総代に選出される権利。 * 臨時総会を開く請求権。但し、正組合員の1/5以上の同意が必要。 * 組合の事業を利用する権利等。 |
|
准組合員 | 農業者で無くてもなれる | * 出資すれば、全ての事業が利用可能になる。但し、農協の地区内に住所のある個人。 | 准組合員に議決権を認めない理由は二つ。一つは、農業者で無い者に組合を支配されない為。もう一つは、地域の住民(旧産業組合・旧農業会に於いて構成員となることができた者)の事業の利用を認めるため。 |
問題の提起
- 正組合員資格は、農業者に限られている。だが、実際はすでに離農した者が多く存在しており、土地持ち非農家などがその代表格。
- 准組合員においては、転居や死亡等で本人の所在が確認できない場合も、含まれる。
- 組合員が資格を満たしているかのチェックは、ほとんど行われていなかった。
- その結果、2000年代には、本来であれば資格を持たないはずの組合員が、100万人は存在する。
総合規制改革会議でも、組合員の状況は問題視され、「規制改革推進3か年計画(再改定)」(平成15年3月28日閣議決定)において、「組合員制度の実態、員外利用率の状況等を考慮し、法令違反等のある場合はこれを是正するよう指導するなど所要の処置を講ずる」とされた。これを踏まえ、農林水産省では平成15年3月に事務ガイドラインを改正して、員外利用規制に違反があれば所管行政庁(都道府県)が是正を指導するよう徹底してきた。これに沿った是正指導が行われることになり、指導を受けた組合を中心に、積極的に員外利用者を、准組合員として組合に加入させる対策を講じた。その結果、平成20事業年度には、すべて解消される見込みとなった。
独占禁止法との関係
- 農協を含めた協同組合は、一定の行為について私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)の適用除外が認められている(独占禁止法第22条)。中小事業者は、単独では大企業に対抗できないが、協同組合を組織することで、有効な競争の単位となり得る。
- しかしながら、農協が不公正な取引方法をした場合[注 1]または一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合は、独占禁止法の取締りの対象となる(独占禁止法第22条但書)。
- また、他の事業者や単位農協と共同して価格や数量の制限等を行うこと(カルテル)等も、(その)組合の行為とは言えないため、独占禁止法の適用除外とはならない[14]。
公正取引委員会は、農林水産省と連携して、農業協同組合等の農畜産物の販売事業及び生産資材の購買事業の取引実態についてヒアリングを行うなど、実態の把握と検証を実施した。その結果、農業者は依然として大企業に伍して競争し又は大企業と対等に取引を行う状況にはないこと、農業者や単位組合は農畜産物販売及び生産資材購入について自らの判断で取引先を選択できること、適用除外制度があるために判断できない農業協同組合等の問題行為は特段認められなかったこと等から、平成23年4月までに、当該検証の結果としては、適用除外制度を直ちに廃止する必要はないとの結論に至った[15]。
各国の農協
なお、日本と同様に、アメリカ、EU、韓国においても農協に対する独占禁止法の適用除外が認められている。このため、これまで年次改革要望書や日米経済調和対話など、日米二国間の経済協議において、農協に対する独占禁止法の適用除外の見直しが求められたことは無い。
評価
組織面
- 農協の規模、組織力は、他国の農協の比較して、特異なもの[1]。
- 農林水産省は、最初はJAの存在が本来の農業協同組合のものではないとして否定的であったが、次第に農業政策の下部組織として使うようになる。このため、自発的な会員組織としての性格は薄く、日本国政府を頂点とする上意下達のための組織と見る傾向がある。しかし、金融自由化などをきっかけに、農水省は、次第にJAと距離を取ろうとする態度に転じていった。この事は金融自由化で次第にJAの特権が無くなる中で、不良債権問題が出たときの責任を取らされる恐れがあるため[1]。
- JAは組織率が非常に強力だった。そのため、ほとんどの農家はJAの会員になっており、地方において強力な票田となっていて、政治へ大きな影響力があると考えられてきた[1]。ただJAは、票田としての力もなくなってきたため、以前ほどの政治力を行使しづらくなるという背景もある[1]。
- 働き口(各種講演など)の関係から、JAの活動を支持・肯定する研究者が多い[1]。
事業面
- 「食料・農業・農村基本計画」(平成22年3月閣議決定)では、農協等の団体が地域一体となった取組の推進や個々の農業者の経営安定に重要な役割を果たしている。だが、一部で、事業運営の問題があり、地域の農業者の期待に応えられていないケースもみられる[1]。
事業面に対する指摘内容 | |
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長所 |
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短所 |
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関連企業
主なキャラクター
JAバンク
JA共済
脚注
注釈
- ^ 例:組合員に農協の事業の利用を強制するなど。
出典
- ^ a b c d e f g h i j 『日本の食と農』 神門善久著 NTT出版 2006年6月
- ^ “大原幽学記念館:令和2年8月5日(水曜日)”. 旭市役所 (2021年3月8日). 2023年3月4日閲覧。
- ^ “大原幽学(おおはらゆうがく)遺跡 【国指定史跡】”. 旭市役所 (2020年11月10日). 2023年3月4日閲覧。
- ^ 『農業団体史・農民運動史』農林統計協会、2014年。
- ^ 『帝国農会史稿』農民教育協会、1972年。
- ^ 『農業会史』御茶の水書房、1975年。
- ^ 『戦後政治の組織と象徴』みすず書房、1978年。
- ^ NHKニュース2014年5月21日 自民党 農協改革案に反発相次ぐ
- ^ 東京新聞2014年5月20日 朝刊 首相、JA改革を指示 TPP視野 政府会議で議論[リンク切れ]
- ^ 東洋経済2013年12月27日 竹中平蔵「アベノミクスは2014年が正念場」構造改革は進むのか
- ^ 農業協同組合等現在数統計の概要(令和3年度) (PDF) 農林水産省 農協についての統計
- ^ a b 『平成24年度食料・農業・農村白書』 2013年6月
- ^ 正組合員6万人減る 77農協が当期損失金 30事業年度総合農協調査 農水省 農業協同組合新聞 2020年3月31日
- ^ https://www.jftc.go.jp/dk/noukyou/nokyogl.html
- ^ 「規制・制度改革に関する閣議決定事項の実施状況の調査結果」(平成23年9月公表)
- ^ JAみんなのよい食プロジェクト
- ^ OjO Interview(読売新聞広告局 2009年6月7日)
関連文献
- 窪田新之助『農協の闇』講談社〈講談社現代新書2673〉、2022年8月18日。ISBN 978-4-06-529254-9。 (電子版あり)
関連項目
- 日本の農業協同組合一覧
- 全国農協青年組織協議会(JA全青協)
- 全日本農民組合連合会
- 生活協同組合 - 農産物の供給や栽培などで、農協と生協が組むことも多い。
- 漁業協同組合(JF)
- 農業協同組合法
- ACOOPのページへのリンク