回天特別攻撃隊菊水隊
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先遣部隊(第六艦隊)は潜水艦5隻(伊36、伊38、伊41、伊44、伊46)および回天による敵艦隊拠点奇襲攻撃(玄作戦)を、11月上旬に実施する予定で計画を進めていた。だが1944年(昭和19年)10月上旬より米軍機動部隊の行動が活発化(十・十空襲、台湾沖航空戦)、日本軍は捷号作戦を発動する。玄作戦準備中の第15潜水隊も台湾沖航空戦の残敵掃蕩(誤認)に駆り出された。10月17日のレイテ島の戦い生起にともない連合艦隊は潜水艦のフィリピン方面集中を下令(レイテ沖海戦)、玄作戦投入予定の潜水艦もフィリピン方面に投入されたので、最初の玄作戦は変更を余儀なくされた。そこで回天搭載のため改造整備中の潜水艦3隻(伊36、伊37、伊47)をもって、新たに玄作戦を実施することになった。周防灘で最後の総合訓練を実施。10月下旬、第15潜水隊の3隻(伊36、伊37、伊47)の準備が完成し、回天特別攻撃隊菊水隊(指揮官は揚田清猪第15潜水隊司令)が編成された。菊水隊の攻撃計画は、機密先遣部隊命令作第一号(玄作戦実施要領)及び機密玄作戦回天特別攻撃隊菊水隊命令作特第一号によって発令された。11月5日、連合艦隊は先遣部隊(第六艦隊)に対し、11月20日の回天作戦実施を命じた。このうち、ウルシー泊地攻撃隊は給油艦「ミシシネワ」 (USS Mississinewa, AO-59)を撃沈して初戦果をあげた。最初の玄作戦における軍令部報告の中で回天について、「安全潜航深度増大が必要。熱走後一旦停止すると冷走になるので熱走が続くようにしたい」といった指摘があった。玄作戦詳細は以下のとおり。 1944年(昭和19年)11月8日、「玄作戦」のために大津島基地を出撃した菊水隊(母艦潜水艦として伊36潜、伊37潜、伊47潜に各4基ずつ搭載)の12基が、回天特攻の初陣である。西カロリン諸島への潜水艦や彩雲航空偵察により、目標地点を決定。菊水隊の回天搭載潜水艦3隻のうち、伊36潜と伊47潜の2艦はアメリカ軍機動部隊の前進根拠地であった西カロリン諸島のウルシー泊地を、伊37潜はパラオのコッソル水道に停泊中の敵艦隊を目指した。 回天の最初の作戦であるウルシー泊地攻撃「菊水隊作戦」(第1次玄作戦)は、1944年(昭和19年)11月19日から11月20日にかけて決行された。20日、伊47潜から4基全て、伊36潜からは4基中の1基(残3基は故障で発進不能)の計5基の回天が、環礁内に停泊中の200隻余りの艦艇を目指して発進した。しかし、伊47潜の帰着直後の報告により作成された「菊水隊戦闘詳報」によると、「3時28分から42分、伊47潜は回天4基発進。発進地点はマガヤン島の154度12海浬」とホドライ島の遥か南より発進させている。 伊36潜は、4時15分発進予定地点のマーシュ島105度9分5浬に到着。3基は故障で潜水艦から離れず、今西艇だけが4時54分に発進した。その後、伊47・伊36より発進した計5基の回天のうち1基が、5時30分に湾外のムガイ水道前面を重巡洋艦3隻と駆逐艦3隻でサイパン島に向かって航行していた艦隊を発見し攻撃した。しかし、その艦隊の1隻である駆逐艦ケース(英語版) (USS Case,DD-370 ) が回天の潜望鏡とウェーキを発見、ケースの艦長R.S.ワイリ少佐は真珠湾攻撃以来アメリカ海軍を悩ませていた特殊潜航艇と判断し、これを攻撃するために潜望鏡に向けて進路を向けた。回天の潜望鏡もケースを確認するとそれをかわすように大きく変針し、ケースのすぐ傍を通過して重巡洋艦チェスターに突進していった。ケースは回天を追って回頭中であったので爆雷攻撃ができず、回天は攻撃を受けることなくチェスターに向かっていったが、ワイリは爆雷攻撃ではなく、全速力での体当りを命じて、5時38分、艦首で回天の司令塔に体当りし、回天は真っ二つに切断されて、弾頭はそのまま海中に没して、海上に破片が浮上した。同じ頃にプグリュー島の南側で2基の回天が珊瑚礁に座礁して、後に機密保持のために自爆しているが、アメリカ軍の記録によれば、うち1基は故障で海上を漂流中のところを哨戒機が発見して撃破したとされている。 湾外で回天とアメリカ軍艦隊の戦闘が起こった数分後の5時45分、湾内のタンカーの停泊地に停泊していたシマロン級給油艦のミシシネワに回天1基が命中した。ミシシネワには重油85,000バレル、ディーゼル油9,000バレル、航空燃料405,000ガロンが満載されていたのでオレンジ色の炎と煙が天に高々と舞い上がり、周辺数海里離れたところからもこの火柱を見ることができた。30秒後に搭載していた航空燃料が誘爆し猛火災となって、最後は武装の38口径5インチ単装砲の砲弾薬庫も誘爆し、消火もままならないまま1時間15分後に転覆して、さらに1時間後に完全に海中に没した。燃えている海上には多数の水兵が投げ出されたが、水上機が水上滑走して、機体後部から曳航したロープに水兵を掴まらせて救助するなどの懸命の救助活動が行われたが、63名が艦と運命を共にし、大量の貴重な燃料油が失われた。 ミシシネワに回天が命中する少し前に、軽巡洋艦モービル (USS Mobile, CL-63) が特殊潜航艇と覚しき目標を発見し発砲した。そのため環礁内は大混乱に陥り、停泊していたあらゆる艦艇がまだ見ぬ目標に向けて発砲をはじめ、100基以上の探照灯が煌々と環礁内を照らした。ちょうどそのころに10,000m離れたタンカー泊地で大爆発が起こり、混乱は一層増長された。6時00分頃、残った1基の回天がモービルに向けて突入してきたが、潜望鏡によって2 - 4ノットの速力で直進してくる回天を発見したモービルが、5インチ砲と40ミリ機銃で射撃を開始。機銃弾が命中、5インチ砲弾の至近弾を受けたため突入コースに入りながら海底に突入し、のちに護衛駆逐艦ラール(英語版)(USS Rall, DE-304)、ハロラン(英語版)(USS Halloran, DE-305)、ウィーバー(英語版)(USS Weaver, DE-741)の3隻が代わる代わる爆雷攻撃を行った。ラールが爆雷攻撃をしたのちに2名の日本兵が海上に浮上してきたのを確認したが、うち1名が元気に泳いでいたので、救出しようとしてハロランが接近したところ泳いでいた日本兵はまた海上に没してしまったという。その後にハロランは容赦なく爆雷を投下、7時18分に多くの破片と大量の油が浮き上がってきたので完全撃破と確認した。その後、ハロランからボートを下ろして回天の破片を回収したところ、日本語で何か書かれた木と金属でできた腰掛と女学生が差し入れた座布団を回収した。その日は浮上していたはずの日本兵の遺体は発見できず、3日後になってこの付近の海面で遺体を発見し、これを日本兵の遺体と確認した。 伊37潜はパラオ・コッソル水道に向かったが、11月19日にパラオ本島北方で発見された。これは米設網艦ウィンターベリー(英語版)(USS Winterberry, AN-56)が、8時58分に浮上事故を起こした伊37潜(ポーポイズ運動を行った)を発見し、通報したものである。この報告を受けて、米護衛駆逐艦コンクリン(英語版)(USS Conklin, DE-439)、マッコイ・レイノルズ(英語版)(USS McCoy Reynolds, DE-440)が9時55分に現場付近へ到着し、両艦はソナーで探索を開始。午後も捜索を続けたのち、15時4分にコンクリンが探知し、レイノルズが15時39分にヘッジホッグで13発を発射したが効果なく失探、16時15分にコンクリンが再度探知して攻撃したところ、「小さい爆発音(命中音と思われる)らしきもの1」を探知。続くヘッジホッグ2回と艦尾からの爆雷攻撃の1回には反応がなかった。レイノルズが再度爆雷攻撃を行い(コンクリンがソナーで探査し、後続のレイノルズが爆雷で攻撃する)接近したところ、17時1分に海面にまで達する連続した水中爆発を認めた。以後は反応無く、撃沈と判定された。伊37潜の乗員と隊員は全員戦死と認定された。なお、のちにコンクリンは金剛隊を搭載した伊48潜も撃沈している。 伊47潜の折田善次艦長と乗組員たちは、ミシシネワから上がったオレンジ色の巨大な炎と煙の柱を確認していたが、そのあとに2つの閃光が走ったのを見てさらに2基が命中したと考えて歓喜した。しかし、詳細な戦果を確認する暇もなく、警戒を強化したアメリカ軍の駆逐艦の艦影を発見したため、急速潜行しての退避を余儀なくされた。伊47潜と伊36潜はその後無事に内地に帰投し、参謀や潜水艦関係者200名以上の前で折田と伊36潜の寺本巌艦長が戦況を報告した結果、2艦から発進した5基の回天は全基命中したと認定され、空母3隻、戦艦2隻撃沈の戦果を挙げたと公表された。特に折田が、攻撃前に日本軍の偵察機が撮影した環礁内の写真に2隻の空母が写っていたが、攻撃後の偵察写真にその空母がいなくなっていたことを見て、空母撃沈を強く主張したことが、この過大戦果判定に大きく影響した。折田は攻撃前の撮影写真で確認できたのは正規空母ではなく護衛空母と認識していたが、撃沈されたミシシネワは、その外見が同じT2型油槽船から設計されたサンガモン級航空母艦と酷似しており、見間違えた可能性も指摘されている。 菊水隊編成 部隊名潜水艦名出撃日作戦海域搭載回天状況菊水隊 伊36潜 1944.11.8 ウルシー北泊地 4基-1基 菊水隊 伊37潜 1944.11.8 パラオ・コッソル水道 4基-1基 11.19沈没 菊水隊 伊47潜 1944.11.8 ウルシー南泊地 4基-4基
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