RSウイルス感染症とは? わかりやすく解説

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RSウイルス感染症

Respiratory syncytial virusRSV)は年齢問わず生涯にわたり顕性感染起こすが、特に乳 幼児期において非常に重要な病原体であり、母体からの移行抗体存在するにもかかわらず生後数週から数カ月の期間にもっとも重症症状引き起こすまた、低出生体重児や、ある いは心肺系に基礎疾患があったり、免疫不全のある場合には重症化リスク高く臨床上、 公衆衛生上のインパクト大きい。

疫 学
RSV感染症世界中存在し地理的あるいは気候的な偏りはないが、特徴的なことは、いずれの地域においても幼弱乳幼児でもっとも大きなインパクトがあることと、毎年特に都市部において流行繰り返すことである。流行通常急激な立ち上がりをみせ、2~5カ月持続するが、温帯地域においては冬季ピークがあり、初春まで続く。本邦においても、111月にかけての流行報告されている。熱帯地域では雨期流行を見ることが多い。
小児細気管支炎肺炎など、下気道疾患による入院数の増加のほとんどは、RSV活動 性一致する考えられている。もちろん、A型インフルエンザウイルス同時期に小児におけ る気道疾患増加する原因となるが、ピークは常に入院増加につながるとは限らず、ほとんどの場合は、RSV感染症インフルエンザの流行ピーク一致しないとされる
RSV乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎5090%を占めると報告されており、より年長小児においても気管支炎1030%に関与していると考えられている。一方呼吸器 症状のない患者から分離されることは滅多にない通常すべての新生児では母体からの移 行抗体母体同レベル認められるが、徐々に減少し、7カ月以降検出される抗体通常生後自然感染よるものである。しかしながら血中検出される抗体即座に感染防御を 意味せず、抗体存在している生後6カ月以内でもっとも重症化する。最初一年間5070%以上の新生児罹患し3歳までにすべての小児抗体獲得する肺炎細気管支炎など のRSVによる下気道症状は、ほとんどの場合3歳以下で、入院事例ピークは2~5カ月齢に あるが、最初の3~4週齢では比較少ない。また、年長児や成人における再感染普遍的に 見られるが、重症となることは少ない。

病原体

RSVParamyxovirus科のPneumovirus属に分類されるエンベロープを持つRNAウイルスであ り、直径80~350nmの球形、あるいはフィラメント状を呈するRSV感染により症状起こす自然 宿主は、ヒトチンパンジーウシであるが、無症状山羊や羊からも分離される。本ウイルス環境中では比較的不安定であり、凍結融解、熱(55)、界面活性剤クロロフォルムエーテル などで速やかに不活化される遺伝子配列はすでに決定されているが、分離株間かなりの差 違があり、大きくA型B型二つ分類できる主要な違いは、もっとも大きな表面の糖タンパ クであるG蛋白存在する一般にRSV流行では、これらの二つの型が同時に認められるが、 地理的季節的にこれらの比率は様々であり、これがそれぞれの流行において臨床的インパ クトが異な原因一つ考えられており、一般にA型の方が重症になるといわれている。
RSV環境中では比較的不安定ではあるものの、特に家族内では効率よく感染伝播すること が知られており、乳幼児とより年長小児のいる家族場合には、流行期間中家族44%が 感染したとする報告もある。概ね家族内に持ち込むのは、軽症の上気道炎症状を来した学童 年齢小児である。感染経路としては大きな呼吸器飛沫と、呼吸器からの分泌物汚染され手指物品介した接触主なものであり、特に濃厚接触を介して起こる。

臨床症状

RSV初感染は常に顕性であるが、軽症感冒症状から重症細気管支炎肺炎などの下気道疾患に至るまで、様々である。しかしながら初感染においては下気道疾患起こす危険性高く69%の乳児生後最初一年間RSV罹患するそのうちの1/3が下気道疾患起こす報告されている。2年目から4年目においても下気道疾患起こす比率20%超え無視できるものではないが、その重症度年齢を追う毎に減弱する。乳幼児早期には肺 炎細気管支炎が多いが、徐々に気管支炎病態呈するものが増加してくる。初感染病像として、上気道炎気管支炎場合でも症状比較的強い。特に1歳以下では、中耳炎合併がよくみられる生後4週未満ではRSV感染頻度は低いが、罹患した際には呼吸器症状を 欠く非定型症状をとることが多く診断の遅れにつながる。この年齢では、突然死につなが る無呼吸起きやすいことも報告されており、注意が必要である。
潜伏期は2~8日典型的には4~6日とされているが、発熱鼻汁などの上気道炎症状が数日 続きその後下気道症状出現してくる。発熱初期症状として普通に見られるが、入院時に は38下になるか、消失していることが多い。咳も主要な症状であるが、持続増悪する咳 は下気道疾患への進展示唆する。特に細気管支炎では喘鳴陥没呼吸呼吸困難みら れる聴診湿性乾性ラ音聞かれる細気管支炎肺炎鑑別は必ずしも容易ではなく、 またしばしば合併する罹病期間は通常7~12日で、入院例では3~4日改善してくるとされる が、ウイルスの排泄持続しガス交換の異常も数週間続くと考えられている。 胸部レントゲン上で種々のパターン見られる。もっとも典型的なのは間質性肺炎像と過 膨張であるが、air-trappingが唯一の有意な所見であることもある。肺胞陰影RSVによる下 気道疾患の1/4にみられるが、特に6カ月以下の乳児に多い。一般検査所見ではあまり特徴的 なものはなく、白血球数増加する例もあるが、RSV確定例の20%程度であり、白血球分画一 定の傾向はない。
RSVの再感染普遍的に認められ縦断的調査では毎年6~83%の小児が再感染経験 していると報告されている。通常軽症の上気道炎や気管支炎であるが、幼児では2050%以上の症例下気道疾患みられる成人ではいわゆる普通感冒起こすのみであるが、特に、 RSV感染した小児看護する保護者医療スタッフでは、気管支炎インフルエンザ様症状 をきたし、より重症になることがある。これは、初感染児より排出される大量ウイルス暴露 されるためと考えられている。また、RSV高齢者においても、急性のしばしば重症下気道 疾患起こす原因として重要になりつつあり、特に、長期療養施設内での集団発生問題となる。同様に免疫不全者における院内感染事例では症状重篤で、しかもある程度蔓延する まで診断つかないことが多く対策困難にしている。

病原診断
病原体診断は、呼吸器分泌物よりRSV分離するか、ウイルス抗原検出することによりなさ れる。鼻腔洗浄液では鼻咽頭拭い液よりも分離率はよいとされるが、このウイルスは熱、凍結融 解、pH塩濃度蛋白濃度などに不安定なため、適切な保存液を用い、氷冷して4℃迅速に 搬送しなければならない検体感受性のあるHEp-2細胞HeLa細胞接種することにより、 3~4日合胞体形態を示す特徴的な細胞変性効果を得ることができる。
近年酵素抗体法免疫クロマト法による抗原検出、あるいはPCR法による遺伝子検出での 迅速診断法が可能となり、キット市販されている。抗原検出による迅速診断キットとしては数種 類が利用可能であるが、感度特異度はいずれ7090%で、臨床有用考えられる血清学診断補体結合抗体酵素抗体法蛍光抗体法中和抗体などにより行われるが、 臨床上の価値高くない。これは、ペア血清必要なこととともに、特に臨床問題となる幼 若小児では抗体の上昇が見られないことがあること、年長児の再感染では有意な抗体上昇得られないことがあることによる


治療・予防
治療基本的に酸素投与輸液呼吸管理などの支持療法中心である。気管拡張剤 およびステロイド効果について多数臨床研究なされている。気管支拡張剤について は、限られた効果にとどまるか、あるいは効果がなかったとする報告が多いが、効果があった とする報告もあり、一定の見解得られていないステロイドについては、症例対照研究で効 果がなかったとの報告なされている。
米国唯一治療薬として認可されているのはリバビリンであり、微小粒子エアロゾルとして 吸入にて用いられる多数プラセボ対照研究において、重症度軽減酸素飽和度改善認められているが、米国小児科学会では、ハイリスク患者においてのみ考慮されるべきで あるとしている。RSV感染致死率は1~3%と報告されているが、状況によりかなりの差違が あり、基礎疾患、特に心肺疾患免疫不全、低出生体重、そして低年齢などが致死率上げ危険因子となる。1980年代心臓基礎疾患のある小児入院例の研究では、致死率37%と する報告がある。
予防のためのワクチン開発への努力30年続けられているが、過去不活化ワクチンに おいて、接種者が非接種者よりも重症になるという失敗経験もあり、依然として研究中である。 現在利用可能予防方法としては、ヒト血清由来の抗RSV免疫グロブリンと、遺伝子組み換え 技術用いて作成された、RSV表面蛋白一つであるF(Fusion蛋白対すモノクローナ ル抗体製剤であるパリビズマブPalivizumab)がある。後者日本においても、2001年1月承 認された。これは、RSV流行開始前から流行期の間、1回15mg/kgを1カ月毎に筋注することに より、予防効果期待できる

日本小児科学会では、本製剤適正な使用目的として使用に 関するガイドライン作成している(表)。適応として表に示すように、早産児慢性肺疾患を有 する小児について投与考慮すること、また、先天性心疾患有する生後24カ月以下の乳幼 児で、RSV流行開始時に心疾患治療受けている者、重度免疫不全状態の小児RSV院 内感染事例で、適切な対策実施して制御できない場合などにおいては根拠となるデータ がないが、使用考慮してもよいとしている。

表.パリビズマブ適応日本小児科学会雑誌106:1288, 2002

院内感染は、主に患者との濃厚接触分泌物汚染され表面への接触によるので、予防には標準予防策接触感染予防策推奨される。可能であれば患者隔離スタッフのコホーティングも有用である。ガウンマスク使用対照研究では、厳重な手洗いに勝る効果証明されていないが、院内感染率を低下させるとする報告もある。しかしながらRSVは鼻および眼からも感染する考えられており、通常の鼻と口を覆うマスクでは限られた効果しかな いとされる

感染症法における取り扱い
RSV感染症は5類感染症定点把握疾患であり、全国約3,000小児科定点医療機関から毎 週報告がなされている。報告のための基準以下の通りである。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの
 ・病原体検出
  例、ウイルス分離 など
 ・抗原検出
  例、迅速診断キットなど
 ・血清抗体検出
  例、中和反応補体結合反応 など

文 献
1)Hall CB. In: Text book of pediatric infectiou diseases 4th ed.WB Saunders 1998. 2084-2111.
2)加瀬哲男、他.病原微生物検出情報 Vol.21 No.2 February 2000
3)遠藤貞郎、他.病原微生物検出情報 Vol. 4 No.12 1983.
4)Meury S,et al. Eur J Pediatr. published at http://link.springer.de/link/service/journals/00431/on 23 April 2004.
5)Flores P, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. Published at http://link.springer.de/link/service/journals/10096/ on 13 November 2003.
6)Wyder-Westh C, ey al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 22(12):774-5, 2003.
7)七種美和子、他.感染症学雑誌77(6):443-450, 2003.
8)日本小児科学会パリビズマブ使用に関するガイドライン作成検討委員会」.日本小児科学会雑誌106(9)1288-1292、2002.
9)American Academy of Pediatrics. In: Red Book 2000. Report of the committee on infectious diseases, 25th ed, 483-487, 2000.
10American Academy of Pediatrics Committee on Infectious Diseases and Committee on Fetus and Newborn. Pediatrics. 1126 Pt 1):1442-6, 2003.

国立感染症研究所感染症情報センター 谷口清州

  





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