梅毒とは? わかりやすく解説

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梅毒


疫学
梅毒は世界中広く分布している疾患である。1943 年マホニーらがペニシリンによる治療成功して以来、本汎用によって発生激減したが、その後各国幾度か再流行見られている。1960 年代半ばには日本含め世界的な再流行見られた。最近では、日本では1987年米国では1990 年ピークとする流行見られたが、その後再び報告減少している。しかしながら今後とも楽観できないものと思われる
最近の状況については、感染症法の下での感染症発生動向調査によると、1999 年4~12 月には735 例、2000年1~12月には749例の報告なされている。

病原体  

病原体梅毒トレポネ-マ学名
Treponema pallidum subsp. pallidum)で、直径0.10.2 μ、長さ6~20 μの屈曲した6~14施転の螺旋状である(図1)。通常の明視光学顕微鏡では視認できず、暗視野顕微鏡観察される。青い色彩放つことからpallidum(英語のpale)の種名与えられている。

梅毒

1.梅毒トレポネーマ電子顕微鏡像(ネガティブ染色

現在、試験管内培養不可能で、維持その他には、ウサギ睾丸内で培養する以外に現実的方法はない。培養困難さもあって病原性機構は殆ど解明されていないが、哺乳類培養細胞への接着侵入能が確認されており、病原性との関連議論されている。1998 年に全ゲノムDNA 配列決定公開され、この接着能を担うと予想される遺伝子群が見つかっている。また、多く病原因子として働くヘモリジンの遺伝子が5 コピー発見されたが、実際に病原性関与する証拠はない。
低酸素状態でしか長く生存できないため、現実には感染形態経路限定される大部分は、排出している感染者後述第1 期、第2 期患者)との粘膜接触を伴う性行為疑似性行為よるものである。極めてまれには、傷のある手指多量排出汚染され物品接触して伝播されたとする報告もある。輸血による感染劇的に減少し近年ではほとんど報告がないが、これは保存血中での本生存期間についての研究が行われ、血液スクリーニング進んだ結果である。しかし、第一潜伏期感染者では臨床症状はなく、血清反応陰性であり、新鮮血用いた緊急輸血などがそれらのドナーら行われる場合には、感染可能性はある。これら以外に、感染した妊婦胎盤通じて胎児感染する経路があり、先天梅毒後述)の原因となる。


臨床症状
感染後3週間程度潜伏期第一潜伏期)を経て経時的様々な臨床症状逐次出現する
第1 期梅毒;(~3週)[感染部位病変初期硬結赤色)、硬性下疳局所リンパ腺症(非常に硬性)。
第2 期梅毒;(3~12 週)[血行性に全身移行梅毒性バラ疹(体肢対称性)、発熱倦怠感リンパ腺症、粘膜疹、扁平コンジローマ梅毒性脱毛髄膜炎頭痛など。この時期皮膚病変は梅毒に極めて特徴的なものであり、確定診断が最も容易である。
前期潜伏梅毒(1 年以内)、後期潜伏梅毒(1 年以降);無症状潜伏梅毒は時に第2 期症状再発起こすが、その殆どが1 年以内であるため、その時期を特に前期潜伏梅毒として区別することが多い。

第3 期梅毒;

1 )心臓血管梅毒;[心血管への移行](1030 年アフリカ人種以外では稀)大動脈瘤大動脈弁逆流冠状動脈狭窄

2 )神経梅毒変性梅毒);[中枢神経への移行

   

A)無症状期:(~2 年脳脊髄液中の白血球数、タンパクレベル上昇などのCSF異常のみの時期
B)急性梅毒髄膜炎:(~2 年頭痛錯乱
C)上部神経麻痺:(~2 年顔面聴覚神経麻痺
D )進行麻痺:(5~7年男性症例有意に多い)頭痛、めまい、人格障害血管障害など
E )脊髄癆:(1020年男性症例有意に多いが、ペニシリン治療の普及で現在では稀)進行性痴呆疲労感運動失調脊髄根部疼痛、無反射症、アーガイルロバートソン瞳孔反射性瞳孔硬直)など。
*D), E)の時期を特に「第4 期梅毒」として区別する研究者も多い。
F )ゴム腫:(~15 年ゴム腫結節性梅毒疹、などの肉芽腫単球浸潤

先天梅毒

1)早期先天梅毒出産後2 年)骨軟骨症、貧血肝脾腫神経梅毒症状
2)晩期先天梅毒2年以降角膜実質炎リンパ腺症、肝脾腫コンジローマ貧血ハッチンソン歯、聴覚神経障害内耳難聴)、回帰性関節症神経梅毒症状

病原診断
確定診断基本病原体分離検出であるが、第1期皮膚病変のある第2期場合除き、かなり困難である。臨床現場では、臨床症状血清反応組み合わせによって診断することが多い。ただし、第1 期症状現れても血清反応陽性化まで1週間程度の期間があるので、この時期には下疳などの病巣部から病原体検出積極的に試みる必要があり、実際検出されることも多い。具体的には、病巣部の浸出漿液をパーカーインキで染色して顕微鏡観察を行う。
血清抗体感染後初めに脂質であるカルジオリピンに対す抗体価上昇し次いでTreponema に対す特異的抗体価が上昇する抗カルジオリピン抗体感染治癒に応じて比較良く上昇下降するため、治療効果の判定にも利用される。しかし、抗原特異的なものではないため、生物学的偽陽性反応ありうる一方、抗Treponema 抗体特異性は高いが、治癒漸減はしても完全な陰性化は困難なため、過去の梅毒感染との区別がつきにくい。そこで、スクリーニングとして抗カルジオリピン抗体測定し陽性であった場合には(場合により期間をおき)、抗Treponema 抗体測定し、それでも陽性場合血清学確定診断とするのが現実的方法である。

治療・予防
基本的にペニシリンG大量投与であり、日本ではベンジルペニシリンベンザチン120 単位を2 ~4 週間にわたり内服する方法がよく行われるまた、アンピシリン使われることもある。
米国では筋注基本であり、神経梅毒場合には髄液中の濃度高めるため、さらに5倍量程度ペニシリン静注、さらに適宜ペニシリン排泄阻害剤併用している。ペニシリンアレルギーがある場合にはテトラサイクリンエリスロマイシン使用するが、これらの薬剤髄液への移行が悪い。したがって神経梅毒場合ペニシリン脱感作行ってペニシリン投与するのが勧められる妊婦に対して基本的に同様に行うが、胎児への副作用のためにテトラサイクリン使用しない妊婦ペニシリン治療行った場合新生児同時に治療できたと考えてもよいが、アレルギーのためにエリスロマイシン使用した場合には、本胎盤通過できないので、新生児出産後改め治療する必要がある。かつて使用されクロラムフェニコールは、副作用として重篤血液疾患ひき起こす場合があり、現在は使用されていない現在のところ、本対す薬剤耐性菌報告はない。
治療効果の判定には、抗カルジオリピン抗体減少臨床所見経時的追跡する抗カルジオリピン抗体の完全な陰性化は起こらないか、仮に起こるとしても長期間要するので、抗体価絶対値ではなく減少傾向があるかどうかをみることが重要である。
予防としては、感染者、特に感染力の強い第1 期及び第2 期感染者との性行為疑似性行為避けることが基本である。コンドーム使用効果が高いが、疫学データからすると淋菌感染症場合ほどには完全でないことが示唆されている。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
梅毒は5類感染症全数把握疾患定められており、診断した医師7日以内最寄り保健所届け出る届け出基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって検査所見による診断なされたもの。
病原体検出
 発しんからパーカーインクなどでT. pallidum が認められ場合
血清抗体検出(以下の(1)(2)両方該当する場合
 (1)カルジオリピンを抗原とする以下のいずれか検査陽性のもの
R P R カードテスト
凝集法
ガラス板
(2)T. pallidum を抗原とする以下のいずれか検査陽性のもの
TPHA 法
FTAABS
○無症候梅毒では、カルジオリピンを抗原とする検査16 倍以上陽性かつT. pallidum を抗原とする検査陽性のもの
先天梅毒は、下記5つのうち、いずれか要件をみたすもの
(1)母体血清抗体価比して、児の血清抗体価著しく高い場合
(2)血清抗体価移行抗体推移から予想される値を高く越えて持続する場合
(3)TPHAIgM 抗体陽性
(4)早期先天梅毒症状呈する場合
(5)晩期先天梅毒症状呈する場合
○以下の4 つ分類して報告する
1 .早期顕症梅毒
  ア.I 期梅毒
  イ.II 期梅毒
2 .晩期顕症梅毒
3 .無症候梅毒
4 .先天梅毒



国立感染症研究所細菌部 中山周一)



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