日本国内における諸問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/31 03:47 UTC 版)
「東アジア共同体」の記事における「日本国内における諸問題」の解説
地域共同体の成立のためには「ヒト」「モノ」「カネ」の移動に対する自由化が必要不可欠である。しかし現状においては、日中韓の間でそれらの移動に対する自由化の道は遠い。 日本政府は、 開かれた地域主義 ASEAN+3を基礎としながらも、機能的アプローチを通じてインド、豪州、ニュージーランド、米国等とも連携するいわゆるASEAN+6を指向する。 機能的アプローチ 地域の多様性を鑑み、当面は、FTA/EPAや、金融(チェンマイ・イニシアティブなど)、国境を越える問題等の地域協力を優先させる。 普遍的価値の尊重 複数政党制民主主義、市場経済(WTOルールの遵守など)、人権の尊重。 を基本的立場としている。2006年に首相に就任した安倍晋三はアジアの成長を取り込むべくアジア・ゲートウェイ構想を掲げており、域内各国との連携を一層強めていく事を示唆している。 また、有識者などによる東アジア共同体評議会(会長:中曽根康弘元首相)の創設など官民レベルでの議論も活発になってきており、その是非を問わず様々な意見が交わされている。多くの推進派 がいる一方、労働者移入による社会的コスト、米国との関係悪化、かつて日本が提唱した大東亜共栄圏の復活、中台関係への悪影響を懸念する声や、NAFTAへの加盟により価値観の近い米国などと共同体を形成すべきとする意見があるなど、慎重論・反対論も根強い。 このような中で、とりわけこの問題に敏感になっているのは農業関連の従事者や組織である。FTAの過程において構造改革を迫られる事が確実視される農業などの分野ではFTAに関して反対の声が非常に根強い。豪州とのEPA交渉の際の農業関係者の反応 がそれを如実に表している。特にコメ、麦、砂糖、肉、乳製品は、その生産に携わる農業従事者が就業人口のわずか4.3%に当たる約270万人にもかかわらず、5大政治品目と呼ばれ聖域視される。これらは豪州とのEPAにより発生する年約7900億円もの農業分野への損害(農林水産省試算)、自然・環境・文化保全など農業の多面的機能、食料安全保障といった観点から、日本の農業の保護を持続すべきとするものである。しかしこのような保護主義がその目的にとって最適な政策とする事を疑問視する声もある。農業保護は日本の経済成長の足枷になっている一面もあり、現実に、農業保護のためにこれまで日本の消費者は約10.8兆円の負担(日本政府試算)を強いられてきた。急速な高齢化によって労働と資本の投入量が減少していく日本の経済環境の現状を考慮すれば、過剰な保護政策の結果として非効率が蔓延した農業分野の構造改革は不可避であると指摘される。農業自由化により増加するであろう失業者に対する何らかの支援策は欠かせないが、価格支持政策 の撤廃に加え、耕作地合併による生産性の改善などを求めていく事で、結果的には消費者や納税者の負担を軽減する事ができる。また自由化に関しても、相当期間のタイムテーブルを用意した上で、競争力のある分野から自由化を進め、徐々に競争力の劣る分野へも移行するというような段階的なアプローチが重要になってくる。食料自給率の維持は国家の重要課題であるが、それは農業の担い手の確保や、農地拡大による生産性の向上などを通じて実現されるべきとする意見もあり、それらの人々は、むしろ経済連携協定を通して、凶作時の食料の融通を多くの国と約束しておくといった中長期的な観点からの視点の必要性を訴えている。 また、農業問題と共にしばしばFTAによる弊害として取り上げられるのが、労働市場の開放(いわゆる“ヒトの移動”)である。フィリピンとの2国間FTAからもわかる ように、日本国内では外国人労働者の受け入れに対する反対の声が根強い。人数制限や入国後の管理が困難な事、外国人犯罪の増加に因る社会問題の発生を懸念してのものである。 一方で、少子高齢化の進む日本では、労働人口の減少により消費市場も縮小する事が予測される。やがて来るこの現実を直視し、外国人労働者受け入れによって日本経済を持続的に成長させていくための対策を考える事も求められている。統計では2004年の時点で、日本と欧米の労働市場を比較すると、外国人就業者の比率は米国15%、ドイツ12%、フランス11%、英国10%となっているのに対し、日本は約1.5%と突出して低い。統計上では労働市場に関して言えば日本はまだ鎖国状態に近い事が窺えるが、現実は異なる。現時点で日本には約200万人の外国人が居住しており、半数以上が正式な就労入国査証は未取得ながらも就業していると推定されている。留学や就学、研修などの名目で入国し、いわゆる単純労働に就いている。日本国内でも業種によっては外国人の労働力に大きく依存している。この建前と現実の深刻な乖離の実態を踏まえ、専門的な知識を持つ高度人材・単純労働者の別け隔てなく、日本社会がどのように外国人を受け入れ、教育体制の整備などを通してどのような多文化共生の風土を築き上げていくのかについて、議論の必要性を説く声もある。日本政府はタイなどが求める 単純労働者受け入れの制度化には慎重であるが、経済財政諮問会議も2006年の「骨太の方針」で検討課題に挙げているように、経済界には積極的な対応を望む声がある。既に流入している外国人労働者と共生可能な社会を創る事は、将来、本格的に外国人を受け入れる際の基盤整備にも繋がる。 2007年は、日本の労働市場開放の先駆けとして、準高度人材である看護師や介護士が初めて日本にやって来る。日本の成長に貢献する可能性のある人材に対する認識を改め、入国に関する規制の緩和や労働先としての魅力を高めていく事も重要な課題の1つである。既に研究者・科学者・ITエンジニアなど高度な人材では世界各国で争奪戦が始まっているという現状も踏まえ、自由で活気に溢れる労働環境の整備や外国人に開かれた社会の構築など、総合的な戦略が問われる事になる。 2009年5月に民主党代表となった鳩山由紀夫は、演説や寄稿文などで「日米安保条約は外交の要」としながらも、友愛精神に基づいた「東アジア共同体」を提唱した。内容としては日本・中国・韓国を中心とした東アジアが集団安全保障体制を構築し、通貨の統一も実現すべきだ、とするものであるが、鳩山は「東アジア地域の安定を図るため、米国の軍に機能すべきだと思うが、(同時に)政治的・経済的にも影響力を行使し続けるのには、できる限り歯止めをかけたい」(『Voice』2009年9月号)と主張しており、米国の影響力を徐々に減らしていくべきという趣旨の主張をし、自らが政権を取った場合、東アジアの集団安全保障体制の構築や通貨の統一を積極的に進めていくと表明していた。しかしこれには、欧米の専門家からは領有権問題や経済格差などの要因から実現困難性が指摘され、また「オバマ政権は、論文にある反グローバリゼーション、反アメリカ主義を相手にしないだろう」「米政府の担当者が日本をアジアの中心に考えなくなり、G7の首脳らにも同意が得られないとしている。」などと相次いで批判がなされた。同時に日本国内からは、農業は保護政策を掲げながら自己矛盾もしているなどと批判された(詳細は友愛外交を参照)。 2010年9月10日、鳩山由紀夫前首相は、東アジア共同体構想に「ロシアも視野に入れる発想が求められている」と述べている。
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