ヘブライ語 言語分布

ヘブライ語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 09:37 UTC 版)

言語分布

2013年時点で、ヘブライ語話者は全世界に約900万人存在し[38]、そのうち700万人は流暢にヘブライ語を話すことができる[39][40][41]

2013年時点では、イスラエルにいるユダヤ人のうち90%はヘブライ語に堪能であり、70%は非常に堪能である[42]。イスラエルに住むアラブ人のうち約60%もヘブライ語に堪能であり[42]、30%はアラビア語よりもヘブライ語の方を流暢に操ることができる[43]。イスラエルの人口のうち53%がヘブライ語を母語としており、残りのほとんどの人々も流暢に話すことができる。ただし20歳以上のイスラエル人に限るとヘブライ語を母語とするものは49%にすぎず、そのほかの人々はロシア語アラビア語フランス語英語イディッシュ語、およびラディーノ語などを母語としていた。イスラエル内アラブ人のうち12%、および旧ソヴィエト連邦からイスラエルへ移民してきたユダヤ人のうち26%はヘブライ語をほとんどあるいはまったく話すことができない[42][44]

21世紀初頭において、ヘブライ語話者が多数を占める国家はイスラエル一国のみである。イスラエルにおいてヘブライ語はアラビア語とともに公用語の地位にあるが、同国内におけるユダヤ人とアラブ人の人口及び政治的・経済的影響力の差によって、ヘブライ語の影響力の方が強く、事実上唯一の公用語の地位を占めている状況にある。さらにベンヤミン・ネタニヤフ政権は2017年5月7日にアラビア語を公用語から外して「特別な位置付けが与えられた言語」に格下げし、ヘブライ語のみを「国語」とする閣議決定を行った[45]。このヘブライ語単独公用語化を含む基本法(憲法に相当)は2018年7月にイスラエル国会で可決され[46][47]、アラブ系国会議員の抗議と辞任[48]やアラブ系市民の抗議デモを引き起こした[49]

現代のヘブライ語事情に関しては、イスラエル国内のアラブ人、すなわちアラブ系イスラエル人、ならびに占領地におけるパレスチナ人は、ヘブライ語を非常に流暢に話している[50]。彼らのほうが、成人になってからウルパンというヘブライ語教室においてヘブライ語を少しだけ学ぶユダヤ系米国人たちよりもヘブライ語に堪能であると思われる。その背景として、ヘブライ語とアラビア語は、文字は異なるが、共にセム語派の言語であり、文法や語彙などにおいてかなり類似点があるからである。また、現代のパレスチナだけではなくイスラエル国内においても多数のアラブ系イスラエル人が居住し、イスラエル建国以前はアラブ人の都市や村落も多数あるため、アラビア語起源の人名や地名など固有名詞のヘブライ文字化も行われている。具体的には、アラビア語で「ようこそ」などを意味するاهلا وسهلا(アハラン・ワ・サハラン)はאהלן וסהלןとヘブライ文字化される。

現代ヘブライ語は近代言語として復活してから100年前後しか経っていないため地域的な分化が進んでいない[51]一方で、世界各地から絶えず移民が流入するため話者の出身国による訛りは多様なものとなっている[52]

ヘブライ語使用はイスラエル国内において定着しており、同国内の新刊書籍の約9割がヘブライ語書籍によって占められ、またヘブライ語による文学作品も多数発表されるようになり[53]、1966年にはヘブライ語作家であるシュムエル・アグノンノーベル文学賞を受賞した[54]

イスラエルにおいては、グローバリゼーションアメリカ化の風潮の中で、ヘブライ語を主な使用言語に保ち続け、またヘブライ語の語彙に英語の単語が大規模に取り入れられるのを防ぐためのさまざまな措置が取られてきた。ヘブライ大学に設置されているヘブライ語アカデミーは、英単語をヘブライ語の語彙の中に組み込む代わりに、現代の単語の意味を捉え、それに対応するヘブライ語の単語を見つけだすことによって、毎年約2000個の新しいヘブライ語の単語を創造している。ハイファ自治体は職員に対し公文書における英単語の使用を禁止させ、また民間事業においても英語のみの看板を使用することを阻止する動きを見せている[55]。2012年には、イスラエルのクネセト国会)においてヘブライ語の保存に関する法案が提案された。この法案には、イスラエル政府の公式発表と同様に、イスラエルにおけるすべての看板において、まず第一にヘブライ語を使用しなければならないという規定が含まれている。この法案を作成したMK Akram Hassonは、この法案はヘブライ語の「威信の低下」と、子供たちが多くの英単語を自らの語彙に取り入れたことへの対策として提案されたと述べた[56]


注釈

  1. ^ セファルディム式ヘブライ語 [ʕivˈɾit]; Iraqi [ʕibˈriːθ]; イエメン式ヘブライ語 [ʕivˈriːθ]; アシュケナジム式ヘブライ語の実際の発音[iv'ʀis]または[iv'ris]、厳密な発音[ʔiv'ris]または[ʔiv'ʀis]; 現代ヘブライ語 [ivˈʁit]
  2. ^ 舞台発音では[r]

出典

  1. ^ Sáenz-Badillos, Angel (1993). A History of the Hebrew Language. Cambridge University Press. ISBN 9780521556347. https://books.google.com/books?id=EZCgpaTgLm0C&pg=PA1 
  2. ^ H. S. Nyberg 1952. Hebreisk Grammatik. s. 2. Reprinted in Sweden by Universitetstryckeriet, Uppsala 2006.
  3. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Hebrewic”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/hebr1246 
  4. ^ 名尾耕作(著)『旧約聖書ヘブル語大辞典』3訂版、東京:教文館、2003年など
  5. ^ http://www.tufs.ac.jp/common/fs/ilr/contents/lang/hebrew.html ヘブライ語を学習できる学校
  6. ^ Berman (1997) p.312
  7. ^ 「ヘブライ語文法ハンドブック」p239 池田潤 白水社 2011年8月30日発行
  8. ^ シラ書』のギリシア語で書かれた序言(1:22)にΕβραϊστί「ヘブライ語で」が見られる。Joshua Blau. “Hebrew Language: Biblical Hebrew”. エンサイクロペディア・ジュダイカ. 8 (2nd ed.). p. 626. ISBN 9780028659282 
  9. ^ キリスト聖書塾(1985) p.388
  10. ^ a b 「ヘブライ語文法ハンドブック」p241 池田潤 白水社 2011年8月30日発行
  11. ^ The Oldest Hebrew Script and Language, Bible History Daily, (2018-04-01), https://www.biblicalarchaeology.org/daily/biblical-artifacts/inscriptions/the-oldest-hebrew-script-and-language/ 
  12. ^ Steiner (1997) p.145
  13. ^ McCarter (2004) p.319
  14. ^ a b c Steiner (1997) p.146
  15. ^ キリスト聖書塾(1985) p.389
  16. ^ 「ヘブライ語文法ハンドブック」p242-243 池田潤 白水社 2011年8月30日発行
  17. ^ McCarter (2004) p.320
  18. ^ McCarter (2004) p.321
  19. ^ McCarter (2004) pp.322-323
  20. ^ 「ヘブライ語文法ハンドブック」p244 池田潤 白水社 2011年8月30日発行
  21. ^ a b c 『図説 世界の文字とことば』 町田和彦編 66頁。河出書房新社 2009年12月30日初版発行 ISBN 978-4309762210
  22. ^ a b タガー・コヘン, アダ(Taggar-Cohen, Ada)、「聖書ヘブライ語と現代ヘブライ語 : アイデンティティーを求めて」『基督教研究』 2009年 71巻 1号 p.63-81, 同志社大学 研究紀要論文
  23. ^ a b 「ヘブライ語文法ハンドブック」p247 池田潤 白水社 2011年8月30日発行
  24. ^ 「日常語になった現代ヘブライ語」p116-117 鴨志田聡子(「イスラエルを知るための62章 第2版」所収 立山良司編著 明石書店 2018年6月30日第2版第1刷)
  25. ^ a b c 「ヘブライ語文法ハンドブック」p246 池田潤 白水社 2011年8月30日発行
  26. ^ 「物語 エルサレムの歴史」p165-166 笈川博一 中央公論新社 2010年7月25日発行
  27. ^ 「日常語になった現代ヘブライ語」p117 鴨志田聡子(「イスラエルを知るための62章 第2版」所収 立山良司編著 明石書店 2018年6月30日第2版第1刷)
  28. ^ 「事典世界のことば141」p272 梶茂樹・中島由美・林徹編 大修館書店 2009年4月20日初版第1刷
  29. ^ 「物語 エルサレムの歴史」p167 笈川博一 中央公論新社 2010年7月25日発行
  30. ^ 「物語 エルサレムの歴史」p166-167 笈川博一 中央公論新社 2010年7月25日発行
  31. ^ 「イスラエル文学」p256-257 樋口義彦(「イスラエルを知るための62章 第2版」所収 立山良司編著 明石書店 2018年6月30日第2版第1刷)
  32. ^ 「日常語になった現代ヘブライ語」p118 鴨志田聡子(「イスラエルを知るための62章 第2版」所収 立山良司編著 明石書店 2018年6月30日第2版第1刷)
  33. ^ Israel passes Jewish state law, enshrining ‘national home of the Jewish people’ 19 July 2018, 2:58 am - "The Times of Israel" Raoul Wootliff(英語)
  34. ^ イスラエル国会で「ユダヤ国民国家法」可決 アラビア語を公用語から除外 2018.7.19 18:36 - 『産経新聞』 佐藤貴生
  35. ^ 「ユダヤ人国家」法、イスラエル国会が可決 批判相次ぐ 2018年7月20日09時15分 - 『朝日新聞』 渡辺丘
  36. ^ 「日常語になった現代ヘブライ語」p118-119 鴨志田聡子(「イスラエルを知るための62章 第2版」所収 立山良司編著 明石書店 2018年6月30日第2版第1刷)
  37. ^ 「日常語になった現代ヘブライ語」p136 鴨志田聡子(「イスラエルを知るための62章 第2版」所収 立山良司編著 明石書店 2018年6月30日第2版第1刷)
  38. ^ Klein, Zeev (2013年3月18日). “A million and a half Israelis struggle with Hebrew”. Israel Hayom. http://www.israelhayom.com/site/newsletter_article.php?id=8065 2013年11月2日閲覧。 
  39. ^ The differences between English and Hebrew”. Frankfurt International School. 2013年11月2日閲覧。
  40. ^ Hebrew – UCL”. University College London. 2013年11月2日閲覧。
  41. ^ Why Learn a Language?”. 2013年11月2日閲覧。
  42. ^ a b c CBS: 27% of Israelis struggle with Hebrew – Israel News, Ynetnews”. Ynetnews.com (2013年1月21日). 2013年11月9日閲覧。
  43. ^ 'Kometz Aleph – Au': How many Hebrew speakers are there in the world?”. 2013年11月2日閲覧。
  44. ^ Some Arabs Prefer Hebrew – Education – News”. Israel National News. 2013年4月25日閲覧。
  45. ^ http://www.afpbb.com/articles/-/3127540 「イスラエル、アラビア語を公用語から外す法案を閣議決定」AFPBB 2017年05月08日 2017年6月21日閲覧
  46. ^ https://www.afpbb.com/articles/-/3183010?cx_part=search 「イスラエル議会、「ユダヤ国家法」採択 アラブ系住民排斥への不安高まる」AFPBB 2018年7月19日 2019年6月27日閲覧
  47. ^ https://www.sankei.com/world/news/180719/wor1807190024-n1.html 「イスラエル国会で「ユダヤ国民国家法」可決 アラビア語を公用語から除外」産経新聞 2018年7月19日 2019年6月27日閲覧
  48. ^ https://www.afpbb.com/articles/-/3184150?cx_part=search 「ユダヤ人国家法」可決に抗議、アラブ系国会議員が辞任 イスラエル」AFPBB 2018年7月29日 2019年6月27日閲覧
  49. ^ https://www.afpbb.com/articles/-/3185808?cx_part=search 「「ユダヤ人国家法」に抗議、アラブ系イスラエル人ら3万人デモ」AFPBB 2018年8月12日 2019年6月27日閲覧
  50. ^ Amal Jamal (2006年9月). “The Culture of Media Consumption among National Minorities: The Case of Arab Society in Israel”. I’lam Media Center for Arab Palestinians in Israel. 2014年6月29日閲覧。
  51. ^ 「ヘブライ語文法ハンドブック」p248 池田潤 白水社 2011年8月30日発行
  52. ^ 「ヘブライ語文法ハンドブック」p252 池田潤 白水社 2011年8月30日発行
  53. ^ 「イスラエル文学」p256-260 樋口義彦(「イスラエルを知るための62章 第2版」所収 立山良司編著 明石書店 2018年6月30日第2版第1刷)
  54. ^ https://www.nobelprize.org/prizes/literature/1966/summary/ 「The Nobel Prize in Literature 1966」ノーベル財団 2019年8月9日閲覧
  55. ^ Keeping Hebrew Israel's living language – Israel Culture, Ynetnews”. Ynetnews.com (2013年1月17日). 2013年4月25日閲覧。
  56. ^ Danan, Deborah (2012年12月28日). “Druse MK wins prize for helping preserve Hebrew | JPost | Israel News”. JPost. 2013年4月25日閲覧。
  57. ^ 『図説 世界の文字とことば』 町田和彦編 66-67頁。河出書房新社 2009年12月30日初版発行 ISBN 978-4309762210
  58. ^ Goerwitz (1996) p.487
  59. ^ Steiner (1997) p.147
  60. ^ Steiner, Richard (1993). “Emphatic פ in the Massoretic Pronunciation of אפדנו (Dan 11:45)”. In Haggai Ben-Shammai. Hebrew and Arabic Studies in Honour of Joshua Blau. Hebrew University. pp. 551-62 
  61. ^ a b Berman (1997) p.314
  62. ^ キリスト聖書塾(1985) p.28
  63. ^ キリスト聖書塾(1985) p.12,13,14,16
  64. ^ Berman (1997) p.316
  65. ^ McCarter (2004) p.326
  66. ^ Berman (1997) p.314
  67. ^ キリスト聖書塾(1985) p.21
  68. ^ キリスト聖書塾(1985) pp.35-36
  69. ^ McCarter (2004) pp.335-336
  70. ^ McCartar (2004) pp.336-337
  71. ^ キリスト聖書塾(1985) pp.210-212
  72. ^ Berman (1997) pp.330-331
  73. ^ McCarter (2004) pp.346-349
  74. ^ McCarter (2004) pp.547-548
  75. ^ Berman (1997) p.318
  76. ^ McCarter (2004) pp.352-355
  77. ^ Berman (1997) pp.320-322
  78. ^ McCarter (2004) pp.356-357
  79. ^ Berman (1997) p.323
  80. ^ Basic Word Order in the Biblical Hebrew Verbal Clause, Part 6 | Ancient Hebrew Grammar”. Ancienthebrewgrammar.wordpress.com. 2018^11-30閲覧。






ヘブライ語と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

ヘブライ語のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ヘブライ語のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのヘブライ語 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2022 GRAS Group, Inc.RSS