ベヒモスとは? わかりやすく解説

ベヒモス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/30 02:55 UTC 版)

ウィリアム・ブレイクの描いたベヒモス(中)とレヴィアタン(下)

ベヒモス英語: behemothヘブライ語: בְּהֵמוֹת bəhēmōṯ )は、『旧約聖書』の『ヨブ記』で語られる。同じく『ヨブ記』で語られるレヴィアタンと対比され、海と関連付けられるレヴィアタンに対して、陸の獣であるとされる。

その名前は「動物」と言う意味のヘブライ語בְּהֵמָה behemah」の複数形であり[1](聖書においても『ヨブ記』40章を除いてはその意味で使われており、野獣(beasts)などと訳される)、その巨大さからの、偉大なものや強大なものを単数であっても複数形で表す尊厳の複数Pluralis excellentiae)の表現であると考えられている[2]

日本語では「ベヒーモス」「ベヘモト」「ビヒーモス」「ビヒモス」「ベエマス」など様々なカナ表記が見られる。

一説には古代の豊穣のシンボルと関係があり[1]、また中世には悪魔と見なされることもあった。

イスラームの伝承に登場する巨大な魚バハムート[3]およびその上に乗ったウシのクユーサーはベヒモスの影響を受けていると言われる。

『旧約聖書』のベヒモス

1278年にウルムで発刊された聖書に描かれたベヒモス(左)。右にレヴィアタン、上にはジズが描かれている。

旧約聖書』「ヨブ記」において以下のように記述されている。

見よ、ベヘモットを。 お前を造ったわたしはこの獣をも造った。 これは牛のように草を食べる。

見よ、腰の力と腹筋の勢いを。
尾は杉の枝のようにたわみ 腿の筋は固く絡み合っている。
骨は青銅の管 骨組みは鋼鉄の棒を組み合わせたようだ。
これこそ神の傑作 造り主をおいて剣をそれに突きつける者はない。
山々は彼に食べ物を与える。 野のすべての獣は彼に戯れる。
彼がそてつの木の下や 浅瀬の葦の茂みに伏せると
そてつの影は彼を覆い 川辺の柳は彼を包む。
川が押し流そうとしても、彼は動じない。 ヨルダンが口に流れ込んでも、ひるまない。
まともに捕えたり 罠にかけてその鼻を貫きうるものがあろうか。

— 『ヨブ記』40章15-24節[4]

また、『詩篇』50章10節に「 בְּהֵמוֹת בְּהַרְרֵי־אָֽלֶף bᵊhēmôṯ bᵊharrê 'ālep̄ 」というフレーズがあり、欽定訳聖書などはこの בְּהֵמוֹת bᵊhēmôṯ を獣の一種として「the cattle upon a thousand hills」と訳すが、タルムードはこれを「千の山の上のベヒモス」であると解釈する(Bava Batra 74b 他)。

ベヒモスはゾウ、もしくはカバがモデルになったと考えられている[5]。日本語訳の文語訳聖書(1917)および口語訳聖書(1955)では「河馬」の語が充てられていた。その姿はカバもしくはサイに似た獣の姿で描かれることが多い。ユダヤの伝承ではウシであるとされ שור הבר shor habor[注 1](野牛)と呼称されることもある。

ベヒモスは元々はカバと同じ、あるいは数倍の大きさの生き物とされていたが、時代を経るにつれて体の大きさのイメージは巨大化していった[5][6]

『ヨブ記』においてベヒモスの説明の次にレヴィアタンの説明が続き、この二者はユダヤ・キリストの伝承では地に住むベヒモスと海に住むレヴィアタンとして二頭一対のものとして語られる(あるいは空に住むジズを加えて三頭一鼎)。ユダヤの伝承では両者は世界の終末に際して相争って共倒れとなり、その肉は義人のための食料となるとされる。また、レヴィアタンとベヒモスはかつてはそれぞれ雌雄がいた、あるいはレヴィアタンとベヒモスが雌雄の関係であるなど、両者についてはさまざまな伝承・聖書解釈が存在する。(詳しくはレヴィアタンを参照)

悪魔としてのベヒモス

コラン・ド・プランシー著『地獄の辞典』におけるベヘモスの挿絵

中世以降はサタンなどと同じ悪魔と見られるのが一般化した。本来のキリスト教の観念とは全く関係が無い。

悪魔としては、『旧約聖書』の内容から転じて、暴飲暴食を司り、ひいては貪欲を象徴する。なお、対のレヴィアタンが七つの大罪における「嫉妬」の対応悪魔であるため、ベヒモスが七つの大罪における「暴食」あるいは「強欲」に対応しているかのように説明されることがあるが、これは誤りである(「暴食」はベルゼブブ、「強欲」はマモン)。

中世ヨーロッパにおいては象[3]、もしくは象頭人身として描かれることが多い。

その他のベヒモス

トマス・ホッブズは『ベヒーモス』において、社会契約によって形成された理想的な国家コモンウェルス)体制をレヴィアタンに例え[7]、対照的に、現実の清教徒革命イングランド内戦やその下における長期議会といった混乱した国家状態をベヒモスに例えた。

関連文献

脚注

注釈

  1. ^ 現代ヘブライ語ではオーロックスを指す。

出典

  1. ^ a b 松平『図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』、253-254頁
  2. ^ Borges, Jorge Luis (2005) "El libro de los seres imaginarios" Emece Editores pp. 48-49.
  3. ^ a b ローズ『世界の怪物・神獣事典』、389頁
  4. ^ 新共同訳
  5. ^ a b ボルヘス、ゲレロ『幻獣辞典』、42-43頁
  6. ^ アラン『世界幻想動物百科 ヴィジュアル版』、56-57頁
  7. ^ 『リヴァイアサン』17章

参考文献

関連項目


ベヒモス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/22 07:48 UTC 版)

新・旭日の艦隊」の記事における「ベヒモス」の解説

コミック版のみに登場する第一次世界大戦後にヴァルビニア公国開発した全長12mにも及ぶ超重多砲塔戦車動力サイドバルブエンジン2基。履帯左右共に前後独立している為、その巨体似合わない高い機動性を持つ。主砲として5インチ速射砲を2門。副砲として2インチ速射砲7門、12.7mm機関砲多数備え劇中では「動く要塞」と評されている。コストがかかりすぎた為に生産試作車一台中断され完成した試作車はかつてヴァルビニアの兵器開発局があった「銀の洞窟」の奥に封印されていたが、ドイツへ反抗策としてヴァルビニア王室極秘裏に整備していた。

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