筆跡の特徴
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 16:30 UTC 版)
筆跡は、点と線の集合及び組み合わせによって構成されている。筆跡の鑑定では単にそれらの点や線を形態的に観察・検討するのではなく、筆跡から見出すこの出来る個性や筆記具などの影響にも考慮し、筆跡特徴を捉え、総合的判定を行うものである。 筆順 文字を書く際の順序については、文部科学省による筆順指導の手引によって一定の順序が定められている。しかし、実際には必ずしも手引きに従って万人が同じ筆順で書いているわけではないから、筆跡鑑定の観点では、筆順指導の通りか否かといった見方より,比較対照する文字同士が同じ筆順であるか否かといった、文字ごとに固有の特徴を検査することになる。 点画の構成 個々の文字ごとの点画の位置や角度、長さ、交差する位置など、組み合わされた点画の関係性によって、個人の特徴を発見することが出来る。 文字形態 個々の文字における点画の構成や、偏と旁などの構成部位の配置、濁点や半濁点の位置、縦横書式の違い、罫線や枠の有無など、同一条件下における書字行動の際の文字概観によって,書き記した個性を発見することができる。 筆勢 書字行動の、筆の勢い、速さ、力加減、滑らかさ、緩急抑揚などの筆使いを筆勢と言う。 自分が何を言いたいか分かるならすらすらかけることが多いが、考えながら書いていると筆記具が止まったり持ち上げることが多くなるので、別人のふりやでっち上げが疑われる場合もある。 筆圧 文字を書く筆記具で記載面に対して加えられた圧力。筆者識別の実務では主に点画の交差などを観察して筆順を導き出す検査が行われている。 筆圧に限らず、紙にはおかれてたものの痕跡が残りやすいので「執筆者の袖ボタンの跡」や「下書きの痕跡(同じ紙で書き直した場合)や、下書きに別の紙に書いた跡(重なった髪の上の方を下書きに使った場合)」があることもあり、このため言語そのものが重要な法言語学ではコピー(ファックス)の文章でも鮮明なら調査に使用できるが、文書鑑定をする場合は書字行動がなされた現物でないと筆圧などの紙の痕跡が分からないのでまともに鑑定の仕事ができないという。 誤字、誤用 文章中の誤字や誤用は、誤って習得したり、筆癖などによって正しくない文字を覚え込んでしまうと、執筆者独自の誤字、誤用となり、変化し難い固着したものとなることが多く、筆者識別上、有力な個人特徴ともなるが、この「誤字・誤用」を知る者が執筆者に代わり偽筆を行おうとすれば容易に真似できてしまうため、筆者識別の実務では慎重な観察が求められる。 一例に英語圏の場合、言語的なごまかしで一番多いのは「英語に慣れてない人間のふりをする(句読点を意図的に忘れるなど)」という物である。また誤字というほどではないが、英語に慣れた人間は筆記体で文章を書くことが多いので「活字体で文を書く」という偽装をする例も多い。 個人内変動 筆跡には執筆者における執筆時の個人差があり、これを「筆癖」や「特異性」として観察するため筆者識別が可能になるが、同一筆者が同じ文字を複数回執筆する場合において、点画の位置や長さ・角度などに変動が生じるのは当然避けられない。 個人内変動は、この「執筆時の変動の度合い」を同一筆者からの同字のサンプルを収集し、個々の執筆者の「個人内変動の範囲」を観察する必要がある。この「個人内変動の範囲」の観察作業が行われずに鑑定が行われると、一部の類似点や相違点に対して鑑定結果を求めるといった偏った鑑定になるため、精緻な鑑定書では必ず個人内変動について可能な限りの文字サンプルを集め詳細な説明がなされている。 ちなみに、個人が書字行動を行う際に、同一人が過去に執筆された文字と寸分違わぬ文字を執筆する可能性はあるが、氏名や住所など「文字列」として完成された筆跡が、まったく同じ状態で執筆される可能性はきわめて低く、この場合には「個人内変動」が無いのではなく、透かし書きなどの偽造の可能性が高いと考えられる。 筆者識別の実務においては「個人内変動の範囲」を観察する事は極めて重要な作業であるため、主観に頼らない観察作業が要求される。点画の観察はグリッド基準が設けられ、コンピュータによる角度計測や光学機材を使用した筆圧痕による筆順の検査と併せて、筆脈や意連・形連などを観察する人の目による従来の方法とのハイブリッドな検証が実施され判定が行われる。
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