龍
★1a.剣や槍などで龍を殺す。
『アーサーの死』(マロリー)第11巻第1章 旅の騎士ラーンスロットが、ある町を訪れ、人々の願いによって、エレーン姫を救い出し(*→〔熱湯〕1a)、礼拝堂の墓の下にいる龍と戦う。龍は口から火を吐き、ラーンスロットは苦戦の末に、剣をふるって龍の息の根を止める。
『黄金伝説』56「聖ゲオルギウス」 王の1人娘が、人喰い龍に人身御供として捧げられる。聖ゲオルギウスが騎馬で通りかかり、湖から出てきた龍を長槍で殺して娘を救う。ゲオルギウスはその地をキリスト教化して去る。
『黄金伝説』109「聖ドナトゥス」 聖ドナトゥスは、泉の毒龍を鞭で一撃して殺した。一説では龍の顎に唾を吐きかけた〔*類話に→〔唾〕1bの『黄金伝説』104「聖ペテロ鎖の記念」〕。
『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第13章 アイルランドの国を龍が荒らしまわり、王が、「龍を退治した騎士には娘を与える」と約束する。トリスタンが槍で龍の喉を貫き、剣を心臓に突き立てて殺す。彼は自分が龍を殺した証拠に、その舌を切り取って懐に入れる→〔舌〕2。
『ベーオウルフ』 ベーオウルフが怪物グレンデルとその母の女怪を退治し、イェーアト族(=スウェーデン南部を支配)の王となって50年が過ぎた。古塚に棲む龍が火を吐いて暴れ出し、国土を焼き払ったため、老王ベーオウルフは龍に戦いを挑み、従者ウィーイラーフの助けを得て、龍を斬り殺す。しかしベーオウルフも龍の牙で首をかまれ、死ぬ。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第1日第7話 7首の龍が毎日キリスト教徒を1人ずつ食う。チェンツォが剣を振って7つの首を1度に切り落とし、その日龍に食われるはずだった王女を救い、結婚する。
『黄金伝説』12「聖シルウェステル」 洞窟の龍が、毒の息で多くの人を殺した。聖シルウェステルが、聖ペテロの教えによって龍に説教し、その口を紐で縛り、十字架のしるしを彫った印章で封印した。
『黄金伝説』62「使徒聖ピリポ」 毒の息で人々を苦しめる龍にむかい、聖ピリポが「人の害にならぬ荒野へ行け」と命ずると、龍は去った。
『酉陽雑俎』巻14-536 亀茲国の数百戸の家から金や宝が紛失し、北山に住む龍のしわざだというので、国王阿主児が退治に行く。阿主児は、眠る龍を起こして上に乗り、「降参せぬと頭を斬り落とすぞ」と言う。龍は「王の乗物になるから許してくれ」と請い、阿主児はいつも龍に乗って出かけるようになった。
★2a.男が龍に化す。
『王書』(フェルドウスィー)第1部第6章「フェリドゥーン王」 フェリドゥーン王は、3人の王子の勇気を試すため、龍に変身して王子たちの前に立ちふさがる。長男(サルム)は逃げる。次男(トゥール)は弓に矢をつがえ、闘おうとする。三男(イーラジ)は「龍よ、消え失せよ。われらはフェリドゥーン王の王子だ。お前に勝ち目はない」と宣言する。龍は3人の王子たちそれぞれの性格を知り、去って行く。
*天皇が転生して大龍になる→〔転生と天皇〕4の『発心集』巻6-3。
『今昔物語集』巻3-7 羅漢と弟子僧が、大雪山(ヒマラヤ)の龍から供養を受ける。弟子僧は自分に出された食事が、師匠の食事に比べて粗末だったので怒り、その夜のうちに死んで悪龍と化し、暴れる。カニシカ王が塔を建て仏舎利を安置すると、悪龍は鎮まった。
『今昔物語集』巻3-8 天竺の牛飼いが、国王に献上すべき乳酪ができなかったため、責められる。牛飼いは怒り、身投げして死んで悪龍になる。悪龍は国を破り国王を殺そうとするが、仏に出会って悪心はおさまり、以後は仏法の守護者となった。
★2b.女が龍に化す。
『愚管抄』巻7 百川(ももかは)の宰相が、穴を掘って作った獄に、井上(ゐのかみ)の内親王(=光仁天皇皇后)を押しこめた。内親王は現身(うつしみ)に龍となって、百川を蹴殺した〔*『水鏡』下巻も、井上の后が現身に龍になったと記すが、百川については龍に殺されたとはせず、「にはかに亡せにき(急死した)」と記すのみ〕。
『華厳宗祖師絵伝』「義湘(ぎしょう)絵」 唐の港町に住む美女・善妙が、新羅から来た美男僧・義湘大師に、恋情を訴える。しかし義湘大師は、「我は仏戒を守る者。汝、恨むことなかれ」と説き、善妙はたちまち道心を起こす。義湘大師は長安の都で華厳の学を修得し、海路、新羅へ帰る。別れを惜しむ善妙は、義湘大師を追って海に身を投げる。善妙は巨大な龍と化し、その背に義湘大師の船を乗せて、新羅まで送り届けた。
*女が蛇と化して、美男僧を追う→〔逃走〕2の『道成寺縁起』。
★2c.剣が龍に化す。
『太平記』巻13「干将莫耶が事」 干将・莫耶が作った雌雄の2剣は(*→〔剣〕4)、代々の天子の宝だったが、ある時、行方不明になり、後に、土5尺に埋もれているのが発見された(*→〔光〕2c)。張華・雷煥という2人の臣が、この2剣を天子に奉るべく延平津(えんぺいしん)という沢辺を通った時、2剣は自ら抜け出て水中へ入り、雌雄2つの龍となって浪に沈んで行った。
★3a.龍に乗って去る。
『史記』「孝武本紀」第12・「封禅書」第6 龍があごひげを垂れ、天下って黄帝を迎えに来る。黄帝は龍にまたがり、群臣や後宮の女70余人が、従って龍に乗る。龍は天へ昇って去り、残余の臣下たちは乗ることができず、龍のひげに取りつく。龍のひげは抜け、はずみで黄帝の弓も地に落ちる。
『捜神記』巻1-12 鍛冶屋陶安公の使う火が天に舞い上がり、赤雀が来て「お前の鍛冶は天まで届いた。7月7日、お前を迎えに赤龍をよこす」と告げる。約束の日、陶安公は迎えに来た赤龍に乗り、東南へ去った。
『日本書紀』巻26斉明天皇元年5月 油を塗った青絹の雨具をつけた唐風の人が、龍に乗って空を駈けた。葛城山から生駒山へ飛び、住吉から西方へ去った。
★3b.龍の引く車に乗って去る。
『メデイア』(エウリピデス) メデイアは、イアソンとの間に生まれた2人の子を殺した後(*→〔子殺し〕6)、龍の引く車(=彼女が、父のまた父である太陽神ヘリオスから得たもの)に乗って、コリントスの町の上空に現れる。彼女は地上のイアソンに向かって、自分の行為の正当性を主張した後に、アテナイへ向けて飛び去った。
『秋夜長物語』(御伽草子) 三井寺の稚児梅若が天狗にさらわれ、吉野の大峯山・釈迦が嶽の石牢に、閉じこめられる。牢には大勢の男女が捕らわれており、その中の1人の翁は龍の化身だった。翁は梅若の涙をもとに大きな水の玉を作り、洪水を起こして牢を破り、皆を雲に乗せ神泉苑まで運んだ。
『今昔物語集』巻20-11 天狗のために洞穴に捕らわれた龍は、ともに捕らわれた僧の持つ水瓶の水を得て力を回復し、洞穴を蹴破って脱出する。
★5.龍の作り物。
『本朝二十不孝』(井原西鶴)巻3-3「心をのまるる蛇の形」 宇都宮の漆屋武太夫は、大隅川上流の水底に堆積した漆を見つけ出し、それを1人じめするため、誰も近づかないように龍の細工物を水中に沈める。ところがやがて龍に魂が入り、漆を取りに来た武太夫とその息子は命を落とす。
『米良の上漆』(昔話) 昔、日向の米良に、山の漆を取って渡世をする兄弟がいた。ある時、兄は谷川の淵の底にたくさんの漆を見つけたが、それを独り占めしようと、木製の龍の彫り物を浮かべて、弟を寄せつけないようにする。しかしいつのまにか龍に魂が入り、大きな口を開けて向かって来るので、兄も漆を取ることができなくなった。
★6.龍の持つ玉。
『荘子』「列御寇篇」第32 貧家の子が淵にもぐって千金の価の珠を取って来る。父は「千金の珠は深い淵の底、黒龍の頷の下にあるものだ。たまたま黒龍が眠っている時だったので、珠を取れたのだ。黒龍が目覚めれば、お前は喰われてしまっただろう」と言い、石で珠を砕くよう命ずる。
『竹取物語』 かぐや姫は、求婚する大伴御行の大納言に対し、龍の頸にある五色に光る珠を取って来るように請う。大納言は難波から船出し、龍を捜して筑紫の海まで漕ぎ行くが、激しい風浪と雷に翻弄され、播磨の明石の浜まで吹き戻される。
『史記』「高祖本紀」第8 下級役人だった頃の劉邦(高祖)は、王媼・武負の両店で、つけで酒を飲んだ。劉邦が酔い臥すと、いつも身体の上に龍がいた。劉邦が酒を飲む時には、店の売り上げが数倍になり、龍が現れるので、王媼・武負の両店は、つけを棒引きにした。
『ジャータカ』「近い因縁話」 悟りを開いた世尊は菩提樹の近くで数週間を過ごし、その後ムチャリンダ樹のもとへ赴いた。そこではムチャリンダ龍王が7重にとぐろを巻き、寒さなどから世尊を守ったので、世尊は仏の居室にいるごとくにして、解脱の楽しみを享受しつつ7日間を過ごした。
★8.龍の姿を見る。
『今昔物語集』巻24-11 滝口の侍の従者が、神泉苑の西で雷雨に遭い、暗闇の中に金色の手がキラリと光るのを見て、意識を失う。医師丹波忠明が、「龍の姿を見て病みついた人を治療するには、灰の中に埋めるしかない」と教え、従者を蘇生させる。
*神の姿を見る→〔神を見る〕1。
★9.龍の苦しみ。
『今昔物語集』巻11-15 海中に棲む龍族には、三熱の苦がある(熱風・熱砂に焼かれる苦、暴風に吹かれる苦、金翅鳥に喰われる苦。九つの苦があるとも言う)。ある時、龍王が仏像の眉間の珠を得た(*→〔海〕7a)。そのおかげで龍族は苦しみから逃れることができた。後に、人々が龍族のために『金剛般若経』を書写供養し、その功徳で三熱の苦は消えた。龍王は、不要になった珠を人間世界へ返した。ただし珠の光は、龍王が取ったので失われてしまった。
★10.龍の肉。
『聊斎志異』巻5-210「龍肉」 龍堆(楼蘭。新疆の砂漠地帯)の地を数尺掘ると、龍の肉が埋まっている。自由に切り取って食べてよいが、「龍」という言葉を発してはならない。「これは龍の肉だ」などと言おうものなら、たちまち雷鳴が起こり、その人を撃ち殺してしまう〔*その肉を食べた姜太史から、「私(蒲松齢)」はこの話を聞いた〕。
『手紙 一』(宮沢賢治) 激しい毒を持つ龍が、良い心を起こし、「悪いことをしない。すべてのものを悩まさない」と誓った。龍は猟師たちに皮を与え、虫たちに肉を与えて、死んでいった。龍は天上に生まれ、後には世界でいちばん偉い人・お釈迦様になって、みんなに一番の幸せを与えた。
*天皇が転生して大龍になる→〔転生と天皇〕4の『発心集』巻6-3。
*龍の鱗→〔弱点〕3の『韓非子』「説難」第12・〔龍王〕2の『封神演義』第12回。
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