素数
素数は、自然数のうち、その数そのものと「1」の他には正の約数が見出されない数のことである。
素数の「素」の字は「もと」とも読み、「もとになるもの」「何も加わっていない(加わる以前の)状態」という意味合いを示す語として用いられる。それ自体が根本であり、それ以上に遡れるものがない、という意味合いが見出せる。
1より大きい自然数ならば約数には「1」が必ず含まれる。その意味で、素数とは(正の)約数が2つのみ存在する自然数であるとも言い換えられる。
素数のうち最小の数は「2」である。最大の素数は特定されない。素数に上限はない(素数は無限にある)という事実は古代ギリシアにおいて既に証明されている。今日では2000万桁に及ぶ膨大な桁数の自然数から素数が発見されている。
桁数が1万桁を超えるような素数は「巨大素数」と呼ばれている。なお「29と31」のように差が2である素数の組み合わせを「双子素数」という。
ある数(自然数)の約数となる素数を「素因数」といい、自然数を素数(素因数)の積に分解することを「素因数分解」という。特定の自然数に対する素因数分解の結果は必ず1通りに限定される。数が巨大になればなるほど素因数分解の難度も上がり、数百桁レベルの数となると今日の電子計算機を用いても複雑かつ膨大な演算処理が必要となる。この素因数分解の「容易には解けない」性質は、公開鍵暗号方式に利用され、データ通信における暗号化技術として長らく利用されてきた。
そ‐すう【素数】
素数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/27 22:35 UTC 版)
素数(そすう、英: prime あるいは prime number)とは、2 以上の自然数で、正の約数が 1 とその数自身のみであるもののことである。正の約数の個数が 2 である自然数と言い換えることもできる。1 より大きい自然数で素数でないものは合成数と呼ばれる。
日本では、英: prime number の日本語への訳語は「素数」とすることが1881年(明治14年)に決まった[1][2]。和算では素数のことを単数と呼んでいた[3]。
一般には、素数は代数体の整数環の素元として定義される(そこでは反数などの同伴なものも素数に含まれる)。このため、有理整数環
紀元前1600年頃のエジプト第2中間期において、素数の初等的な性質が部分的に知られていたことが、リンド数学パピルスなどの資料によって示唆されている。例えば分数をエジプト式分数で表す場合、素数と合成数の場合で異なる計算をしなければならないからである。しかし、記録に残っている限りにおいて、明確に素数を研究対象としたのは古代ギリシアが最初である。紀元前300年頃に書かれたユークリッドの『原論』には、素数が無数に存在することや、その他の素数の性質が証明されている。また、彼はメルセンヌ素数から完全数を構成する方法を示している。ギリシアの数学者、エラトステネスに因んで名付けられたエラトステネスの篩は、素数を列挙するための計算方法である。
古代ギリシア時代の後、17世紀頃までの長い間、素数の研究にはあまり進展が見られなかった。1640年に、ピエール・ド・フェルマーは「フェルマーの小定理」を述べた(未証明)。この定理は後にライプニッツとオイラーによって証明された。

素数が高密度に集まった対角線、水平線、垂線が見て取れる。素数の分布が極めて難解であるために、この素数のパターンが示す事実については未だに明らかにされていない。
素数が無数に存在することは既に古代ギリシア時代から知られていて、ユークリッドが彼の著作『原論』[21]の中で証明している。
ユークリッドによる証明
- 『原論』第9巻 命題20[21]
- 素数の個数はいかなる定められた素数の個数よりも多い。
- 定められた個数の素数を p1, p2, …, pn とせよ。p1, p2, …, pn より多い個数の素数があると主張する。
- 『原論』による証明[注釈 2]
- 定められた素数の個数が n 個であるとき、n 個の素数を小さい順番に並べて i 番目の素数を pi とする。
- 1 < p1 < p2 < … < pn.
- このとき、n 個の素数をすべて掛け合わせた数に 1 を加えた数を q とすると、
- q = p1 × p2 × … × pn + 1.
- q は有限個の自然数の積に 1 を加えた数なので 1 より大きい自然数である。ゆえに、q は素数または合成数のどちらかである。
- q が素数のとき、q は最大の素数 pn より大きい素数になるので、定められた個数の素数よりも多くの素数が存在する。
- q が合成数のとき、q を割り切る素数が存在する。一方、q の定義より、すべての pi で割った余りは 1 になるので、q はすべての pi で割り切れない。したがって、すべての pi 以外に素数が存在する。すなわち、定められた個数の素数よりも多くの素数が存在する。(証明終)
- 1878年、クンマーは q = p1 × p2 × … × pn + 1 の代わりに q = p1 × p2 × … × pn − 1 を考えても同様に証明できることを示した。
- 例
- 自然数の有限集合 A の全ての要素を掛け合わせた自然数を f(A) とする。
- 定められた個数の素数からなる集合を A3 = {2, 3, 5} とするとき、f(A3) = 2 × 3 × 5 + 1 = 31 は素数なので、新しい素数 31 が得られる。したがって、定められた個数より多くの素数が存在する。
- 定められた個数の素数からなる集合を A4 = {2, 3, 5, 31} とするとき、f(A4) = 2 × 3 × 5 × 31 + 1 = 931 = 7 × 7 × 19 なので、新しい素数 7 と 19 が得られる。したがって、定められた個数より多くの素数が存在する。
他の証明
上記のユークリッドによる証明以外にも、素数が無数に存在することの証明方法が存在する。
- 素数の逆数の和が発散することを利用した証明[注釈 3](#素数の逆数和を参照)
- 2つの異なるフェルマー数が互いに素であることを利用した証明[注釈 4]
- 整数の集合に、等差数列の族を開基とする位相を入れる証明[注釈 5]
- n ≥ 2 に対して、n(n + 1) は少なくとも相異なる2個の素因数を持つことを利用した証明[注釈 6](サイダックによる)
素数判定と素因数分解
与えられた自然数 n が素数であるか合成数であるかを判定するためのアルゴリズムが多数考案されている。最も素朴な方法は、2 から √n 以下の素数まで順番に割っていく、試し割り法と呼ばれる方法である。n が √n 以下の全ての素数で割り切れなければ n は素数である。試し割り法は、n が大きくなるに従って、急速に速度が低下するため、実用的ではない。任意の数に適用できる試し割り法よりも高速なアルゴリズムが考案されている。また、特殊な形をした数に対してはより高速なアルゴリズムも存在する。素数判定は、与えられた数が素数であるか否かだけを判定するものであるが、素因数分解とはより強く、与えられた数の全ての素因数を列挙することであるとも言える。
上記の通り2を除く偶数、2桁以上で末尾が5の数、数字和が3の倍数となる数は合成数と分かるのでそれを省き、7以上の素数を順番に割る方法がある。
分布
ある自然数までにどのくらいの素数があるのかという問題は、基本的だが非常に難しい問題である。 これに関して、次の素数定理は有名である。この定理は1896年に、アダマールとド・ラ・ヴァレ・プサンによって独立に証明された。
x 以下の素数の個数を π(x)(素数計数関数)とすると、
- この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。(2024年7月)
固定ギア自転車のスプロケットやチェーンリングの歯数を素数にすることでスキッドポイントと呼ばれる摩耗点を分散化させてタイヤの寿命を向上させることができる。また、自転車や内燃機関など入力に脈動がある動力の歯車を素数にすると摩耗点が分散され歯車の寿命が向上する。
自然界の素数
自然界に現れる素数の一例として、素数ゼミと呼ばれるセミの一種がいる。アメリカ合衆国に分布するこのセミの成虫は、ある周期ごとに、13年ないしは17年間の周期で大量発生する。成虫になった後は、数週間だけを地上で成虫として過ごし交配と産卵を行う。このセミが素数周期で発生する理由として、寄生虫や捕食者に対抗するための進化であるという説や近縁種との交雑を避けるためであるという説がある。つまり、もしこのセミが12年の発生周期を持っていた場合、12の約数である2, 3, 4, 6年の寿命を持つ捕食者と同時に発生してしまうことになり、捕食対象にされやすくなる。また、地理的に近い場所で12年周期と15年周期のセミが存在した場合、60年ごとに2種は同時に発生し、交雑してしまう可能性がある。すると、雑種は発生周期がずれてしまい、同種のセミとの交尾の機会が失われる。素数の周期を持つものは交雑が起こりにくく、淘汰されにくいと考えられる[41]。
また、ゼータ関数上の零点の分布の数式が、原子核のエネルギー間隔を表す式と一致することを示し、素数と核物理現象との関連性が示唆されている。
→詳細は「リーマン予想」を参照コンピュータゲーム
パナソニック株式会社が2011年にリリースしたiPad用アプリケーション「Panasonic Prime Smash!」は空中に打ち上げられたボールに書かれた数字が素数であればタップして得点、合成数であればスワイプすることで割り算し、素数になったらタップして得点にするゲームである[42]。第15回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門の審査委員会推薦作品に選ばれ[43]、第6回企業ウェブグランプリ スチューデント部門特別賞を受賞した[44]。
2016年にイギリスの数学者クリスチャン・ローソン=パーフェクトが公開した「これは素数ですか? (Is this prime?)」は、画面に表示される数字を素数と合成数に仕分けるゲームで、2021年7月にプレイ回数が300万回を突破した[45]。このゲームのプログラムにはミラー–ラビン素数判定法が組み込まれている[45]。
連続素数
連続素数和
連続数 数 参照 含まれる素数列 25, 8, 12, 18, 24, 30, 36, 42, 52, 60, 68, 78, 84, … A001043 310, 15, 23, 31, 41, 49, 59, 71, 83, 97, 109, … A034961 A034962 417, 26, 36, 48, 60, 72, 88, 102, 120, 138, 152, … A034963 528, 39, 53, 67, 83, 101, 119, 139, 161, 181, … A034964 A034965 641, 56, 72, 90, 112, 132, 156, 180, 204, 228, … A127333 758, 75, 95, 119, 143, 169, 197, 223, 251, 281, … A127334 A082246 877, 98, 124, 150, 180, 210, 240, 270, 304, … A127335 9100, 127, 155, 187, 221, 253, 287, 323, 363, … A127336 A082251 10129, 158, 192, 228, 264, 300, 340, 382, 424, … A127337 11160, 195, 233, 271, 311, 353, 399, 443, 491, … A127338 A127340 12197, 236, 276, 318, 364, 412, 460, 510, 562, … A127339 13238, 279, 323, 371, 423, 473, 527, … A127341 連続素数積
連続数 数 参照 26, 15, 35, 77, 143, 221, 323, 437, 667, 899, 1147, 1517, 1763, … A006094 330, 105, 385, 1001, 2431, 4199, 7429, 12673, 20677, 33263, 47027, … A046301 4210, 1155, 5005, 17017, 46189, 96577, 215441, 392863, 765049, … A046302 52310, 15015, 85085, 323323, 1062347, 2800733, … A046303 630030, 255255, 1616615, 7436429, 30808063, 86822723, … A046324 7510510, 4849845, … A046325 89699690, 111546435, … A046326 9223092870, 3234846615, … A046327 106469693230, 100280245065, … A127342 11200560490130, 3710369067405, … A127343 127420738134810, 152125131763605, … A127344 →各連続素数積の最初の数については「素数階乗」を参照素数砂漠
自然数で素数でないものが連続している区間を「素数砂漠」という。例えば{24, 25, 26, 27, 28} は「長さ 5 の素数砂漠」である。素数砂漠を挟む2個の素数は 3 以上であるため、共に奇数である。このことから、素数砂漠の長さは必ず奇数である。いくらでも長い素数砂漠が構成できる(#分布を参照)。
初めから60個の素数の間隔は[46]
- 1, 2, 2, 4, 2, 4, 2, 4, 6, 2, 6, 4, 2, 4, 6, 6, 2, 6, 4, 2, 6, 4, 6, 8, 4, 2, 4, 2, 4, 14, 4, 6, 2, 10, 2, 6, 6, 4, 6, 6, 2, 10, 2, 4, 2, 12, 12, 4, 2, 4, 6, 2, 10, 6, 6, 6, 2, 6, 4, 2, …
→詳細は「素数の間隔」を参照脚注
注釈
- ^ どの素数も他の自然数の積では表せないためこれ以上小さい生成系は存在しない。
- ^ ユークリッドによる証明では、変数・数式・任意の個数を示すパラメーター n を使用せずに、定められた個数が 3個の素数 Α, Β, Γ の場合に証明している。これを「準一般的」な証明という。詳細は素数が無数に存在することの証明#ユークリッドを参照。
- ^ レオンハルト・オイラーによる。現代的な用語で言えば、リーマンゼータ関数のオイラー積表示を用いる[22]。
- ^ ジョージ・ポーヤによる[22][23]。
- ^ ヒレル・ファステンバーグによる。en:Furstenberg's proof of the infinitude of primesを参照。
- ^ 素数が無数に存在することの証明#サイダックを参照[24]。
- ^ 『天書の証明』第1章[23]を参照。原論文は Erdös, P. (1938-07), “Über die Reihe ∑ 1/p” (German) (pdf), Mathematica, Zutphen B: 1-2。
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- ^ a b Caldwell et al. 2012。古代ギリシアについては pp.3-4、アラビアについては p.6 を参照。
- ^ 例えば David E. Joyce's のユークリッド原論についてのコメンタリー Book VII, definitions 1 and 2 を参照。
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- ^ Caldwell et al. 2012, pp. 7–13。特にStevin、Brancker、Wallis、Prestetの項を参照。
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- ^ φ関数についてはSierpiński 1988、p. 245を参照。約数関数についてはSandifer 2007、p. 59を参照。
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関連項目
外部リンク
- The Prime Page
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- prime number in nLab
- prime - PlanetMath.
- Hazewinkel, Michiel, ed. (2001), “Prime number”, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4
素数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 03:05 UTC 版)
自分自身と 1 以外の約数を持たない 1 より大きな (= 1 以外の)自然数を素数という。無限に存在する。小さい方から列挙すると次の通りである。 2, 3, 5, 7, 11, 13, … メルセンヌ数、フェルマー数も参照。
※この「素数」の解説は、「自然数」の解説の一部です。
「素数」を含む「自然数」の記事については、「自然数」の概要を参照ください。
素数
「素数」の例文・使い方・用例・文例
- 素数
- 素数が割り切れないこと
- 素数である特性
- 素数の組は無限である
- 座標で表現すると非常に複雑なフラクタル境界をもつ複素数のセット
- 実数部が同じであり、虚数部の符号だけが異なる2つの複素数のどちらか
- 因数として−1の平方根を持つ複素数の部分
- 複素数の絶対値
- 二つの複素数が相互に転換しうる特殊な関係にあること
- 複素数を目盛った平面
- 複素数を関数値とする関数
- 双子素数という,ともに素数である隣りあう二つの奇数
- 複素平面上で,複素数と原点を結ぶ直線が,実数軸の正の方向となす角
- 素数の因数
- 素数でない整数
- 直交座標に複素数を目盛った平面
- エラトステネスの篩という,素数を見い出す方法
素数と同じ種類の言葉
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