半群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/08 14:39 UTC 版)
代数的構造 |
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抽象代数学における半群(はんぐん、英: semigroup)とは、結合法則を有するマグマである。「半群」という名は群に由来する。群と異なり、単位元の存在や、逆元の存在は必須ではない。
半群の演算は多くの場合乗法的に書く(順序対 (x, y) に演算を施した結果を x • y あるいは単に xy と表す)。
半群について本格的な研究が行われるようになるのは20世紀に入ってからである。半群は、「無記憶」系 ("memoryless" system) すなわち各反復時点でゼロから開始される時間依存系 (time-dependent system) の抽象代数的な定式化の基盤であり、数学の様々な分野において重要な概念となっている。応用数学においては、半群は線型時間不変系の基本モデルである。また偏微分方程式論では、半群は空間発展的かつ時間非依存な任意の方程式に対応している。有限半群論は1950年代以降、有限半群と有限オートマトンとの間の自然な関連性から、理論計算機科学の分野で特に重要となっている。確率論では半群はマルコフ過程に関連付けられる (Feller 1971)。
定義
集合 S とその上の二項演算 • : S × S → S の対 (S, •) が結合律(結合法則)を満たすとき、これを半群という。S を半群 (S, •) の台集合とよぶ。
- 結合律
- S の各元 a, b, c に対して、等式 (a • b) • c = a • (b • c) が成り立つ。
また誤解のおそれがなければ「半群 S」のように台集合と同じ記号で半群を表す。
台集合が有限集合である半群を有限半群 (finite semigroup) または有限位数を持つ半群 (semigroup with finite order)、台集合が無限集合である半群を無限半群 (infinite semigroup) または無限位数を持つ半群 (semigroup with infinite order)という。
半群の例
- 空半群: 空集合は空写像を演算として半群を成す。半群の定義に台集合が空でないことを課して、空半群を除外することもある。
- 一元半群: 一元集合 {a} に aa = a で演算を定めたものは、ただひとつの元からなる半群となる。これは(同型の違いを除けば)本質的に一つしか存在しない。しばしばこれを自明半群 (trivial semigroup) と呼ぶ。
- 二元半群: 台集合が2元からなる半群は同型を除いて5種類の異なったものが存在する。
- 正の整数全体の成す集合 N は加法に関して半群を成す。
- 非負正方行列(すべての成分が非負であるような正方行列)の全体に行列の積を与えたものは半群を成す。
- 第一列が全て0であるような2次正方行列全体に行列の積を与えたものは半群を成す。
- 任意の環のイデアルは環の乗法に関する半群である。
- 文字集合 Σ を固定して、その上の有限文字列全体を考えると、文字列の連接を演算とする半群が得られる。これを Σ 上の自由半群という。空文字列をも含めて考えるとこの半群は Σ 上の自由モノイドとなる。
- 確率分布 F に対して、F の畳み込み冪全体の成す集合に畳み込みを演算として考えたものは半群を成す。これは畳み込み半群 (convolution semigroup) と呼ばれる。
- 任意のモノイドは単位元を持つ半群である。
- 任意の群は各元が逆元を持つモノイドである。
- 繰り込み群は、繰り込み変換からなる半群である(群ではないが慣用的にこのように呼ばれる)。
基本的な概念
単位元と零元
任意の半群が持つことのできる単位元は高々ひとつである(これは任意のマグマについても成り立つ)。単位元を持つ半群は、単位的半群あるいはモノイドと呼ばれる。半群 S にS のどの元とも異なる元 e を添加して S ∪ {e} の各元 s に対して es = se = s と定めることによって、半群をモノイドに埋め込むことができる。S に単位元を添加して得られるモノイドを S1 で表し、S の単位元添加あるいは 1-添加と呼ぶ(誤解のおそれがなければ、S の 1-添加も同じ記号 S で表すこともある)。したがって、任意の可換半群をグロタンディーク構成を通じて群に埋め込むことができる。
任意のマグマが持ちうる吸収元は高々一つであり、半群ではそれを零元と呼ぶ。零元を持たない半群 S に S に属さない元 0 を添加して、零元付き半群 S0 に S を埋め込むことができる。S0 を S の零元添加あるいは 0-添加と呼ぶ。
部分半群とイデアル
半群 (S, ∗) の部分集合 A, B が与えられたとき、A ∗ B (あるいは単に AB) で表される S の部分集合を
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