可換環
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/17 01:59 UTC 版)
代数的構造 → 環論 環論 |
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数学、特に抽象代数学の一分野である環論における可換環(かかんかん、英: commutative ring)は、その乗法が可換であるような環をいう。可換環の研究は可換環論あるいは可換代数学と呼ばれる。
いくつか特定の種類の可換環は以下のようなクラスの包含関係にある。
導入
定義
環 R は加法 "+" と乗法 "⋅" という二種類の二項演算(つまり任意の二元を結合して第三の元 a + b や a ⋅ b を与える操作)を備えた集合である。環を成すためにはこれら二つの演算がいくつかの適当な性質を満たさねばならない。即ち、環 R は加法についてアーベル群を成し、乗法に関して単位的半群を成し、かつ乗法は加法に対して分配的(つまり a ⋅ (b + c) = (a ⋅ b) + (a ⋅ c))である。加法および乗法の単位元はそれぞれ 0 および 1 で表される。
この時さらに乗法が可換律
- a ⋅ b = b ⋅ a
をも満たすならば、環 R は可換であると言う。以後、本項で扱う環は特に断りのない限りすべて可換であるものとする。
簡単な例
重要かついくつかの意味で重大な例は、整数全体 Z が通常の加法と乗法に関して成す環である。整数の乗法は可換な演算だから、これは可換環である。これをふつう Z と書くのはドイツ語で「数」を意味する Zahlen の略からである。
可換体は任意の非零元 a が可逆である、つまり a ⋅ b = 1 を満たす乗法逆元 b を持つような可換環をいう。従って定義により任意の可換体は可換環を成す。有理数の全体、実数の全体、複素数の全体はそれぞれ体を成す。
二次正方行列全体の成す環は可換でない。行列の乗法が可換でないことは、例えば
Z のスペクトル 素イデアルは、環 R の素イデアル全体の成す集合である環のスペクトル Spec R [nb 1]を通じて、環を「幾何学的」に解釈するための鍵となる概念である。既に述べたように、零でない任意の環は少なくとも一つの素イデアルを持つから、スペクトルは空でない。R が体ならば唯一の素イデアルが零イデアルであるから、そのスペクトルも一点からなる。一方、有理整数環 Z のスペクトルは零イデアルに対応する一点のほかに、(素イデアル pZ を生成する)各素数 p に対応する点を持つ。スペクトルにはザリスキー位相と呼ばれる位相が入っている。これは環の各元 f に対して部分集合 D(f) = {p ∈ Spec R : f ∉ p} が開となるものとして定義される位相である。この位相は解析学や微分幾何学に見るような位相とは異なり、例えば一点集合が一般には閉にならなかったりする。また例えば、零イデアル 0 ⊂ Z に対応する点の閉包は Z のスペクトル全体に一致する。