分数イデアル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/09 06:33 UTC 版)
数学、特に可換環論において、分数イデアル(英: fractional ideal)の概念は整域の文脈で導入され、特にデデキント整域の研究において成果が多い。ある意味で、整域の分数イデアルは分母が許されたイデアルのようなものである。分数イデアルと普通の環のイデアルがともに議論に出てくるような文脈では、明確にするために後者を整イデアル (integral ideal) と呼ぶこともある。
定義と基本的な結果
R を整域とし K をその分数体とする。R の 分数イデアルは K の 0 でない R-部分加群 I であって、0 でない r ∈ R が存在して rI ⊆ R となるようなものである。元 r は I の分母をはらっていると考えることができる。単項分数イデアル (principal fractional ideal) は K のただ一つの 0 でない元によって生成される K のそのような R-部分加群である。分数イデアル I が R に含まれるのはそれが R の('整')イデアルであるとき、かつそのときに限る。
分数イデアル I は次のようなとき可逆 (invertible) であると言う。別の分数イデアル J が存在して IJ = R (ただし IJ = {a1b1 + a2b2 + ⋯ + anbn : ai ∈ I, bi ∈ J, n ∈ Z>0} で、これは二つの分数イデアルの積 (product) と呼ばれる)。このとき、分数イデアル J は一意的に定まり、一般化であるイデアル商 に等しい:
可逆分数イデアルの集合は単位イデアル R 自身を単位元として上記の積に関してアーベル群をなす。この群は R の分数イデアルの群と呼ばれる。単項分数イデアルは部分群をなす。分数イデアルが可逆であるのはそれが R-加群として射影的であるとき、かつそのときに限る。
K のすべての有限生成 R-部分加群は分数イデアルであり、R がネーター環ならばこれらが R の分数イデアルのすべてである。
デデキント整域
デデキント整域において、この状況ははるかに単純である。特に、すべての分数イデアルは可逆である。実はこの性質はデデキント整域を特徴づける。整域がデデキント整域であるのはすべての分数イデアルが可逆であるとき、かつそのときに限る。
分数イデアルの群を単項分数イデアルからなる部分群で割った商群はデデキント整域の重要な不変量であり、イデアル類群と呼ばれる。
因子的イデアル
によって分数イデアル I を含むすべての単項分数イデアルの共通部分を表記する。同じことだが、
である、ただし上記のように
である。 = I であれば I は 因子的 (divisorial) であると言う[1]。言い換えると、因子的イデアルは分数単項イデアルのある空でない集合の 0 でない共通部分である。I が因子的で J が分数イデアルであれば、(I : J) は因子的である。
R を局所クルル整域(例えばネーター整閉局所整域)とする。すると R が離散付値環であることと R の極大イデアルが 因子的であることは同値である[2]。
因子的イデアルについて昇鎖条件を満たすような整域は森整域と呼ばれる[3]。
注
- ^ Bourbaki 1998, Ch. VII, §1.
- ^ Bourbaki 1998, Ch. VII, § 1, n. 7. Proposition 11..
- ^ http://projecteuclid.org/DPubS/Repository/1.0/Disseminate?view=body&id=pdffirstpage_1&handle=euclid.rmjm/1187453107
参考文献
- Chapter 9 of Atiyah, Michael Francis; Macdonald, I.G. (1994), Introduction to Commutative Algebra, Westview Press, ISBN 978-0-201-40751-8
- Chapter VII.1 of Bourbaki, Nicolas (1998), Commutative algebra (2nd ed.), Springer Verlag, ISBN 3-540-64239-0
- Chapter 11 of Matsumura, Hideyuki (1989), Commutative ring theory, Cambridge Studies in Advanced Mathematics, 8 (2nd ed.), Cambridge University Press, ISBN 978-0-521-36764-6, MR1011461
分数イデアル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/20 06:23 UTC 版)
以下の3条件を満たす K {\displaystyle K} の部分集合 a {\displaystyle {\mathfrak {a}}} を、K の分数イデアル (fractional ideal)という。 α , β ∈ a {\displaystyle \alpha ,\ \beta \in {\mathfrak {a}}} に対して、 α + β ∈ a {\displaystyle \alpha +\beta \in {\mathfrak {a}}} 。 α ∈ a {\displaystyle \alpha \in {\mathfrak {a}}} 、 λ ∈ I K {\displaystyle \lambda \in I_{K}} に対して、 λ α ∈ a {\displaystyle \lambda \alpha \in {\mathfrak {a}}} 。 λ ∈ I K {\displaystyle \lambda \in I_{K}} ( λ ≠ 0 {\displaystyle \lambda \neq 0} ) が存在して、 λ a ⊂ I K {\displaystyle \lambda {\mathfrak {a}}\subset I_{K}} 。 I K {\displaystyle I_{K}} 上の通常のイデアルは、明らかに分数イデアルである。通常のイデアルと分数イデアルとを区別する必要があるとき、通常のイデアルのことを、整イデアル (integral ideal) という。 a {\displaystyle {\mathfrak {a}}} を n 次代数体 K の分数イデアルとすると、 α 1 , … , α n {\displaystyle \alpha _{1},\ldots ,\alpha _{n}} が存在して、 a {\displaystyle {\mathfrak {a}}} の元は、 α 1 , … , α n {\displaystyle \alpha _{1},\ldots ,\alpha _{n}} の有理整数を係数とする1次結合で一意的に表現される。このとき、 { α 1 , … , α n } {\displaystyle \{\alpha _{1},\ldots ,\alpha _{n}\}} を、 a {\displaystyle {\mathfrak {a}}} の基底という。 代数体 K の分数イデアルは、イデアルの乗法で、可換な乗法群をなす。単位元は、 ( 1 ) ( = I K ) {\displaystyle (1)(=I_{K})} であり、 a {\displaystyle {\mathfrak {a}}} の逆元は、 a − 1 = { λ ∈ K | λ a ⊂ I K } {\displaystyle {\mathfrak {a}}^{-1}=\{\lambda \in K|\lambda {\mathfrak {a}}\subset I_{K}\}} である。これを、イデアル群 (ideal group)という。 任意の分数イデアル a {\displaystyle {\mathfrak {a}}} は、一意的に、 a = ∏ i = 1 r p i e i {\displaystyle {\mathfrak {a}}=\prod _{i=1}^{r}{\mathfrak {p}}_{i}^{e_{i}}} (各 e i {\displaystyle e_{i}} は、0 ではない有理整数) と素イデアルの積で表される。
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