ウラムの螺旋
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/07 13:28 UTC 版)
ウラムの螺旋もしくは素数螺旋(ウラムのらせん、そすうらせん、言語によってはウラムの布とも)とは、素数の分布をある簡単なルールに従って2次元平面に並べ、可視化したものである。これにより、いくつかの二次多項式が非常に多くの素数を生成する傾向にあることが容易に示される。これは1963年、数学者のスタニスワフ・ウラムによって発見された。彼によれば学会の「長くて非常に退屈な論文」の発表の際に落書きをしていてこれを発見した[1]。その後間もなくして、ウラムはマイロン・スタインやマーク・ウェルズと協力し、ロスアラモス国立研究所のMANIAC IIを使って65,000までの範囲の螺旋を、当時まだ初期の段階にあったコンピュータグラフィックスを使用して描いた[1][2][3]。翌年の3月、マーティン・ガードナーがサイエンティフィック・アメリカンで連載を持っていた数学ゲームに関するコラムでウラムの螺旋について紹介し[1]、そのコラムが掲載された号はウラムの螺旋が表紙を飾った。
サイエンティフィック・アメリカンのコラムについて補足すると[4]、ガードナーは爬虫両棲類学者ローレンス・モンロー・クローバーが1932年、ウラムの発見に先立つこと30年以上前にアメリカ数学会で発表した、素数を多く生成する二次多項式を発見するための素数の2次元配列の研究についても言及している。クローバーの配列はウラムのような螺旋状ではなく、方型というよりは三角形状であった[5]。
構造
ウラムの螺旋は正の整数を渦巻状に、長方形の格子状に配置して下記のように並べることによって構成される。
そして素数に印をつけ、次の図を得た。
驚くべきことに、素数は45度の斜線に沿って並ぶ傾向があった。水平線や鉛直線も斜線ほど目立たないが存在している。
ウラムの螺旋の構成方法から、仮に奇数を黒、偶数を白と塗り分ければチェスボードのような模様になる。素数は2を除き全て奇数であるから、(2以外の)素数が黒マスにのみ存在するのは自明である。驚くべきは、黒マスの中でも素数の分布が濃いラインと薄いラインに明らかな傾向が見られることである。
より範囲を広げてウラムの螺旋を描いてみても、斜線が浮かび上がることが確認される。こうした模様は、最初の真ん中の数字が1でなくても同様に現れる。
数の螺旋に現れる斜線、垂線、鉛直線は関数
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4x2 − 2x + 41(x = 0, 1, 2, ...)で与えられる素数を強調した。画像の下半分にある、特に目立つ平行な半直線は、4x2 + 2x + 41に相当する。あるいは、元の半直線のxが負の整数の場合とも言える。 F予想は ax2 + bx + c の a 、b 、c がすべて整数であり、a が正の場合を考えるものである。もし係数が1より大きい公約数を持っている場合や、判別式 b2 − 4ac が平方数である場合、この多項式は因数分解できるので x に 0, 1, 2, ...を代入すると合成数を与える(ただし、x の取り方によっては片方の素因数が1である可能性はある。そのような x は高々2個存在する)。さらに、a + b と c が両方とも偶数であれば、多項式は常に偶数を生成し、したがって合成数である(素数2である可能性はある)。ハーディとリトルウッドはこれらの場合を除外すれば、ax2 + bx + cからは無限の素数が生成されると予想した。これはより古いブニャコフスキー予想の特殊な場合であり、現在まで証明されていない。ハーディとリトルウッドはさらに進んで、ax2 + bx + c から生成される、n 以下の素数の個数 P(n) は次の公式で近似できると予想した。
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クローバーの三角形。オイラー多項式のx2 − x + 41の部分を強調した。 クローバーが1932年の論文で言及したのは三角形状で、n 行目が (n − 1)2 + 1 から n2 までの数字で構成されている。ウラムの螺旋と同じように、二次多項式によって生成される数は直線をなす。鉛直線上の数字は k2 − k + Mの形で書くことができる。素数の密度が高い鉛直線や斜線は図から明らかである。
正三角ウラムの螺旋
正三角形上に自然数を並べたもの。
正三角形上に自然数を並べたウラムの螺旋。最初の7503個の素数を示す 六角ウラムの螺旋
正六角形上に自然数を並べたもの。
六角形上に自然数を並べたウラムの螺旋。素数は緑、合成数は青で示される。 サックスの螺旋
ロバート・サックスは1994年にウラムの螺旋の亜種を考案した。ウラムの螺旋が四角の螺旋状だったのに対して、サックスの螺旋はアルキメデスの螺旋状に非負の整数を並べ、1周ごとに平方数が来るようにする(ウラムの螺旋では1周につき2つの平方数が含まれる)。オイラーの素数生成多項式 x2 − x + 41 は x の値が0, 1, 2, ...と動くとき、1本のカーブとして現れる。曲線は図の左半分側にて、漸近的に水平線に近づいていく(ウラムの螺旋では、オイラーの素数生成多項式による数字は2本の斜線を形作る。上半分は x が偶数の場合、下半分は x が奇数の場合に相当する)。
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サックスの螺旋 約数の数を表すウラムの螺旋
150×150のウラムの螺旋。素数と合成数の両方を示した。 ウラムの螺旋に合成数を加えるとさらなる構造が見えてくる。1は自分自身しか約数を持たない。全ての素数は自分自身と1しか約数を持たない。合成数は少なくとも3つの約数を持つ。点の大きさを対応する数字の約数の数で表現し、素数を赤、合成数を青とすると、このような図が現れる。
上記の六角ウラムの螺旋も、影の濃さで約数の数が表現されている。
脚注
- ^ a b c Gardner 1964, p. 122.
- ^ Stein, Ulam & Wells 1964, p. 520.
- ^ Hoffman 1988, p. 41.
- ^ Gardner 1971, p. 88.
- ^ Guide to the Martin Gardner papers, The Online Archive of California, (2009), p. 155.
- ^ Jacobson Jr., M. J.; Williams, H. C (2003), “New quadratic polynomials with high densities of prime values”, Mathematics of Computation 72 (241): 499–519, doi:10.1090/S0025-5718-02-01418-7
- ^ Guy, Richard K. (2004), Unsolved problems in number theory (3rd ed.), Springer, p. 8, ISBN 978-0-387-20860-2
参考文献
- ガードナー, M. (March 1964), “Mathematical Games: The Remarkable Lore of the Prime Number”, サイエンティフィック・アメリカン 210: 120–128, doi:10.1038/scientificamerican0364-120.
- ガードナー, M. (1971), Martin Gardner's Sixth Book of Mathematical Diversions from Scientific American, University of Chicago Press, ISBN 978-0-226-28250-3.
- ハーディ, G. H.; リトルウッド, J. E. (1923), “Some Problems of 'Partitio Numerorum'; III: On the Expression of a Number as a Sum of Primes”, Acta Mathematica 44: 1–70, doi:10.1007/BF02403921
. - ホフマン, ポール (1988), Archimedes' Revenge: The Joys and Perils of Mathematics, New York: Fawcett Colombine, ISBN 0-449-00089-3.
- スタイン, M. L.; ウラム, S. M.; ウェルズ, M. B. (1964), “A Visual Display of Some Properties of the Distribution of Primes”, American Mathematical Monthly (アメリカ数学会) 71 (5): 516–520, doi:10.2307/2312588, JSTOR 2312588.
- スタイン, M.; ウラム, S. M. (1967), “An Observation on the Distribution of Primes”, American Mathematical Monthly (アメリカ数学会) 74 (1): 43–44, doi:10.2307/2314055, JSTOR 2314055.
外部リンク
- Prime Spirals - Numberphile - YouTube。ジェームス・グリム博士とノッティンガム大学による映像。
- 41 and more Ulam's Spiral - Numberphile - YouTube。ジェームス・クレウェット博士とノッティンガム大学による映像。
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