受給者対応者への傷害・離職問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/05 14:29 UTC 版)
「生活保護問題」の記事における「受給者対応者への傷害・離職問題」の解説
申請者や受給者からの暴言や脅迫、傷害まで起きているなど職務の人気が無く、保護者を対応する役所側の人手不足傾向が止まらない。厚生労働省は平成17年、生活保護現業員(ケースワーカー、地区担当員など、福祉事務所によってその名称は異なる)の配置数不足が増加傾向にあるとした。2000年の配置定数に対する現業員不足数は354人であったが、2004年には1198人になり約3.4倍となっている。東京都は2004年6月に「生活保護制度改善に向けた提言」の試案を発表し、保護率の増加に現業員の配置が追いつかず一人当たりの担当世帯数が増加していること、現業員の経験不足や社会福祉主事の資格を持つ担当者の絶対数や質の低下を指摘している。 地方自治体の職員にとって、生活保護事務は事務処理の膨大さ(単に訪問業務をこなせば良いわけではない)や、前述の福岡県北九州市のように申請を簡単に受理すると人事考課が下がる(市は否定している)、申請者からの恫喝や脅迫など安全面 などから敬遠される傾向の高い業務の一つであり、結果的に公務員としても経験が不足している新人職員が配置されることも少なくない。 福祉事務所では新任の配属者が自殺したり、訪問先で覚醒剤を使用した被保護者から首筋目掛けてナイフで突かれるなどの暴力事件なども起こる。感染性の高い病状の被保護者宅にも訪問調査をしなくてはならない。失禁処理や被保護者の死亡の第一発見者になることもある。訪問先で包丁を机に刺した状態で面談したり、包丁を突きつけられて恫喝されたり、担当している被保護者が地下鉄で老人を「肩がぶつかったから」という理由でホームから突き落としたなどの状態にも遭遇する。このため、大阪府大阪市の元ケースワーカーはその仕事を「命の危険性まである『一般事務職』だという。 2005年1月には、長崎県長崎市の福祉事務所において、ケースワーカーの指導的立場にある査察指導員が、生活保護の再受給の相談に来た男性にナイフで刺され死亡している。 堺市では女性ケースワーカーが単身男性の生活保護受給者宅を定期的な調査のため訪問したところ、当該受給者が玄関の鍵をかけた上にケースワーカーの体に触れようとする事件や、男性ケースワーカーも訪問面談時に刃物を突きつけられた事案、突然の暴力で顔面に負傷するというケースワーカーに対する暴力事案も発生したため、GPS付の携帯電話が支給された。 2012年8月には大阪市で、親の遺産を相続して収入を得たため、保護費の一部返還を求められた元受給者が「納得がいかない」などと応じず、生活保護費の返還を求められたことに腹を立て、区役所職員を千枚通しで刺した。2012年8月に大阪では、生活保護を申請済みで最終的な確認などを終えれば申請が認められる見込だった男性が灯油の入ったペットボトルを持参し、放火予備容疑で大阪府警に逮捕された。「男性は「火をつけるつもりはなかった」としながら「(職員と)もめたら灯油をかけるつもりだった」と供述した。大阪市浪速区では2012年12月、不正受給を繰り返した男性が生活保護の打ち切りを通知した保健福祉課の男性係長の顔に1回頭突きをし、公務執行妨害の疑いで逮捕されている。 2015年には大阪市で、女性ケースワーカーが訪問面談時に強制わいせつ行為をされ退職を余儀なくされた。この元女性ケースワーカーは福祉事務所内でもセカンドレイプに遭い、「報道されているのはあくまで氷山の一角。ケースワーカーの安全対策だけでなく、犯罪に遭ったときの心のケア対策も生活保護行政の急務である。」と問題を提起している。 福祉事務所では、近隣住民や親族からの苦情や陳情、それにまつわる暴言や威嚇行為は日常茶飯事な現場からはベテラン公務員は逃げ出し、厳しい職場環境でうつ病に冒された病休者と、仕事を片付けるのに手一杯な若手職員が残される悪循環が続いていっている。 また、暴力団ケースが多かった地区ではその状況を一掃するために、脅しや報復を避けるためケースワーカーは合宿し、家族は市外の実家か親戚に預けたという。ケースワーカーが組員と間違われて撃たれそうになったりもした。 2011年1月、埼玉県朝霞市では市の男性職員が、40歳代の受給者から花瓶を投げつけられ、頭にけがを負った。余分に支給された生活保護費の払い戻しを求めたことがきっかけだった。 2011年4月5日兵庫県神戸市では「財布を落とした」などと前倒し受給を要望した男性(21)が断られたことに立腹し、神戸市職員を刺したとして殺人未遂などの罪に問われた事件が起こっている。 2012年4月、神奈川県川崎市川崎区の大師支所内にある福祉事務所で、男性が液体をまき火を付けた。男性は生活保護受給者で、住んでいたアパートを同日に退去したため、職員が窓口で生活保護受給権が消失したことなどを告げると、男性は待合スペースに移動し「死んでやる」と叫んで火を付けたという。酒に酔った状態だったという。 2013年4月18日に兵庫県加古川市では、生活保護担当の市役所職員が相談に訪れた男性に刃物で刺され、重傷となった。市の福祉部長は「男性は生活保護の要件を満たしていなかった可能性が高く、受給が難しいことは説明していた」と述べている。なお、障害年金を含め、生活保護の受給申請者に資産または収入があること自体は、「必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえない」(生活保護法第八条)範囲において、法的には支給が妨げられることはない。容疑者は精神疾患で、市の生活福祉課では定期的な傷害年金の見直しによってその受給が「『なくなる』という(男性の)申し出によって、生活保護申請に必要な要件の説明資料を渡したが、双方の制度の内容が理解されなかった可能性がある」としている。 2013年4月22日に茨城県鹿嶋市では、生活保護受給者から呼び出しを受けて訪問した市職員が刃物で腹部を刺されている。現場では、生活保護受給者には覚醒剤利用者も存在している という問題もある。 このような生活保護関係の業務に絡むトラブルを防止し、職員の安全の確保 と、また原則受給が認められない暴力団員からの申請を却下したり、ケースワーカーに威圧的な態度を取る元暴力団組員への生活指導を円滑にしたりするため に、各市町村が警察官OBや刑務官OBを採用するケースが多くなっているが、これらの自治体の一部が人手不足を背景として、法律上必要な資格を取得させないままケースワーカーなどの業務に就かせていることが判明している。厚生労働省社会・援護局保護課は「警察官OBの不適正な活用をやめるよう周知したい」としている。 福祉事務所の放火があった川崎市では、警察官OBの役割について「職務内容は暴力団員などからの行政対象暴力に対する生活保護担当職員への研修の実施などである。現在は各福祉事務所を巡回し行政対象暴力の内容の把握などを行っており、24年度中に不正受給防止の統一的なマニュアルを作成していく。」としている。 日本弁護士連合会は「福祉事務所の現場には、『受給者とのトラブル抑止のために警察官OBがそばにいてくれたら心強い』という声もあるようである。その背景としては、生活保護利用者の中には、障害など様々な問題を抱えており、意思疎通がうまく図れない人もいて、窓口でトラブルになることも少なくないという事情があると思われる。」としつつも、「職員の専門性と経験の欠如から来る,生活保護利用者との間のトラブルを解決するために、警察官OBをいわば用心棒的に配置して、力で押さえつけようとしても、問題解決につながらないことは自明と言えよう。」「ケースワーカーの増員と専門性の強化こそが必要」と結論づけている。 現業員の配置定数は、1951年に制定された社会福祉事業法(現:社会福祉法)から変更されておらず、その間にも介護保険制度の創設など現業員の業務は増加している。また、生活保護の他法優先の原則によって、現業員には広範な福祉制度に対する高い知識力が求められる。これら現業員の質をいかに高めるかについても大きな課題となっている。 2017年には神奈川県小田原市で、生活保護業務を担当する市職員により、小田原ジャンパー事件が発生した。 詳細は「小田原ジャンパー事件」を参照 福祉国家スウェーデンでも福祉職員は同様の問題を抱えている。エンショピング市への聞き取り調査では近年、社会扶助申請者が申請却下されたことに腹を立て、ソーシャルワーカーに暴力を振るったり、殺人事件を起こすなどのケースがあったため、福祉事務所の窓口の職員と申請者の間に、鉄道駅の切符販売窓口などで使用されている透明な衝立を立てたという。現地職員は「麻薬常習、薬物、精神障害などを対象とする職場では、ソーシャルワーカーが危険にさらされることがあり、ボディーガードをつけるわけにはいかないから、せめて2人1組で動く体制をとるしかない」とその危険性について発言している。
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