エボラ出血熱とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > ヘルスケア > 感染症の種類 > エボラ出血熱の意味・解説 

エボラ出血熱

エボラ出血熱はエボラウイルスによる急性熱性疾患であり、ラッサ熱マールブルグ病クリミア・コンゴ出血熱とともにウイルス性出血熱Viral Hemorrhagic FeverVHF)の一疾患である。

最も重要な特徴は、血液体液との接触によりヒトからヒト感染拡大し多数死者を出す流行起こすことであり、しばしば注目浴びている。2000年10月ウガンダ北方グル流行があったときに日本人専門家派遣されたことは耳新しい自然界宿主今もって不明なことからも、今後の発生危惧される。(表1

ウイルス性出血熱と出血を生ずるウイルス病

疫 学

エボラ出血熱は現在まで、コートジボアール除けばアフリカ中央部でのみ発生している。ラッサ熱では自然宿主がマストミスであることがわかっているが、エボラ出血熱の場合患者の発 生があるたびに周辺生態調査が行われているにもかかわらず自然宿主特定には至ってはいない。1995年のキクウイットでの発生の際に、ヒトでの発生終焉した後、昆虫ネズミ類、サル類等の血液組織等5万検体にわたり調査されたが、エボラウイルスウイルス遺伝子抗体も見つかってはいない。ただし、コウモリ一種ではウイルス接種しても病気発症しなかったことから、自然宿主ではないか疑われている。ヒトでの発生係るエピソード過去12 回ある(表2 、図1)。表中の6と9は宿主についてさかのぼった調査南アフリカ移動したヒトでの発生で、6ではウイルス分離されはおらず抗体調査のみ、9では南アフリカ自然界ウイルス存在していたわけではなく、非流行地への感染者侵入である。その後2000年から2001年にはウガンダで、さらに2001 年から2002 年にはガボンコンゴ共和国国境地帯での流行報告されている。

?\?Q?G?{???o???M???≠?∂
?}?P?G?{???o???M?≠?∂?????z

表2. エボラ出血熱の発生

1. エボラ出血熱発生分布

スーダン(1976、1979):1976年6月末、スーダン南部のヌザラ、マリディを中心に284名が感染し151名(53%)が死亡した。ヌザラの町の綿工場倉庫番男性発症し次々と家族医療関係者等に伝播したもので、さらに独立した2例から家族内、院内感染として感染拡大生じた1979年にはヤンピオで5家族34名が発症し22名が死亡した

ザイール(現コンゴ民主共和国)(1976、19771995):1976 年スーダンでの発生から2カ月後、北部のヤンブク教会病院舞台として大発生起こった病院とそこに出入りしていた患者家族医療関係者の間で感染拡大生じたのである初めは、ヤンブク教会学校教師44歳男性)がマラリア疑い注射を受け、その同じ注射器で他の注射受けた9人全員感染し全員死亡した。それらの患者との接触医療通じ伝播起こったマスク手袋ガウン注射器等の基本的不足による。約2カ月の間に318名の患者280名(88%)が死亡した結局CDC、WHO、ベルギーチーム入り終焉した。スーダンの例もヤンブクの例も、ヒトからヒトへの伝播急性期患者との直接接触よるもので、空気感染(airborne)の可能性はないとされている。ヤンブクでは病院スタッフ17名中13名が発症し11名が死亡し病院閉鎖された。この時の疫学調査は最も密度の濃いもので、ヤンブク、ヤンドンギ等周辺部落の各戸構成員全て詳細に感染抗体保有発症等)調べられた。翌年近くのタンダラで9歳女児発症し死亡したが、"もしや"ということもあり誰も接触せず、他に感染者生じなかった。それから18年後の1995年遠く離れたザイール中央部のキクウイットで、町の総合病院中心に4月初め患者発生した244 名の死亡者100名以上は医療関係者であったこの際ガウン手袋長靴注射器等の不足が感染拡大最大理由であった発生1カ月後に情報米国入り、その10日エボラウイルスによることが判明し直ちに米、WHO、ベルギー等のチーム入り6月20日終焉した。なお、このときに分離されウイルスは、19年前のヤンブクのそれとほとんど同じ遺伝子配列示していた。

1994年コートジボアール1996 年ガボン:この2カ所での発生にはいずれもチンパンジー関与しているが、チンパンジーヒトと同様終末宿主であり、自然界宿主ではないとされている。前者は、死亡したチンパンジー解剖携わっていたスイス女性感染したもので、後者では、死亡していたチンパンジー子供たち接触し感染発症したことが発端である。1996年10月ガボンでの発生では、原因経路不明である。ヒト抗体保有調査発生があったときその周辺なされてきたが、不顕性感染者が数%(男女とも)いることもわかっている。
20002001年ウガンダスーダンとの国境接す北方地域グル10月始まり、南のマシンデイ(27例)や遠く離れたムバララ(5名)でも発生し、計425名の患者225名の死亡者53%)を出して過去最大流行となった他地域への感染の拡大は、グル地区行われた葬式参加した感染者家族感染者国内移動したことによる死者清拭や、葬儀の際の死者とのお別れの儀式による血液体液との接触感染拡大原因である。そのため女性感染者269名(63.3%)を占めたが、患者平均年齢27歳で、最低年齢3日齢、最高齢72歳であったまた、しばしば問題となる医療従事者感染29であった。この流行時に活躍した現地のマチウス医師は、エボラ出血熱に感染した同僚から感染し死亡した。この場合飛沫感染疑われている。この時のアウトブレイク時では、WHO を主体全世界から23チーム104名の人材派遣され国際的な対策チーム組織され対応した日本人専門家は計5名が参加し臨床例の対応にあたった(IASR 2001,vol 22,57-59 ;http://idsc.nih.go.jp/iasr/22/253/fr2531.html )。

20012002 年ガボンコンゴ共和国2001 年12 月ガボンコンゴ共和国国境地帯発生し2002 年4 月までにガボン65 例(死亡者数53 名)、コンゴ32 名(死亡者数20 名)の流行があった。致命率両方75%になる。

病原体

エボラウイルスマールブルグウイルスと共にフィロウイルス科Filoviridae) に属する。短径80~100nm 、長径700~ 1,500nm で、U 字状、ひも状、ぜんまい状等多形性を示す(図2)が、組織内では棒状示し、700nm 前後サイズがもっと感染性が高い。スーダンザイールとの間には生物学的にかなり差がある。

?}?Q

図2.(米国CDC Fred Murphy 博士より)

たとえば、in vitro での細胞培養Vero 細胞)で、スーダンはあまり強い変性示さないのに対しザイール急速に細胞変性壊死いたらしめるまた、in vivo でもマウスサル類での感染性大きく異なる。ザイール極めて強い病原性示し速やかに死に至らしめる病原体は他のVHF ウイルス同様にレベル4分類されており、ウイルス増殖を伴う作業には最高度安全実験施設BSL-4 あるいはP4)が必要である。フィリピンでカニクイサルが発症したときの原因であるレストンは、ヒトへの病原性はない。
わが国では国立感染症研究所村山分室キャビネット式P4施設19年前に設置されたが、現在まで使用されていない世界では宇宙服式、キャビネット式を含めて10所以上で稼働中である。仏パスツール研究所2 年前より現地での連続的分離作業を行うため、ガボン現地密林の)にP4施設をつくり稼働中である。


臨床症状
発症突発的進行早い潜伏期は2 ~21 日で、汚染注射器通した感染では早く接触感染では長いインフルエンザ様症状進行し重篤化する発熱頭痛100%に、腹痛咽頭痛筋肉痛胸部痛が80%に、出血吐血口腔歯肉消化管)が70%にみられる出血死亡例大部分みられる2000 年のウガンダでの流行では上記症状加えて衰弱のほか下痢等の消化器症状目立ち出血症状10%以下であった肝臓でのウイルス増殖(図3)による肝腫脹により、右季肋部圧痛叩打痛特徴的である。症状として“エボラ出血熱に特徴的なもの”はない。

?}?R?G?{???E?C???X???±?\???T????????  

?}?R

病原診断

迅速診断としてはウイルスゲノムRT-PCR 法等で検出するそのほか血中抗原抗体ELISA 法で検出するRT-PCR 法では血中抗原測定よりも1 日早く検出が可能である。抗体検出免疫蛍光法でも行える。血液体液等からウイルス分離するがもっとも確実であるが、現地では困難である。死亡者では頚部等の小さな皮膚片をパンチ生検し、ホルマリン固定材料免疫組織化学的にウイルス抗原検出が行われる。国立感染症研究所村山分室外来性ウイルス室で検査が可能である。


治療・予防
感染予防のためのワクチンはない。治療対症療法のみである。抗体検出されるうになる急速に回復に向かう。感染者検体接触した人のみに対応すれば十分で、疑い患者血液等を素手触れないこと(手袋を必ず使用する)が重要である。空気感染はないとされているが、飛沫感染否定できない

感染症法における取り扱い
エボラ出血熱は1 類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る疑似症患者患者無症状病原体保有者のいずれであっても届け出は必要である。報告のための基準は、以下の通りとなっている。
当該疾患を疑う症状所見あり、かつ、以下の方法によって病原体診断または血清学診断なされたもの
材料血液血清剖検材料及び生剖検皮膚ホルマリン固定)など
 ・病原体検出
  例、ウイルスの分離など
 ・抗原検出
  例、ELISA 法など
 ・病原体ゲノム検出
  例、RT‐ PCR 法など
 ・血清抗体検出
  例、IgM あるいはIgG免疫蛍光法あるいはELISA 法による検出など
当該疾患を疑う症状所見はないが、病原体抗原検出されたもの
 (病原体抗原検出されず、遺伝子抗体のみが検出されたものを含まない
疑似症診断
 臨床的特徴合致し、以下の疾患鑑別診断なされたもの
 (鑑別診断)他のウイルス性出血熱チフス赤痢マラリアデング熱黄熱

備考
当該疾患を疑う症状所見はないが、病原体抗原検出されず、遺伝子抗体のみが検出されたものについては、法による報告要しないが、確認のため保健所相談することが必要で ある。

学校保健法における取扱い
エボラ出血熱は学校において予防すべき伝染病第1 種定められており、治癒するまで出席停止となる。

国立感染症研究所感染病理部 佐多太郎

  



このページでは「感染症の種類」からエボラ出血熱を検索した結果を表示しています。
Weblioに収録されているすべての辞書からエボラ出血熱を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
 全ての辞書からエボラ出血熱 を検索

英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「エボラ出血熱」の関連用語

エボラ出血熱のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



エボラ出血熱のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
国立感染症研究所 感染症情報センター国立感染症研究所 感染症情報センター
Copyright ©2024 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.

©2024 GRAS Group, Inc.RSS