人種 伝統的な人種の分類例(肌の色)

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人種

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 14:15 UTC 版)

伝統的な人種の分類例(肌の色)

Felix von Luschan による肌の色のカラーチャート
各国の先住民の皮膚色を分配したマップ

肌の色は実際の居住地域の環境の影響を受けるために、肌の色や風貌によって集団間の遺伝的距離を測ることはできないとされる。ただし同じ緯度でも人種によって濃淡の差異がある。例えばモンゴロイドであるアメリカ先住民は赤道域においてもネグロイドオーストラロイドほど黒褐色にならない。アボリジニは比較的中緯度においても皮膚色が薄くならない。これらは適応のみならず、皮膚の色が遺伝的にも支配されていることを示唆している。また、現生人類の祖先はネグロイドのような黒褐色の皮膚を持っており、出アフリカ後、ユーラシアにおいてモンゴロイドコーカソイドが独立に皮膚を白色化させたと考えられ、両人種における肌を白色化させる遺伝子は異なると推定されている。

DNA分析による分類例

人類集団の遺伝的系統

左図は多型マイクロサテライトにより求められた人類集団の系統樹である[34]。この系統樹が意味するところは、最初にアフリカ人とその他の集団が分岐したこと、次にヨーロッパ人とその他の集団が分岐したこと、その次に東・東南アジア人とオーストラリア人が分岐し、最後の大きな分岐として東・東南アジア人とアメリカ先住民が分岐したということである。この系統樹で見られた主要な特徴は、従来のタンパク質多型や最近の核DNAの多型によって明らかにされた人類集団間の系統関係と大筋において一致する。(外部リンクを参照)

近年の遺伝子研究により、中図のように北アフリカ人や中東人は遺伝子的にヨーロッパ人に近いが、長年の間にサハラ以南のアフリカ人と同化していることもあり、ヨーロッパ人とサハラ以南のアフリカ人の間に位置している。同様に、中央アジア人やインド人も地理的配置からヨーロッパ人と東アジア人(オーストラリア先住民、アメリカ先住民を含む)の間に位置している。[35]

右図は世界の18人類集団の遺伝的近縁関係を23種類の遺伝子の情報をもとに近隣結合法によって作成された人種の遺伝的近縁図である。この分析が証明する人類集団の系統は、アフリカン(ネグロイド)からコーカソイド(白人)が分岐し、コーカソイドからオセアニアン(オーストラロイド)・イーストアジアン(モンゴロイド)が分岐、そしてイーストアジアンからネイティブアメリカンが分岐した、と云うものである。この人類集団の近縁関係は上記の遺伝的系統樹と現在の人類集団の地理的配置に一致する。

ただしこれらの系統樹には混血の歴史が反映されないため、より厳密な手法やハプログループによる系統で分析すべきという意見もある。

近年の研究においては現生人類の分類中、純粋なホモ・サピエンス(従来のネグロイド)と、ホモ・サピエンスの祖先と「ホモ・ネアンデルターレンシス」との雑種(ネグロイド以外の現生人類)が存在するとの論文が発表されている[36]

最近の研究から、東アジア人(モンゴロイド)を特徴付ける遺伝子があることがわかった[37][38]

Y染色体・mtDNAハプログループと人種

Y染色体ハプログループの拡散と人種

ミトコンドリアDNAやY染色体のようなゲノムの組換えしない部分を用いた系統樹の作成は、集団の移動とルーツを辿るのに用いられる。例えば日本人のミトコンドリアDNAのハプロタイプの割合と、周辺の集団(韓国や中国、台湾、シベリア先住民など)を比較することで、祖先がどのようなルートを辿って日本列島にたどり着いたかを推定できる。

崎谷満は人類のY染色体ハプログループおよびミトコンドリアDNAハプログループが出アフリカ後にイラン付近を起点にして南ルート(イランからインド、オーストラリアへ)、北ルート(イランからアルタイ山脈付近へ)、西ルート(イランから中東・カフカス山脈付近へ)の3ルートで拡散したとしている[39][40]。なお、見かけによって人類を分類する人種と父系先祖からのみ遺伝されるY染色体は根本的に異なる概念であり、混同することは甚だしく不合理である。

人種の要因

人種概念が誕生した要因は大きく2つに分けられる。1つは外見上の表現型の差異が存在するため、もう1つはそのような外見上の差異を認識する人間の認知能力が存在するためである。

集団間の表現型の差異は、全地球的な距離や山脈、気候要因など地理的障壁によって遺伝子流動が制限された異なる集団が時間の経過とともに異なる自然選択を受けたり(性選択も関わっているかも知れない)、異なる遺伝的浮動を経験することで生み出される。

2つの集団全体が十分に交流していれば、それぞれの集団中の遺伝子の頻度は平均化され、表現型の差異は生み出されない。このメカニズムは異なる種を作り出す種分化のメカニズムの一部であり、十分な時間、2つの集団の遺伝子流動が制限され続ければその集団は別個の2種となる。自然の中にも人種と同じように、連続した亜種の連なりを示すクラインを形成する種が存在する(例えば輪状種

人類アフリカ単一起源説のモデル図[41]
人類のアフリカ単一起源説
現生人類の起源と分散を説明する理論は2つあり、1つはアフリカ単一起源説、もう1つは多地域起源説である。どちらの説も十分に遡れば人類の起源はアフリカであることに同意しており、大きな違いはいつ我々の祖先がアフリカを出発したかである。DNA分析によれば、全人類の共通祖先は遠くとも25万年前には存在していたとされる(これは共通祖先が100万年以上遡ると見積もる多地域起源説への重大な反証である)。つまり人類のアフリカ単一起源説に基づけば、約25万年前以降に出アフリカを果たした人類が、距離や山脈など地理的障壁によって遺伝子流動が制限された結果、異なる遺伝的特徴を持った集団が成立したとされる。
人種的境界と地理的境界は一致する(移動の妨げとなる自然環境が人種を誕生させた)
上述の「人類集団の遺伝的系統-1.2」も参照。
また、「人類集団の遺伝的系統-1・2」を世界地図に重ね合わせると、ネグロイドはアフリカ大陸、コーカソイドはユーラシア大陸のヒマラヤ山脈及びアラカン山脈の南西側(DNA分析によればインド・アラブ・トルコ人もコーカソイドである)、モンゴロイドはヒマラヤ山脈及びアラカン山脈の東および北側、オーストラロイドはインド亜大陸からオーストラリア大陸とスンダ列島周辺、そしてネイティブアメリカンは南北アメリカ大陸に分布することが分かる。
つまり、出アフリカを果たした現生人類の祖先が各大陸に移住した後、ジブラルタル海峡・地中海・スエズ地峡・紅海・ヒマラヤ山脈・アラカン山脈・中央アジアの乾燥地帯・ベーリング海峡等の自然環境により、それぞれ交流が遮断された地域が、そのまま現在の主要人種の居住地域となっている。
人種間の遺伝的距離と地理的距離に相関がある
人種間の遺伝的距離と、対象となる人種と人種が居住する地理的距離は相関がある。つまり、人類誕生の地であるアフリカに住むネグロイドと各人種との遺伝的距離は、各人種の住む地域のアフリカからの地理的距離が離れている程、大きくなる。
例:「人類集団の遺伝的系統-1・2」にある通り、アフリカ人との遺伝的距離がもっとも近いのはアフリカ大陸の隣接地である地中海沿岸のユーラシア大陸に住むコーカソイドであり、逆にもっとも遺伝的距離が遠いのは、アフリカ大陸から地理的に最も遠いアメリカ大陸に住むネイティブアメリカンである。

注釈

  1. ^ なお、今日ではヒトの分類は科学的な妥当性は認められず、社会の作り出した文化的概念とみなされている。
  2. ^ 人種は生物学的な亜種ではなく、現生するヒトは、遺伝的に、種や亜種に値する程の差異は存在しないとされる。この場合の「種」は、生物学の概念としての「種」と混同してはならない。英語では、生物学的な「種」は speciesであり、人種はraceであり、両者はまったく異なる単語である。にもかかわらず、日本語では同じ「種」という訳語が採用されているので、両者が混同されやすい。「人種」の「種」が意図しているのは、あくまでも現生人類を、さらに細かく形質的特徴によって区分する試みである。しかも、この区分の基準は、時代や社会によって異なる流動的なものであることに留意する必要がある。[要出典]
  3. ^ 同じ漢字表記の「種」は生物学的な(species)とは異なる。
  4. ^ 他の生物における亜種に該当する。
  5. ^ 「すべての人間は単一の種に属し、共通の先祖の子孫である。すべての人間は尊厳と権利において平等に生まれ、誰もが欠くことのできない一員として人類を形成している」
  6. ^ 「人類の多様性は人類が環境に適応し選択され、また遺伝的浮動や遺伝的混入によって生まれてきたもので、その多様性は連続的で、カテゴリーに分けられるものではない」
  7. ^ 「遺伝学(DNAなど)の解析から得られた証拠は、約94%の身体的変異がいわゆる人種集団内にあることを示している。従来の地理的「人種的」グループ分けでは、その遺伝子の約6%においてのみ互いに異なる。このことは、人の遺伝子変異は集団間よりも集団内で大きく変異していることを意味している。隣接する集団では、遺伝子とその表現型(物理的)発現の重複が多く、歴史を通じて、異なる集団が接触するたびに交配が行われてきた。遺伝物質の継続的な共有は、人類全体を単一種として維持してきた。」

出典

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