いでんてき‐ふどう〔ヰデンテキ‐〕【遺伝的浮動】
遺伝的浮動
生殖年齢にある個体が、同様に生殖年齢に達する子供を一定数もつ確率は恐らくその遺伝子型(912-1)に依存している。このような差別的生殖は淘汰 1と呼ばれる。ある遺伝子型の淘汰値(選択価) 2あるいは適応値 2は、その遺伝子型を持って生殖年齢まで生存する個体の相対的な子供数である。ある個体群(population)の平均淘汰値 3あるいは適応度 3は、その構成員の遺伝子型に関する淘汰値の平均に等しい。個体群の遺伝的加重 4は、異なる適応値をもつ種々の遺伝子型が存在することによって生ずる、平均適応値の相対的減少である。ある個体群の異なる世代に、特定の遺伝子が見出される頻度の無作為変動は、遺伝的浮動 5と呼ばれる。ある個体群の遺伝子構造 6は、その構成員のある遺伝子座(911-4)上の種々の対立遺伝子(911-5)の頻度分布を指している。ある個体群の遺伝子型構造 7は、同一の遺伝子座の異なる遺伝子型の分布のことである。
遺伝的浮動
機会的浮動
遺伝的浮動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/17 10:03 UTC 版)

遺伝的浮動(いでんてきふどう、genetic drift)とは、無作為抽出の効果によって生じる、遺伝子プールにおける対立遺伝子頻度の変化である。[1]機会的浮動ともいう。この対立遺伝子頻度の変化には自然選択の効果は含まれていない。
具体的には、ある子世代における対立遺伝子(allele)は親世代の対立遺伝子からの無作為抽出で決定される、生物学的なモデルを考える。このモデルが仮定していることを現実的に解釈すると、「個体が生殖可能年齢まで生き残り、繁殖に成功するか否かはすべて偶然によって決定されている」ということである。この仮定においては、自然選択や性選択などの効果は無視されている。
この無作為抽出による手順が、子世代から孫世代、さらに曽孫世代・・・と繰り返されるとき、生物集団中の対立遺伝子頻度(allele frequency)はランダムに増減する。このランダム性により、遺伝的浮動は集団から遺伝的変異を取り除く。すなわち、集団中の遺伝的多様性を減少させる効果を持つ。この効果は集団が小さいとき強くなり、集団が大きいとき弱くなる。
遺伝的浮動を含む、中立説の進化における重要性については、自然選択説と対比され、激しい論争を引き起こした。
進化との関係
遺伝的浮動は、小規模な交配集団の遺伝子頻度に特に大きな影響をもたらす。その典型的な例として、ボトルネック効果や創始者効果が挙げられる。前者では一時的な個体数の減少、後者では個体群の隔離によって、集団サイズが小さくなった状況を想定する。このような集団では遺伝的浮動による遺伝子頻度の変動は、ときには集団内からのそれらの遺伝子の偶発的な消失を招く。いったん集団から消失した遺伝子は当然ながら後代に受け継がれることはない。このため、その集団の見かけ上の遺伝子の進化速度が速まることになる。
中立進化説
中立進化説では、生物の生存に有利でも不利でもない遺伝子の変化、すなわち遺伝的浮動が分子レベルでの進化の主因であると考える。
数学的モデル
理想集団における対立遺伝子頻度変化を遺伝的浮動の数学的モデルとして記述するとき、分岐過程や拡散方程式が用いられる。 [2]
Wright–Fisher モデル
ある遺伝子座には2つの対立遺伝子, A, aがあり、各々の頻度をp, qとする。N個体からなる二倍体生物の集団にを考えると、遺伝子のコピー総数は2Nであり、一個体がもつ2つの遺伝子の組み合わせは、ホモ接合の場合とヘテロ接合の場合が考えられる。シューアル・ライトとロナルド・フィッシャーが名づけたWright–Fisher モデルとは、世代が重複しない(例えば、一年生植物)、かつ、子世代に出現する遺伝子のコピーは親世代の遺伝子プールからの無作為抽出であると仮定したモデルである。
このモデルにおいて、子世代集団中で対立遺伝子Aがkコピー得られる確率を表す式は、
遺伝的浮動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/06 09:22 UTC 版)
遺伝的変異のなかには、適応度に全く、あるいはごくわずかしか影響しないものも多い。その場合には、遺伝子頻度はランダムに、確率的に変動することになる。また適応度に影響する場合でも、確率的な変動の影響は受ける。このランダムな遺伝子頻度の変化を遺伝的浮動という。遺伝的浮動はとくに数の少ない個体群において重要である。そのため、少数の個体が新しい生息地に移住して定着した場合に遺伝子頻度が大きく変化することがあり、これを創始者効果という。 木村資生は、遺伝子レベルの進化においては遺伝的浮動が重要であると指摘した(分子進化の中立説)。分子進化の中立説は、塩基配列のデータをよく説明できる。表現型レベルでも、適応度上中立な変化であれば遺伝的浮動によって進化することはありうるが、実際にはほとんどないと考えられている(ただし、表現型と分子のそれぞれにおいて、浮動と選択がどの程度重要かについては議論がある)。
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