後進への対応
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 09:41 UTC 版)
プロになりたいという志を持つアマチュアに対しては「夢を与える産業の裏側を公開しないのが美徳かというと、そんなことはない。音楽はヒットしないと意味がない。だから僕に対してどんな感情を持ってもいいから、『とりあえずここから入ろう』と少しでも思って育ってくれたら嬉しい」という意向から楽曲の機材の選択・音作りの感覚・コード進行・メロディーのパターン・歌詞のイメージを戦略的にアピールし、他よりも制作時の裏話・苦労話・エピソードを積極的に公開している。業界人に対してもキャリアに関係なく「作曲する時点で側近のスタッフが過程・手法の全部を知って驚くようなエンターテイメント性がある」「昨日頼んだ仕事がもう出来上がっていて、その時点で相応のクオリティになっている」という定評を持ってくれるように心がけている。 それ故にプロとしての心構え・立ち振る舞い方等のアドバイスも多くしている。 創作のコツ 「思いついたメロディはテープ・譜面・データにとって置いた方がいい。なかなか曲とかも『Aメロ→Bメロ→サビ』とぱっと思いつかないでしょう。そういうときに『昔とって置いた4小節をAメロに当てはめてみよう』とかね。聴く側は飽きっぽいし、メロディを読まれるとつまらないからなるべく組み合わせたほうが面白いと思う。作った月日が違うと発想も変わる。僕は締め切りに追われるので、どうしてもその日に作ることが多いけど、皆はとって置く事ができるから。CMの30秒・8小節作る位の気持ちで考えた方が気が楽になるでしょう」 「曲を作る時、楽器の前で知ってる曲・自分が過去に作った曲を鼻歌で歌いながら作る。そこで始めて聞くメロディが出ると、どこかで活かせないかを探す」 「アイディアに困ったとしても、『この前のネタをもう一度やってみよう』と引き出しとして引っ張り出せる。それは長い間の経験の蓄積であって、1985年~1990年の時にはできなかった。やってみて『反応が良くなかった』『失敗した』というのは悪いことじゃなくて、寧ろそれも自分の中の過程・データとしてとって置くこと。それが自分の引き出しになりますから」 「最初は人真似でもいい。自分が素朴に『良いな』と思うものはそれが洋服であれ、曲であれ、記憶の中に留めて置く。そして自分のアイディアが必要になったら、そのコピーから始めていいと思います。仕事で使ってはまずいですので、勉強・トレーニングと言う意味で。僕はピアノ・音符の読み方を人から習ったことが一度もなくて、レコードを聞いて、それを真似する所からスタートしたんです。それでも必ずオリジナルの作品は作れるようになれます」 「皆が共感できる普遍性のある分かりやすさを重視しても、迎合してはだめ。オタクと言われようが、『自分の部屋で作ったものを配信するだけ』という気持ちで数打ってそれの何発かが当たればそれが普遍性のある作品になる」 「楽典の勉強は絶対にして置いた方がいいと思います。まずはクラシック音楽を聴くことですね。知れば知るほどヒントになる部分が沢山あるジャンルだと思いますよ。第三楽章や第四楽章の主題の後ろで第一楽章のメインテーマが演奏されることがあります。僕の作る曲は第三楽章だけが作品としてリリースされているような形なんですよ」 「ちょっと歌いづらい歌を作ると、みんながそれに挑もうとするのでいっぱい歌ってくれる。だからちょっと歌いづらい曲がいい」 ミュージシャンとして 「リズムのキープは気を付けた方がいい。じゃないとせっかくのアレンジ・コード進行がモタって曲の流れが死んでしまう。コードが変わるとき、手を移動させるときにどうしても手が遅れてしまう。『どうして小室さんは遅れないんですか?』とよく言われるけど、僕だって遅れているよ。コードが離れれば離れるほどリズムはその分遅れてるよ。『移動する前の最後のコードは少し早めに手が離れて短く弾いている』とか『反対に少し早くタッチしてる』等、テクニックでいかにも『ちゃんとリズムをキープしてますよ』ってごまかしてるんですよ」 「機材の選び方は買う時点で決めた方が絶対お得。何しろ1ヶ月前に新製品を買っても、1ヵ月後にはもうすぐに違う新製品が出ちゃってるんだから。ある程度諦めて、キリのいい所で買わないとね。どうせ次から次に新しいのが出て、目移りしちゃうんだから。同時に『どれ位の予算で』『どんな機能のついた機材で』『自分の役割は弾き語りか?バンドか?』等どういう目的かをハッキリ決めてから買いに行きましょう。悩んでるんなら、カタログとにらめっこするよりも、店の人に聞いてみるといいよ」 「これからキーボードをやろうという人は、安くてもいいから発展性のある楽器を買うべきです。今だとバージョンアップできるものが多いから、自分が上手くなった後の事を想像して幅のある楽器を選んで欲しい」 「センス・アイデアを磨く事。冷たい言い方だけど、キーボードは特にセンスに左右されやすいから、才能がある人は始めからある程度上手いんです。その辺りの見極めは早くやるように。そのためには、ボーカルも含めて他のパートをよく研究する事です。すると『自分がどの楽器と相性がいいのか』がわかってくる。僕もギターやってみたけど全然ダメでしたから(笑)」 「生音に触れておく必要はありますね。これからキーボードをやる人は特に。サンプリング・シンセサイザーの音色作りをする時に、生音を知らないと想像の世界だけになってしまう。僕なんか助かったのは小さい頃クラシックを聴いてたから。例えば『ヴァイオリンの音はどういう響きで、弦のすれる音はこうだ』『オーケストラも生だとこんなに迫力がある』『上手いドラマーの生音を身体で感じておく』と、機械で再現する時でも雰囲気を生音に近づけるための基準を思い浮かべることが出来る。やっぱり、ピアノ・ヴァイオリン・ドラムの生音には敵わないから」 「音像のシュミレーションは大事だと思う。『音』と『音が出た後の伝わり方』という分け方をしたら、今はもう5:5じゃないからね。4:6か3:7位の伝わり方の方が大事だと思う。スタジオの鳴りが無かったらどうしようもない作品がたくさんあるでしょ。そういう部屋の音、もっと言えば空間を伝わる音を知っておく必要もある。手を叩いたり、声を出してみたりして、『広い所ではこういう風になるんだ』『響かない部屋ではこういう感じなんだ』『地下道ではこういう音がするのか』等至るところでね。そういう音像を確かめる作業は今後絶対やってて損はないと思います」 「鎖国状態にならないで、世界に目を向けてほしい。ヒットを作るためのマニュアル本を読んだり、学校の講義を受けたりして『勉強』として学んでほしくない。世界に進出するには、いくつもの自分の世界を作れるタレント性が必要。音楽にボーダーラインは無いけど、相手に合わせたローカライズは必要。地元は勿論アジアでの人気も両方ないと駄目。最低でもバイリンガルであるべき、できれば海外に移住してその土地のミュージシャン・エンジニアと仕事して海外の音像を学んで欲しい」 「僕やB'zの松本孝弘君を目標にしてくれるのは本当に嬉しいですが、『この人の曲は誰のどんな曲から影響を受けたのか』と深く紐解いて欲しい」 「スポーツ選手の場合は1回失敗するとそこで人生が変わる。それを見ていると音楽の人は楽をしすぎ。特にバンドの場合ちょっと間違っても『まぁいいか』『走っているけど、編集してズラせばいいや』『音が外れちゃったけどピッチ・クオンタイズを掛けて合わせておこう』『最後コンプレッサーでまとめちゃえばなんとかなるよ』となりがち。生舞台での大変な失敗等の経験・練習・音質の向上をどんどん進めて元を出す人間が一番しっかりした方がいい。気持ちよく不快な思いをさせないようにというのがエンターテイメントの基本」 「ディズニーパークみたいに、内側の仕組みを全て隠してしまうことが当たり前になった中、僕はその裏返しで『スイッチを押して、そうするとどこがどう動き出すのか』をテレビ番組の収録・ライブツアーに関わらず意図的に見せるようにしている。『これだけ苦労してこの音が出てますよ』というプロセスを観客に教えてあげたかった。これはYMOと彼らが演奏している時に次に演奏する曲のプログラミングを行うシーンを見せていた松武秀樹さんの影響なんです」 仕事の進め方 「色んな会社の人が、会議でホワイトボードに『小室哲哉』と書いていた。方法・売り方・売れ方・『小室はこうやっている』…真似をされたり、参考にされたり、それは嬉しいことで。どんどん真似して欲しい」 「職種を2つ以上持ち、平行すること。そうすれば違うファンも開拓できるし、選択肢も広がっていく。別方面が上手くいかないときの救いにもなる」 「打ち合わせのときに、『僕ではない、他のアーティスト風にしてほしい』という要望が出たときに大切なのは『僕の色はいらないのか!』と怒ることではなく、どれだけ相手のオーダーに近づけるかということ。働く上では一度、自分の色を全部消して別人になる必要に迫られることがあるかもしれません。でも、自分の願望やエゴを出さなくても実は自分の色はちゃんと出る。どんなに消したつもりでも確かに残る。だから、ときには相手の要望を『分かりました』と受け止めてみることも大事なことだと思います」
※この「後進への対応」の解説は、「小室哲哉の使用機材」の解説の一部です。
「後進への対応」を含む「小室哲哉の使用機材」の記事については、「小室哲哉の使用機材」の概要を参照ください。
- 後進への対応のページへのリンク