学者・有識者による批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 18:44 UTC 版)
ゲーム脳理論が教育者やマスメディアに支持される一方で、学者・有識者などからは、ゲーム脳に対する根強い反証や批判も少なくなく、マスメディアによりこれらの批判が報じられることもある。これらは森が提唱した仮説の否定であり、「ゲーム脳」とは無関係な事象への言及、たとえば「ゲームを遊びすぎることの肯定」につながるものではない。 津本忠治 日本神経科学学会会長である津本忠治は、『ゲーム脳の恐怖』や、よく似た理論である『脳内汚染』(岡田尊司著)といったトンデモ本とされるものに対し、「『似非脳科学』『とんでも脳科学』が本屋に並んでいる。こういった本は放置しておけばよいとの見方もあるかもしれないが、神経科学に対する信頼性を損なうなどのマイナス効果を生み出すと思われる。したがって、間違いをただし、正確な情報を一般社会へ発信するよう努力したい。」と述べている 。同学会が2010年に改定した研究倫理指針でも「ゲーム脳」などの俗説を危惧する記述がある。 川島隆太 東北大学教授である川島隆太は、「ゲーム脳」という言葉が出始めた当初から一貫して「ゲームで脳が壊れることはない」としており、当初ゲームの種類や年齢、ゲームへの取り組み方などによる脳の反応の研究結果が一切なかったことから「ゲーム脳」を「個人の単なる妄想であると思っている」と述べている。また、「(「ゲーム脳」のような考え方は)全くの迷信、妄想だ」としている。 久保田競 京都大学名誉教授で日本福祉大学教授の久保田競は『ゲーム脳の恐怖』を取り上げ、「脳波を、特定の脳領域の働きと対応づけるのは難しい」「実験の組み方にも疑問が残る」と書いている。 菊池誠 大阪大学教授の菊池誠は2006年のNHKの番組で、ゲーム脳をマイナスイオン、ゲルマニウムの効用、水からの伝言などとともにニセ科学として「科学的に信頼しうる根拠がない」「子供がゲームをしすぎるのは科学ではなくしつけの問題。しつけの根拠に科学を求めてはいけない」などと指摘した。それに続けて、社会に結論だけを求める風潮が蔓延しつつあるとの疑問を呈した。また、菊池は自身のブログにおいても批判を書いている。 馬場章 東京大学大学院情報学環教授の馬場章は、「ゲーム脳は日本でしか言われていない。外国でゲーム脳なんて言ったら笑われてしまう。」と前置きし、脳波の基本的な定義から間違っていること、認知症患者と「キレやすい」特徴の因果関係が結びつかないことなどについて指摘している。 小笠原喜康 森と同じ日本大学文理学部教授の小笠原喜康は、マスコミを通じて流される言説の「嘘の形」の一例として、『ゲーム脳の恐怖』を取り上げている。『ゲーム脳の恐怖』には、「権威に訴える虚偽」「研究方法に関する虚偽」など、昔から知られる虚偽論法の典型をいくつも見いだせるとしている。 斎藤環 精神科医の斎藤環は「脳に関する記述は、正しい情報が8割くらい。でも残りの2割に、とんでもないミスがゴロゴロしている。」と述べ、脳の基礎知識や脳波の計測方法などの基本的な部分から誤っているなど矛盾を突いている。 香山リカ 精神科医で立教大学教授の香山リカは、科学的根拠のない「ゲーム脳」がなぜこれほどまで幅を利かせているのかを考察している。 川端裕人 作家の川端裕人は、地元で行われた森の講演に聴衆として参加し、質疑応答として、森の面前で「ゲーム脳と少年犯罪の関連について、恣意的な解釈を行っている」などの疑問を呈した。また、この講演を主催した世田谷区教育委員会に対し、「いかがわしい疑似科学をあたかも科学的なものとして紹介することは、科学教育、理科教育としてとてもまずいことではないか。」との意見を申し入れた(これを受けて、作家の野尻抱介なども世田谷区に意見を申し入れている)。 宮崎哲弥 評論家の宮崎哲弥は「『ゲーム脳』理論のように、一般に浸透してしまう疑似科学も急増中」「この手は学者や専門家の著作ということもあって、大新聞の書評欄などでも無批判に賞揚されたりするから要注意だ」と書いている。 メディカルシステム研修所 株式会社メディカルシステム研修所は「『ゲーム脳』の判定根拠とされる脳波の計測とその評価法は正しくない点が多いと思われ、不正確な知識が蔓延していくことは看過できない。」としている。 毎日新聞 毎日新聞は、「ゲーム脳」に対して専門家の批判が強いことについて取り上げ、批判の理由や、それに対する森の発言の一貫性のなさ、そして「ゲーム脳が悪いのか」という問に対して答えを見いだす科学的材料が現時点で存在しないとしている。また毎日新聞・岡山地方版のコラム「きび談語」では、少年犯罪の取材でしばしば触れる「ゲーム脳」を「とんでもない "ご意見"」で「うんざりさせられる」ものであるとし、科学的な懐疑が多く出されているうえに、犯罪統計的にも説明できない(ゲームやインターネットの進歩と少年犯罪の件数には負の相関がある)学説であると指摘したうえで、「思いこみで事件を語ることは有害以外の何ものでもない。キレる子供は昔もいたし、今もいる。統計から見えてくる課題を見落とすことがないようにしたい。」と結論づけている。 朝日放送 朝日放送の報道番組『NEWSゆう』では「少年犯罪報道におけるテレビゲーム」の特集が放送され、「ゲーム脳」説に科学的矛盾や批判が多く存在していることについて言及しており、この説が報道機関に定着したことについて、報道統括デスク記者は「我々マスメディアも反省しなければいけない」と述べた。また、世の中がこれほどまでにゲーム脳説に飛びついた原因として、「"魔女狩り" の要素があるからではないか」と分析した。特集中では、京都大学名誉教授の久保田競により「ゲーム脳」の三段論法が解説されており、記者はこれを「非常に危険な断定」と指摘した。さらに、久保田と東北大学教授・川島隆太の「前頭葉の発達に一番必要なものはコミュニケーション」という研究結果に注目し、犯罪などの原因としてゲームにおける「暴力表現」を安易に結びつける風潮にも疑問を呈しており、「"テレビゲーム" と "今の子供の行動" の因果関係を『ゲームが悪い』と決めつけるのは危険」とした。これを受けて、キャスターの保坂和拓は「冷静な議論がもっと必要」と結論づけた。 山本弘 日本トンデモ本大賞を運営する作家の山本弘は『ゲーム脳の恐怖』を以下の3つの理由から、「三拍子揃ったトンデモ本」と評している。「研究対象について無知」(森はFFやRPGという用語などの基礎知識も知らない無知者と指摘) 「科学的な手順を踏んでいない」(自分で開発した装置を使い、統計における標本の数値が示されていない) 「論旨がデタラメ」(『ゲーム脳の恐怖』の本書に記載されている「”ゲーム脳”状態の脳波」と後半のページに記載がある「”スポーツ後”の脳波」が同じ脳波でありながら、スポーツ後の脳波だけを良いものとしているなど、当てはまるときにだけゲーム脳論を展開しており、恣意的な解釈になっている) 府元晶 森が提唱するゲーム脳理論に関する不整合性に関しては、CESAが発行する小冊子『テレビゲームのちょっといいおはなし 3』に掲載された『「ゲーム脳」とは何か?〜「日本人として非常に恥ずかしい」』でフリーライターの府元晶が詳細に反証している。 イギリスの一般向け科学雑誌『New Scientist』では、「実験や解析の詳細な手法が公表されていないため、結果の妥当性を判断できず、また仮に結果が正しかったとしても、それを脳へのダメージとみなす理由はない。」とゲーム脳理論を批判している。 直接の批判ではないが、2009年にアメリカの研究機関・Mind Research Networkは、テトリスをプレイすることで大脳の、感覚器官や複雑な動作を司る部位の皮質が厚くなり、論理的思考や言語を司る部位では効率化が進んだという、「ゲーム脳」とは正反対の研究報告を発表した。 ゲーム脳、および『ゲーム脳の恐怖』への疑問点の指摘がある。 なお、作家やライターなどの有志で結成され、いくつかのベストセラーを生み出していると学会により、『ゲーム脳の恐怖』が、2003年度の第12回日本トンデモ本大賞にノミネートされ、次点に選ばれた。その後は、と学会の書籍『トンデモ本の世界T』でも書評が取り上げられている。
※この「学者・有識者による批判」の解説は、「ゲーム脳」の解説の一部です。
「学者・有識者による批判」を含む「ゲーム脳」の記事については、「ゲーム脳」の概要を参照ください。
- 学者・有識者による批判のページへのリンク