二者択一
産女(うぶめ)の伝説 産女から「金(かね)が欲しいか、力が欲しいか」と問われた男が、力を望む。翌朝、男が顔を洗って手拭いをしぼると、手拭いは切れてしまう。以後、男は真面目に働いて、金持ちになる(山形県最上郡豊田村)〔*力ではなく金を望むと、食べる物・飲む物・触れる物がすべて金になってしまい、食べることも飲むこともできず死んでしまう、との伝えもある(山形県新庄市萩野)→〔願い事〕3の『変身物語』巻11と同型。→〔長者〕2aの福田の森の伝説も、類似の物語〕。
『舌切り雀』(昔話) 爺が雀の宿を訪れて、もてなしを受ける。みやげとして、大小2つのつづらのどちらかを選ぶように言われた爺は、小さいつづらをもらって帰り、中から金銀・宝物が出てくる。婆が欲を出して、自分も雀の宿を訪れ、大きいつづらを選ぶ。帰り道で開けると、蛇やとかげや、さまざまな化け物が出てくる(兵庫県美方郡)。
『神統記』(ヘシオドス) 神々と人間がいさかいをしていた時のこと。プロメテウスは、「ゼウスを欺こう」と考えた。彼は、牡牛の胃袋(中には肉や臓物が隠されている)と、艶々した脂肪(しかし中身は牡牛の骨)をゼウスの前に置き、「どちらか一方をお取り下さい」と言った。ゼウスは脂肪を取ったが、その中身が骨にすぎないのを知って、怒りに燃えた〔*見た目だけで判断する点で、→〔馬〕12の『三国遺事』巻1「紀異」第1・高句麗と類似する〕。
『尾形了斎覚え書』(芥川龍之介) 切支丹宗門の教えを奉ずる女篠(しの)の娘が重病になるが、医師尾形了斎は「棄教せぬ限り診察できぬ」と断る。宗門の教えと娘の命のどちらを取るか、選択を迫られた篠は、ついに十字架を踏んで棄教する。しかし娘の病状は手遅れで、娘は死に、篠は発狂する。翌日、伴天連ろどりげが訪れ、篠の乱心を静めて娘を蘇生させる。
『マハーバーラタ』第5巻「挙兵の巻」 パーンダヴァ軍とカウラヴァ軍との戦争に際し、アルジュナとドゥルヨーダナが、それぞれクリシュナに、「味方になって欲しい」と請う。クリシュナは、「大軍団か、武器を持たぬクリシュナ1人か、どちらかを選べ」と言う。アルジュナはクリシュナ1人を選び、ドゥルヨーダナは大軍団を選ぶ〔*戦争は、クリシュナを得たパーンダヴァ軍が勝利する〕。
『狼疾記』(中島敦) 三造は女学校の博物の講師で、1週に2日出勤する。かつて彼は、自分に可能な2つの生き方を考えた。1つは、学問の世界で名声・地位を得るべく奮闘する(=将来のために現在の生活を犠牲にする)生き方。もう1つは、1日1日の生活を、その時々に充ち足りたものにして行こうというやり方だ。喘息や胃弱に苦しむ三造は、第2の生き方を選んだ。それから2年。日々の生活の無内容さは、彼の中に洞穴を開けてしまった。
*→〔赤ん坊〕8の『子連れ狼』(小池一夫/小島剛夕)其之9「刺客街道」。
★3a.二つのうちどちらを得ようか迷ったあげく、どちらも得られなくなる。
『どちはぐれ』(狂言) 僧が、布施をくれる檀那と斎(とき)をくれる檀那の双方から招かれ、どちらへ行こうかあれこれ思案する。ともかくも布施の方へ、と思って行くとすでに遅く、あわてて斎の方へ行くとこれも遅く、結局、布施も斎も得られなかった。
★3b.二つとも得ようとして、どちらも失う。さらには身を滅ぼす。
『旧雑譬喩経』巻上-20 狐が鷹を捕らえ、くわえていたが、川の魚を取ろうとして、口から鷹を放した。狐は魚を取ることができず、鷹も失ってしまった。川辺でこれを見ていた女が、「お前は何て馬鹿なんだ」と狐に言った。すると狐は「お前の方が、俺よりももっと愚かだ」と言い返した〔*類話の『パンチャタントラ』第4巻第11話では、ジャッカルが口にくわえた肉を放し、川岸の魚を取ろうとする。禿鷲が肉を奪って飛び去り、魚は川へ逃げ込んで、ジャッカルはどちらを得ることもできなかった〕→〔駆け落ち〕5。
『二兎を追う者は一兎をも得ず』(チェーホフ) 湖でボートが転覆し、少佐とその若妻が溺れる。郷役場の書記イワンが泳いで助けに行き、「2人は無理です。1人しか運べません」と言う。若妻は「私を助けてくれたら、あなたと結婚してあげるわ」と泣く。少佐は「わしを助けてくれたら、お前の妹マーリヤをわしの妻にする。そうなればお前は大金持ちだ」と叫ぶ。色と欲に目のくらんだイワンは、少佐と若妻を両方とも助けてしまう。翌日。少佐の指示によって、イワンは郷役場を首になった。若妻の意向によって、マーリヤはアパートから追い出された。
『慾のくまだか』(昔話) 猪が2匹、揃って駆けて来たので、慾深の鷹が「2匹いっしょにとってやろう」と、2匹の猪の背に、同時に左右の足の爪を立てた。猪は驚いて、離れ離れに駆け出した。1匹ねらえばよかったのに、2匹ねらったため、鷹の足は折れ、爪は抜けてしまった。これが、「慾の深い鷹爪抜ける」という諺のはじまりだ(岩手県上閉伊郡。「能ある鷹は爪隠す」をもとに発想された話であろうか)。
黒住宗忠の逸話 黒住宗忠が7歳くらいの頃、雨上がりに外へ遊びに出ようとした時、父は「下駄をはいて行け」と言い、母は「下駄は危ないから草履にしなさい」と言った。宗忠は両方の言いつけを守ろうと、片足に下駄、片足に草履をはいて出かけたが、うまく歩けず、ころんで泣いてしまった。
『三宝絵詞』上-1 鷹が鳩を追い、鳩は逃げて尸毘(しび)王の懐に入る。尸毘王は鳩を保護しようとするが、それは鷹の食料を奪うことになる。鳩の命を助けるか、鷹の飢えを救うか、2つの選択肢を前にした尸毘王は、刀で自らの腿肉を切り取る。腿肉を鷹に与えることによって、鷹の飢えを救い、鳩の命も助けることができるのである。
★5.究極の二者択一。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「ユクスエカメラ」 スネ夫が、「ジャイアンにおもちゃを貸したら壊されるんじゃないか」と悩む。貸したらどうなるか、未来を写すユクスエカメラでのび太が撮影すると、壊れたおもちゃの写真が取れる。貸さなかったらどうなるか撮影すると、ジャイアンに殴られてボロボロになったスネ夫の写真が取れる。「どっちがいいかよく考えるといいよ」と、のび太は言う。
★6.生死のかかった選択。二者ともに生きることは不可能。どちらかが死なねばならない。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)425「漁師と蛸」 漁師が、真冬の海に蛸を見つけた。彼は言った。「あの蛸を捕まえるために、裸になってとびこんだら、俺は凍えてしまう。蛸を獲って帰らなかったら、子供たちはひもじさで死んでしまう」。
『カルネアデスの舟板』(松本清張) 古代ギリシアの哲学者カルネアデスは、次のように主張した。「海で遭難し、1枚の舟板に2人がつかまる。2人の重みで舟板が沈むので、1人がもう1人を突き放して溺死させ、自分だけが舟板に取りついて助かる。これは罪にはならない」。この故事を知った歴史学の玖村教授は、自己保身のためには、邪魔な恩師大鶴教授をおとしいれても構わないと考えるようになった。
『夜行巡査』(泉鏡花) 12月の深夜、酔った老人が足をすべらせて、皇居の堀の冷たい水に落ちる。そこへ巡回中の八田義延巡査が来かかるが、落ちた老人は八田巡査の恋人お香の伯父で、過去の恨みから、2人の仲を妨げる卑劣漢だった(*→〔仕返し〕4)。老人が死ねば、2人は結婚できる。しかし職務に忠実な八田巡査は、「憎い老人だが救わねばならぬ」と、泳げないにもかかわらず、お香の制止を振り切って堀の水に飛び込み、命を棄てた。
『今昔物語集』巻9-4 兄弟2人が、母を罵った男を殺した。兄弟の1人は実子、1人は継子である。尋問に当たった国王が、「1人を死罪、1人を赦免しよう」と言う。母は、実子を殺し継子を許してくれるよう願う〔*『沙石集』巻3-6などに類話。原拠は『列女伝』巻5-8「斉義継母」〕。
『歴史』(ヘロドトス)巻6-52 アルゲイアは、自分の産んだ双生児のどちらをもスパルタの王位につけたいと思い、「どちらが長子か区別がつかない」と、嘘を言う。スパルタ人たちは、アルゲイアを見張り、彼女が哺乳も入浴も必ず一方の子を先にして大切に扱っていることを確かめ、それが長子であることを知る。
『ゲスタ・ロマノルム』116 ピピン王の妃が王子を産んで死んだ。王は後添えの妃を迎え、彼女も王子を産んだ。2人の王子は外国で教育を受けて、戻って来る。王子たちは瓜二つで、後添えの妃には、どちらが自分の子か見分けがつかない。王は「それを教えると、お前は自分の子ばかりかわいがるだろう。だから、2人の王子が大人になるまでは教えられぬ」と言う。妃はそれを聞き、2人を成人するまで立派に養育した〔*王子たちの成人後、王はどちらが妃の子か教えた〕。
*3人の子供のうち、誰が自分の子かわからない→〔三者択一〕7bの『あゝ結婚』(デ・シーカ)。
『婦系図』(泉鏡花)前篇「柏家」・後篇「蛍」 ドイツ文学者酒井俊蔵は、弟子の早瀬主税が芸者蔦吉(お蔦)と所帯を持ったことを咎め、「俺を棄てるか、女を棄てるか」と迫る。早瀬は「女を棄てます」と誓う。酒井は早瀬の将来を思って、正式の夫婦となることを禁じたのだが、内緒で逢うのは大目に見るつもりだった。しかし2人は潔く別れ、やがてお蔦は肺病で死ぬ。
『マタイによる福音書』第27章 イエスが捕らわれ、裁判にかけられる。祭りの時には罪人の1人を釈放する慣わしであり、「バラバ・イエス」という名の囚人がいたので、総督ピラトは、「囚人のバラバ・イエスと、メシアと呼ばれるイエスの、2人のうちどちらを釈放すべきか?」と人々に問う。人々は「囚人のバラバを釈放し、メシアのイエスは十字架にかけよ」と叫ぶ。やむなくピラトは、イエスを処刑する〔*他の福音書では、囚人の名は「バラバ・イエス」ではなく、「バラバ」とのみ記される。『マタイ』はバラバの罪状を具体的に記さないが、『マルコ』第15章・『ルカ』第23章は「暴動と殺人」、『ヨハネ』第18章は「強盗」と記す〕。
*夜の夫と昼の夫の二者択一→〔夜〕3b。
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