二者同想
★1a.愛し合う夫と妻が、ともに同じようなことを考え、行なう。
『賢者の贈り物』(O・ヘンリー) ジムとデラは、若く貧しい夫婦だった。妻デラは、自慢の長い髪を売った金で、夫ジムの金時計につけるプラチナの鎖を買い、彼へのクリスマス・プレゼントとする。そうとは知らぬジムは、父祖伝来の金時計を売った金で、デラの髪にさす鼈甲(べっこう)の櫛を買い、彼女へのクリスマス・プレゼントとする。彼らはプレゼントのために、お互いの宝物を犠牲にしてしまった。しかし彼らこそ、東方の賢者(*→〔クリスマス〕7の『マタイによる福音書』第2章)にも劣らぬ賢者なのだ。
『愚者の贈り物』(ベイカー) あの時、2人は大きな歓喜を味わいながら、クリスマス・プレゼントを交換したのだった。だが今、夫は思う。「妻の髪の毛はまた生えてくるが、私の時計はもう戻って来ない」。
『今昔物語集』巻4-34 2人兄弟が各々千両を持ち、連れ立って旅をする。兄は「弟を殺して千両を奪い、自分の分と合わせて2千両にしたい」と考える。弟も「兄を殺して千両を奪い、自分の分と合わせて2千両にしたい」と考える。2人とも決心がつかないうちに、山を抜けて河のほとりへ出る。2人は「金がなかったら、兄弟を殺そうなどとは思わなかったろう」と反省し、ともに千両を河へ投げ捨てる。
『へらない稲たば』(朝鮮の昔話) 仲の良い兄弟がいた。兄は収穫して庭に積み上げた稲を、弟にも分けてやろうと考え、稲束をどっさり背負って、夜、弟の家の庭にこっそり置いて来る。弟も、収穫した稲を兄に分けてやろうと考え、兄の家の庭に稲束を置いて来る。翌朝、兄も弟も、庭の稲束が全然減っていないので驚く。次の夜も同じことが起こる。3日目、稲束を背負った兄と弟は夜道で出会い、互いに相手を思う気持ちを知って抱き合う。
『新薄雪物語』2幕目「幸崎邸詮議の場」~3幕目「園部邸三人笑の場」 園部兵衛の息子・左衛門と、幸崎伊賀守の娘・薄雪姫は恋仲だったが、「謀反の心あり」との嫌疑で、左衛門は幸崎伊賀守の邸へ、薄雪姫は園部兵衛の邸へ預けられた。幸崎伊賀守は「自分の命を捨てて、左衛門を逃がそう」と考え、陰腹を切る(*→〔切腹〕7)。園部兵衛も同様に考え、薄雪姫を逃がして陰腹を切る。幸崎伊賀守と園部兵衛は対面して、互いに同じ考えであったことを知り、切腹の苦痛をこらえて笑い合った。
★2.敵対するAとBが、ともに同じようなことを考え、行なう。
『カンタベリー物語』「赦罪状売りの話」 3人の道楽者が森で金貨を見つける。1人が町へパンと酒を買いに行っている間に、2人が「町へ行ったあいつを殺して金貨を2人で分けよう」と相談し、短刀を用意する。町へ行った1人も「森の2人を殺して金貨を独り占めしよう」と考え、酒に毒を入れる。結局、金貨のそばで3人とも死ぬ〔*『浮世物語』(浅井了意)巻3-6「ぬす人の事」の類話では、唐土の3人の盗人が宝物を分ける。1人が飯に毒を入れ、2人がその1人を谷底へ落として殺す。2人は飯を毒入りと知らずに食い、血を吐いて死ぬ〕。
『透視図法』(安部公房)「盗み」 簡易宿泊所に寝起きする「ぼく」は、長い針金の先を鉤形にして、下段のベッドの男の靴をこっそり吊り上げようと思う。深夜になり男が眠ったようなので、行動を起こそうとすると、下から鉤形の針金が、「ぼく」の靴めがけて這い上ってくる。
『2から2を消せば2』(手塚治虫) 対立するギャング団の親分デキシイとランプが、それぞれ護身のため、自分そっくりの身代わりロボットを「博士」に命じて作らせる。デキシイもランプも、秘密を守るため「博士」を殺そうとして鉢合わせし、撃ち合って死ぬ。以後はロボットのデキシイとランプが親分になる。実は「博士」もロボットであり、「下らぬ人間は自滅させて、ロボットと入れ替えるのが世のためだ」と言う。
★3.女性を獲得したいと望むAとBが、ともに同じようなことを考え、行なう。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「虹谷ユメ子さん」 ガールフレンドが欲しいと思うのび太は、「野比のび子」という偽名を使い、「虹谷ユメ子」という女の子と文通を始める。そして「これが私よ」と書いて、しずちゃんの写真を送る。しかし「虹谷ユメ子」もまた、ガールフレンドを求める男子中学生の偽名だった。男子中学生は「野比のび子」に会いに来て、偶然しずちゃんと出会い、意気投合する。のび太はそれを見てショックを受ける。
『列子』「説符」第8 ある男が、妻の里帰りを送って行く途中で桑摘みの女を見かけ、いい女だと思って話しかける。ところが、ふりかえって見ると、自分の妻の方にも手招きして言い寄ろうとする男があった。
『桃源境の短期滞在客』(O・ヘンリー) 高級ホテルに、貴婦人マダム・ボーモンが短期滞在する。彼女は、同じ滞在客の上流紳士ファリントンと知り合い、交際する。滞在の最後の夜、マダム・ボーモンは「私はデパートの店員です。1年間貯金して、1週間だけ貴婦人のように過ごしたかったのです」と打ち明け、別れを告げる。ファリントンは「僕も洋服屋の集金係です」と言う。2人は、土曜日にコニー・アイランドの遊園地でデートしようと、約束する。
★5.二者同想と思っていたら、そうではなかった。
『男はつらいよ』(山田洋次)第6作「純情篇」 夕方。「とらや」に下宿している美女(演ずるのは若尾文子)が、風呂に入る。寅次郎が落ち着かない表情で、叔父・竜造に「おいちゃん、何考えてんだ?」と聞く。竜造「お前と同じことよ」。寅次郎「いい年して何だよ。考えてることが不潔だよ」。竜造「何言ってんだ。おれはただ、ああ今日も日が暮れたなあ、と思ってただけだ」。寅次郎「隠したってだめだよ。今その口で言ったじゃないか。おれと同じ考えだって」と、そこまで言って、ようやく寅次郎は、自分と竜造の思いが同じでなかったことに気づく。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第3巻116~117ページ 家計に少々余りがあった時のこと。マスオが恐る恐る「靴がいたんでるから、買ってはどうだろうね?」と言うと、サザエは「アラッ! 今あたし、そのことを考えてたの!」と顔を輝かせる。「君はよく気がつくなァ」「あなたこそ思いやりがあるわ」と会話がはずむが、実はマスオもサザエも、それぞれ自分の靴を買おうと考えていたのだった。
*醜い姫が「自分は美女だ」と思い、美男の王子が「自分は醜男だ」と思う→〔鏡〕4cの『虚像の姫』(星新一『かぼちゃの馬車』)。
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