二人同夢
『今昔物語集』巻1-1 癸丑の年の7月8日の夜、摩耶夫人は夢に、「6牙の白象に乗った菩薩が虚空の中より来て、右の脇から身の内に入る」と見た。夫の浄飯王も同様の夢を見た。この夜、釈尊は摩耶夫人の胎中に宿ったのだった。
『捜神記』巻10-11(通巻261話) 謝奉は、「友人郭伯猷が博打の金のことで人と喧嘩し、水に落ちて死んだ」との夢を見た。謝が郭の家へ行って夢の話をすると、郭は「自分も同じ夢を見た」と語り、まもなく倒れて死んだ。
『太平記』巻29「瑞夢の事」 「高師直・師泰兄弟の軍が金鋼蔵王権現・聖徳太子の軍に打ち破られる」との凶夢を、武蔵五郎・川津左衛門の2人が見る。翌朝夢を語り合い危ぶんでいると、はたしてその日、師直らの軍は敗戦した。
『平家物語』巻3「無文」 春日大明神の鳥居とそこに上がる父入道清盛の首を、平重盛が夢に見る。目覚めたところへ、瀬尾太郎兼康が「不思議な夢を見た」といって参上し、重盛の見たのと全く同じ夢を語る。
*安寿と厨子王は、焼け火筋(ひばし)を当てられる夢を見た→〔額〕3の『山椒大夫』(森鴎外)
『転寝草紙』(御伽草子) 大臣家の姫君が、夢で逢った美しい男を恋し、石山寺に参籠して夢の中の男左大将に出会う。一方の左大将も、この姫君が夢で契った恋しい女であることを知り、2人は現実に結ばれる。
『今昔物語集』巻31-9 常澄安永が旅の夜の夢に、妻と見知らぬ童との同衾する現場を目撃し、怒ってそこへ躍りこむ、と見て目覚める。翌日帰宅すると、妻が安永に、「私が童と同衾したところへ貴方が乗りこんで来る夢を、昨夜見た」と語る〔*同・巻31-10にも類話〕。
『住吉物語』 継母にいじめられる姫君が、晩秋の夜、屋敷から姿を消し、行方知れずになる。姫君の恋人だった四位少将(後に関白)は翌年秋、初瀬に参籠して、夢で姫君と出会い、袖をとらえて「居所を知らせ給え」と請う。姫君は「私は住吉にいます」という意味の歌で答える。同じ夜、住吉にいる姫君も、四位少将に袖を引かれた、との夢を見る。四位少将は住吉に赴き、姫君と再会する。
『剪燈新話』巻2「渭塘奇遇記」 金陵の王青年は、旅先の渭塘の酒家で一目見た娘が忘れられず、家へ帰ってからも毎晩のように娘と逢う夢を見る。娘も王を想って同じ夢を見ており、1年後、再び渭塘を訪れた王はそのことを知り、娘と結婚する。
『源平盛衰記』巻25「大仏造営奉行勧進の事」 笠置寺の解脱上人貞慶は釈迦を信仰し、東大寺の俊乗和尚重源は観音を信仰していた。同じ夜に、俊乗和尚は「解脱上人は観音なり」との夢を見、解脱上人は「俊乗和尚は釈迦なり」との夢を見た。解脱上人は東大寺へ向かい、俊乗和尚は笠置寺へ向かって、平野の三間卒都婆という所で出会う。2人は互いの夢を語り、涙を流した→〔死夢〕5。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日新聞社文庫版16巻71ぺージ 波平とカツオが一緒の布団に寝る。波平はひさしぶりに学期試験の夢を見た。カツオは定年の夢を見た。
*下僕が「長老になった夢」を見て、長老が「下僕になった夢」を見る→〔夢と現実〕2bの『幸福』(中島敦)。
★4.三人同夢。
『聊斎志異』巻2-58「鳳陽士人」 長旅から帰る夫と、家で待つ妻と、その妻の弟とが、ある夜同じ夢を見る。夫が妻を無視して1人の美人と枕を交わし、妻の弟が怒って石を投げつける、という夢であった。
*神が、3人の男の夢枕に立つ→〔像〕8bの『捜神記』巻5-3(通巻94話)・〔宝〕9aの『月長石』(コリンズ)。
*5人同夢→〔冷凍睡眠〕4の『そして、だれも・・・』(星新一『なりそこない王子』)。
★5.多人同夢。
『イスラーム神秘主義聖者列伝』「ズン・ヌーン」 聖者ズン・ヌーンが死んだ晩、70人の者が夢で預言者を見た。預言者は言った。「神の友ズン・ヌーンがやって来る。私は彼を迎えに来たのだ」。
『沙石集』巻9-10 山寺にいる母犬が、5匹の子犬のうち1匹を差別していじめるので、僧や稚児たちは、この母犬を憎んだ。するとある夜、大勢が皆、同じ夢を見た。夢の中で母犬は、自分の前世と、子犬をいじめる理由を語った→〔一妻多夫〕1c。
『是楽(ぜらく)物語』(仮名草子) 山本友名の愛人「きさ」は、本妻の側からの敵視や呪詛に堪えられず、瀬田の橋から身投げした。後、「きさ」は、友名や本妻をはじめ縁者や知人、合計22人の夢に現れて、「『法華経』読誦の功徳により、私は成仏得脱の身となった。今後は一門の守り神となろう」と告げた。
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