夢で見た人
『秋夜長物語』(御伽草子) 比叡山の桂海律師は、夢に美しい稚児を見て心乱れ、後、三井寺の前でその稚児梅若と出会い、艶書を贈って契りを結ぶ→〔稚児〕1。
『是楽(ぜらく)物語』(仮名草子) 京の富裕な町人・山本友名は妻帯の身でありながら、昼寝の夢で語らい合った美女に恋して、病の床に臥す。出入りの遊民・是楽の勧めで友名は有馬へ湯治に行き、その帰途、夢で見たのとそっくりの美女「きさ」を見出して、愛人とする〔*しかし友名の本妻や使用人たちが、「きさ」を敵視し呪詛する〕→〔二人同夢〕5。
『デミアン』(ヘッセ) 青年シンクレールは、大きく力強い女性が彼を抱擁し、歓喜と戦慄を与える夢を繰り返し見る。大学入学後シンクレールは友人デミアンと再会し、その母エヴァ夫人と出会うが、彼女こそ夢の中の女性だった。エヴァは、シンクレールの心を理解しつつも、彼の求めには応じなかった。
『ローエングリン』(ワーグナー)第1幕 ブラバント公国の公女エルザは、父没後の悲しみの日々、神に祈りつつ眠りにおち、輝かしい武具をつけた騎士の夢を見る。騎士は空から現れてエルザに近づき、彼女を慰めた。後、テルラムント伯爵がエルザを弟殺しの嫌疑で告発した時(*→〔姉弟〕3b)、彼女は「私をお救い下さい」と、夢で見た騎士に呼びかける。1羽の白鳥が引く小舟に乗って甲冑姿の騎士が現れ、テルラムント伯爵と闘って打ち倒した。
*夢で「木」と「南」を見て、楠正成と出会う→〔漢字〕2の『太平記』巻3「主上御夢の事」。
『笑ゥせぇるすまん』(藤子不二雄A)「夢に追われる男」 中年男が、喪黒福造にもらった遊夢糖を飲んで、好きな夢を見る。セーラー服の女学生から、「おじさまに奥様がいることは知っているけど、あたしを恋人にして。それ以上無理は言わない」と請われる夢を見て、男は喜ぶ。「遊夢糖は1晩に1粒だけ」と注意されていたが、ある夜、男は女学生の夢をもっと見たいと思って、3粒飲む。すると女学生は現実世界に現れ、「あたしと一緒に死んで」と言ってナイフで男を刺した。
『フォスフォレッスセンス』(太宰治) 「私」には夢の中で逢う妻がいて、性欲とは無縁な恋の会話を楽しんでいる。ある日、目覚めてから、「私」は編輯者と一緒に「そのひと(=夢の中の妻)」の家を訪れた。「そのひと」は不在だったが、女中が家へ入れてくれた。居間に「そのひと」の夫の写真が飾られていた。南方の戦地へ行ったきり7年間消息がないのだという。写真の下には花があった。それは、夢の中で「そのひと」から教えてもらった"Phosphorescence" という名の花だった。
『今昔物語集』巻5-18 天竺の后が、身の色九色で角が白色の鹿を夢に見る。后はその鹿の皮と角を欲し、鹿を探すよう国王に請う。かつて鹿に命を救われた男が、鹿の居所を告げるが、国王は男の忘恩行為を知って(*→〔恩知らず〕2)、鹿を解放する〔*『宇治拾遺物語』巻7-1の類話では、五色の鹿〕。
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