夢の売買
『現代民話考』(松谷みよ子)4「夢の知らせほか」第1章の10 「私」の祖母は昭和26年(1951)に86歳で死んだが、生前、「火事とか火の夢を見ると、必ずその日にお金が入る」と言っていた。家族の者が「火の夢を見た」と言ってその夢の話をすると、祖母は「そりゃ、えい夢。その夢は買うた」と言い、自分のものにした。すると不思議に、誰かがお金を払いに来るとか、物を買いに来るとかした。家の職業は農業だった(高知県)。
『三国史記』巻6「新羅本紀」第6・第30代文武王前紀 宝姫が夢に、「西兄山の頂上で尿をし、それが流れて国内に行きわたる」と見た。妹がその夢を買い取った。数日後、春秋公が訪れた時、宝姫はさわりがあったので、代わりに妹が春秋公の前に出て、彼の衣の紐を縫い繕った。妹は春秋公と結婚して文明皇后と呼ばれ、文武王を産んだ。
『沙石集』(古典文学大系本)拾遺70 宇治殿に仕える女房宰相局は、友達が「三日月を懐に抱く夢を見た」と言うので、その夢を買い取った。後に宰相局は、宇治殿の思われ人となった。
『曽我物語』巻2「時政が女の事」~「橘の事」 北条家の長女(=政子)は、次女が見た吉夢(*→〔太陽と月〕6)を、「これは凶夢である。良い夢を見ては3年語らず。悪い夢を見て7日以内に語れば凶事が起こる。私がこの夢を買って、あなたの難をのぞいてあげよう」と言葉巧みにだまし、買い取った。まもなく長女は、源頼朝の妻となって運命を開いた〔*次女の夢を長女が買い取った頃、頼朝の側では、次女あての恋文を長女あてに書き換えていた→〔書き換え〕5〕。
★2.両人が承知で売り買いするのとは異なり、夢を見た当人の知らぬうちに、その夢が他人に取られる話もある。
『宇治拾遺物語』巻13-5 備中守の息子が良い夢を見、夢解きの女の家を訪れて問う。女は「これは大臣に出世する夢です。他人に言ってはなりません」と教える。郡司の息子ひきのまき人(=吉備真備か?)が隣室で盗み聞きし、備中守の息子が帰った後、女に礼物を与えてその夢を買い取る。ひきのまき人は栄進して大臣となり、備中守の息子は官職もないままで終わった。
『遠野物語』(柳田国男)2 母女神が3人の娘に「今夜良き夢を見た者に、良き山を与えよう」と告げる。夜更けに天から霊華が降り、姉姫の胸の上に止まる。末姫がそれに気づき、姉の胸から霊華を取り上げて、自分の胸に載せて眠る。その結果、末姫が、遠野三山の中の最も美しい早池峯(はやちね)を得ることになった。
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